実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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3章 無人島
無人島へと至る船


「貯金箱1号、がんばれ、君ならできる」

 

 8月1日の早朝。全ての準備を何とか完了させた俺は、寮を出る時に、相棒であるパソコンに、俺が糞特別試験を受けている間に果たすべき訓示を与えた。色々と考えた結果、特別試験の間、寮の俺の部屋で、起動させたまま放置しておくにした。彼には、今後の俺の学校生活を豊かにしてもらうために、働いてもらうのだ。

 

 

 相棒に別れを告げた後、Dクラスの面々と合流し、バスで東京湾へと向かった。午前5時の集合だったためか、ほとんどの者がバスの中では静かに睡眠をとっていた。

 ちなみに俺の隣の席は三宅だ。彼とは、クラスでの相談の結果、今回の旅行という名の特別試験では同じ船室となっている。他のメンバーは外村だ。本来は4人で一室なのだが、人数の関係上3人となった。わりと、気心が知れている外村と、静かさを理解している三宅という最強の布陣だ。これで、船室でのトラブルは、まず無いと考えていいだろう。

 

 バスに揺られ、東京湾へと辿りつき、客船スペランザへと乗り込んだ。

 なお、Dクラスメンバーで、バス内で一度も眠らなかったのは平田と堀北、そして綾小路と井の頭だけだった。井の頭には今後の情報をある程度教えているため、早朝時間に合わせてもらっているが、なんで残りの三人は寝ないんだ?あれか、周囲に人がいると眠れないタイプか?

 

 

 

***

 

 

 

 客船スペランザ。比較的大型の船であり、乗客が出入りできる場所だけでも九層構造に屋上付きという、まさしく豪華客船といった感じだ。

 九層のうち、地上は五層、地下は四層となってはいる。最下層である地下四層は配電盤室となっており、生徒は行くことが物理的には可能なものの、やることが無いので、殆どの生徒には関係の無い場所であろう。まあ、俺には大変関係がある場所なのだが……

 しかし、不安だな。なんでこの船は配電盤室の近くまで生徒が行けるようになってるんだ?安全上、問題ではないのかね?もし生徒が暴れて配電盤室を破壊したら、この船の重要なコントロールシステムに不具合が発生し、大きな問題になるぞ……

 そんなことを考えながら、地下四層の配電盤室にハッキングシステムを次々と投入し、船の重要なコントロールシステムにアクセスする。ふむふむ、洋上通信網は確保できそうだ。これと、暴力事件の時に使った珍兵器を合わせれば、珍兵器の射程範囲内の好きな端末にアクセスし、情報を盗み取ることができるぞ。やったね。

 

 まあ、理想を言えばもう少し珍兵器の射程が欲しかったところだ。この船が結構大きいこともあり、船の真ん中にいても、船内全域をカバーするのは難しそうだ。まぁ、楽しい楽しい船上試験までは時間があるし、少しずつ調整すればいいか。

 

 

 うむ。そこそこ順調じゃ。現在時刻は9時と少し。洋上通信システムを丸っと入れ替えたと思えば、悪くないタイムだ。上陸時間の予定が11時だったはずなので、もう少しだけ活動できそうだ。さて、どうしたものか……

 

 船内を少し見回った後、開いている店で少しばかりのブレックファストを楽しむことにした。一応、乗船時にレストランフロアで食べたのだが、その時は、いまいち食が進まなかったのだ。一作業終えて、お腹も減ってきたといった感じだ。いや~、しかし、0ポイントで食えるメシは美味い。というか、この船の料理は中々美味い。店の種類も料理の幅も広く、見た目もリッチだ。うむうむ、よいぞ、よいぞ。

 船飯の美味さを味わうことで、来るべき上陸の時間へと備える。が、そこで、緊急を知らせる信号が足首から震えた。

 俺は、今回の試験においても、目立たずにポイントを頂くことを目標としている。そこで、目立たない為に重要な点は、まず相手の視界に入らない事だと考えた。

 しかし、普段の学校とは違い、ここは狭い船。いや、船としては比較的大きいが、空間的には比較的狭いのだ。狭い空間では、個人の遭遇確率は当然上昇する。気づいたら、目の前に椎名!などという1.2椎名体験(驚き補正+20%)をすることになる。そう、つまり、偶発的遭遇からの事故死、もとい、にぎにぎ死を避ける必要があるのだ。

 あの悍ましい7月10日の事件、あの事件を二度と起こさないこと。これが、俺が龍園に(勝手に)誓ったことだ。

 この誓いを果たすために、俺は先程、洋上通信システムを入れ替えた時に、ちょっとした小細工もしたのだ。

 それは、1年生の有力なメンバー(の端末)が俺の近くに来るような動きをすると、それを読み取り、俺の足首につけた受信機が反応。これが震えることで、俺はあたかも、何も確認することなく、危険な領域から離脱できるのだ。これが赤石流、卑儀、じゃなかった間違えた、秘儀、『戦わなければ負けない』だ!

 ちなみに一応、振動の仕方によって葛城派、坂柳派、一之瀬様派、龍園派、椎名、となっている。本当は個人で識別したかったのだが、さすがに足首の振動だけでは覚えられるのは五種類が限界だった。そこで個人ではなく団体の識別までにとどまっている(例外あり)。

 

 あ、今回は坂柳派だ。俺は適当に飯を腹に詰め込みながら、端末を確認する。ふむふむ、船首側から来ている。よし船尾側の出入り口から出よう。ははは、こういった時の為に、この船では常に二か所以上出入口がある店を選んで行動しているのだ。

 神室のような人にボッチのレッテルを貼った上Dクラスを舐めまくっている0.25椎名の強襲型堀北が在籍するような派閥に、俺は負けない。

 

 さも、食い終わったという雰囲気を出しながら船尾側へ…………おい、まて、やめろ。

 

 なんで、船尾側にも坂柳派がいるんだよ。お前ら友達だろ。ちゃんと店に入るときは同じ入り口を使えよ。てか、何で俺が包囲されてんだよ。俺、何かしたっけ?

 あ、いや、さすがにそれは自意識過剰だ。俺がやっていることが露見しているとは思えないし、おそらく偶然だろう。というか、多分アレだ。この歩き方からして現地集合だ。船首側からは橋本と鬼頭、船尾側は坂柳と神室だ。

 うむむ。どうする。どちらかと言うと面識がある神室は避けたい(厳密には全員面識があるが、会話をしたのは神室だけだ)。つまり船首側に行きたい。

 しかし、もう立ち上がり、船尾側の出入り口へ向かってしまった。ここから、動きを変えると、なんか神室を避けているみたいな雰囲気を出してしまう気がする。ぐぬぬ。悔しいが、このまま何食わぬ顔で前進しよう。なーに、一度はこなした、坂柳派へのすれ違いスルーだ。今回も余裕ですよ!

 そう考えながら、出入口へ向かうと、ちょうど坂柳と神室が見えた。二人は何か話をしているようだ。

 

「真澄さんは、今回の旅行で、何か目標のようなものがありますか?」

 

 近づくにつれ、自然と二人会話が聞こえてくる。いいよ。そのまま会話に集中して。

 

「……別にないけど」

 

 おい、神室。お前、早々と会話を打ち切ろうとするな。もっと坂柳との会話に集中しろ。

 

「そうですか。私はありますよ。聞きたいですか?」

 

 丁寧だが、どこか嘲笑するような響きのある声だ。いや、まあ、これは偏見かもしれないが。

 

「興味ない」

 

「ふふっ、素直じゃありませんね」

 

 坂柳は神室弄るの好きだね。でも、そのシワ寄せが他の所に来るから止めて欲しいのだが。

 

「何が言いたいの?」

 

「では一つだけ。これは私の体験談になりますが、意外なところで、目標の方が手元に来ることもありますよ。まあ、あなたには、目標など必要ないかもしれませんが……」

 

 悲報、神室、リーダーから目標意識が低いと思われている。

 

「さっきと言ってることが違うと思うんだけど」

 

 俺も同じことを思ってしまった。目標が必要無いなら、何で目標について聞いたんだよ……

 

「私は、真澄さんに目標があるかは聞きましたが、目標を持つ必要があるとは言っていません」

 

 面倒くさい論法だ。神室も同じことを考えたのか、無視を決め込んだようだ。しかし、神室が反応しなくても、坂柳は饒舌に語りを続けた。よし!そのまま神室弄りに集中してくれ。

 

「目標とは、自由な行動が許された人間のみが持つことができます。いえ、正しくは持つ意味があります」

 

 よし、よし良い感じに神室に集中しているな。俺も落ち着いて、交差しよう。すれ違うまで、約3メートル!強く当たってあとは流れで、あ、いや、当たっちゃ駄目だ。弱く避けて後は流れで……

 

「つまり、支配されている人間が目標を持っていても、意味などないということです」

 

 その声の一つ一つに何か違和感を感じるが、意識を向けると気づかれそうなので、気にせず前へ進む。そして、ついに0メートル、つまり真横に坂柳だ。まあ、あとはウィニングランだ。このまま前に進み、俺と坂柳たちの相対速度分だけ、離れ続けるだけだ。

 

「あなたは、もう、ずっと前に、私が捕まえてしまいましたから――」

 

 真横からそんな声が聞こえた。いつもの頭を貫くような声だ。なぜか、この少女が視界内にいる状態だと漠然とした不安に襲われる。なぜだろう。まあ、考えても仕方がないので、そのまま坂柳たちから離れる。

 

「――支配されているあなたが目標を持っていても意味はありません。勿論、支配を脱する為に抵抗する選択はあります。お勧めはしませんが、試してみても構いませんよ」

 

 背後から聞こえる坂柳の声音は、挑発するような、どこか期待するような気持ちが籠っているように聞こえた。もう背後故に見ることは叶わないが、おそらく、神室が顔を真っ赤にして怒っているだろう。ぜひ相棒っぽい橋本で発散してほしいところだ。

 

「……あんたは碌な人間じゃない」

 

 沈黙を貫いていた神室が、思わずといった感じに声を出した。煽りに我慢できなくなったようだ。ここからでは見えないが、おそらく顔真っ赤だ。

 

「ふふっ」

 

 坂柳の微かな笑い声が耳を撫でた。

 思わず、頭を押さえる。ズキリと、頭の奥が痛んだ気がした。

 

 

 

***

 

 

 

 気を取り直して、船室に戻ると、外村がベッドで横になっており、三宅は椅子に座って端末を弄っていた。うん。平和でいいね。

 俺も自分のベッドで横になり、外村と三宅との距離関係を確認した後、イヤホンを耳に突っ込み、通信システムを起動させる。対象は少し悩んだが、先ほどの集まりが気になるので、坂柳を選んだ。まだ同じ店で側近3人とともにいるようだ。

 

『――では、俺は予定通りということで?』

 

 どうも、なにかの会話中のようだ。声の感じからして橋本だろうか?

 

『ええ、よろしくお願いします、橋本君。鬼頭君と真澄さんは待機。場合によっては葛城君の指示を聞いても良いですよ』

 

 むむむ、これはアレか?無人島試験の事か?

 

『できれば、二人には俺のバックアップをお願いしたいですね』

 

 橋本の声はいまいちわからん。何か真面目なような、ふざけているかのような、判断に迷う声音だ。

 

『橋本君であれば、一人で十分かと思いますが……自信がないようでしたら、二人の力を借りても構いませんよ』

 

 一方、坂柳の声は、うん、なんか、その、アレだ。うん、不安になる。なんでだろう。ちょっと怖いというか、いや、まあ、まったく根拠がないので、ただの偏見なのだが……

 

『――、……、いえ、ちょっとした冗談ですよ』

 

 橋本は、ユーモアがあるのか、なんか不思議な怖さを持つ坂柳にも冗談を飛ばせるようだ。ちょっと間があったような気もするが。

 

『ふふっ、中々、面白かったですよ』

 

 くすくすと笑う坂柳の声音はなぜか挑発的に聞こえる。いや、本当に、まったくもって根拠がないのだけど。なんで俺はこんなに坂柳に対して偏見を抱いているのだろうか?うーん。わからん。

 

『では、皆さん、頑張ってくださいね。真澄さんは少しいいですか?』

 

 そう言うと、坂柳と神室は店を出て行った。店に入るときとは違い船首側の出入り口を使ったようだ。入るときもそっちを使えよ。残された男二人とどちらを追うか悩んだが、坂柳の端末をそのままトレースし続ける。もしかしたら、まだ何かあるかもしれない。

 

『私に何か用?』

 

 神室の問には答えず、坂柳はさらに船首の方へと進んでいき、そして…………見失った。

 うん?あ、しまった、射程外だ。タイミングが悪い。仕方ないので、船内の洋上通信システムにアクセスし座標を探る。このやり方は端末の場所は分かるが、珍兵器と違い、情報は抜き取れない。うーん。船の先端に2人ともいるようだ。なんだ?タイタニックごっこでもするのか?坂柳は体が弱いっぽいので止めた方がいいぞ。

 なんか気になるな。どうしようかな、と考えていると声がかかった。

 

「音楽ばっかり聴いてて飽きないのか?」

 

 声の方を向くと、三宅が少し苛立ったような顔でこちらを見ていた。なんやねん。

 

「好きなので」

 

 適当に答えておく。三宅は「そうか」と軽く言うと、何か気になるのか、端末を弄りながら、「あぁ」と、なんとも言えない声を漏らした。はて、三宅は静かで、風流を理解している人だと思っていたが……

 疑問を感じながら三宅を見ていると、船室の扉がガンっと開かれた。

 

「みやっち、遊びにきたよ」

 

 扉を見ると長谷部が普段は見せないような明るい顔で三宅に手を振っていた。

 

「長谷部……ノックくらいしろ」

 

「いやー、この船の扉って太いからさ、なんか叩くの嫌なんだよね」

 

 そう言いながら、長谷部は三宅ではなく部屋の中を観察し始め、俺と目があった。その視線は、あまり好意的には見えなかった。

 

「……、…………、みやっちの班、独特だね」

 

 なにこれ、あれかな?『お前、おもしれー女だな』の逆みたいな感じか。

 

「何が独特なんだ?」

 

 しかし、三宅は慣れているのか冷静だ。

 

「いや、外村君とみやっちって全然キャラが違うし、それに……、……赤石君は平田君と組んだのかと思ったよ」

 

 なんだろう。なんか、いや、まあ、クラスにいるときから結構思っていたのだが、長谷部って俺のこと嫌い?俺、マジでお前には何もしてないぞ。

 

「赤石にガン飛ばすな。困ってるぞ」

 

「あっはは、いや、ごめんごめん赤石君。別に、赤石君が悪いわけじゃないんだけどね。まあ、女の子には色々な事情や人間関係があるんだよね」

 

 俺が悪くないなら睨まないで。というか、アレだ。なんか初めて長谷部と喋った気がするが、コイツとは馬が合わなそうだ。うむ、坂柳たちの動向も気になるし、一旦船室を出るか。

 

「いえ、別に特に気にしていませんが……」

 

 そう言いながら、扉へ向かい脱出を試みる。

 

「また、どこか行くのか?」

 

 三宅に阻まれる。

 

「いえ、少し酔ってきたので、デッキの方に出ようかと思いまして」

 

 何時ものように適当なことを言う。本当は何となく船の先端に行った2人が気になるだけだ。

 

「そうか、辛いようなら医務室まで案内しようか?」

 

 なんか、心配させてしまったようだ。すまん。

 

「ありがとうございます。でも大丈夫です。そこまで重くはないですから」

 

 俺がそういうと、なぜか長谷部が不快そうに顔をしかめた。いや、別にお前に話しかけたんじゃないんだけど。

 

 

 

***

 

 

 

 早歩きで船内を歩き、船の先端を目指す。一応射程は25メートルあるので、先端部に近い適当なトイレや休憩所などに行けばよいのだが……時間が経ち、生徒たちの活動時間になったのか、どうも船内が混雑してきた。生徒が邪魔で上手く進めない。

 うーん、坂柳たちはまだ先端部にいるようだ。これはいよいよ坂柳と神室がタイタニックが好きな説が濃厚になってきたな……

 まあ、あと5メートルだ。ちょうど人混みも少なくなり、良い休憩所を見つけた。あそこに入り、端末にイヤホンを使い盗聴を再開しよう。まあ、多分タイタニックの話で盛り上がってるだけで、戦略的に重要な情報はどうせ無いだろうが……

 そう考えていると、足首から警告振動が響き、近くから鋭い声がかけられた。

 

「あ、あの!」

 

 大きな声にビックリしてしまい、音源を見ると、そこには……いや、誰だ。あ、いや、ボーナスポイントの白波だ!しまった。自分から動くもんだから、警告が上手く発動しなかった。

 クソ!これはあれだ!システムの発展が人間を愚かにする典型的なパターンだ!あ、いや、どちらかと言うと、高度なシステムを使いこなせるのは高度な人間だけ、というやつか?ぐぬぬ、まさかこのシステムの弱点である使い手の知性が平凡であることを突いてくるとは……流石は一之瀬様の近侍だ。コイツ、なかなかできるぞ!

 

「ええっと、俺ですか?」

 

 一応、近くのいる人を見るが、白波の視線の先が俺だったこともあり、多分俺に話しかけているのだろうと推測し、白波にゆっくりと声をかけてみる。これで、違います、と言われたら、すみません、と言って去ればよい。そうだよ、と言われたら、すみません今は忙しいので、と言って去ればよい。

 

「確か、赤石君?でしたよね」

 

 そうだよ。でも、俺の名前は忘れて。

 

「そうですが、確か、あなたは、し、しら、……すみません、白波さんで合ってますか……?」

 

 一回会った相手の名前を完全に覚えるのは、個人的には、かなり優秀な人だと思っている。

 つまり、一之瀬様や龍園は無茶苦茶優秀な人だと俺は思っている。いや、まあ、中には他人の顔や名前を憶える技術だけが突出している人や、逆に顔や名前を憶えるのだけが苦手な人もいるだろうから、必ずしも、その技術が高い人が万能とは言えないかもしれないが、それでも、その技術を持っているだけで、ある意味警戒に値すると俺は思っている。

 

「そ、そうです。合ってます。あの、ちょっと聞きたい事があるんです。答えてくれますか……?」

 

 やだ。

 

「俺に答えられる事でしたら」

 

 適当に答えると、白波は少し溜めを作り、手を握りしめてから、口を開いた。

 

「あ、あの、赤石君の誕生日って7月21日ですか?」

 

 何で俺の誕生日知ってるんだよ。なに、コイツ、エスパー?いや、まあそんな事は無いと思うが……誰かが漏らしたのか、俺の重要な個人情報を……ちょっと櫛田さん、マジで止めてくださいよ。

 うむ、何て答えるかな……俺の誕生日を知る人は少ないし、嘘を吐いてもいいような気もするが。いや、まあ、誕生日程度知られるデメリットはそこまでないし、何かの弾みで嘘が露見した際の評価の方が怖いから止めとくか。

 

「ええ、そうですが……でも、よくご存じですね。俺はBクラスの方とあまり交流が無かったので、正直意外です。どちらの方から聞いたんですか?」

 

 まあ、どうせ櫛田だろ。アイツ、本当ありえへんぞ。次、俺関係で口の軽さを見せたら、綾小路に、櫛田は口の軽い女です!って言いふらしてやろうか……不安定櫛田が怖いから止めとくか。

 そんなことを考えながら白波に答えを待つが、彼女はこちらに質問には答えずに、何か戸惑ったような雰囲気を出しながら、ブツブツと「え」とか「そんな」とか「おかしい」とか口にしていた。おかしいのはお前の会話率だよ。

 

「――っ、あの、……ちょっと来てください」

 

 そう言うと、白波は唐突に俺の手首を掴み引っ張り始めた。おい、勝手に触れるな。もし俺が警官だったら公務執行妨害だぞ。あと質問に答えろ。

 ズルズルと白波に引きずられ、人気の少ない通路まで連行される。コイツ小柄なのに結構力あるな……というか手首を離せ。力入りすぎてて、ちょっと痛いぞ。

 

「あ、あの白波さん。何か御用ですか?用があるのでしたら、言ってもらわないと分からないのですが……」

 

 俺の問に対して、白波は立ち止まり、キッと俺の方を睨みつけた。体格上、下から見上げるような形になるのと、あまり容貌に攻撃性が無いから、そんなに怖くは無いが……なんか俺怒らせることしたっけ?あれ、俺今日こんなことばっかり言ってるぞ、あ、いや、正しくは思ってるぞ。

 

「あのっ!帆波ちゃんは誰にでも優しいだけですから。勘違いしないで下さいね!」

 

 一方的に言うと、こちらの返答も聞かずに、白波は顔を真っ赤にしながら、素早く走り去っていった。おい、会話しろよ。

 

 

 

***

 

 

 

 その後、坂柳たちを射程圏内に収めて、もう一度、珍兵器を使用するものの、その時には坂柳と神室の会話はちょうど終わっていまい、別れの挨拶しか聞くことができなかった。なんとも、まあ、徒労に終わる結果となってしまった。

 

 なんか、すっかりやる気が失せてしまったので、適当に空いていたビーチベッドで横になりながら、射程距離内にある龍園の端末を拾い、カリスマ訓示を聞く。うーん、やっぱりあの笑い方いいな~。

 しっかし、坂柳も龍園も、この学校に対する警戒心が高いな。素直に教師の説明に納得しろよ。というか、クラス間の大事な戦いが旅先で行われるなんて、なんで分かるんだ?うちのクラスなんて皆、ただの船旅だと思ってるよ。いや、まあ、俺もあの説明をただ聞いたら、きっと同じように思うから、うちのクラスが無能なのではなく、単に坂柳と龍園が優秀すぎるだけだが……

 うーん、俺は本当にコイツら出し抜けるのか?なんか無理っぽいぞ。無人島は前途多難になりそうだ。

 

 そう考えてるいると、ふと船内にアナウンスが入った。ふむ?

 

 どうも、とても有意義な光景が見れるから集まれとかいう内容だった。はて。何だろうか。一応、体を起こし周囲を確認する。

 デッキに人が集まっており、近くの島を眺めている。もしかしなくても、あの島、例の無人島か!非常に有意義ってアレか、この島を見ろってことか?……あ!井の頭に知らせないと!

 俺は素早く端末に「この島、会場」とだけメッセを入力して飛ばす。一応、今回の特別試験のことは漠然と井の頭に伝えているので、これで察してくれるだろう。多分。

 一応、記憶に刻み込んだ島の3Dマップと比較するために、島をよく観察する。うむうむ、まあ、人工衛星から精密に見たので当然だが、普通に一致している。まあ、無人島とか実物で見ると迫力あるし、船の動きがあるから感覚は違うけど。それでも、まあ、復習にはなっただろう。

 

 

 再びアナウンスがあり、30分後に上陸となった。俺はトイレで足首に着けたアラートを外し、自分の旅行用鞄に隠し、船室へと戻った。アラートは使い道が無いので、鞄とともに船室へと置いていくつもりだ。

 船室に戻ると何故か、平田と三宅が話し込んでいた。はて?長谷部と外村どこへ消えたんだ?

 まあいいか。よし上陸するぞ!!

 

 

 




大変お待たせしました。

だいたい書き終わってますので、3巻部分は終わりまで投稿できると思います。

よろしくお願いします。
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