実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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私はこの別視点をシリアスな感じで作ったのですが、前回の感想を見ると沢山の方々に笑いを提供してしまったようでした。

そのため、もしかしたら、この更新も腹筋に悪い可能性があります。ご注意ください




櫛田桔梗の策謀2-2

 

 私たち3人は赤石君を連れて学食に着いた。

 予想通り、混雑していたため、私は前もってみーちゃんと話した通り席取りを行うことにした。みーちゃんの計画では麺類コーナーに2人で行くという話だったけど、正直失敗すると思う。でも、やる気があるのは良い事だ。

 私としては、みーちゃんには頑張って赤石君を縛ってほしい。私がみーちゃんを、みーちゃんが赤石君のリードを握れば、Dクラスは今のまま壊れないし、それにもしかしたらあの女を排除する時に使えるかもしれない。

 

 赤石君にうどんを頼み席取りを行う。本当は麺類の気分ではなかったけど……

 彼が好きそうな人が少ない席を4人分確保する。それからしばらくすると心ちゃんが魚定食を持って来た。意外な事にみーちゃんは上手くいったみたいだ。

 

 さらに待つと、赤石君とみーちゃんが戻ってきたが、少し様子が変だ。

 

「櫛田さん。席取りありがとうございます。どうぞ」

 

 そう言って、彼はうどんを渡してきたが……彼は野菜炒め定食だった。麺類に誘うのは失敗したのかな……?まあ、みーちゃんの嬉しそうな顔を見ると結果的には一緒に回れたようだ。

 

「赤石君は野菜炒め定食が好きなの?」

 

「ええっと、まあ、嫌いではないですね」

 

「そうなんだー、それなら、もしかして山菜定食も食べた事あったりする?」

 

「いえ、まだありませんね。何時かお世話になる可能性を考えると、早いうちにとも思っているのですが……」

 

 みーちゃんにリードを渡すまでは、こういった適度な雑談は大切だ。私から強く攻めすぎるのは外聞もあるので避けたい。しかし掴んだリードをあまり緩めるのも良くない。バランスが大事だ。

 その後、皆で座って雑談をしながらも食事を取っていく。意外な事にうどんは結構美味しかった。一味の辛さが丁度いい具合だ。赤石君が上手くトッピングしてくれたみたい。こういった気遣いができる点は嫌いじゃない。

 3人で話をしつつ、赤石君の様子を伺う。彼は、こちらの会話を邪魔しないようにしているようだ。普段ならこのままでも良いが、今日はみーちゃんと赤石君の接点を強固にするための日だ。

 

「そういえば、赤石君は中間試験どんな感じだった?」

 

 赤石君がこちらを見るが、それより早くみーちゃんが行動を起こした。

 

「あ、あの赤石君は英語が82点で……」

 

 ちょっと思っていたのは違ったんだけどな。

 私は事前にみーちゃんに赤石君を攻略する方法をいくつか教えておいた。彼は性格は穏やかで落ち着いている。つまりは控えめな性格だ。あまりぐいぐいと女子を引っ張っていくタイプではない。そのため、彼を落とすための第一条件としては、こちらから積極的に行く必要がある。篠原さんのグループとの折衝も考えると、赤石君に早めに名前を書いておくという意味においても有効だ。

 まあ、元からみーちゃんは見た目によらず、思い詰めたら一直線な子だ。平田君相手の時には肝心な時に勇気が出なかったみたいだけれど、赤石君相手なら尻込みすることもないだろう。そういう意味では赤石君と相性は案外悪くないのかもしれない。

 ただ、英語の点数で話を盛り上げようとするセンスはちょっと無い。まあ、多分、得意な勉強でリードを取りたいって事なのかもしれないけど、悪手かな。

 

「そうだったんだ。ちょっと意外かなー。赤石君って何でもできるイメージあったけど得意不得意もあるんだね」

 

 一応持ち上げておく。中間試験の打ち上げで堀北さんを悪く言っていた事を考えると、彼もプライドが無いというわけではない。まあ、Dクラスでは低い方だけど。

 

「ええ、まあ、色々ありまして」

 

 そう言いながら、赤石君は心ちゃんの方を見た。気にしていない風を装っているが、私にはわかった。ふーん、どうも、できなかったのは勉強を教えてたからと言いたいみたい。ただの実力なのにね。こういう節々に垣間見える彼の醜さは私の優越感を満たしてくれる。

 

「みーちゃんは英語は100点だったんだっけ?」

 

 試しに、赤石君の表情を見ながらみーちゃんの点数を言う。中間試験の打ち上げでは2人の間で口論になった所らしい。しかし、あまり不快に思っているようには見えない。流石に100点は無理だと思っているみたいだ。赤石君には90点もきっと無理だよ。

 

「うん!……桔梗ちゃんは何点だった……?」

 

 みーちゃんは知っているはずの私の点を聞いてきた。こういう所は彼女の汚点の1つだ。犬を2匹も飼うのは大変だ。

 

「90点だったよ。赤石君より8点、上かな」

 

 苛立っていたわけではないが、少し突っついてやる。

 

「いや、まあ。櫛田さんや王さんには勝てませんよ。というより、これなら勉強会の時は俺じゃなくて王さんが教師役をやってもらった方が良かったかもしれませんね。……櫛田さん、期末試験は勉強会を開くんですか?」

 

 赤石君は少し笑うと、勉強会の話へと切り替えた。やっぱり私に噛みつく牙は抜けているみたいだ。まあ、そうなるように私が仕向けたんだけどね。

 

「うーん。どうだろう。平田君は開くと思うから、私も参加しようと思ってるけど……」

 

「それなら、次は平田君と櫛田さんと王さんの3人で教師役をやると良いと思います」

 

 そう言いながら赤石君はまた心ちゃんを見た。自分の方が教えるのは上手いと思ってるみたいだね。うん。そうだね。そこだけなら赤石君が一番だよ。でも、赤石君は馬鹿に教えるのが上手いだけだよ。

 ……完全にプライドが無くなるのも良くないし、この点だけはしっかり褒めておく必要がある。飴と鞭というやつだ。

 

「え!あの、私は教えるのはちょっと……」

 

 みーちゃんがそう言うと、赤石君はかすかにみーちゃんの方を見たあと、視線を下へとやった。優越感を感じたのかな?そして、その後、少し悪いと思って下を向いた。あははっ、赤石君は分かりにくいように見えるけど、私の観察眼は誤魔化せないよ。

 

「確かに、みーちゃんが教師役は向いてる気がするけど、……でもみーちゃんが大変そうなら無理やりは頼めないかな」

 

 そう言ってあげると、赤石君は期待するようにこちらを見た。餌を欲しがる犬のようだ。

 

「だから、期末試験も赤石君にお願いできないかな?」

 

 私の声を聞くと、彼は堪えきれず笑み漏らしていた。

 

「どうでしょう……?最近授業も難しくなってるので、教える側に回れるかどうか心配ですし……なかなか難しいと思います」

 

 どうやら、もう少し飴が欲しいようだ。欲張りな犬だ。でも、今は機嫌がいい。

 

「そっか、……でももし、できたら皆に教えてくれると嬉しいな……」

 

 明るさや角度を計算して、しっかりと演出をする。少し本気を出し過ぎたためか、彼の視線は私ではなく、テーブルを見つめていた。赤石君には刺激が強すぎたかな?

 

 

 

 その後、少し雑談を挟んだ。途中で野菜についての話題を振った後、せっかくなので、次の予定を決めることにする。理想は週2回のペースがいい。

 

「そっか、……それなら、今度皆で山菜定食、食べない?どうかな?」

 

 赤石君と心ちゃんは野菜が好きらしい。みーちゃんには頑張ってもらいたいところだ。

 

「う、うん。山菜定食は美味しく無さそうだけど……いつか食べるなら、……早いうちに皆で食べた方がいいよね」

 

 嫌いな食べ物よりも気になる男子を優先させたみたいだ。さすがは一直線なみーちゃんだ。赤石君は少しみーちゃんを見ていた。うん?違う。ラーメンの上の小松菜を見ていた。うん。確かにまず、それを処理した方がいいね。でも、みーちゃんは勘違いをしたみたいで、赤石君に対して頷いていた。

 

「えっと、桔梗ちゃん。あの、私は大丈夫だけど、……赤石君は忙しくないですか?」

 

 心ちゃんは臆病だけれど、怖い事が無ければ基本的に私に同意する。赤石君にはある程度慣れたみたいだ。

 ……でもまだ、赤石君が男の子だからか、心ちゃんの視線に恐怖が含まれているように感じる。2人とも、勉強会で一緒だったのにお互いの事をまったく理解していないみたいで面白い。心ちゃん、赤石君は危険が少ないから大丈夫だよ。赤石君も……あー、駄目だ。心ちゃんはあんまり良い所が無いから紹介できないや。まあ、心ちゃんにわざわざ赤石君の事を説明する気はないけどね。

 赤石君は心ちゃんに話を振られたが、どう答えたらいいか悩んでいるみたいだ。意外と冷たいね。まあ、心ちゃんが相手なら仕方ないけど。

 

「赤石君は何時もお昼は教室だから、いいよね?」

 

 遠慮しがちな所は不快ではないが、今は遠慮しなくていい。

 

「ええっと、実は……明日はやる事があるので……すみません」

 

 本当に申し訳なさそうにしていた。どうやら先約があったみたいだ。篠原さんかな……思ったより彼女も頑張るなぁ。

 

「なら、須藤君の一件が終わってからなら大丈夫かな?」

 

「そうですね。須藤君の冤罪を晴らしたら、その記念としていいかもしれませんね。山菜定食が記念というのは少し可笑しな気もしますが……」

 

 ……次のプランを考えておかないとね。

 

 

――うん!今日も皆で仲良くお昼ご飯を食べれて、嬉しいなっ!

 

 

 

***

 

 

 

 放課後になると、私は再び綾小路君を呼び止め、須藤君の暴力事件の調査を行った。須藤君と赤石君、両方のトラブルを解決するには今頑張る必要がある。須藤君の方は実入りが少ないけど、赤石君の方は将来的な布石にもなる。手は抜けない。

 

 

 私は徒労感を感じながらも放課後の調査を終え、そして、堀北さんを除く皆で綾小路君の部屋に集合することになった。

 

 しばらく無意味に今後の情報収集について話し合っていると、チャイムが鳴った。堀北さんが来たというのは分かった。

 私は、玄関に向かった綾小路君のあとを追い、すぐに帰ろうとする堀北さんを引き留めた。須藤君は堀北さんを見ると感激していた。池君と山内君も少し驚きつつも、歓迎しているように見えた。本当にこの女は…………なんとか、気持ちを抑える。

 

――堀北さんが来てくれて良かった。

 

 それから、堀北さんが何時もの様に皆を見下しながらも講釈を垂れてくれた。彼女が言うには佐倉さんが目撃者のようだ。推測だけではなく、態々昨日のお昼休みに佐倉さんに聞きに行ったそうだ。お昼休みに勝手に会議から抜けたと思っていたが、彼女は独自で調べていたようだ。

 ……気づかなかった。やっぱり、どうやら私は堀北さんよりも下のようだ。いつも考えないようにしていることを彼女は私に見せつけてくる。まるで獲物を嬲る鷹のようだ。ううん、彼女は何時も自然な仕草だ。きっと私がどう思っているのか気にもしていないのだろう。

 

――堀北さんみたいな凄い人が協力してくれれば、すぐに須藤君の冤罪を晴らせるのに……

 

 佐倉さんは私もあまり詳しくは無い。地味な子だが、私に庇護を求めることはしなかった。だから心ちゃんとは違い、守ってやる気はない。彼女とは番号を交換したが、あまり話もできていない。最終的には秘密を握るつもりだが、まあ、軽井沢さんあたりが虐めてから仲裁すれば十分だろう。

 佐倉さんについて、池君たちがまったく記憶に残っていない事を聞いていると、不意に綾小路君が口を開いた。

 

「なあ、櫛田。佐倉は確か赤石と仲が良かったと思ったんだが、違うのか?」

 

 ……?赤石君は中立だ。特定の女子に肩入れしていない。もしかしたら、綾小路君は何か勘違いをしているのかもしれない。ありそうだ。人間関係が乏しい綾小路君なら赤石君の事を平田君のような男子だと誤認してそうな気もする。

 

「うん?どうだったかなー。あんまりお話しているのは見ないけど、でも佐倉さんって元々勉強会では赤石君の班だったから、意外と仲が良いのかも?」

 

 私が答えると、一瞬綾小路君は何かを考えようとして止めた。綾小路君は意外と頭が回る。勿論、人間関係以外でだけど。

 

「赤石君ね……綾小路君は随分彼にご執心ね。そういえば櫛田さんは赤石君と友達だったかしら?」

 

 昼休みの事は知らないと思うけど……堀北さんは鋭いところがある。赤石君の事は不自然にならない程度に隠しておきたい。

 

「うん、友達だよ。綾小路君はもしかして、赤石君と友達になりたいの?」

 

 もしそうなら傑作だ。綾小路君は自身を嫌っている相手と友達になりたいという事になるのだから。

 

「……あ、ああ。……そうだな。結構いい奴だし友達になりたいな」

 

 綾小路君の喋り方はいつもより濁っていた。嫌われている自覚があるのかな。もしかして赤石君は結構嫌いな人には態度が出ちゃうのかな?

 

「綾小路君ならきっとなれるよ。赤石君も綾小路君も良い人だし、きっと相性も良いよ」

 

 まあ、無理だけどね。他人には少し距離を取る赤石君が堀北さんと綾小路君の悪口になった時は随分と饒舌だった。よほど気に入らないのだろう。

 

「2人とも話が逸れてるわよ。赤石君と佐倉さんの話でしょ。まったく……」

 

 呆れたように堀北さんは言った。

 

「そもそも、お前が櫛田と赤石の関係を聞いたのが元だったと思うが……」

 

 綾小路君が小声でつぶやくと、堀北さんは鼻を鳴らして無視を決め込んだ。綾小路君は相手にされていない事に気づくと再び皆に対して口を開いた。

 

「ああ、そうだ。もし堀北の言うように佐倉が目撃者なら聞く必要があると思う。それで、櫛田がさっき言ったように、あまり櫛田との交流が無いなら、交流がありそうな赤石を交渉役にしようと思ったんだが……」

 

「まず、前提として、赤石君と佐倉さんの間に交流があるのかしら?あの2人が話をしているのを見た事はないわ」

 

 私も勉強会以外ではない。たぶん綾小路君の勘違いだと思うけど……

 

「ずっと前に、プールの授業の時、見つめあっていた。赤石は女子と仲が良いし、多分佐倉とも仲が良いと思う」

 

 綾小路君がそう言うと、堀北さんではなく男子3人が反応した。

 

「そういえば、あいつ平田と一緒に軽井沢たちと調査に行ってたんだよな……男子2人に女子沢山。クソ、羨ましい!」

「俺、あいつ、あんまり好きじゃない。なんかスカしてるし、平田の物真似的なことして、ウケてるだけっていうか、大したことないって感じ」

 

 山内君と池君は醜い嫉妬心を出していた。単純で扱いやすいけど、やっぱり馬鹿過ぎると使い道に困るかな。

 

「堀北、一応言っておくけど、俺はちゃんと筋を通すっていうか、まあ、平田や赤石のような軟派なヤツらとは違うからな」

 

 須藤君がまた堀北さんに近づいたが、その分だけ堀北さんは距離を取った。須藤君は使い道次第だと思ってたけど、ここまで堀北さんの事が好きだと使いにくいかな。

 

「馬鹿な事を言ってないで、話を戻すわよ。つまり綾小路君は赤石君が佐倉さんを誑かしているから利用できると言いたいのね」

 

「別にそこまでは言ってはいない。ただ、ここにいるメンバーの中では佐倉相手に櫛田以外では唯一コンタクトを取れそうな相手だと言っている」

 

「はぁ、まあ、いいわ。そんなに言うなら貴方が連絡しなさい」

 

「悪いが、オレは赤石の連絡先を持っていない。櫛田が頼りだ」

 

 そう言って綾小路君はこちらを見た。まあ、綾小路君の人脈だと知らないのは当然か。今日は珍しく、綾小路君の相手をしていてもストレスが溜まらない。

 

「呆れた……結局は櫛田さん頼りなのね」

 

「私は全然いいよ。えっとじゃあ連絡するね」

 

 端末を使い赤石君の番号にかけるが、繋がらなかった。何回か試すも全て駄目だった。やっぱり彼はデジタルが苦手なようだ。一応メッセージを飛ばしておく。

 

「うーん、ごめんね。繋がらないみたい……」

 

 堀北さんは私の言葉を聞くと、いつもの見下したような笑みを浮かべた。

 

「ここはピエロの集まりかしら?」

 

「何もしてないお前が言うな」

 

「私は無駄な努力をしている貴方達の代わりに情報を届けただけで、愚かな真似は一切していないわ。第一、赤石君に頼るのはあまり有用とは思えないわね」

 

 綾小路君と話せて、堀北さんは何時もより饒舌だ。やはり彼にはある程度心を開いてるようだ。

 

「そうかな……赤石君は頼りになるよ」

 

 今回の件に関しては赤石君が頼れないことは同意見だけど、今後の事を考えると、ある程度持ち上げておかないと不自然だ。

 

「そんなっ!櫛田ちゃん。あんな口だけのやつに!」

 

 口だけね……まあ、気持ちはわかるかな。でも池君と赤石君の関係は、篠原さんと軽井沢さんの関係と一緒だよ。片方が圧倒的に上。それだけ。

 

「池君、赤石君は口だけじゃないよ。平田君と一緒にいつも皆のことを考えてるよ。池君にも分かって欲しいな」

 

 一応窘めておく。今後、私は赤石君との交流が増える。変に暴走されたら面倒だ。

 

「う……いや、ま、まあ赤石が結構できるやつっていうのは、うん、まあ知ってたし」

 

「帰っていいかしら?」

 

 堀北さんは一度皆を見回した後、冷たく言い放った。赤石君の連絡待ちである以上、彼女が帰ってしまうほうが早いかもしれない。一応、平田君にもメッセージを飛ばし、赤石君への伝言をお願いした。無いとは思うが、私からのメッセージの返答で迷っていた場合は平田君に押してもらう必要がある。

 

「まあ、待て。せめて赤石から情報を貰ってからにしよう。櫛田も言ってたし、池もそうだろ」

 

 綾小路君がタイミングよく池君を巻き込んだ。やっぱり男子たちの中では1枚上手だ。

 

「え、いや、ん……そ、そうだな!賛成!赤石は結構できるやつだし!堀北も偶には待ってもいいんじゃないか!須藤もそうだよな!」

 

 当然、池君はさっきの反動で赤石君を持ち上げる。やっぱりこの単純さはある意味貴重だ。

 

「まあ、俺は堀北が居てくれるなら……」

 

 綾小路君は須藤君の方を呆れながら見ると、堀北さんに語り出した。

 

「なあ、堀北。なんでそんなに赤石の評価が低いんだ?」

 

「前に説明してあげた事をもう一度する気にはなれないわね」

 

「中間試験、井の頭と外村は上位陣だったぞ。2人の小テストの成績は知ってるよな」

 

「え!博士って上位陣だったのか」

 

 山内君は当然知らなかったようだ。

 

「2人が急成長したことは知っているわ。お陰で須藤君が退学になりそうだったわね。まあ、それは仕方ないことだけれど……急成長したのは2人の努力が大きいんじゃないかしら?赤石君の方針が良かったかは分からないわね」

 

「何!俺が退学しそうだったのはあいつらのせいだったのか……!」

「いや、それは須藤が馬鹿だったからだろ」

 

 須藤君が山内君に襲い掛かったけど誰も止めなかった。

 

「なら聞くが、俺たちが赤点じゃなかったのも堀北のお陰ではなく、俺たちの努力ってことでいいよな」

 

「そういった考え方もあるというのは理解しているわ。まあ、私がいなければ、そもそも勉強会に参加していない人たちがどうなったか分からないけど」

 

「なら、その部分だけでも評価してやらないのか。赤石だって外村と井の頭を勉強会に参加させたぞ」

 

「外村君と井の頭さんは貴方達よりも従順だわ。勉強会に参加させるのは遥かに簡単なはずよ」

 

 そこまでいった所で、メッセージが届いた。もう少し2人の言い争いを聞いても良かったけど、回りの3人が困っているし、伝えたほうがいいだろう。

 

「あっ!赤石君からメッセージが来たよ。うーんと、そこまで親しくないみたいだけど、でも聞いてみるね」

 

 赤石君に電話をかけると、当然1コールで出た。

 

『もしもし、赤石です』

 

 少し申し訳なさそうな声だ。まあ、面白いものも見れたし、許してあげるよ。赤石君。

 

「あ!良かった。やっと繋がったよ」

「よし!櫛田、貸してくれ!俺がガツンと言ってやるから!」

 

 電話が繋がると、須藤君が素早く手を伸ばしてきた。堀北さんと話せなくて鬱憤が溜まっていたようだ。だが須藤君と赤石君はどう考えても相性が悪い。

 

「ええっと、須藤君待って、どうしよう?」

 

 状況的には、綾小路君に渡すべきだろう。まあ、赤石君は綾小路君を嫌っているが……この状況なら赤石君も私が本意ではないと思うだろう。それなら十分だ。むしろ綾小路君に渡せばもっと面白いものが見れるかもしれない。

 私は綾小路君の方を向き、アイコンタクトを送った。

 

「綾小路君……え?いいの?ええっと、堀北さん!?」

 

 しかし、綾小路君は、手を前でクロスさせ、大きくバッテンを作った。そして、何を思ったのか、それを見た堀北さんは私から端末を奪った。

 

「赤石君、少し聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」

 

 堀北さんは殆ど確認を取る間も与えず、矢継ぎ早に質問をした。

 

「赤石君、貴方は佐倉さんと仲が良い?イエスかノーで答えなさい」

 

 彼女はいつも通り高圧的な態度だ。赤石君のなけなしのプライドを刺激してくれるだろう。少し不快だけど、赤石君がより堀北さんを嫌ってくれるなら、結果としては悪くないかな。

 

「そう、ありがとう。どうやら誤報だったようね。皆、見栄っ張りの綾小路君の勘違いよ。赤石君はやっぱり使えなかったわ」

 

 結論が出たのか堀北さんは最後に吐き捨てるように言うと、端末を私に返した。おそらく最後の言葉も赤石君には聞こえただろう。……ここまで行くと、端末を渡した私に対してまで悪感情を抱きそうだ。堀北さんは私の計画を分かっててやってる……わけではなさそうだ。けど本当にやる事なす事が私の邪魔をする人だ。

 

「えっと、そのごめんね赤石君。もう大丈夫。突然連絡して本当にごめんね。みんなちょっと焦ってて」

 

 端末を取り返した私は、声のトーンをいつもより調整して話しかけた。

 

『あ、いえ、大丈夫です。だいぶお忙しいようですね』

 

 幸い私に対しては悪感情を抱いてはいないようだ。

 

「うん。ちょっと揉めててね。堀北さんの質問に答えてくれてありがとう。赤石君。また明日、学校で」

 

『ええ、また明日』

 

 電話を切ると、再び、男子たちが騒ぎ、そして騒乱に紛れて堀北さんが立ち去った。その後は大して有益な成果を上げることもなく時間を浪費した。

 

 

 

***

 

 

 

 自室に戻った後、みーちゃんからメールを処理する。今日の自分はどうだったか、赤石君とは上手くいきそうかといった恋の相談文だ。今日の赤石君を見た感じ、少し難しそうだ。赤石君はみーちゃんよりも殆ど意識を私に向けていた。彼はあまり性的な目線を女子に向けないタイプだけど、それでも外見は多少は気にするだろう。

 私からみーちゃんにリードを託すのは難しそうだ。

 

 現状、篠原さんとの方が仲が良さそうだ。やはり彼女は赤石君と席が隣の分、有利だ。みーちゃんには頑張ってもらいたいけど、場合によっては計画を変える必要があるかもしれない。篠原さんのグループが持っていくのはDクラスの危機になるかもしれないから無しだ。かといって、これ以上軽井沢さんのグループが力を持つのは考えものだ。私のグループで赤石君と相性が良さそうなのはみーちゃんぐらいだ。中々良い候補が決まらない。

 

 赤石君の事を本命にしているのはクラスでは一応みーちゃんだけだ。どこにも所属していない佐倉さんか堀北さんあたりとくっつけば逆にクラスは安全になるかもしれない。まあ、堀北さんは色んな意味で有り得ないから、佐倉さん一択だけど……せっかく握ったリードを私の影響力が及ばない人に託すのは抵抗がある。

 うん。須藤君の事件の目撃者という話もあるし、佐倉さんとは近いうちに「お話」する必要がありそうだ。

 

――佐倉さんとはどうやったら仲良くなれるかなっ!

 

 一応、みーちゃんにはデートのセッティングをしてあげよう。次の作戦は買い物にしよう。そう考えた私はみーちゃんと、心ちゃんへとメールを打つのであった。

 

 

 




対応する赤石視点と一緒に読むと、赤石と櫛田のタイミングがかなり良い事が分かります。
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