上陸するにあたって、真嶋先生からの全体説明が行われた。まあ、これから試験だぞ!という話だ。
あと、なんかAクラスでは、もう欠席者が出たらしい。これはどうも坂柳のようだ。彼女は体が弱いので船で待機とのことだ。まあ、それは仕方ない。しかし、正当な理由による欠席でも、30ポイント減点は容赦なく発動するようだ。これは、アレだな。体調不良になれないな。もし体調不良になったらムラハチ、もとい、クラハチにされそうだ。
真嶋先生の説明が終わると、浜辺で各クラスに分かれることになった。茶柱先生がそこから説明を始め、合間合間に時計を配ったりマニュアルを確認させたりと忙しかった。
当然、平田や櫛田のような生徒が熱心に茶柱先生の話を聞き、それ以外の普段は不真面目な生徒たちも今後の3万が関わる試験のためか、いつも以上に集中していた。
ちなみに堀北と綾小路のDクラスの参謀カップルはいつも通り、堀北は熱心に――ん?なんか違和感、分かんないけど、なんか堀北の雰囲気がいつもと違う気がする。いつもより、……優しい?だろうか、いつもより優しく見える。はて、堀北はアレだろうか。自然とか好きなタイプなのだろうか。まあ、いいや。
なお綾小路はいつも通りやる気の無さそうな無表情だ。あー、駄目ですねこれは。綾小路は、あんまりこの試験に乗り気ではないですね。
その後、ポイントをどうするのか白熱した議論が進みつつ、途中で星之宮先生が来たり追い出されたりした後、茶柱先生がリーダーのルールの説明を行った。そう、あのファッキンルールだ。
茶柱先生が、最後に、まあリーダーは好きに決めれば的な事を言うと、平田が全員に対して、
「皆、リーダを誰にするかは、時間もあるし、後で考えよう。まずはベースキャンプをどこにするかだね。このまま浜辺にするのか、それとも森の中に入っていくのか……スポットはその後で考えよう」
と議題を持ちかけた。チラリと周囲を見るが、それに対する反応はまちまちだ。けれども、誰も手を挙げるような雰囲気ではない。ガヤガヤしているといった感じだ。よし!ちょっとだけ仕事するぞ!
「平田君、何をするにしても、ここはかなり暑いですし、体力を浪費します。あっちの木陰に移動しませんか?万一、浜辺にベースキャンプを決めるとしても、一旦、木陰に入った方が良いと思います」
いや、まあ島の地図を知っている俺からすると、浜辺はクソザコポジションなので、最強ポジである洞窟を中心とした三角地帯を押したい。大量のスポットポイントに食料、そして高い偵察力を持っている。その上、この島では珍しい雨水に晒されないポジションだ。
次点としては、周囲の植生が豊かで高所でありながら水辺に近い滝壺付近も、なかなかの強ポジだ。まあ、無いとは思うが、両地点が占有されたら、中堅ポジである森の中の川辺地点だろうか。滝壺以下の存在だが、そこまで悪くない立地だったはずだ。
さて、周囲の反応はどうだろうか。俺としては木陰に移動したあと、なんか流れで洞窟方向までクラスを誘導したいのだが……うーん、賛成3割、どうでもいい5割、何お前が意見してんだコラ!が2割だ。ちなみに賛成メンバーの主な顔ぶれは軽井沢軍団だ。
ウッス!親分方ありがとうございます!でも、盃はいらないんで、そこんとこも宜しくです。
「うん、確かにそうだね、赤石君。皆、一旦あっちの木陰に入ろう、いいかな!」
平田がいつもの爽やかスマイルで言うと、賛成7割、どうでもいい2割、死ねイケメン!が1割といった感じだ。さすが平田だ。
それから、少しずつ移動し、木陰に到着。その後、再びポイントについて、特にトイレの設置に関して、あーだこーだ言い始めた。主に幸村・池を中心とした男子が、ポイントの使用を制限すべき、という意見で、逆に軽井沢軍団である篠原がそれに対抗している感じだ。ただ、当の軽井沢はあまり乗り気じゃないのか、ポイントを削るのも致し方なし、という雰囲気だ。
はて?軽井沢軍団は女王である軽井沢の命令が絶対であると考えていたが、そういう訳でもないのだろうか……?まあ、そこはどうでもいいか。
というか、俺は今はスポットの話がしたい。どうしたものかと思い、少し離れたところにいる綾小路と堀北を見る。なんか綾小路と目があった。幸先が悪い。ヤツはこっちをじっと見た後、手を少し挙げて、下ろした。見ると綾小路の腕を堀北が軽くつねっていた。なにイチャついてるんだ!そこ!
こんなときまでイチャイチャしている二人を放っておき、なんとなく各クラスを見る。うん?――って、おいおい、もう動き始めてるじゃん。しかも、あの方向からすると、Aクラスは洞窟、Bクラスは滝壺だな。強ポジ取られるぞ、これは。
というか、何でAもBも迷いなく進んでるんだ?特にAはポジションを完全に知ってるような動きだが……もしや坂柳のヤツも俺と同じで強ポジを知っているのか……?あの少女は無人島試験を中間試験前に予期しているようなフシがあったしな……そういえば、さっきの通信で橋本が何かやるって話で、その上、他の二人が葛城とどうのこうのとか言ってたな。
ぐぬぬ、どうもクラス対抗では葛城と坂柳はタッグを組んで戦うみたいだぞ。不味いぞ、ただでさえ強いAクラスが要塞化されてしまう!ちゃんと内ゲバしろ。このハゲーーー!違うだろーーー!
しかし、どうする?今から平田に急いで進言して、洞窟は無理でも先んじてBクラスをブロックしながら滝壺狙うか?いや、それは俺の話術的にもDクラスの戦闘力的にもキツイか?いやいや、平田と軽井沢の号令をもってすれば、速やかに軽井沢軍団は展開されBクラスは蹂躙されるだろう……いや、さすがに、それは人道的見地から避けたいが……
それに平田はまだ幸村たちと議論中だ。あと、俺はさっきので少し注目を集めてしまったし、もう一度意見するのは個人的には避けたい。ここは0.7椎名の女、つまり櫛田を拡声器代わりに使うか……櫛田の方を見ると、櫛田は忙しなく辺りを見回しており、忙しそうだ。困っていると、櫛田の近くにいた、井の頭と目が合った。
井の頭は、俺と目が合うと、僅かに首を動かした。良く分からなかったが、首肯だろうか?うん?と思っていると、しばらくして、王が騒ぎだした。
「あ!桔梗ちゃん、他のクラスが!」
でかした、王!ドヤ顔していいぞ!
「うん、そうだね、みーちゃん。ちょっと平田君に伝えてくるね」
王の声を聞いた櫛田は速やかに平田に駆け寄った。櫛田はモーゼのようにDクラスのメンバーをかき分けていった。今度からコイツの渾名はモーゼ櫛田だな。
「平田君、AクラスとBクラスが動いたみたい。私たちも何かした方がいいんじゃないかな?」
櫛田は、何時もよりも少し緊張しながら平田に話しかけていた。うーむ、あの櫛田でさえも、無人島試験はかなり厳しいと判断しているようだ。平田もいつもより少し焦り気味だし、堀北は謎の優しさオーラを出してるし、綾小路は無表情だし、王はなんかこっちみてドヤ顔始めたし、おい!なにドヤ顔してるんだ、オマエ、誰に許可とったワレ!
「……うん、確かにそうだね、よし、みんな、ここは――」
しかし、全てを言い切る前に、池が遮り、言葉を被せた。平田の指示に被せるとか、勇気があり過ぎるだろ。大丈夫か?
「おい!グダグダ言ってる場合じゃないって!他のクラスにスポット取られる前に俺は行くぞ!幸村、ポイントを女子たちから守れよ!」
「勿論だ」
池と幸村、普段はあまり見ない組み合わせだが、なんか協力しているようだ。うーむ、無人島のような特別な状況は人間関係を変えるな……
「待って。池君、一人で森に入ったら危険だよ。ここは落ち着いて」
こんな時でも、Dクラス一の菩薩である平田は慈悲の心を忘れなかった。南無阿弥陀仏。
「落ち着くもなにもないだろ。それでポイントが入るわけでもないんだし……健!一緒に来てくれるか?」
しかし、ここで池選手、菩薩が、いや釈迦か?釈迦が垂らした蜘蛛の糸を華麗にスルー。これは後で軽井沢軍団にボコボコにされますね。お陀仏!
「――ッ、おう!わかった。行くぞ!春樹も来い!」
「ええ、俺もかよ……」
須藤は一瞬だけ堀北の方を見た後、山内も巻き込み、池に続いた。
「平田、俺達は行くけど、危なそうな事はしないし、スポット見つけたら、すぐ戻ってくる。それでいいだろ?」
最後に池が、平田にそう告げると、平田もしぶしぶ三人の行動を許可した。池が平田に話しかけるのを他所に、須藤が綾小路も誘っていたが、やる気の無い彼は探索班への参加を辞退した。うん、これは綾小路は完全にやる気が無いな。今回の試験では期待できなさそうだ。やはり俺が何とかしなければ。
そして、三人は探索を開始した。
――あ、なんか話の流れが急で、入れなかったが、俺も探索班に入った方が良かった気がする。まあ、平田達本隊に干渉できるから、これはこれでいいか……
***
その後、平田率いる本隊は、あーでもない、こーでもないと言いながらも、池たち探索班との連帯の面もあり、浜辺を完全に放棄し森へと移動を開始した。時刻が12時を少し過ぎた頃に平田本隊は森の窪地に布陣し、作戦会議となった。
「ここまで森に入れば、日差しも十分に遮れるし、話を聞かれることもないね。うん」
平田のその言葉を合図に、幸村が素早く口を動かした。今日の幸村はよく喋る。やはり彼もかなりAクラスに行きたいようだ。つまり、俺の計画が絶対に知られてはいけない者の一人だ。メガネは大概強キャラだったり、眼鏡が本体だったり、眼鏡がリミッターだったりするから、要注意だな。
いや、まあ冗談はさておき、幸村は堀北や高円寺並の学力の保有者だ。学力=頭の良さとは直結しないだろうが、ある程度の相関性はあるだろうし、彼にも注意は払うべきだと思う。
「平田。池たちだけじゃなくて、俺たちも動くべきじゃないか?主要なスポットを他のクラスに取られてからでは遅いぞ」
幸村の言葉はいつも以上に刺々しかった。思わず軽井沢軍団の顔色を確認してしまった。軍団の怒りゲージは30%ってとこかね?
「うん、そうだね。でも、問題を放置したまま皆が分散するのは危険だよ。まずはポイントの、特にさっき話になったトイレの問題について話そう」
しかし、平田はいつもの雰囲気を崩すことなく、幸村に対して説得を試みた。さきほどは少し焦っているとか思ったが、平田はやはり落ち着ているようだ。うん、平田が大丈夫ならこの試験はなんとかなるだろうな。
俺がそんなことを楽観的に考えている間に、幸村の反論を次々と平田が丁寧に潰していき、結局トイレは設置することになった。そして、ここからが俺にとって重要な話だ。
「次は、さっきも意見が出たけど、ベースキャンプを決めるために僕らも探索に出るべきだと思う。……この中でサバイバルに精通している人とかいるかな?」
平田の言葉を聞き、素早くクラスを見回すが、手を挙げるような者はいなかった。よしっ、やるか。俺は、露骨に周囲を見回して、おずおずと手を挙げた。
「あの、精通とまで言えませんが、中学生の時、親に言われてサバイバル合宿のようなものに行ったことがあります。……と言っても数日の体験なので、あまりお役に立てるか分かりませんが……」
正直な話、ここで動くべきか、発言した今でも若干疑問ではある。しかし、今後の無人島試験において、平田などのクラス中心人物に対して甘言、あ、間違えた、諫言するに、「経験者」であるという要素は大きいのではないかと思ったのだ。
まあ、厳密には俺は経験者ではないが、この島のことならきっと誰よりも詳しいから経験者みたいなもんだろ。スポット毎の採取物とかスポット間の理論最短距離とか言えるよ、俺は。あ、ちなみに予防線を張ったのは、ちゃんとサバイバルしたことが無いので、色々と不備があるかと思ったからだ。火のつけ方とか一応勉強したが、上手くできる自信がない。いやー、ライターやチャッカマンを発明した人は偉大だよ。
「赤石君。ありがとう、数日の経験とはいえ、Dクラスには貴重なものだよ。他はいないかな?……うん、いないみたいだね」
内心記憶力でマウントを取っている俺に対しても、平田は穏やかな笑みを崩さぬまま答えてくれた。うーむ、何か罪悪感。やっぱアレだな、平田みたいな「良い奴」に対して卑怯な方法で手に入れた情報でマウントを取るとちょっと悪い事している気分になるな。
「赤石君、新たに探索班をいくつか作って周囲の探索を行う事が僕らがすべきことだと思うけど、君はどう思うかな?」
訂正、やっぱり悪い事してる気がしないや。俺は一応、人前苦手って設定なんだけど……いや、まあ、俺から手を挙げたから自業自得ではあるが、何といえばいいのだろうか、平田が絶対的なリーダーとして、俺はそれに甘言できれば良いのだ。平田がリーダーとして、なんか俺を参謀長みたいに扱うのは駄目なのだ。わかるかな?わかって。
「ええっと、俺もそれで良いと思います。あとできれば、俺もこういった地形は少しだけ経験があるので、探索班に入れて貰えると助かります」
まあ、良い機会なので探索班に志願する。赤点三人衆の探索方向からしておそらく川辺のスポットを発見できるだろうけど、他のクラスの動きも気になるし、いくつかの裏道を使えば洞窟や滝壺に先行できるかもしれない。まあ、探索班のメンバーによっては動き方を考えないといけないが……俺一人だけの班とか作れないかな?上手く平田を言いくるめたいが……俺の話術能力の無さと平田の善良な心からして難しいだろうなー。
「うん、志願してくれてありがとう。他にも誰かいないかな?できれば三つ以上の班を作りたいんだけど」
平田が周囲を見渡すと、男子二名が素早く手を挙げた。本堂と伊集院だったかな?しかし、それ以上手は挙がらず、これはガチで一人一班で三班かと思っていると、王がこちらを見て、コクリと頷いた。意味わからんと思い王を睨むと、ヤツは何を考えたのか手を挙げて立候補を表明した。
おいおいおい、何考えてんだお前。お前、頭は良いけど、運動はドベに近かっただろ。せめてラーメン早食いできるようになってから出直しな!
王が手を挙げると、隣にいた櫛田も手を挙げ、櫛田が手を挙げると、次々と男子が手を挙げ出した。さっすが櫛田、人望……というか男子からの欲望が凄い!いや、まあ櫛田は実際可愛いし、たまに不安定になるけど性格もたぶん良いし、能力も高いから男子人気が高いのは当然なのだが……なんというか哀れだ。この男子たちは知らないのだろう。櫛田は綾小路にお熱ということを……そして、その綾小路は堀北と路上で交わるほどの仲だと……マジで綾小路そろそろ刺されるんじゃないか?少し心配だぞ。
ちなみに当の綾小路もどさくさに紛れて探索班に志願していた。しかし肝心の堀北は志願せず、13人目の志願者が現れたところでパタリと参加者が途絶えてしまった。
「13人か……あと2人参加してくれれば、5チーム作れそうなんだけど……」
平田的にはスリーマンセルを基礎としたいようだ。まあ、4人班がひとつあっても良いと思いながらも辺りを見渡すと、佐倉が控えめに手を挙げた。須藤や王といったマウント取りが得意なヤツが志願したので、ここらで真の王者を決めたいといった感じだろうか。
まあ、何はともあれこれで14人、平田的にはあと一人欲しいというところで王が隣にいた井の頭を突っつき、それに対して櫛田が苦笑を浮かべて何かを井の頭に話していた。しばらく珍妙な櫛田グループを見ていると、おずおずと井の頭が手を挙げた。ほう、友よ、来るか。
「うん、ありがとう。佐倉さん、井の頭さん。それじゃあ、3人の班を5つ作って探索しよう。今は12時15分だから、そうだね、3時までには一度ここに戻って欲しい」
平田が指示を出すと、各々班を組み始めた。櫛田は速攻で男子に囲まれ、あぶれた王と井の頭がこちらに来た。むむむ、買い物の時のチームか。王は大幅減点対象だが、真の仲間である井の頭がいるから、まあいいか。
「あのさ、赤石君。桔梗ちゃんが男子と組んだから、その、一緒に組まない……?」
王がドヤ顔と緊張顔の間みたいな顔をしながら尋ねてきた。後ろには、おずおずと付いてくる井の頭を従えている。
「ええ、勿論です。また、お二人と一緒ですね」
王は帰っても良いよ?
***
そうして、探索が始まった。ちなみに班決めは班が完成した順に探索に出発するスタイルだったため、早く班が決まると残り者共がどういった編成になるかは分からない。
俺・井の頭・王のチーム(長い名前なので、これからは「真の友とおまけチーム」と呼称したい)の編成は3番目の速さだったので、残った6人がどういった編成になるのかは分からない。けれど、どう編成しても地獄であろう。なんたって6人のうち、3人がDクラスでも強烈な個性を持つ、高円寺・佐倉・綾小路だからだ。どうあがいても絶望だ。ありえないと思うが、仮にこの3人が組んだとしたら間違いなく血を見ることになるだろう。ありえないと思うが……
まあ、修羅道を歩いているような奴らのことは置いておいて、探索に集中しよう。現在、俺は「裏道」と個人的に呼称しているルートを使用している。どうも、この無人島はかなり手入れがされていて、一般に想像されるような無人島ではなく、試験用の人工島といった感じなのだ。勿論、これは作成した3Dマップからの考察であり、実物を見ると全然人工的な感じはせず、まさに大自然の無人島なのだが……しかし実際には人の手が入り過ぎている場所なのだ。
この「裏道」もその一つだ。通常の方法では明らかに気づきにくいような道が無人島内に何本か存在する。そしてその配置は嫌らしく、たとえ裏道に入ることができても迷ってしまい、見当違いの方向に出てしまうため、決して目的地までの時間短縮には使えない道なのだ。
しかし!俺は違う。俺は今回の試験のために裏道を全て憶え、その出入りの仕方、迷わない方法、それぞれの裏道を上手くインターチェンジする方法などを研究し続けたのだ。つまり俺は、おそらくだが、理論上最速でこの島を一周できる。平田から3時間貰ったが、それだけあればこの島の要所を二巡できるぞ!
藪を適当に躱しながら「裏道」を通りつつ、時たま後ろから付いてくる二人を見る。二人とも結構余裕な感じで付いてきている。この「裏道」は上手く歩くと結構歩きやすいのだ。一応二人には俺の2メートル後ろくらいから足跡を踏んでもらう感じで付いてきてもらっている。
「赤石君、なんか、凄い道だね……」
そうだね。
「そうですね」
俺が答えると、王は少し黙った後、また口を開いた。
「あ、あの、赤石君ってさっきサバイバルしたことあるって言ってたけど、やっぱり慣れてるの?さっきから迷いが全然無くて……」
いや、初めてだけど。地図全部覚えたから、多分同じ立場なら皆できると思うよ。というより、俺より頭のスペックが良さそうな王の方ができるか……あ、いや、さすがに持久力や踏破性は俺の方があると思うから微妙なところか……
一応、軍事行軍プログラムでさらに「裏道」での行動を最適化してきたから女子でも大丈夫だと思うが……
「ええっと、まあ、そうですね。お二人は大丈夫ですか。実はサバイバル合宿の時は自分以外上級者だったのでいまいち感覚がないのですが、もしかしたらお二人のペースに合わないかもしれませんので、大変なようでしたらペースを落としますので」
適当な事をいいながらもチラリと王を見るが、先ほど見た時と同じでまだ全然余裕そうだ。心配し過ぎたかな?
「私は大丈夫だけど、心ちゃんはどう?」
そういって王は、若干息を乱しているように見える井の頭の方を心配気に見た。俺も、もし井の頭と友達になる前だったら、ああーこの子運動苦手なんだなーと思ったが、最近の俺には分かる。井の頭、コイツ!今まで体育の授業、面倒くさいから手を抜いていたな!そして今も、過去の嘘との整合性を維持するためにわざと呼吸回数上げてやがる……設定に対して忠実に演技しすぎじゃないっすかね?まあ、井の頭は結構凝り性だから仕方がないか……なんか今一瞬心拍数まで弄ってそうだなと思ってしまった。ちょっと、井の頭はそこまでやりそうなイメージあるな。
「――はぁ、うん、……美雨ちゃん、わ、はぁ、私はまだ大丈夫だよ」
だから、凝り過ぎだよ。心配そうに見る王がなんか可哀そうになってきた。休むか?そろそろスポットに近い川辺の地点だし、小休止とするのも悪くない気がする。
「ええっと、そうですね、井の頭さん、川が近くにあるみたいですし少し休みますか?」
俺が声をかけると、井の頭は一瞬ビクっと体を震わせた。なんかさ、日々日々演技が上手くなってない?
「そ、その、赤石君。ごめんなさい」
ええっと、反応に困るんだが、井の頭は凝り性だが、無駄な事はあまりしないイメージがある。たぶん、ここまで演技をするということは一周回って休息をしたいという意志表示だと思うが、なにか理由があるのだろうか……
「ああ、いえ、こちらこそすみません、井の頭さん。ペースをちゃんと考えてなかったみたいで、次からはもう少しゆっくりで行きたいと思います」
そう言いながら、川辺の近くの岩場に背中を預ける。王も近くの岩場にこじんまりと座り、井の頭も俺に対して「は、はい」とだけ返して、王の隣に座った。
うーん、川が近くにあるからか中々涼しい。ここから少し下流にいったところに川辺のスポットがあり、そこが洞窟・滝壺の次に良い中堅スポットだが……意外と悪くないかもしれないな。池たちの進軍方向から考えると、そろそろ川辺を見つけてそうだが……ちょっとだけ覗いてくるか。
「王さん、井の頭さん。俺は少しだけ川を下ってみたいと思います、5分だけ下ったら必ず引き返すので、合わせて10分したらここに戻ってきたいと思いますが、良いですか?」
二人はここで休憩してて。
「は、はい、どうぞ」
井の頭から許可を貰ったので下流に向かい歩こうとすると、袖を掴まれた。見ると王が少し責めるような顔でこちらを見た。うん?これは、アレか。真面目な王としては、班のさらなる分割は危険と言いたいのだろうか。それは確かにその通りだが、川辺で方向が限定されやすく、移動時間も決めているならば問題はあまりないような感じがするのだが……
「赤石君!」
王の声は何時もより鋭く、間違いを指摘するような、いや、まるで罪人に刑罰を告げる判事のような目でこちらを見た。王は小柄だが、いつも以上に迫力を感じる。ドヤ顔とは違う、真剣な表情だ。怒ってる?いや、まあ、確かに俺の進言は場合によってはチームを危険にするものかも知れないが、そこまで怒るような事だろうか?とりあえず、櫛田にチクるのは止めてください、何でもしますから。あ、嘘。何でもはしないや。
「みーちゃん、だよ」
あん?
「えっと?」
俺が聞き返すと、王はいつもの英語の間違いを指摘する顔、つまりドヤ顔になりながらこう述べた。
「さっき、『王さん』って言ったよね。『みーちゃん』だよ」
うるせー、心配して損したわ!ばーか、ばーか。
その後、下流に4分ほど進みスポットを発見した。ほうほう、これがスポットかー。写真で見たときは結構違和感あったけど、こうして実物を見るとなかなか周りの自然と調和が取れていて悪くないな。ちなみに周囲に池たちの姿はない。どうも先回りしてしまったみたいだ。
そこまで考えた所で、ガヤガヤとした騒ぎ声が聞こえた。森の中に少しだけ入り、姿勢を低くし体を隠す。そして、音源の方を見て耳を澄ますと、男の声が聞こえてきた。
「健!お前、何考えてんだよ!ヤバイって!」
「しょうがないだろうが!第一、お前がさっき俺を急かしたからだぞ!寛治!」
「何でそうなるんだよ!ていうか、ルールにも書いてあっただろ!本当にヤバイって、とにかく堪えろ!今、春樹が平田のところに行ってるから!」
「クソ!他人事だと思いやがって――」
なんか、大変そうだ。幸い、目視できない距離にいるためか、こちらには気づいていないようだ。俺は姿勢を低くしたまま上流へと戻り、井の頭たちと合流した。彼らはいったい何をやっていたんだ……?
まあ、だいぶスポットに近かったし、彼らはこのまま補助なしでもスポットを見つけられるだろうから、どうでもいっか。