実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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お待たせしました。

2巻部分のお話になります。

それと、大変申し訳ないのですが2つほど1巻部分に変更点があります。
1つ目は私は、何を考えたのか市橋さんの事を市原さんと記述しておりました。そのため、1巻部分には修正が入っております。こちらは名前のみの修正のためシナリオ上の大きな変化はありません。
2つ目は、9巻発売に伴い王さんのセリフが公式で出たので、少しだけ口調が変わりました。公式仕様に少し寄せた形になります。とはいってもこちらも、そこまでシナリオ上の変更は無いので、読み返す必要は無いかと思われます。

一応気になる方は1巻部分の「勉強会」と「中間試験」が2人の登場シーンとなっておりますのでお確かめください。


2章 暴力事件
集会場


 中間試験の動乱が過ぎ、6月30日の午後。特別棟の近くで、俺は工夫して設置した改造監視カメラと盗聴装置を回収していた。ここにはCクラスの小宮・近藤・石崎とDクラスの須藤が1時間前に行った行為がはっきりと記録されている。

 なぜ、俺がこんなことをしているかというと、事態は中間試験2日前に遡る。

 

 

 

***

 

 

 

 中間試験2日前。各クラスが中間試験を強く意識している時。その時が仕掛けるチャンスだと思った。前々から計画していた、Cクラスの会合傍受作戦を実行に移した。作戦内容はCクラスの集会場と思われる高級カラオケ店に潜入し、例の量販店で購入した自作の改造盗聴器を仕込むというものだ。

 文章で言うと簡単だが、なかなか大変な作業であった。

 まずこのカラオケは団体利用のみ対応していて、1人カラオケは駄目であった。この時点でハードルが高く、どうしたものかと悩み……ここはハッカーらしくハッキングで対応することにした。カラオケルームは例えビップルームとはいえ鍵はかかっていない。廊下のカメラと巡回する店員にさえ何とかできればルームには潜入可能であった。

 よって、まず予め店員の巡回時間とルートをハッキングで入手し、シミュレーターを使い安全な時間を調べ、また、その時間にはカメラが上手く機能しないように細工を行った。そして、隙を見て安全時間に突入。団体客の中に紛れて進み、無事龍園が普段使うカラオケルームに潜入し盗聴器を仕込んだ。

 ちなみに龍園はこのカラオケの中の1室を気に入っているのか年間専属契約を結んでいる。そのため、他の客は使うことはない。……気に入り過ぎだろ。

 正直な話、ここに潜入するときは、カラオケ店の通路にカメラを設置するなら、ルームにも設置しろよとは思った。……現場に突入というのはできれば、もう2度したくない事であった。

 

 

 そんなこんなで、ついにCクラスの作戦会議の中枢に無事盗聴器を仕込むことに成功した。ちなみに改造品でかつ小型なので発覚はありえないと思われる。

 龍園もCクラスの面々に退学になって欲しくなかったためか、中間試験の1週間前は会議は行われていなかった。その一方で中間終了時と結果発表日は大々的にこの集会所でパーティーが行われていた。大音量でちょっと耳が痛かった。また、中間終了時から結果発表日までの間は毎日会合が行われ、その度に龍園のカリスマ演説を聞くことになった。

 本来、会合は火曜日と金曜日に行われるようで、結果発表日以降は週2回のペースとなっていった。

 

 そして、前回の会合時に龍園は今度はDクラスに仕掛けることが判明した。また当たり屋でもやるのかと思ったら、どうも前回の一之瀬の行動から刺激を受けたのか、今度はあえて生徒会を呼びつけ、冤罪をふっかけるようだ。ちなみに対象は須藤であった。作戦手順や内容はそこまで目新しい手法ではなかったが…………須藤ならひっかりそうだ。

 まさかのDクラスのクラスポイントに危機であった。仕方ないので急遽、新たに盗聴装置を組み上げ、今度は監視カメラまで用意した。盗聴装置は前回のスクラップから作ったのでポイントの損失はほぼなかったが、カメラの方は自作でも4000ポイント掛かった。須藤め。……まあ、生徒会裁判に持っていく以上負けるわけにはいかないし、中間試験で得る予定である95クラスポイントを考えれば4000ポイントの出資は悪くないであろう。それに今回は資金回収方法も考えがある。

 

 そうして、無事、Cクラスの作戦決行日である6月30日にカメラと盗聴器を作戦場所に設置し、自分は少し離れたトイレの個室に立てこもった。須藤と石崎たちの言い争う声が聞こえた時、作戦の成功を感じた。

 

 

 

***

 

 

 

 7月1日となった。端末を確認するが、やはりポイントは振り込まれていなかった。昨日の事なのに学校側の対応が速い。まあ、よい。まだ俺は約5万5千ポイントある。

 それにこの事件の一部始終は全て録画済みだ。つまりCクラスの敗北で終わる。悪いな龍園、いつも椎名の事で助かってるけど、俺のポイントは何よりも優先されるのだ……許せ。

 あ、ちなみにまだこの証拠品は使わない。生徒会が出てきてから使うつもりだ。恐らく平田と櫛田がDクラス代表として出ることになるので、どちらかに匿名で送信するつもりだ。理想は資金回収も考えると櫛田が良いだろう。それまでは、少し困っているDクラスの生徒でいますかね……

 

 

 登校すると、Dクラス内は複雑な雰囲気に包まれていた。クラスポイントが入った事に関しては喜んでいるが、「学校側の不手際」によりポイントが入らない事にがっかりしているという感じだ。うん。須藤。お前が原因だと分かったら大変なことになりそうだな……がんばれ。まあ、お前も3人相手とはいえすぐ手を出したのは悪い点だと思うぞ。いや、まあ、普通に正当防衛だから仕方ないとも思うけどね。

 そんなことを考えていると後ろの平田が話しかけてきた。忘れがちだが後ろの席は平田だ。入学当時は嬉しかったが、今は少し億劫に感じてしまう。

 

「赤石君、少しいいかな」

 

 平田の方を振り向き返事をするが、マズイな……後ろの席にいる綾小路と目が合った。

 

「何でしょうか?平田君」

 

「赤石君は今回の学校側の不手際って言うのは何だと思う?」

 

 やべぇ、平田のヤツ気づいていない。後ろから綾小路がこっちに来ている。いや、まあ、平田にとっては悪い事でもないが、俺にとっては目下近寄りたくない奴ベスト3に入る男だ。あ、もう平田の後ろまできた。平田ー、後ろ後ろ!

 

「平田、赤石、ちょっといいか」

 

 よくないよ。

 

「僕は大丈夫だよ。何かな?綾小路君」

 

 平田はそう綾小路に返した。……俺は大丈夫じゃないです。

 

「ポイントが入らないんだが……何時ごろ入ると思う?堀北に聞いてみたが、教えてくれなくてな。2人は分かるか?」

 

 須藤の暴力事件の決着が着くまで入らないよ。と、言うわけにもいかない。というか、何だ。綾小路は何をしにきたんだ?お前のポイントはこの前の中間試験での散財により8000ポイント程度だったはずだ。まだ大丈夫だろ……もしかして探りにきたのか?もし、そうだとしたら、俺と平田どっちだ?俺だと困るが、…………いや、それは自意識過剰だな。現状、俺は精々ちょっと勉強ができて勉強を教えるのが上手いと思われている程度だ。おそらく探りに来たならば平田だろう。

 ……俺と同じで2000万狙いなら平田の思考分析は重要な事だ。……でも、それなら今までも平田に探りを入れるはずだが、そんな素振りは見せていない。駄目だ。綾小路の思考はよくわからない。せめて目的が分かればいいんだが……

 

「僕もそのことを赤石君と相談していたんだ。恥ずかしながら、僕だと思いつかなくて、赤石君はどうかな?」

 

 なんか、平田は俺が目立つのが苦手な外部アドバイザーだってこと忘れてない?人前で聞かれても答えにくいよ。しかも綾小路の前とか喋りたくない。

 

「難しいですね。ただ、生徒数十人に一斉にお金を送るわけですから、慎重になると思いますし……長ければ2週間ぐらいかと思います。短くても数日は必要かと思いますが……綾小路君はポイントが危ないのでしょうか?」

 

 ついでに綾小路のポイントに関して平田の前で追及してみる。答え方で綾小路が嘘をつくタイプか真実を秘匿するタイプか正直なタイプが分かるかもしれない。いや、まあ、プライベートポイントの情報を綾小路が重視しているかなども関わってくるため一概には言えないが……

 

「いや、ポイントはまだあるが、少しばかり心許ない……それに何かと入用だ。できれば早くポイントを貰いたい」

 

 うぐぐ。何とも判断に迷う回答だ。嘘は言っていないが、うーん。真実を秘匿するタイプだろうか?いや、正直に答えてるともいえるが、何かと入用というのが何だか怪しく感じてしまう。いったいポイントで何をやるのか気になる。まあ、俺自身ポイントを使って諜報工作を行っているから他人も怪しんでしまうだけだが。

 綾小路は聞きたいこと聞くと、自身の席へと戻っていった。そして堀北とイチャイチャしていた。本当に仲が良いね、あの2人は……

 

 

***

 

 昼休みになると、Dクラスの面々も朝の鬱々とした気分を忘れ学生の本分である青春を満喫し始めた。

 Dクラスはポイントがピンチなため自炊してきている者もいるが、中には無料で手に入れることができる山菜定食を求めて食堂へ挑む猛者もいる。というより自炊できないやつが多いからなのか食堂へ行く生徒が多い気がする。俺も本当は食堂に行きたかったのだが……あそこは椎名のテリトリーだ。できれば避けたい。まあ、最近は龍園が頑張ってくれているので椎名と会う可能性は低いが……

 

 しかし今日はなんとも教室で食べにくい日だ。なぜなら珍しく平田と軽井沢軍団が教室に残って飯を食っているのだ。どうもみんな自炊してきたらしい。いや、お前ら食堂組だろ。何残ってるんだよ。女子たちが平田を中心に群れている。まるで平田ハーレムだ。まあ、正確には中核は軽井沢のような気もするが。

 いや、まあ、いい。よくないけど。とにかく平田の席の前というのは、なんとも居づらい空間だ。仕方ないので、椎名遭遇率が比較的低い中庭に向かおうとすると、隣から声をかけられた。

 

「ねえ、赤石君はポイントが何時入ってくるか分かる?」

 

 なんと声の主は篠原だった。なんで俺に聞くんだ?あとその質問は今日で2回目だぞ……それに何時もそういう質問は平田にしてなかった……?いや、まあ軽井沢の配下っぽい篠原が彼氏と仲良くしている所に介入したくない気持ちは分かるが……

 俺がそう思っていると、何を考えたのか平田が軽井沢の相手を止めて、口先をこちらに向けた。

 

「篠原さん、実はさっきその話を僕と赤石君と、……あと綾小路君とでしていたんだ」

 

 おい、やめろ馬鹿。本日の昼休みは早くも終了ですね。

 

「そうなんだー。平田君は何時頃だと思う?私、ポイントヤバいから早いといいんだけどなー」

 

 軽井沢もどういう訳が話しに乗ってきた。いや、お前は平田の彼女だろ。2人で話せよ。軽井沢が話したせいか、他の女子も平田と俺の方を見た。マジで止めろ。あ、ちなみに今日の軽井沢軍団のメンバーは軽井沢・篠原・松下・佐藤の4人だけだ。森は櫛田たちといるようだ。市橋は知らん。

 

「うん、長くとも2週間くらいじゃないかな。といってもこれは僕が考えたんじゃなくて、赤石君の受け売りだけどね」

 

 おいおいおい、平田、お前、これは裏切り行為だぞ。許されないぞ!……いや、まあ、大した予想ではないし、生徒会の干渉の度合いによっては大きく外れる予想だから別にいいんだがな……でも、最近、平田は俺のことを表に出したがっている気がする。そういうのは困ると何度も言っているんだけど……うーん、平田の求心力は思ったより低かった、いや、Dクラスが協調性がないヤツが多すぎたと言った方がいいか?

 まあ、とにかくDクラスで平田が使える駒が少ないから平田としては俺の利便性を高めたいのかもしれないが……俺は困る。このあと本格化するであろうクラス闘争で目立ちたくない。目立たないで4000万ポイント欲しい。

 どうも平田とのコネクションの持ち方を間違えてしまった気がする。まあ、どうしようもなくなったら、平田の善意に縋るか……

 

「えーそんなにー、ちょっと長すぎない?」

 

 そう言って軽井沢は俺を咎めるように見てきた。いや、俺がポイント配布決めるわけじゃないんだけど……なんて答えればいいんだ……?適当でいいか。

 

「えっと、すみません。俺も自信はないんですが、ポイントもこの学校ではお金の一種ですから、管理や配布はかなり慎重になると思うので、長ければ2週間ぐらいはかかると思ったんです。ただ、茶柱先生が言うには「ちょっとした」トラブルということですし、2、3日で配布される可能性も高いと思いますよ」

 

 俺がそう言うと、軽井沢は少し安心したような顔になり、再び平田と談笑し始めた。佐藤はすぐにその輪に加わり、松下は一度こちらに一瞥をくれたあと、軽井沢たちの会話に加わった。しかし、篠原は何を思ったのか、まだ話を続けるようだった。

 

「赤石君は何で2週間って思ったの?1週間だと駄目なの?」

 

 おい、なんか市橋みたいな追求してきたぞ。やっぱ篠原は市橋のクローンだったか……ん?逆だっけ?まあ、いいや。適当な事言っとけばいいでしょ。というより、ポイントの配布は生徒会次第だから誰も予想できないし。俺も具体的な日程はわからん。

 

「ええっと、すみません、これもあまり根拠となるものはないのですが、月に1度ポイントの配布があるというルールがこの学校にはあります。この学校はどうもルールを重視する所がありますよね?なので、月に1度という言葉から考えると、規定日である月初めから半月を過ぎてしまうと、配布日が月の後ろになるので……なんと言いますか、名分が立ちにくくなるように感じられます。例えば7月だけ月の最後だとすると、それはほとんど1月に1度というより2月に2度ですよね?そう考えるとちょっと変な気がしたので。すみません。なんか感覚的な事ばかり言ってしまって」

 

 うん、自分で言っててこんがらがってきた。というより論理が飛躍していて意味が分からない。しかし、篠原的には許容範囲だったのか、彼女は何度か考える仕草をすると、一度小さく頷いて、「教えてくれてありがとう」と言った。そして、平田たちの会話の方へ入っていった。

 

 

 

 篠原の追求を退けたので予定通り中庭へと向かった。比較的人が少ないベンチに座る。ここは平穏の地だ。誰も俺の昼飯を邪魔しない……

 

 

……………………

 

 

………………

 

 

…………

 

 

……なんか佐倉が居るんだけど。

 

 っていうか、こっち見てない?気のせい?あ、気のせいじゃなかった。こっちにゆっくりと佐倉が近づいてきた。帰って。

 

「あ、あの。赤石君。隣座ってもいいかな?」

 

 だめ。

 

「え、ええ。どうぞ。佐倉さん。珍しいですね。中庭は普段から使用されているんですか?」

 

 佐倉は俺の回答を聞くと、少し安心したような顔になり、隣に座った。椎名と違い許可をとる分、椎名よりは危険ではないのかもしれない。しかし、彼女がマウント少女である以上油断はできない。というより、なんで中庭にいるんだ……?ここがお前のテリトリーなら別の所で食べるけど……

 

「ううん。私は中庭はあんまり使わないかな……ただ、その、赤石君と話したいことがあって……」

 

 つまり、俺を追ってきたのか……龍園のおかげで取り除かれた椎名の代わりに佐倉が来るとは……こういうの前門の椎名後門の佐倉っていうのかな?前門の閂は龍園だな。

 

「ええっと、どんなことでしょうか?」

 

 正直、面倒事の予感がするので相談とかしないでほしい。中間試験の恩を忘れたか佐倉よ。

 

「あの、中間試験は教えてくれて、ありがとうございます。あの、私、打ち上げも行かなかったから、御礼を言ってなかったので……」

 

 佐倉は緊張しているのか、少し頬が赤かった。純粋に感謝を伝えに来てくれたのか……?いや、別にたいしたことでもないし、井の頭のついでにやったことなので、そんなに気にしなくていいよ。あ、でも、これをネタに相談事に発展するのは駄目だよ。

 

「あ、いえ、気にしないでください。俺も最初の1日しか、佐倉さん達に教えることができなかったので、むしろ、あの時図書館で佐倉さんが加わってくれてよかったです」

 

 適当な事を言う。しかし、佐倉は何を考えたのか目ざとく追及してきた。中間試験の恩を忘れたな佐倉。

 

「あ、あの!どうして、1日目で勉強会を終わらせたんですか?あのあと、私と王さんは困って、それに市橋さんも残念そうでしたよ……」

 

 いや、めんどかったからかな?っていうか、お前ら3人は俺の勉強会に参加しなくても赤点はなかっただろうし、あの勉強会が高得点を目指すものではなく、赤点を回避するという名目である以上、誹りを受けるようなことではないと思うのだが……しかし、彼女の目はいつも以上に真剣に見えた。1日で投げられたことが嫌だったのだろうか……?佐倉と市橋は勉強会にそこまで乗り気でもなかったように見えたし、王は俺以上に実力がある。やはりあのまま、6人で続ける意味合いは薄い気がする。

 

「その、俺は人前で話すのが苦手で……あの時クラスメイトが沢山いましたし、その、5人もの人に教えるのは中々難しくて。佐倉さんならこの感覚は分かって貰えるかと……いえ、すみません。変な事を言ってしまって」

 

 とりあえず、論点をすり替えておこう。いつもの人前苦手アピールだ。もう何かを追求されたらコマンド「人前苦手」とコマンド「適当な事を言う」で良いような気がする。

 佐倉は俺の返答を聞くと申し訳なさそうな顔をした。少しだけ罪悪感を感じる。い、いや、俺は悪くない……ような、気が、する。いや、まあ、その、ごめん佐倉。

 

「ううん。私こそ、赤石君のこと、その、ちゃんと考えなかった……かな。そうだよね……赤石君は私と同じだもんね……」

 

 いや、俺はお前と違って初対面の人にマウント取ったりしない。でも、さすがに空気を読んで黙っておく。井の頭にも前言われたし。うん。やっぱり俺は空気読めないかも……

しかし気まずい。いや、俺が悪いんだが、でも気まずい。仕方ないのでポイントの話でもするか?

 

「いえ、その気を遣わせてしまってすみません、佐倉さん。えーっと、そういえば、クラスポイント入って良かったですね。トラブルがあって遅れるみたいですが、これで俺も一か月0円生活から脱却できそうです。佐倉さんはポイントが入ったらどうしますか?」

 

 そういえば、佐倉と初めて会ったのは家電量販店だったな……佐倉はテレビコーナーにいたんだっけ?あれ?パソコンコーナーだったかな?もう、マウント技をかけられた事しか憶えてないな……

 俺が質問すると、佐倉は顔色が悪くなり、答えに窮していた。あれ?聞いちゃいけない感じか……?あ、いや、男子がお金の使い道を女子に聞くのはマナー違反かも……というよりセクハラかもしれない……やっぱ俺は空気が読めないのかも。

 

「あー、いえ、すみません。答えにくいことなら全然答えないでください。変な質問をしてしまってすみません」

 

「あ、い、いえ、その違くて。答えたくないんじゃないの……もしポイントが入ったら、しばらくは使わないで残しておこうと、思うよ……あの、その、赤石君。き、聞いていいかな?」

 

 相談事は駄目だよ。

 

「え、ええ。俺の答えられることならですけど……なんでしょうか?」

 

 俺が答えると、佐倉は緊張しながら、俺の目を見て、そして下を向いた。それから何か小声で、これから話すことを練習するように言葉を紡いでいるようだったが、聞き取ることは叶わなかった。何度か佐倉は練習をすると、再びこちらの目を見て口を開いた。

 

「そ、その、須藤君が………………う、ううん。やっぱりいいや。ごめんなさい」

 

 しかし、途中で全てを言い切ることなく、再び口を噤んだ。

 なんだ……?須藤がどうかしたのか……?あいつは今きっと自分がトラブルを起こして不安だと思うよ。もしかしたら、トラブルを起こしている自覚がない可能性もあるが……

 それにしても、佐倉と須藤は関りがあっただろうか?席が一番後ろという共通点以外は無かったと思うが……?俺と井の頭のように隠れ友達なのだろうか。と、すると不安に思った須藤が佐倉に相談したとか?うーん、なんか須藤の性質とも佐倉の性質とも合ってない気がする。

 まあ、面倒事にならないならいいや。

 

 その後は適当に雑談を挟み解散した。佐倉は椎名と違い、雑談のネタに方向性がないため少し新鮮だった。

 

 

 

***

 

 

 放課後になり、素早く帰宅した。今日は月曜日だが、龍園のカリスマ演説の生放送があるのだ。せっかくチケットが無料なので、今後の須藤の暴力事件の動向把握の為にも聞いておこう。

 いや、もう正直、須藤と石崎たちの暴力事件に関しては勝負がついているような気がしたのだが、龍園は何をやるのか分からない事があるので、聞いてみたかったのだ。

 これは決して、暇だからとか、最近なんかカリスマ演説聞くのが面白くなってきたからという訳ではない。

 

 盗聴装置をライブモードで流す。映像は無いがパソコンから龍園御用達の集会場である高級カラオケルームから流れる音が聞こえてくる。それと同時に手元の端末が僅かに揺れた。見ると櫛田から着信のようだ。今は忙しい。櫛田からの連絡をスルーし、龍園のライブに集中する。

 

『それで、石崎。上手くやれたのか?』

 

 爆音が響くカラオケルームにて威圧感たっぷりの龍園の声が響いた。ちょうど、いいタイミングだったようだ。

 

『はい、龍園さん。須藤のバカは無事ひっかかりました、これでDクラスも終わりですね!』

 

 龍園は石崎の答えを聞くとクックと器用に笑った。やっぱあの笑い方いいなー。

 

『そうか、それはよかった。ところで、お前ら、あんまり怪我をしてるようには見えねぇが……』

 

 そこで龍園は一度言葉を区切った後、たっぷりと溜めを作り口を開いた。

 

『本当に大丈夫か?』

 

 ひぇ。ちょっと怖い。具体的に言うと0.3椎名ぐらいの怖さだ。しかし、映像もないのにこんなに怖いとなると、目の前にいる石崎は大変だな。

 

『え、いえ、その龍園さん。あ、あの、俺はだ、大丈夫だと、お、思っています』

『お、俺も大丈夫です』

『俺もです!』

 

 声が震えている。それに石崎以外もいるようだ。たぶん一緒に須藤を嵌めた小宮と近藤だろうか?

 3人組の反応を聞くと龍園はククと笑った。おや?クックだけではなくククというパターンもあったのか。

 そして龍園が『アルベルト!』と叫ぶと、何かがぶつかるような音が聞こえてきた。その音が何度か続いた後、カラオケルームは静寂に包まれた。あんな爆音を鳴らして楽しんでいたCクラスの生徒も沈黙を選んだようだ。おかげで凄く怖い。0.6椎名だ。映像がない分より怖い。なんかホラー映画みたいだ。

 え、というか、もしかして、今、石崎たち殴られた?アルベルトって多分山田アルベルトだよな。アレに殴られたら病院送りになると思うんだが……というより前後の文脈を踏まえると、須藤に暴力を振るわれた事をより鮮明にしたいが為に殴らせたのだろうか?

 

 いやいやいや、これ完全にやべー奴じゃん。誰だよ龍園と友達になれそうとか思ったのは。

 

 

 そんな事を考えていると、何かを閉じるような音が聞こえた。いや、まあ、本を閉じる音なんだが……もしかして居るの?いつも会合に参加していない人が居るのか?

 

『龍園君。あまり有意義な時間には感じられないので、帰っていいですか?』

 

 ひぇぇぇ、1.0椎名だ。あ、いや、それ、ただの椎名だ。というよりこの沈黙を破るとか、コイツの度胸はどうなってんだ。

 

『まあ待て、ひより。これからが面白いところだ』

 

 龍園はそう言うと、何かを零すような音が聞こえてきた。なんだ?

 

『石崎。美味いか?』

 

 ジュースでも渡したのか……?

 

『は、はい……』

 

 石崎の声は震えていた。

 

『ひよりもやってみるか?おもしれーぞ』

 

 マジで何をやってるんだ?石崎にジュース飲ませる遊びか?石崎のジュースの飲み方が面白いのか……?いや、もしやジュースではなく青汁系か……あれは苦手な人が多いから無理やり飲ませているとしたら龍園は中々の鬼畜だな。

 

『龍園君。友達は大切にした方がいいですよ。それでは、また明日学校で会いましょう』

 

 椎名は龍園の誘いを無視し、別れの挨拶を告げた。そして扉を開けるような音が聞こえ、そしてすぐ閉まる音が聞こえた。椎名は帰ったか……?しかし、椎名はすごいな。こんな状況で自分を貫くとは……さすがは龍園の相談役だ。

 

 椎名が去ると龍園は気を悪くしたのか舌打ちをし、さらにたくさんのジュースを石崎や他の2人にも振舞った。

 もしや、青汁ではなく辛い系かもしれないな……

 

 

 

 その後は龍園がCクラスの担任である坂上先生への打ち合わせの仕方や生徒会への手続きの方法などをCクラスの面々に解説していった。

 とはいっても計画自体には変更はないようで、最終確認といった感じであった。

 

 龍園は見た目の雰囲気とは違い、このように事前練習や確認を欠かさないタイプのようだ。あえて言葉にするならば「計画的な努力家」という感じだ。うん、まったくイメージに合わない。

 今回の事件でも事前に石崎たち3人へ須藤への絡み方、対峙の仕方などを教えていた。ちなみにその時の須藤役は山田だった。須藤はそこまで威圧感ないだろ、とは思った。

 




2巻相当の話がスタートとなります。

よろしくお願いします。

今回はアニメ版にあった龍園が石崎にジュースをかける話です。


また、クラスポイントは1巻時点で赤石が平田に対して勉強会を促したため、結果的に勉強会の頻度と質が上がり、それにつられて堀北勉強会も頑張ったため、Dクラスの成績全体が上がり、原作87ポイントから95ポイントに変わっています。

席順はアニメ版の方にしました(原作では佐倉は須藤より前の席です)

他クラスのクラスポイントに関しては7巻の12月1日から逆算すると丁度アニメ版の特別試験の可算分と船上試験開始前が一致するため、クラスポイントもアニメ版に準拠します。

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