実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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櫛田グループ チャプター1

 えーと、7月3日。

 なんか大変な事になった。

 

 昨日のハッキングで夏に行われる特別試験が判明した。絶望しかなかった。

 

 試験は2つ。1つは無人島試験。そしてもう1つは船上試験だ。

 

 船上試験の方は概要しか見ていないが大変心が躍る試験だった。あとで詳細を確認し、今後に備えておきたい。

 しかし、問題は無人島試験だ。この試験では1週間の間、無人島で過ごすらしい。ちなみに持ち込みは禁止だ。クラス単位で試験専用のポイントを使い物資をやりくりしていくというものだ。

 おいおいおいおいおい、俺死んだわ。いや、ネットワークに1週間接続禁止とかありえねーよ。そんなんじゃ、俺はただの無能じゃん。何の役にもたたねーよ。山内2号だよ。やべぇよ……やべぇよ……

 

 ホント、マジでどうする?もう夏休みが鬱なんだけど。普通逆じゃない?

 

 はぁ……、どうしよう……

 

 

 

***

 

 

 

 昨日の夜から鬱だったが、朝になりもう一度絶望したあと、学校に登校した。

 

 教室に入ると、まだホームルームまで時間があるにも関わらず、人が中央に集まっていた。見ると軽井沢軍団と、あと意外な事に池と山内がその集団に入っていたことだ。あの2人と軽井沢軍団は相性が悪いと思っていたが、池が中核となって篠原や市橋と会話していた。中には櫛田の姿もあったが……いったい何を雑談しているのだろうか?と、言うよりこの不思議な集団は何をもって構成されたんだ……?

 まあ、いいや、というか、なんか本当にどうでもいいや。やる気が起きない。無人島試験とか考えた奴は頭おかしいだろ。せめて端末は所持可能にしろよ。そしたら何とかなったかもしれないのに……

 頭の中で不満を抑え込みながらも、席に着く。しばらくすると、茶柱先生がやってきて、うきうきしながらクラスの真ん中で集まっている不思議な集団に声をかけていた。不思議な集団の注目を集めた先生は2000万ポイントで好きなクラスに編入できる権利の話を得意げに語っていた。いや、それは言わなくていいよ。

 

 

 

 鬱々とした気持ちで授業を受け、そして昼休みとなった。

 

――あ、というか今日、昼飯を作ってない。あとパンも買ってない。駄目だ。何もかも鬱だ。今日は早退しようかな……

 

 そんな事を無為に考えてると、声をかけられた。

 

「赤石君、今日は学食だったりする?」

 

 顔を上げて声の方向を見ると、櫛田が人の()さそうな笑顔を浮かべていた。

 

「ええっと、そうですね。昼飯を作り忘れてしまったので、そうしようかと思っています」

 

 正直、今は櫛田と話す気分ではないのだが……いや、別に櫛田と話す気分の日などないか。

 

「そうなの?それならお昼ご飯一緒にどうかな……?」

 

 ……もう、どうでもいいや。どうでもいいから、誰か無人島試験をこの世から抹消してくれないかな……

 

「ええ、喜んで。でも、珍しいですね。櫛田さんはよくお弁当を作ってきていたと思いましたが」

 

「あはは、実はみーちゃんが学食に行ってみたかったみたいだったから……みーちゃんも一緒だけど、いいよね?」

 

 ……どうでも、いや、よくないよ。みーちゃん、じゃなくて王は駄目だよ。あいつ最近俺にマウント取ろうとしてくるから、きっと佐倉二世目指してるみたいだから、駄目だよ。

 

「ええっと、大丈夫ですよ。ということは俺と櫛田さんと王さんの3人でということでしょうか?」

 

 井の頭を呼ぶのだ。

 

「あと、心ちゃんも呼ぼうと思ってるけど駄目かな?」

 

 駄目じゃない。呼べ。というより、なんで王の時は『いいよね?』という同調圧力だったのに、井の頭は『駄目かな』という疑問形なのか……

 

「いえ、そんなことはありませんよ。井の頭さんとは中間試験の勉強会以来ですから、久しぶりな気分です」

 

 俺がそう言うと、櫛田は何時もの人好きな笑みを浮かべて、井の頭を呼びに行った。その後、なぜか、教室の外でスタンバイしていた王と合流し、学食を目指した。

 

 

 

***

 

 

 

 学食に着くと、少し混雑していた。そのため櫛田が席を確保し、その代わりに櫛田の分の食券の購入することになった。ちなみに当然櫛田の分は櫛田が出した。当たり前だ。俺は絶対に奢らない!あと、櫛田の今日の気分はうどんらしい。

 

 井の頭は定食を狙っているようなので、俺も一緒に定食コーナーに向かう事にする。幸い、王はラーメン狙いらしいので、櫛田の分を任せられる。

 

「王さん、櫛田さんの分のお願いできますか?」

 

 言いながら、王に櫛田の食券を渡す。うどんは任せた。

 

「え!あの、あのね、……赤石君も麺類にしない?」

 

 なんで、お前に食べるものを指定されなきゃならねーんだよ。……あ、マズイ、今日は本当に心が荒んでいる。何時も以上に沸点が低い。というより、王はそんなに櫛田の分を持ちたくないのか……

 

「ええっと、今日は定食の気分なので、……櫛田さんの分は定食を取ってきてからにしますね」

 

 仕方ないので、櫛田の分を後回しにする。食券を回収し、王の元から離れ、井の頭を追う。というより、井の頭は王が俺に絡んでいる隙に離脱していたようだ。友よ、裏切りじゃぞ。

 

「……?赤石君、定食にするんですか?王さ……、美雨ちゃんと一緒だと思ってました」

 

 合流した井の頭の第一声だ。キョトンとした顔だが、いやいや、騙されないぞ。というより、今、王さんって言いかけたね……

 

「ええ、定食にしようと思ったので、終わったら櫛田さんの分も手に入れようと思います」

 

 周りに生徒が沢山いるため、普段用の口調で答えた。井の頭は俺の手にある「うどん」の食券を見て少し笑っていた。やっぱりおかしいよね。ここは麺類にいる王が頑張るところだよね。

 井の頭は魚定食を選んだようだ。それは結構美味かったぞ、友よ。

 

「井の頭さんは魚定食ですか。それは結構良かったですよ」

 

 俺の声を聞くと、井の頭は瞬きをして不思議そうに俺を見た。ん?なんか変な事言った?

 

「えっと、赤石君。魚定食を食べた……ううん、赤石君、魚定食を買ったんですか?」

 

 え、いや、俺って魚苦手なイメージがあるのか……んん?あー、いや、そうだ、魚定食は俺は買ってない。奢ってもらったんだ。

 

「あー、何て言ったらいいのか……魚定食は食べましたよ。ただ、奢ってもらったので買ってはいません」

 

 俺が言い淀むと、井の頭は素早く追及してきた。

 

「誰に奢ってもらったんですか?」

 

 ……?なんか、いつもと井の頭の雰囲気が違う。作った丁寧語というだけではない、少し冷たい雰囲気だ。

 

「まあ、知り合いに」

 

 友達ではない。名前は言わない。なんか言ったら出現しそうだからだ。名前を言ってはいけない本の人だ。龍園、元気かな……

 

「そうですか」

 

 あれ?なんか冷たい。なんで……?

 いや、まあ、井の頭と組んでいる事は秘密にするべきだから、これが正しいのだろう。たぶん井の頭は俺に不用意に接触を控えるようにと伝えたいのだ。

 やはり井の頭の方が演技力は一枚上のようだ。わかったぞ、友よ。

 

 

 仕方ないので井の頭との話は一回打ち切り、比較的安価な野菜炒めの定食を購入し、麺類コーナーへと向かった。最後まで井の頭とは険悪な雰囲気を演じてきた。お互いの演技力を磨きあったといったところだ。

 

 麺類コーナーでうどんの食券を…………おい、王、お前なんでまだ麺類コーナーに居るんだよ。というより、ラーメンはどうした。

 王はこちらに気づくと小さく手を振った。来いってこと?嫌だったので、小さく手を振り返すにとどめた。

 しかし、王は何を考えたのかさらに強く手を振ってきた。やめろ馬鹿、目立つだろ。

 色々と面倒になってきたので王の方へと向かう。王はなんか嬉しそうな顔だ。コイツめ……いや、駄目だ。悔しがってはいけない。悔しがったら、きっと渾身のドヤ顔を放ってくる。それだけは阻止せねば……

 王の思考を分析しながら近くによると、王がこちらを上目遣いで見てきた。おい、それは椎名、じゃなくて、名前を言ってはいけない本の人を思い出すからやめろ。

 

「あの、赤石君、その、私、学食初めてだから……教えて」

 

 やだ。ラーメンの入手方法くらい、分かれ。勉強会じゃないんだぞ。

 というより、王は結構イイ性格してるな。櫛田は待ってるのに……王が初めてであることを櫛田に伝えておけば、王が席取りをして櫛田が王の分を買うということも出来たのに……いや、まあ、待つのは櫛田だから別にいいんだけど。

 

「ええっと、トレイや箸やレンゲを用意して、それから食券を見せて、作ってもらったものを貰う形です」

 

 それ以外無いだろ……

 

「う、うん。わかった」

 

 そう言うと、王は指示通りに必要なものを用意していった。俺も王の後に続き櫛田の分を用意する。一味とか大量に入れた方がいいのかな?

 

「あ、あのね。赤石君。やっぱり、赤石君の点数を考えると、英語を私が教えるほうがいいと思うの」

 

 麺類の列に並んでいると、王が下劣な策を仕掛けてきた。どうやら、どうしても俺に対してマウントからのドヤ顔コンボを決めたいらしい。

 

「それで、その代わり、赤石君が私に数学を教えてくれたら、丁度いいと思うんだけど……どう、かな?」

 

 俺に何のメリットも無いんですが……もしかして、数学でマウント取っていいから英語でマウント取らせてという王なりの譲歩なのだろうか。別に俺は王や佐倉と違って人にマウント取る趣味は無いから、それは佐倉と分かち合ってほしい所だ。今度紹介しようか?あ、いや、王の場合は精神的なマウントだが、佐倉は肉体派だからな……やっぱり駄目か。

 

「いえ、その王さんに迷惑はかけられませんし、それに今は須藤君の事を考えた方がいい気がします」

 

 あいつのせいで俺の貴重なポイントが減っている。俺のポイントは何よりも優先されるのだ。須藤を決して許してはいけない。いや、まあ、須藤自体は正当防衛だから仕方ない面もあるんだけどね……

 

「迷惑じゃないよ……それに須藤君は自業自得だから、須藤君のせいで今月もポイントが入らないし……」

 

 いや、今月は入るけど、とは言えないし、どう答えたらいいんだ?適当に須藤は悪いよなーでいいか。よし!須藤の悪口で話を逸らそう。女子は悪口大好きだし、いけるだろ。ちなみに根拠は櫛田にとっての綾小路と堀北、あと井の頭にとっての櫛田と王。

 

「そうですね。こう言っては悪いかもしれませんが、須藤君があのとき退……いえ、すみません。これは言ってはいけない事ですね。どうも俺も、ポイントが入らない事でイライラしてしまってるみたいです」

 

「う、うん。確かに今日の赤石君は少し刺々しいかも……」

 

 え、まさかの俺の悪口!……なんでコイツは何時も俺には微妙に強気なんだ。マウント少女の佐倉でもここまで言わないぞ。王は新たなマウント少女に昇格だな。佐倉は降格だ。佐倉よ、もっと精進しなさい。いや、逆だ。王よ、お前はもっと大人しくしてなさい。

 しかし、目の前で悪口を言われたらなんて返せばいいんだ?笑ってみるか……

 

「クク、…………王さん、その、すみません」

 

 間違えて龍園の笑い方を出してしまった。ちょっとカリスマ演説聞き過ぎたな……しかし、王は渾身の龍園の笑い方をスルーした。名前を言ってはいけない本の人とは笑いのツボが違うのか……?

 

 

 若干空気が気まずくなった後、王はなんとかラーメンを貰っていた。トレイに乗せた時に、なぜかこちらをドヤ顔で見てきた。マジで止めろ。

 俺も櫛田の分のうどんを入手。それとなく適当にトッピングしておく。一味は少しだけにしておいた。大量に入れても良かったのだが、櫛田はたまに不安定モードになったりしたら、ちょっと怖いので止めておいた。いや、まあ今日は安定しているから大丈夫だと思うが……前回は王の前でいきなり不安定になったのだ。王がいる以上、危険な橋は渡らない方がいい。

 …………今日の俺は本当にやばいな。王がいなくても危険な橋は渡らない方がいいのだ。というより石橋は叩いても渡らないのがベストだ。それなのに、なんで櫛田のうどんに一味混入とか考えてるんだ……やはり、無人島試験を排除しなければ俺の心は荒む一方だ。

 思い返してみると、今日の自分の振る舞いは少し変だ。井の頭もそれに気づいていたから、あんな態度を取ったのだろう……なんとか、表面上だけでも心を静めなければ。

 

 しかし、考えても考えても無人島には行きたくない。俺だけ休めないだろうか?体調不良みたいな感じで……とりあえず、帰ったら無人島試験のルールを読み返すか……やだなぁ……

 

 

 王と一緒に櫛田が取った席に向かうと、既に井の頭は合流していた。席はどちらかというと端よりで周囲からは見えにくい。静かな席といった感じだ。よくやった櫛田!良い席だ。

 

「櫛田さん。席取りありがとうございます。どうぞ」

 

 うどんを櫛田に渡す。櫛田はうどんを見て、そして俺のもう1つのトレイの中にある野菜炒め定食を見て不思議そうな顔をした。だよね!やっぱり王がやるべきだよね。初めて櫛田と気が合ったと思う。

 

「赤石君は野菜炒め定食が好きなの?」

 

 そっちじゃねぇよ。というより、あれだ。王と櫛田は何か変に間を外してないか?わざとやってるだろ。

 

「ええっと、まあ、嫌いではないですね」

 

 そう言うと、なぜか櫛田を目を輝かせた。

 

「そうなんだー、それなら、もしかして山菜定食も食べた事あったりする?」

 

 ないよ。

 

「いえ、まだありませんね。何時かお世話になる可能性を考えると、早いうちにとも思っているのですが……」

 

 結構本音だ。あれは美味しいのだろうか?不味いみたいな噂をよく聞くが……

 櫛田は俺の回答に納得したのか1度頷いた後、席についた。俺と王も席につき、さっそく食べ始める。しばらくの間、女子3人が喋っていたが、空気と同化しながら野菜を処理していく。しかし、半分程度食べた所で櫛田がこっちに話題を提供してきた。しなくていいよ。

 

「そういえば、赤石君は中間試験どんな感じだった?」

 

 今、食べてる途中です。あとお前もうどんを食え。伸びるぞ。

 

「あ、あの赤石君は英語が82点で……」

 

 王はどんだけ俺の英語の点数がツボに入ったんだよ。どう考えても龍園の笑い方の方が面白いだろ。あと、お前ラーメンだから、うどん以上に伸びるぞ。早く食べろ。

 

「そうだったんだ。ちょっと意外かなー。赤石君って何でもできるイメージあったけど得意不得意もあるんだね」

 

 うどん食え。

 

「ええ、まあ、色々ありまして」

 

 野菜炒めを食べろ。ふと井の頭を見ると魚定食を熱心に食べていた。俺も井の頭を見倣い、手元にある野菜炒めを口に運んでいく。

 

「みーちゃんは英語は100点だったんだっけ?」

 

 おい、馬鹿。何聞いてんだ。お前が口を開けていいのはうどんを食べる時だけだよ。

 王は櫛田の質問を聞くと、渾身のドヤ顔を放ってきた。やめろ。

 

「うん!……桔梗ちゃんは何点だった……?」

 

 まさかの櫛田へのマウント取り。いいぞー、戦え、戦えー。

 

「90点だったよ。赤石君より8点、上かな」

 

 俺の点数を基点にするな。あと、90点とか佐倉より下じゃん。佐倉助けて!こいつらからマウント取って!

 

「いや、まあ。櫛田さんや王さんには勝てませんよ。というより、これなら勉強会の時は俺じゃなくて王さんが教師役をやってもらった方が良かったかもしれませんね。……櫛田さん、期末試験は勉強会を開くんですか?」

 

「うーん。どうだろう。平田君は開くと思うから、私も参加しようと思ってるけど……」

 

「それなら、次は平田君と櫛田さんと王さんの3人で教師役をやると良いと思います」

 

 俺はもうやらん。というより、井の頭も外村も大丈夫だから、もういいや。ちらりと井の頭を見るともう魚定食を食べ終えていた。速い!

 

「え!あの、私は教えるのはちょっと……」

 

 いや……さっき教えるとか言ってたじゃん……あと、ラーメン伸びてるけど大丈夫?

 

「確かに、みーちゃんが教師役は向いてる気がするけど、……でもみーちゃんが大変そうなら無理やりは頼めないかな」

 

 俺からチェックシートを奪ったヤツが何か言ってるぞ。まあいい……最後の野菜屑を食べ終え、無事完食。順位は2位。やはり王と櫛田ごときでは俺と井の頭のタッグには勝てんようだな……

 ちなみに麺類の2人はまだ半分に至っていない。櫛田はうどんだから何とかなるが、王のラーメンはもう食べたくない感じにふやけてるぞ……

 

「だから、期末試験も赤石君にお願いできないかな?」

 

 やだ。

 

「どうでしょう……?最近授業も難しくなってるので、教える側に回れるかどうか心配ですし……なかなか難しいと思います」

 

 まあ、どうせ平田が打診してきそうではあるが……うーん、そろそろ平田との付き合い方を変えるか?……いや、無人島試験はおそらく俺は雑魚となる。それに平田、いや軽井沢か?軽井沢が保有する戦闘集団はちょっと怖い。平田と櫛田に今のうちの媚を売っておいた方が得策か……ぐぬぬ、まあ、教師役は前と同じ方式ならそこまで目立たないし……平田、櫛田!無人島試験が終わったら覚えておけよ!

 

「そっか、……でももし、できたら皆に教えてくれると嬉しいな……」

 

 櫛田は最後にこちらを上目遣いで見てきた。うどん食え。

 

 

 

 それから何度か雑談を挟んだ後、櫛田はうどんを食べきった。一方、王は涙目になりながらラーメンの完食を断念した。3位櫛田、王は失格だ。

 全員が完食してからも――間違えた、1人を除き完食してからも、すぐにはクラスに戻らなかった。まだまだ話をしたいようだ。井の頭と王と櫛田の3人が喋っているのを見ながら、無人島試験について考える。……やっぱやだ。無人島試験は考えたくない。

 

 そう思っていると、櫛田が皆に野菜は好きか?という謎の問を発した。普通かな。ちなみに櫛田は好きで、井の頭は好きよりの普通、王は普通寄りの嫌いらしい。しかし、櫛田としては皆の好みの把握よりも、提案したい重大な議題があったようだ。もう帰りたい。

 

「そっか、……それなら、今度皆で山菜定食、食べない?どうかな?」

 

 櫛田は3人の菜食主義者度合いを確認するとそう言ってのけた。王はさっき嫌いって言ったんだけど……

 

「う、うん。山菜定食は美味しく無さそうだけど……いつか食べるなら、……早いうちに皆で食べた方がいいよね」

 

 王は何を考えたのか櫛田に同意した。そんな事を言うのなら、そこに残ってるラーメンの上にある小松菜を食べろ。あと、山菜定食を食べても俺にマウントは取れないしドヤ顔もできないぞ。俺は王に抗議の視線を送るが、何を思ったのか王はこくんと頷くだけだった。いや、小松菜を食べろ。

 こうなれば最後の手段。やはり信じられるのは親友だ。井の頭、任せたぞ!

 

「えっと、桔梗ちゃん。あの、私は大丈夫だけど、……赤石君は忙しくないですか?」

 

 ちょ、ちょ待って、なんでそこでキラーパス?断れってことだよね?頑張るよ、俺。

 しかし、俺の決意をよそに櫛田がこちらを見て口を開いた。

 

「赤石君は何時もお昼は教室だから、いいよね?」

 

 よくないよ。……恐ろしいことに、本日二回目の同調圧力だ。櫛田の笑顔に曇りが無いように見えるため不安定モードでは無いと信じたいが……やっぱ、櫛田と王の2人が揃うと駄目だな。

 

「ええっと、実は……明日はやる事があるので……すみません」

 

 適当に言い訳作って有耶無耶にしてしまおう。

 

「なら、須藤君の一件が終わってからなら大丈夫かな?」

 

 どんだけ、山菜定食を食べたいんだよ……そんなに好きなら「うどん」じゃなくて山菜食べろよ。

 このままでは、なし崩し的にまた櫛田と王と一緒にお昼ご飯を食べることになってしまう。どのように回避するかを悩んでいたが……駄目だ打開策が思いつかない。

 

「そうですね。須藤君の冤罪を晴らしたら、その記念としていいかもしれませんね。山菜定食が記念というのは少し可笑しな気もしますが……」

 

 俺の回答を聞くと櫛田は笑顔で頷いた。ちらりと王の方を見ると、にんまり顔だ。なんかムカつく。一方井の頭は安定のポーカーフェイスだ。流石じゃ。でもキラーパスは投げないで……

 

 

 

***

 

 

 

 昼休みが終わると、流れるように午後の授業もまた終わった。放課後になると、櫛田が再び綾小路の方に近寄っていったのが見えた。昨日と同じ流れだ。ここは危険だ。俺は平田に声を掛けられる前に素早く教室を離脱した。あんな怖い戦闘集団と一緒に居られるか!俺は寮に戻るぞ!

 

 

 

 無事、寮に戻りパソコンを開く。本当は調べたくなかったが特別試験の詳細の把握を行う事にした。あー、無人島行きたくないなー。

 ……鬱々とした気持ちを何とか振り払いつつ、ハッキングを行う。1分もしないうちに内部に侵入し、機密情報を抜き取っていく。本来であれば、試験が始まる直前にようやく生徒が知ることができるルールが、次々と表示されていく。

 

 ルールや日程を纏めると以下のようになった。

・無人島試験の期間は8月1日から7日の午前まで。船上で3日間の休憩を挟んだ後、8月10日の午後から14日の夜まで船上試験が開催される。おおよそ2週間の日程となっている。

・無人島試験はジャージで行動し、何かを持ち込むことは禁止される。身体検査もあるらしい。

・無人島試験では各クラスに試験専用ポイントを300ポイント支給する。このポイントを効率良く使うことでクラスを1週間生存させるのが主な目的となる。

・たとえばポイントでは食料や飲料の他に、釣り道具やテント、仮設トイレなどを購入できる。

・そして、この試験専用ポイントが試験終了時に余った場合は、その値だけ2学期からのクラスポイントに加算される。

・また、各クラスは1人のリーダーを選定し、選定したリーダーが持つカードキーを使用することでスポットと呼ばれる空間を占有することができる。

・占有スポットはそのクラスが使う空間のようなもので、他のクラスが使用するのは基本的にはいけないらしい。勝手に使用すると試験専用ポイントが50ポイント減点される。

・占有スポットは8時間で占有が解除される。

・占有スポットを1度占領すると1ポイントのボーナスポイントを得る。つまり理論上、1日張り付けば1つの占有スポットにつき3ポイントを得る事ができる。

・ただし、欠席者や途中離脱者、定時の点呼に不在者がいるとポイントは減点される。

・そして最後のクソルールとしては、試験終了直前にリーダー当て大会を行い、他のクラスのリーダを予想する。当てることに成功した場合は1クラスにつきポイントとして、50ポイントを得る。ただし失敗した場合は50ポイント減点となる。ちなみにリーダー当て大会に参加するのは自由。1クラスだけ当ててみるというのも可能。

・なお、この際リーダーを当てられたクラスは50点減点された上、ボーナスポイントが無効になるらしい。

 

 うん、迷うことなき、クソ試験だ。特に電子機器持ち込み禁止が有り得ない。持ち込み可能なら、俺が一方的にリーダーを当てるという、結構面白い試験だったんだが……休みたいけど、休んだら減点されてしまうため、2学期から総スカンが予想される。ぐぬぬ。

 

 一方船上試験はただのボーナスゲームだった。詳しくは省くが、この試験では犯人当てゲームのような事をするのだが……なんと、犯人リストを入手したのだ。俺は試験が始まる前から全ての犯人が判明したのだ。リストの中身はまだ詳しくは見ていないが、もうこの試験は余裕と考えていいだろう。一応、7月の中頃から立ち振る舞いを研究するつもりだが、今は無人島試験について考えよう。

 

 

 おそらく考えることは2つだ。

 

 1つ目はリーダー当て大会というクソゲームをいかにして乗り越えるかだ。

 このルールは本来は試験開始時に発表される。つまり、リーダーが決まるのは試験が始まってからだ。故に俺の端末はもう没収されており、誰がリーダーかは分からない。もちろんリーダー当てに参加しないという手もある。というより十中八九こちらの司令塔は平田である以上、安定を好む彼がリーダー当てに参加するとは考えにくい。

 よってリーダーを如何にして当てられないかという事に焦点を置くことになるだろう。こちらのリーダーを平田にするのはすぐにバレそうだから目立たないやつ……外村あたりだろうか?その辺をリーダーにするのが良いような気がするが……いや、まあそのあたりは平田や櫛田が上手く考えてくれるだろう。あの2人は俺より遥かに思考が深い。きっと何とかしてくれるだろう……

 もし綾小路にやる気があれば、発想力がある彼がDクラスのリーダーを決めるというのが防衛には結構良いかもしれないな。まあ、力を隠したがっている彼がクラスに貢献するとは思えないが……

 

 2つ目は、そもそも俺が無人島で生活できるのか、という点だ。水や食料、テントなど必要なものは多岐に渡るが、この試験の性質上、Dクラスの面々は出来る限り節約したくなるはずだ。もちろん、俺だって節約したい。ただ、それで飢餓を味わいたくはない……なんとか快適に過ごせないだろうか……?

 やはり平田や櫛田への媚売りは大事だ。クラスの中核をなす2人に良いように思われていれば、そう悪い仕事は任されないと思う。たぶん。須藤の1件をもう少し協力的に振舞った方がいいだろうか……?おそらく、今後生徒会が出てきた時の平田と櫛田が弁護の席に着く。その時に俺が撮影したフィルムを……いや、やはり直接は嫌だ。それでは本末転倒だ。目立たない方向でいきたい。

 櫛田が学年全体にアンテナを広げてから、それとなく匿名でコンタクトを取ろう。そして櫛田から有り金を頂こう。情報提供料だ。彼女の性格上、嫌とは言わないはずだ。5000ポイントぐらいなら出してくれるだろう……

 

 

 根本的な問題として、人間関係だけでは何とかなりそうにない。俺だけが上手く振舞っても、色々と問題のあるDクラスでは閉鎖的な無人島で何時何処で問題が発生するかはわからない。もっと別の、何かが欲しい。ハッキングで俺は常に情報というアドバンテージを得てきた。しかし、俺は無人島試験ではただの無力な山内2号となり下がる…………いや、今、俺は山内より僅かにリードしている点がある。この情報だ。山内はまだ無人島試験を知らない。この有益な情報は俺以外は誰も知らない……ん?ちょっと、待て、確か、そう、佐倉だ。アイツが乱入してきた勉強会の日。その日に橋本が持っていた本、あれは確か……

 気になり、坂柳の過去の通信履歴を漁る。見ると坂柳は橋本にサバイバル訓練をしているように指示していた。偶然か?それともサバイバル試験を予期したか?一応、過去数年はこの無人島試験は行われている。先輩から聞き込み調査をして推測したか……

 どちらにしろサバイバルガイドを今のうちに読んでおくか……?橋本の2番煎じだが悪い案でもない気がする……いや、2番煎じではない。俺ならば橋本とは違いルールを知っている分効率良く――

 

 

………………あ、

 

 

 今、閃いた。あ、いや、まって、これって、理論上可能?

 

 逸る気持ちを抑えながら、パソコンを操作し、あるシステムにアクセスする。この学校ではなく、国際的な、国家機密に近いシステムだ。

 

 流石に少し時間がかかったが……アクセスに成功した。そして目的のモノを見つけることができた。モノをパソコンに落とし、今度はそれに画像処理を行う。ついでにネットワーク上から植生分類表と海流データ、気象データなどあらゆるものを抜き取り、プログラム上で加工・合成していく。

 

 様々なデータを統合して……ついに完成した。

 

「やばい、俺、もしかしたら天才かもしれない……」

 

 目の前にある地図を見る。

 

――この地図は試験が行われる無人島の3Dマップだ。地図には標高や川のデータ、気象情報、植生、人工的な栽培物、木々や岩場の1つ1つが書き込まれ、本物を忠実に再現している。

 

 俺が最初にハッキングしたのは某大国の人工衛星のデータだ。無人島といっても人工衛星の目には写っている。人工衛星が捉えた画像を詳細に分析し、地形や植生を導いた。さらには数々の人工的な施設や栽培物の発見にも成功した。最後に周囲の気象・海流データを入力し、試験日の大まかな天候の予測も書かれている。

 

「このデータと、データ上の食べれるもの、飲めるものを覚えれば……ハッキングできない俺でもいけるだろ」

 

 

 山内の無能さ、坂柳の有能さ、そして何より橋本の勤勉さが俺を正解へと導いてくれた。ありがとな、みんな!

 この試験の正解は、小狡い攻略本作戦だ。間違いない。

 

 

***

 

 

 最高の作戦を考えた後、放置していた学生証端末を見ると、大量の通知があった。不在着信が櫛田から5件、平田から2件だ。他にも2人からメッセージが届いている。あかん。攻略本作りに熱中してて気づかなかった。一応、中身を見てみたが、平田の方は櫛田に連絡してくれという内容で、櫛田の方のメッセージは長かったが……要約すると、佐倉さんと仲が良いかという質問だった。いや、良くないよ。

 メッセージを櫛田に飛ばすと、端末に電話がかかってきた。当然櫛田だ。出たくないなー。しかし、これで出ないのは明らかにおかしいので出ることにする。

 

「もしもし、赤石です」

 

『あ!良かった。やっと繋がったよ。ええっと、須藤君待って、どうしよう?綾小路君……え?いいの?ええっと、堀北さん!?』

 

 なんか、受話器の先が揉めている。切っていい?

 

『赤石君、少し聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?』

 

 なんで、櫛田の端末から堀北の声が聞こえるんですかねぇ。

 

「ええっと?堀北さん?あの櫛田さんからの電話だったと思うんですが……」

 

『赤石君、貴方は佐倉さんと仲が良い?イエスかノーで答えなさい』

 

 ノー。

 

「ノーです。普通です」

 

『そう、ありがとう。どうやら誤報だったようね。皆、見栄っ張りの綾小路君の勘違いよ。赤石君はやっぱり使えなかったわ』

 

 どうも、後半の部分は櫛田の端末の近くにいる人たちに対して言ったようだ。あとこっちの質問には答える気が無いとか堀北は流石すぎる。高円寺と並び非コミュの双璧は2人の永久称号だろう。

 

『えっと、そのごめんね赤石君。もう大丈夫。突然連絡して本当にごめんね。みんなちょっと焦ってて』

 

 なんとか櫛田が端末を取り返したようだ。別にいいけど、もうどんな事があっても連絡してきちゃ駄目だよ。

 

「あ、いえ、大丈夫です。だいぶお忙しいようですね」

 

『うん。ちょっと揉めててね。堀北さんの質問に答えてくれてありがとう。赤石君。また明日、学校で』

 

「ええ、また明日」

 

 そう言って電話を切った。一体、何やってるんだ櫛田たちは……?

 

 




アニメ版では佐倉と櫛田の英語の点数は90点で同じですが、この二次創作では赤石勉強会によりちょっとだけ佐倉が有利になっています。
綾小路が原作の会談のシーンで赤石をネタに頑張って演説をしたので堀北の綾小路の部屋での滞在時間が伸びています。
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