高度育成高等学校に入学するに渡って必要なことはいくつかあった。1つは試験を通る成績。この高度育成高等学校は入試のみで採点を行うため中学時代の成績は体育以外はあまり考慮されない。そのため入試の結果が重要になる。
ハッキングしたため今年の入試は簡単に突破できるのだが、ここで思わぬ問題があった。それはこの高度育成高等学校はふつうの秀才を求めていない可能性がある点だ。
どうも過去に好成績でも落ちた生徒が何人かいる一方、ほとんど取り柄を持たない生徒が合格しているのである。
細かく調べると難しかったが、優秀枠・普通枠・異才枠・劣等枠があるように感じられた。普通枠と劣等枠はランダムか、もしくは面接に合格を一任しており、ある意味非常に合格が難しいようだ。
一方優秀枠も一定以上は取らないようで、優秀な生徒が多い年は一部がおそらくランダムで切られていた。しかし異才枠は珍しいようで、歴代の異才枠は確実に合格できていた。そこで狙うとしたら異才枠であるが……
「どうすればいいんだ……」
テストの解答はある。暗記し、対策して解法を覚えれば確実に満点を取れるだろう。しかし異才であることのアピールにはならない気がする。
異才、異才、異才……すべてのテストで50点を取るというのは異才になるだろうか。いや、やったとしても気づいて貰えないかもしれない……
悩みに悩んだ結果、ありきたりだが記憶に残りやすい方法を考えた。それは……
「名付けて、【難しい問題をすべて完答して、簡単な問題を単純ミスして70点くらい作戦】だ!」
テストの解答を完全に入手している自分としては比較的に簡単に実行できる。この作戦でとりあえずは決まりだ。
入学に必要な事項の2つ目としては面接がある。どうやら高度育成高等学校は生徒にランク付けをしており、学力・知性・判断力・身体能力・協調性を判定するようだ。
学力は入試結果から判定され、知性は入試結果と面接、判断力は面接、身体能力は中学校時代の体育の成績や大会の実績、そして協調性は面接と中学時代の教師の評価などによるらしい。
これらの能力が高いと上のクラスに配属されやすくなるようだが、諸事情により配属されるクラスが能力に合わないこともあるようである。ここまで考えてふと思った、
――目標点はどこにしようか?
単純に卒業時にAクラスとするべきだろうか。それとも入学から卒業までAクラスを維持にするべきか。いや、自身の能力である「手順」を考えると……
「目標点はAクラス以外に所属して、誰も達成していない2000万ポイントの権利の使用だな」
それに異才枠との兼ね合いも考えると最初からAクラスは難しいだろう。ということは面談はほどほどにこなしつつ、そこそこのクラスに配属でいいか……
とりあえず、入学対策は一通り考えた。次にやるべきことは、自身の能力である「手順」と入学後の準備である。「手順」はおそらく実力至上主義の学校においては切り札的な存在になるだろう。これを安定させて使用できるようになれば、かなり優位にたてる。その為に5か月間でこの「手順」を完璧に制御できるようになるべきだろう。
そして入学後の準備としては、高度育成高等学校のルールの把握だろう。情報端末を使用し様々なやり取りを行う高校らしい。その点も踏まえて学校の内部を探索するべきだろう。ちょうど「手順」の練習にもなるし、一石二鳥である
「さて、調べますか!」
頭の中ではっきりと強く高度育成高等学校の情報を求めると、脳内で踊る「手順」に導かれ、情報の読み取りを行った。
***
情報を読み取り数週間が経過した。夏休みの中、親に怪しまれないためにも、最低限の知識を掴むためにも勉強をこなしながら、空き時間を見つけては高度育成高等学校のデータベースをハッキングしていった。
「手順」に関しては思ったよりは制御が簡単であり、10日程度で精密に制御できるようになった。某大国の白い家に侵入できた時はガッツポーズをすると同時に、まるでテロリストみたいだと思って意気消沈した。ちなみに侵入経路はすでに削除したので、別に大国に狙われるとかそういったことはなかった。
また高度育成高等学校のSシステムの概略については、ほとんどの事柄が判明した。ただ、ポイントによって購入できるものがあまりにも多すぎるため、これは全ては覚えるのは難しい。おそらく入学後にもアクセス可能であるため、必要になったら調べるスタイルで良いだろう。
こうして少しずつ「手順」をマスターしていった。よって次の段階に移ることにした。それは、
「クラッキング……やってみるか……?」
クラッキングである。どうやら高度育成高等学校では監視カメラが至る所に仕掛けており、これを使い生徒の監視を行っている。
また故意に監視網を緩めており、一部の場所が監視カメラの死角になっているが、このカメラの情報の書き換えができれば、自分の高度育成高等学校での行動はさらに優位になるだろう。
そこで、近くのコンビニのカメラを操作し、ある時間帯に5分間だけ、人がいないように表示するように変更した。別に万引きがしたいわけではないので、その時間帯にコンビニに行きお菓子を購入して帰宅した。
そしてカメラを確認し、自分が写っていないことを確かめた。またログにも何の異常も表示されていなかった。その後カメラの設定を元に戻し、カメラの情報有効期限(このコンビニでは一定時間の経過で録画データを削除している)である2週間が経過し、再びアクセスしたが、何の異常も発生していなかった。
さらに、このコンビニの親組織も含めカメラの異常や修理履歴、コンビニ内で起きた犯罪状況なども調べたが、誰一人クラッキングには気づいていなかった。
「思ったより簡単だったか……?」
ある程度、慎重に動いたこともあり、成功に終わった。あと数回実験を行えばこの技術はおそらく高度育成高等学校でも通用するだろう。
***
そして12月になった。「手順」に関してはクラッキングを含めて完全にマスターできた。高度育成高等学校の対策も万全であった。もはや恐れるものは無い。
中学校の担任からは真面目な生徒という至極一般的な評価を貰い、入学試験では異才枠を意識し、難しい問題は完答し一般的な問題ではミスを連発し、70点前後全ての教科で達成した。
そして面談でも面接官に質問に対して比較的正直に答えつつ(もちろんハッキング能力に関しては何1つ答えていない)、実直な印象を抱かせた。ただ、面接内容自体はかなりフリーハンドな面があったらしく想定しにくかった質問があり、その答えに時間がかかってしまった事が少し不安だが、おそらく合格したかと思われる。
合格通知を待つのも退屈なためハッキングを敢行すると、無事合格していた。ついでに自身の評価を調べると、興味深いデータが見られた。
氏名:赤石 求(あかいし きゅう)
クラス:1年D組
学力:A-
知性:C
判断力:D
身体能力:C+
協調性:C-
【面接官からのコメント】
入学試験において最上級問題に正解した2人のうちの1人であるが、簡単な問題にミスが多いことから非常にムラがあると思われる。一方、面接時の答え方は比較的良好であり、好印象であった。ただ、想定外の質問に弱く、即席の判断力に欠ける面があった。また積極性に若干欠け、受け身な印象を感じた。前述した異才的な側面を踏まえてDクラスの配属とする。
「ふむ……なんというか、見る目がある面接官というか、ハッキング無しだと弱いな俺は……」
ポリポリと頬をかいて思った事を口にした。最近、独り言が増えていることが悩みだ。
「しかし、なんとも妥当な評価だ。実力至上主義に偽りなしといった感じだなぁ。判断力が低いのは自覚があったがDか、Dはこの学校の判定だと確かかなり悪い方だが……というか俺は実際の学力はCくらいと考えると、ハッキング無しだったら不合格だったな」
いや、異才枠ロールという作戦は成功したし、とりあえずは第一関門突破ということにしよう。
「さて、他の合格者の能力査定でも見ますかね」
せっかくのチャンスである。ライバル達の情報を今のうちに見ておくか……