前回か次回のどちらかと結合させることも考えたのですが、
プロット的には比較的重要な回であるため独立して投稿としました。
堀北勉強会の次の日。今日は平田勉強会・櫛田勉強会が図書館で開かれる日である。ここで良いニュースと悪いニュースがある。
良いニュースは外村が今日は勉強会に参加しないので、ひさびさに井の頭と友達気分で話せること。
悪いニュースは平田・櫛田勉強会を避けるため、堀北勉強会は別館で開かれることだ。どうやら堀北も別館が気に入ったようだ。櫛田と綾小路が余計な事をしたせいで、平和な場所がまた1つ無くなってしまった……
どこで井の頭と勉強しようか悩んだが……今日、井の頭にしたい大事な話もあったので、願懸けの意味も込めてゴールデンウィークの初日に入った喫茶店に入った。今回は俺が井の頭に奢る形だ。
この喫茶店は通りから少し離れた所にあるため、人も少ない。また、テスト勉強が本格的に始まるよりも前であるという点もあり、今日はゴールデンウィークの時より客が少なかった。
席に座り、軽く注文を済ませ、さっそく勉強会を始める。井の頭は理論的な面ではだいぶ補完されており、基礎に関しては問題はない。標準問題も対応できるようになってきた。
今日は外村がいないので、質問もいつもより多い。互いに偶に勉強とは関係のない話もしたりしながらも、穏やかな気分で話しをしていく。井の頭の話は編み物の話と、よく行動する櫛田と王の話が多い。ちなみに愚痴が多い。やはり女子の付き合いは大変そうに見えた。しかし、井の頭のそういった一面を見るものまた面白かった。おそらく、ここまで親しくならなかったら、クラスの大人しい女子としか思わなかっただろう。
いつもならこの時間をもっと楽しむのだが……しかし、そろそろ井の頭との関係性を決めるべきだと感じた。というより、できれば友人である井の頭にあまり隠し事はしたくなかったというのもある。それに何より自分の考えに井の頭が協力してくれれば、今後、この学園でできる事も増えるだろう。
決意を持ち、井の頭に話しかけた。
「……井の頭さんはAクラスに行きたいですか?」
「勉強の話じゃない……いえ。行きたかったですけど……その、難しいと思います。赤石君はいけると思いますか?」
話題が変わった事と、突然丁寧語になった事に若干怪訝な顔をしたが、こちらをの表情を見た井の頭は質問に答えた。しかも、途中からこちらに合わせ口調も変えた。うん。やはり井の頭は俺と似ている気がする。それに演技力はきっと俺以上にある。きっとこの相談をするのは必要な事だろう…………
俺は井の頭の端末にチャットを送った。
『俺1人なら行けると思う。頑張れば井の頭さんも行けると思うよ。ただ、これは誰にも言えないので、秘密にしてほしい』
賭けでもある。ここで、井の頭が協力してくれれば最高だ。しかし協力してくれなければ……俺はどうするべきだろうか?
しかし、協力してくれると思っている。それは、俺が井の頭の事を友人だと思っているのと同時に、きっと井の頭も自分のことを友人だと思っているに違いないという期待があったからだ。いや、期待というよりも一種妄想に近い確信だったかもしれない。
頭の中が期待と不安に満ちて、時間が遅く感じられる中、井の頭から返信があった。
『誰にも言わないよ。でもどうやって行くの?クラスポイントでAクラスを超えるっていう意味ではないんだよね?』
とりあえずは、かなりいい。彼女は半信半疑といった形だが。こちらの話を聞く姿勢を感じる。あとはこちらも正直に応じるだけだ。
『プライベートポイントを使う。2000万ポイントあれば好きなクラスへ行く権利を買うことができる。2人なら4000万ポイントで行ける』
学校の秘されたルールを告げる。といってもいずれ判明するルールでもあるが……この時点ではおそらく井の頭は知らないだろう。
『そんなことできるの?2000万も集まらない気がする』
できる。ただし方法を説明しろと言われると少し困る。つまりはハッキングによるカンニングが基本だからだ。
『井の頭さんが協力してくれれば3年の終わりぐらいまでには4000万は集まると思う。俺1人でも2000万は集められないことはないけど、せっかくだし一緒に行かない?』
なんか詐欺みたいな書き方になってしまった。
『方法が気になるけど……多分赤石君じゃないと出来ない方法なんだよね……?』
書き方で、井の頭には方法が少し後ろ暗い事だと、そして俺でないとできない事だと伝わったらしい。
『うん。たぶん俺以外だとかなり難しいと思う』
少し返信が止まる。井の頭を見ると少し悩んでいるようだった。俺は端末に再び目を向け、祈りながら待った。
待つ事数分。人生でも最も長い数分だったかもしれないが、返信が来た。
『行く。どうせ、Dクラスにいても大したことはできないし、それなら赤石君に賭けてみる』
ありがとう。井の頭。
『ありがとう、井の頭さん』
返信を送り、前にいる井の頭を見る。そして、チャットと同じような事を口頭でも伝えることにした。
「よろしくお願いしますね。井の頭さん」
「こちらこそ……よろしくお願いします赤石君」
井の頭は俺の口調を聞いて、少し笑うと、同じような丁寧な口調で返してくれた。
***
せっかくなので今後の事について話をすることにした。
『それで、井の頭さんにお願いがあるんだけど。いい?』
井の頭はこちらの文章を端末で確認すると、返信せずにこちらをじっと見た。
……え、駄目なのか?井の頭の反応に困っていると、井の頭が再び端末を操作し始めた。なんだったんだ?と思っていると再びチャットが再開された。表示される文章を見る。
『エッチなのは駄目だよ』
おい、そのネタ2回目だぞ。間があったわりに面白くないぞ。もしかして、このネタを使い続ける気か……?
『ちがわい。というよりそれは持ちネタなの?』
気になり聞いてみる。なんとなく井の頭の方を見ると、少し困惑した顔であった。いや、なんで困惑顔?
『いや、なんとなく……かな』
なんとなく……?俺ってそんなヤリサーみたいなイメージがあるのか、ちょっとショック。……まあ、いい。とりあえず話を元に戻す。
『えーっと、ではお願いの内容だけど、とりあえず、俺から受信したメールとかは一応削除しておいてほしい』
『うん。わかった。秘密にするってことね』
どっちかがバレて動きにくくなった時に助かる気がする。アリバイ工作とかも出来そうだし……
『そそ。だから、中間に向けての勉強会が終わったら、ほとんど接点のない2人に逆戻りな感じで』
少し悲しいが、仕方がない。繋がりがバレていなければできることも多いだろう。
『それは少し寂しいけど分かったよ。これからの連絡はメールや電話がメインってことかな?』
基本的にはそんな感じかな……?うーん、坂柳や龍園だったら、どんな風にするのだろうか?彼らの通信履歴を見ても、どうもパターンが読めないのだ……いや?読まれないことの方が重要だからパターンなど組まないのだろうか?難しいな……
『基本はそうなるかな。あと一応、秘密の話だけど、中間試験が無事に終わるとクラスポイントが少し入るみたいだよ』
ちょっとだけ手札を見せる。信頼の証というわけではないが、今後、井の頭には色々と諜報で得たデータを基にした予想を告げるので、今のうちに慣れて欲しいのだ。
『そうなの?何で知ってるの?』
当然の質問が飛んできた。さすがにハッキングしていると言うのは問題な気がするので……
『秘密の話なので……実は情報通なんですよ(ドヤ』
情報通アピールに留めておく。嘘ではない。あとついでに渾身のドヤ顔マークを文末に添付して送る。なんだか王みたいな事をやっているな……
『さっきの2000万計画もそこから思いついたの?』
しかし、井の頭、迫真の王の物真似をスルー。さすがだ。
『そんな感じ』
それから2、3打ち合わせをした後は、チャットを止め、勉強の話へと戻った。
井の頭に受け入れて貰ったからか、その日はいつも以上に熱心に教えてしまった。少し井の頭の反応が気になったが、彼女も嫌そうには見えなかった。彼女と友達になることができて良かったと、そう思った。
***
井の頭と交友を深めることに成功した。
今日は記念に嗜好品を買うことにした。とても大好きな炭酸飲料だ。適当な店で購入し、冷蔵庫で冷やして、寝る前に飲んだ。
――美味しかった。
ベッドに横になりながらこれからの出来事考えようとして、止めた。
今日の1日の最後は友達と、いや、親友ができたことへの余韻に浸り終わりたかったからだ。