実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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試験範囲とBクラスと乱入者

 井の頭とズッ友宣言をしてから、一週間が経過し、6月に入った。ついに中間試験が近づいてきたのだ。といっても、赤石勉強会は非常に順調であり、井の頭・外村両名とも標準レベルの学習は終わり、次のレベルに挑戦中である。

 

 しかし、残念ながら問題というものは常時発生するようである。今回の発生源はなんと茶柱先生であった。昨日、中間試験の範囲が発表されたのだが……範囲が間違っていた。

 

 なぜそのことが分かったかと言うと、昨日の放課後は念のため試験問題を入手しようとハッキングを敢行したのだ。そのとき今年の試験問題が茶柱先生の説明と範囲と合っていない事に気づいた。

 最初は試験問題がクラスで違い、入手した問題がDクラス以外の問題かと思い、隅から隅まで探したが、出てきたのはここ数年分の試験問題だけであった。しかもその試験問題にもおかしな点があった。というよりおかしな点しかなかった。

 ここ数年、試験問題が全く同じなのだ。どの教科もそっくりそのまま同じであった。暗記すれば満点も余裕である。教師が怠けたのかと一瞬思ったが、そんな教師はせいぜい数年に1度であり、こんなにも一斉に怠けるのは有り得ないだろう。

 おかしいと思い、昨年の1年生の期末テストと一昨年の期末テストを見比べたが、こちらは類似点はほぼなかった。一応数学と世界史は方向性は似ていたが、問題自体は1から作り直しているように感じられた。2学期の中間や期末に関して調べても、例年違う問題であった。

 

 どうも、1年の1学期の中間のみ毎年完全に同じ問題のようであった。これは作為的なものだろう。上級生と連帯しろというメッセージだろうか……?

 

 いや、どちらにしろ問題なのは、そこではない。茶柱先生が範囲を間違えた点だ。こればかりは納得できない。職務放棄ではないか?他のクラスのカメラを見たが、どの先生も範囲の説明は正しかった。……本当にどうしよう……?

 

 

 

***

 

 

 対策案を考えた。つまり他のクラスに聞けば良いのだ。……俺ではなく平田が。

 

 ということで、作戦を考えた。そのために、まず朝、平田に昼に図書館で会えないかを問うメールを送った。これで、「軽井沢と昼飯食べるから無理」とか返されたらどうしようとか考えたが、杞憂に終わり、平田から了承の返事が届いた。

 ふむ。これで準備はほぼ完了だ。あとは図書館での、俺の演技力とアドリブ次第になるが……一応、何度かシミュレーションを重ねた。問題は無いだろう……まあ、失敗しても最悪の場合は井の頭に過去問を渡せば問題はあまりない。範囲が違っても平田や櫛田といった重要なメンバーが退学することはないだろう。

 

 

 昼休み、図書館に行くと、まだ平田は来ていなかった。しかし、重要な所はそこではない。図書館の作戦決行地点である、中央の本棚が開けた場所を見る。

 一之瀬とBクラスのメンバーが数人いた。よしよし、とりあえず作戦の第一段階はクリア。……できればBクラスの柴田が居てくれると助かったが、不参加のようだ。

 

――本日の昼休み、Bクラスはテスト対策の勉強会を開くことになっていた。これは昨日の日課のBクラスの監視カメラチェックから分かっていたことであった。また、主催者が一之瀬であることも。

 

 一之瀬と平田は面識があるか分からなかったため、サッカー部の柴田を使いたかったが、一之瀬もコミュ力が高いため、俺が少し誘導すれば、あとは平田が上手くやってくれるだろう……

 そう考えていると平田が来た。よし。作戦の第二段階もクリア。あとは平田と適当に話ながら、一之瀬の方にぶつけるだけだ。

 

「赤石君。ごめん。待ったかな?」

 

「いえ、待ってませんよ……すみません。さっそく本題に入りますが、今日相談したことは中間試験についてです」

 

 少し声の調子を落としながら話す。最近演技力が上手くなったような気がする。平田もこちらの雰囲気を察してか、より真剣さの増した表情になった。

 

「そうだね。Dクラスは最近緊張感を持って授業を受けているけど、中間試験はまだ心配な事が多いね……」

 

「ええ、それでですね……かなり良い数学の演習書を見つけたので、もし可能であれば平田君の勉強会で取り入れて貰えれば、と思いまして」

 

「本当かい?ありがとう、すごく嬉しいよ。赤石君のお勧めの演習書なら、きっとみんな助かるよ、教えて貰ってもいいかな?」

 

「ちょっと今は持ち合わせていませんが、図書館にあります。こっちの方の棚にありましたよ」

 

 そういって平田についてくるように手招きする。平田を本棚に導くが……うん、最高の位置取りだ。ちょうどBクラスの勉強会が行われているテーブルを横切るような形になる。

 ゆっくりと進んでいく。図書館だから静かに動くのは不自然ではない。ゆっくりとゆっくりと進むと、Bクラスに近づくにつれて、一之瀬たちの会話が聞こえてくる。

 

――素晴らしい。

 

 ちょうど話をしている内容は世界史であり、Dクラスでは範囲外とされている所だ。しかも、見た所、一之瀬の周りには様々な問題集があり、予想問題のようなものを作っており、Bクラスの生徒も何人か問題集と向き合いながら一之瀬と協力しあっている。最高のタイミングだ。

 俺は故意に一之瀬の隣の誰も座っていない椅子の足に引っかかり転倒する。椅子の上に載っていた一之瀬が用意していたであろう問題集が床に落ちた。ドサドサという音の直後、後ろから平田が声をかけながら、こちらに寄ってきた。

 

「大丈夫?!」

 

 声は少し大きく、周りにいたBクラスの生徒が何事かとこちらを見る。いち早く気づいた一之瀬が転倒した椅子と俺を見比べると状況を把握したのか声をかけてきた。

 

「わわ!ごめんね。君、大丈夫?」

 

「あ、いえ、こちらこそ、椅子のものを崩してしまいすみません」

 

 そう言いながら、素早く落ちていた問題集を拾う。一番大事な所だ。不自然にならないように拾った問題集を集めて、Bクラスが勉強をしているテーブルの上に置く。

 ちらりと問題集とテーブルに上にある一之瀬が作成していた予想問題のようなものを見る。あまりじっと見るのではなく、たまたま目に入ってしまったような形を意識した。

 そして少し考えるような顔をして、不思議そうな顔を作り一之瀬の方を見た。あ、肉眼で見るのは初めてだけど、カメラで見るよりかわいいな……

 

「えっと、すみませんでした。一年生ですよね……?」

 

 俺の質問を受けると一之瀬もまた不思議そうな顔をしながら口を開いた。

 

「いやいや。こっちこそ、椅子に本を重ねちゃってごめんね。あと私は1年Bクラスの一之瀬帆波だよ。そっちは平田君と、えっとごめん、君はDクラスの生徒であってるかな?」

 

 名前は覚えられたくない。けどここで名乗らないと不自然か?

 いや、彼女はDクラスの生徒か聞いているだけだ……ここは答えない方向でいくか。卑屈なDクラス生徒でいこう。Bクラス様の前では名前を名乗らないのは決して不自然ではない。

 ……まてよ、カメラで見た感じの一之瀬の性格から考えると卑屈な感じは相性が悪いか……?いや、彼女は「龍園事変」での対応の仕方から排他的な印象がある。ここは下手に出よう。

 

 龍園、俺に力を貸してくれ!

 

「はい、俺はDクラスですよ。……えっと、あの、Dクラスの俺がこんなこと言うのも失礼かもしれませんが、その問題は範囲外ですよ」

 

 俺は一之瀬の予想問題のDクラスでは範囲外とされている部分を指して、声に怯えを含みながら言った。目の前の一之瀬を椎名だと思うのだ……それで怯えは含まれる。龍園と椎名、本来は敵であるCクラスの2人が俺に知恵と勇気を授けてくれる。

 俺の指摘を受けて周りのBクラスの生徒は予想問題を見て、怪訝な顔で俺を見たが、一之瀬に判断を任せているのか口を開くことは無かった。Bクラスの期待を背負った一之瀬は少し悲しそうな顔をしながらも俺に対して話しかけた。

 

「ううん。別の失礼だなんて思わないよ。あと、DクラスもBクラスもそんなに違いはないと私は思ってるよ。えっと、君の名前は何ていうのかな?」

 

 おい、やめろ。お前に求めている答えは、「え、これは範囲内だよ、Dクラスは範囲も覚えられない人達しかいないのかな?」、だ、間違えるな。

 ……龍園め、俺に対して力を出し惜しんだな……

 

「ええっと、その、俺は、赤石といいます」

 

 このまま卑屈路線で決して名前を教えないことも考えたが、調べたら簡単に割れるので諦めた……ぐぬぬ、一之瀬に名前を知られたくなかったが、仕方ない。

 一之瀬は俺の名前を聞くと、一度、安心させるように優しく笑ってから口を開いた。凄く可愛い、あ、間違えた、コイツはきっと厄介な敵だ!

 

「うん。よろしくね!赤石君。あと、指摘してくれてありがとう。でもここは合ってると思うよ。ちょっと待ってね、今、星之宮先生に貰った範囲表が……っん、あった、はい、ここ見て、ね!合ってたでしょ!」

 

 一之瀬はバックから範囲表を取り、こちらに見せてくれた。よし!任務達成。あとは平田が全部やってくれるだろう。まあ、最後に平田に橋渡しはするか……

 

「え?いや、……そんな、これは……平田君、ちょっと見てください。これ変ですよ」

 

 近くにいた平田に見せる。どうでもいいが、さっきから平田は一言も喋ってなかった。俺と一之瀬の会話に割り込めるように待機していたようにも見えたが……俺が上がり症であることを心配して介入できるように待ってくれていたのだろうか?

 平田は範囲表を見ると驚いた顔をしていた。よーし。正義はなされた。あとは流しで……

 

「えっと、その平田君も赤石君もどうかしたのかな?もしかして私が貰ったの間違えてる?皆、範囲表持ってる人いるー?あ、ありがとう仁美ちゃん」

 

 一之瀬は平田と俺を見た後、近くにいたBクラスの女子からプリント貰い、こちらに持ってきた。そして一之瀬の範囲表と見比べる。当然、そこに不備はない。

 

「うーん。範囲表は間違ってるってことはないと思うけどなー。もしかしてDクラスでは範囲が違うのかな?」

 

「ええ、茶柱先生が配った範囲表とはかなり違います。テストは学年で統一だと思うのですが……」

 

 それっぽい雰囲気を出しながら、適当な事を言う。

 

「うん。ごめん。一之瀬さん。この範囲表のコピーさせてもらってもいいかな?。茶柱先生のところに質問に行くのに必要になると思うんだけど……いいかな?」

 

「うん!いいよ」

 

「ありがとう」

 

 一之瀬に感謝を伝えると、平田は素早くコピーを行い、範囲表を一之瀬に返却すると、俺の方に軽く謝罪し職員室に直行した。問題集の件は次の機会となったようだ。まあ、問題集は図書館に来る口実にすぎない。

 平田が風のように去ってしまったので、俺もあとを追うとしよう。一応挨拶だけはするか。

 

「ええっと、皆さんの勉強会を邪魔してすみませんでした。あと、範囲表はありがとうございます。それでは失礼しました」

 

 

 うむ。ミッションコンプリート。一之瀬たちに挨拶をした後はDクラスに帰還し、昼飯を食べ無事昼休みは終了した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 授業が終了しHRになると、平田が茶柱先生の代わりに前に出た。どうやら茶柱先生も了承しているようで、口を出すことは無かった。そして、平田は昨日の茶柱先生の渡した範囲表に誤りがあった事を口にした。

 素晴らしい事に、平田はどうして範囲表の間違いに気づいたのかを説明しなかった。やはり平田は櫛田とは違い口も堅い。平田、お前がナンバーワンだ。

 ちなみに、この際、なぜか茶柱先生がつまらなそうな顔をしていた。……まさか、今回の範囲表も故意だったりするのだろうか。いや、それはないだろう。もしそうだとしたら性格が歪みすぎである。

 

 茶柱先生への疑念を一旦保留にし、平田の演説を見守った。Dクラスの面々は1日分勉強が無駄になったと、少しだけ茶柱先生を非難したが、先生は悪気はなかったとか言っていた。なんだか、本当につまらなそうな顔をしている。

 平田の演説は無事終わり、範囲の確認も含めて放課後の勉強会が始まった。どうやら、中間が近いためかこれから毎日、櫛田と平田は勉強会を図書館で開くようだ。ちなみにサッカー部は中間終了まで無事休みとなったようだ。これには平田も思わずニッコリであっただろう。

 しかし一方で困ったこともある。平田と櫛田が図書館で勉強会をする以上、堀北勉強会は別館で開催されるようだ。赤石勉強会はどうしたものか……と思っていると、堀北と綾小路がこちらに迫ってきた。おい、来るな。

 

「ちょっといいか、赤石」

 

 よくない。

 

「はい、なんでしょう綾小路君」

 

「櫛田からお前が勉強会を開いていると聞いた。何でもかなり教えるのが上手いとも言っていた……実はオレも結構小テストがヤバくてな……できれば教えて欲しい」

 

 やだ。

 

「それは過大評価だと思いますが……ちなみに綾小路君はどのあたりが苦手なんですか?」

 

 地味に気になっていた質問をする。個人的なイメージでは現代文と化学が苦手そうな感じがする。

 

「そうだな。全部苦手だが……強いて言えば――」

 

「行きましょう、綾小路君。時間の無駄よ」

 

 綾小路の解答を堀北が遮った。よく言った堀北。えらい!

 

「いや、櫛田があそこまで言ってたし、それに最近の博士を見ろ。かなり授業に集中してるぞ」

 

 あそこまで……?カメラで見た感じ、櫛田はそんなに綾小路に俺の勉強会については説明していなかったと思うが……カメラ外で何か言ったのだろうか?やっぱり櫛田は駄目だな。

 

「博士?――ああ、外村君のことね。外村君の事はあまり興味がなかったから、よく見てないわね。それにたとえ綾小路君の言った通りだったとしても、それが赤石君の勉強会の効果かどうかはわからないわ」

 

「お前は、どうにも赤石の能力を低い水準だと確信しているみたいだな」

 

「別に、私はただ事実を言っているだけよ。まあ、櫛田さんのように『なんとなく』で話す人が赤石君を評価している時点で、あまり期待していないというのはあるわね」

 

 堀北いいぞー!がんばれー!

 

「櫛田からの評価が気に入らないということか?」

 

「別に櫛田さんだけではないわ。平田君も『なんとなく』で話す人の1人よ。あと赤石君もね」

 

 それは確かに的を射ている表現だ。よく見ていらっしゃる。まあでも平田は俺よりは思考の質が深いと思うよ。話し方は『なんとなく』かもしれないけど。

 

「つまり櫛田の事を嫌っているように赤石も嫌いだから勉強会に入って欲しくないと?」

 

「別に嫌いではないわ。ただわざわざ関わらせるほど優秀な人間には思えないと言っているのよ」

 

 お!つまり綾小路は優秀って事ですね!それとも彼氏は特別枠なのかな。

 まあ、結構面白いけど、そろそろ夫婦漫才にも飽きてきたし、今日は諦めて図書館の方に行くか……端っこの方ならみんなにも見つからないでしょ。

 

「ええっと、すみません。外村君と井の頭さんを待たせてしまうので。俺は失礼しますね」

 

 ここで、重要なのは綾小路にキャッチされないことだ。もう2回もヤツの手順は見た。今度は避けれるだろう。若干ステップを刻みタイミングを外しながら2人の前から離れる。

 ……綾小路は掴んでこなかった。いや、そこは掴めよ。何か1人でステップして恥ずかしいじゃん。

 

 

 

 2人の前から去り、井の頭と外村の両名と合流し、図書館に向かう。途中でAクラスの橋本が視界に入った。手に本を持っていた事から図書館から来たのだろうか?すれ違いざまにタイトルを見ると、サバイバルガイドとあった。……そういえば、昨日坂柳が橋本にサバイバル訓練をしておいてください。という謎過ぎる通信を送っていたな。

 坂柳流の冗談かと思ったが、橋本は真面目にとったようだ。しかしなぜサバイバル?……自身の部下は強くあれ!みたいな感じなんだろうか……?

 ……一瞬、特別試験が頭をよぎるが、特別試験は中間試験が終わるまで決定していない。……いや、まて中間試験の流用問題もある。もしや、決定していないだけで、毎年行われている特別試験があるかもしれない……数年分調べるべきだな。

 といっても、しばらくは中間テストに注力しよう。どちらにしろ中間が終わり次第か?

 

 

 

 図書館に着くと、中間試験が近いためか中には多くの生徒がいた。昼休みに来たときよりも多い。Dクラスの群れも確認できた。中央よりも少し外れた地点に平田・櫛田を発見した。よし、本棚に隠れながら、彼らの逆サイドに向かおう。俺は井の頭と外村の2人を率い、そろりそろりと隠れつつ目標地点まで到達した。ここをキャンプ地とする!

 

 小さなテーブルで4つ椅子がある場所だ。周囲は本棚に囲まれているため、視界は通らない。そのため人が多い図書室でありながらも、どことなく静寂さと安心感を与えてくれる。外村と井の頭が椅子に着いたので、さっそくいつもの様に問題にとりかかる。

 今日はあらかじめ、外村が疑問点があったようで、勉強会開始早々質問をしてきた。質問に答えつつ、思う。だいぶ外村と井の頭のレベルが上がってきた。2人とも標準問題はほぼ完璧だ。また、外村は数学に興味を持ってくれたようで、数学に関しては発展問題に取り組み始めてくれた。井の頭は残念ながら学問にはあまり興味を持てないようだ。しかし、世界史に関しては何かを掴んだようで、他の教科よりも演習書を解いている時に少し楽しそうに見える。

 井の頭には試験問題そのものを念の為渡すつもりだが、この分だと必要なさそうだな……

 

 カリカリとシャープペンシルの走る音と、時々質問する2人の声とそれに答える自身の声だけが聞こえる。本棚が上手く周りからの音を弾いてくれるのか、周りで勉強しているであろう声は聞こえない。

 

 うん。思ったよりいい場所のようだ。今後何か会合に使えるかもしれない。新たな安寧の地だ。大事に使っていこう……

 

 

 

 

 

 

 

 なかなか平穏だ。と思ったら、また質問が来た。

 

「……この問題は赤石君はどう解くのが正しいと思う?私は先に平方完成させたい……です……」

 

 ふむ、これは少し難しい問題だ。……確かに平方完成を先に、ん?ちょっと待て。今、なんか2人とは違う声だったぞ。

 というより、この丁寧語だったりそうでなかったりする口調は……顔を上げ、声の方向を見る。佐倉が座っていた。まて、何でお前がいる。お前は櫛田チームになったはずだぞ。

 俺の視線に気づいたのか佐倉が答えた。

 

「あ、あの、私、櫛田さんのチームに馴染めなくて、その、ここにいてもいいですか?」

 

 いや普通にダメだよ。……一応2人の方を見る。が、どちらも別にいいよ、みたいな雰囲気を漂わせていた。佐倉が気が弱そうだから大丈夫だろうと考えている顔だ。

 甘いぞ2人とも。この佐倉は初対面の俺にマウントを取ってきた女だ。決して油断するな。気を引き締めるためにも、俺は佐倉に声をかけた。

 

「えっと、佐倉さん。実は平田君に勉強が苦手な人に注力するように頼まれていまして。佐倉さんは結構小テストも出来ましたし、勉強も得意だったと思いますが……どうでしょうか?」

 

 佐倉に負けないという強い意志を持ち、はっきりと目を合わせて喋った。

 しかし、佐倉の方も引く気が無いのか、俺の方を強く睨み返すと外村の問題集を奪った。コイツ、外村を踏み台に!

 

「あ、あの、私、この問題集解けません!」

 

 いや、だから何だよ……

 

「で、ですから、仲間に入れてください。……私、外村君より勉強ができないので……」

 

 いや、それはねーよ。と思い、外村の解いている問題集を見る。ふむ。最近渡した奴だ。確かにこれは若干難しめの数学の問題集である。近くにある外村のノートを見ると、だいたい合っている。……あれ?最初に佐倉が質問してきた問題を見る。うん。外村の方の問題集が難しいな…………

 

 …………おい!外村!お前。赤点組のくせに何でこんなに勉強できるようになってる!

 

「た、確かに、…………そうですね。ええっと、外村君。佐倉さんが持ってきた問題は外村君ならどう解きますか?」

 

「そうでござるなー。拙者としましても佐倉殿の言う通りまず、平方完成をしまして、そこから場合分け……」

 

 外村はそのまま問題の解法手順を1つ1つ述べていった。やっぱり、そう解くよな……一応、公式で無理やり解く方法も考えたが、ミスが少ない方法は外村の方法だと思う。

 

 うん。というか、あれだな。比較対象がいなかったが、どうも外村も井の頭もこの一か月で問題集解き過ぎたな……勉強マンになっちまった。もう勉強会必要ない……?

 

 しかし、困ったな、佐倉が顔を真っ赤にしながら、こっちに迫っている。「わ、私嘘ついてませんよ!」とか言ってる。今にもマウント取ってきそうだ。

 ぐぬぬ。佐倉め。さては2人の勉強が上手くなったのを見計らって奇襲をかけてきたな!汚いヤツめ………………うん。いや、明らかに俺のせいだよな……どうしよう?

 

 

 

 

 

 

 非常に不本意ながらも、佐倉を仲間に加え勉強会は進行していった。どうも、櫛田の勉強会には1度しか出ずに、しかも途中で帰ってしまったらしい。佐倉にとって人数が多い櫛田勉強会は苦痛だったようだ。

 じゃあ、何で赤石勉強会の人数を増やすんですかね?とは言いたかったが、そんな事を言うと今度こそマウントとられそうなので止めておいた。

 

 ここまで、独学だったのか、はたまたあまり勉強をしなかったのか、佐倉の実力は5人で行った勉強会以降変化していなかった。まあ、赤点ということはないだろうが、佐倉自体危機感を持っているようで、必死に問題集を解きつつも質問もたくさんしてきた。やる気のあることは決して悪い事ではないのだが、佐倉はやる気があるときは顔を上気させながら、迫ってくるから、やはり苦手だ……

 こういったら、失礼かもしれないが、佐倉は非常にスタイルが良く、顔も間近で見ると非常に可愛いのだ。そこらへんのアイドルより可愛いのでは?と思ってしまうぐらいだ。それが顔を赤くしながら、マウントを取ろうとしてくるのだ。つまりビックリしてしまうのだ。悪意が無い上、勉強も危機感を持っている以上やる気がある。故に断りにくい。

 

「あ、あの赤石君。ここはどう解けばいいの……?」

 

 まただよ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 その日は結局佐倉が満足するまで付き合うこととなった。ちなみに外村と井の頭は佐倉の熱気に押し負けて、途中で帰った。曰く佐倉の方が中間危なそうだからである。それだけ聞くとクラスメイト思いに聞こえるが、俺にはわかる。2人とも佐倉の相手をするのが嫌で俺に押し付けたな……

 

 

 

 

 

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