実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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崖下、滝上

 川辺上流での休息を終えた俺達真の友とおまけチーム(やっぱりこれも長いので次からは「ラーメンチーム」と呼称したい)は、再び進撃を開始した。

 「裏道」のインターチェンジを繰り返し行う事で僅かな労力で高速移動を行い、Aクラスが陣取っている事が予想される洞窟エリアに到達した。

 一応、Aクラスが侵入してくる側とは逆から辿り着いたのでまだAクラスの連中にこちらの存在は感付かれてはいないだろう。とはいっても、肝心の洞窟は占領されている可能性もある……どうしたものかと考えていると、王に手を引っ張られて無理やり(やぶ)まで連れてかれた。おい!まだお前のことを王さんとは呼んでいないぞ!

 

「赤石君、心ちゃんがあっちに人影が見えたって……」

 

 王は声を小さくしながら話しかけてきた。マジか……もう来たのか。というか、井の頭はやっぱり視力ヤバいな。

 

「そうでしたか……王さ――みーちゃん、助かりました」

 

 俺も声を小さくして返した。クソ!みーちゃん呼びを強制されるなんて屈辱だ!

 

「同じ班だから、と、当然だよ」

 

 当然だと思っているならその顔やめようか。俺が怒りに打ち震えていると、今度は井の頭に軽く肩を叩かれた。見ると井の頭は草むらから洞窟がある方面の傾斜部を指差していた。

 

「あ、あの、赤石君。もう見えなくなったみたいです。たぶん、森と高低差があるので、このまま進めば、お互いに見えないと思います……」

 

 高低差を計算しながら観察するとか、井の頭は前世がスナイパーだったのだろうか……櫛田グループは人材が豊富だな。モーゼ櫛田にスナイパー井の頭、ドヤ顔王と固有の特技を持っている人が多い。いや、ドヤ顔は別に凄くないか……

 

「わかりました、このまま(やぶ)の中を進みましょう。さっき崖下に家のようなものが見えたので(やぶ)伝いに進んで調べるのがいいと思います」

 

 洞窟三角地帯の一つである、崖下の小屋だ。ここは確か貴重な魚釣りポイントだ。まあ、アクセスに梯子を使わなければいけないので少し面倒くさいが、攻められにくい場所なので、洞窟を確保したら一緒に占領したい場所だ。

 さっきの井の頭が見た人影はおそらくAクラスであろうことを考えると小屋もAクラスのものになりそうだが……いや、逆に考えるとAクラスが小屋を確保する前に見ておかないと調査が難しそうなので見ておくか。もしかしたら誰か来るのを待ち伏せできるかもしれないし。

 そんなセコイことを考えながら、二人を引き連れ(やぶ)を進み梯子を発見した。梯子から崖下を覗き込むが、やはり小屋と絶壁に囲まれており、逃げ場は海側しかない。うーむ、なんか降りるの怖いな。ん!そうだ!歩哨を立てよう!

 

「俺はこれからあそこに見える小屋を見てこようと思うのですが、あの小屋は逃げ場が無さそうなのであそこにある(やぶ)から崖上を見張っていてくれませんか?他のクラスの人がいたら、何か合図を送って貰えば適当な場所に隠れようと思うので……」

 

 俺は見てくるから、二人はここで見張ってて。

 

「は、はい」

「――っ!私も行く……!」

 

 二人同時に別々のことを喋りおった。

 

「心ちゃんは視力が良いけど、私は普通だから、まあ、赤石君よりはあるけど……それに小屋を調べるなら、人手があったほうが良いと思うよ……」

 

 今、俺より視力が良いってアピール必要だった?ねえ?必要だった?無くても文章なりたったよね?

 

「ええっと、井の頭さんが見て、王さんが知らせる役割だと丁度良いと思ったのですが……」

 

 これなら最悪目立った王だけが見つかるのでリスク分散に繋がる、というゲスい発想は無い。本当だ。どのくらい無いかと言うと、椎名が次に俺と会った時に俺の手をにぎにぎする可能性くらい無い。うん!まったく無いな。

 

「赤石君、あ、あの、私一人で見張りは大丈夫だと思います……何かあったら口笛で伝えますから」

 

 まさかの井の頭の裏切り。さては、王の相手は面倒だと思っているな、友よ。まあ、王も下にいればもしもの時二人で藪の中に隠れていれば結果として誰も見つからないからその方がいいとは思うけど……なんか、王と二人っきりって少し苦手なのだ。勉強会の時にあった佐倉と二人っきりのような感じだ。うん、苦手だ。

 

「分かりました……でも、口笛を吹くと場所が特定されて危険ではないですか?」

 

 さすがに友を犠牲にするわけには……

 

「え、えっと、その私、……口笛だけでなくて、鳥の真似もできるので……そっちで、知らせます。誰かが来たらウグイスの声を出しますね……」

 

 そういえば、その特技があったね。鳥は大体コンプしてるんだっけ。ん、どうせなら……

 

「あの、ウグイス以外もできる鳥の真似ってありますか?」

 

 一応、王の前だと話した事がないので俺と井の頭の情報量が不自然にならないように話題に出す。井の頭も俺の質問から提案を察したのか目つきをいつもより鋭くさせた。

 

「え、ええ、できますけど……」

 

 あ、俺から提案しろってことね。了解。

 

「いえ、もしできるのでしたらいくつか合図に応じて使い分ければと思いまして、例えば、誰かが崖下に来そうならウグイス、崖下には来る気配がなくても人影を見たらトビのような感じでしょうか。あ、あと人影が周囲から見えなくなったら、つまり安全そうならカラスとかできますか……?」

 

 井の頭は俺の提案を聞くと、少し待って、言葉を噛み砕くような動作をしてから、「わ、わかりました、やってみます」と小さな声を出した。あの、いつもはそんなに『理解に時間かかってます』みたいな動作しないよね……ちょっと愚鈍演技ガチすぎるだろ。この夏休みに何かあったの?

 

 気を取り直して、梯子を降り、王と手分けして小屋の中を漁る。一応王にはもしかしたら誰か来るかもしれないから小屋を漁るときは証拠を残さないように伝えておいた。小屋は入り口に水辺にあった装置と同じものが置いてあった。つまりスポットだ。王は初めて見るスポットに驚いていた。ちなみにスポットは何も表示されてなく、おそらくどのクラスにも占有されていない状態だ。

 二人で一通り小屋の構造と内部にあるものをチェックし終えたあたりで、ウグイスの鳴き声が聞こえた。思わず王の方を見ると、王もこちらをギョッとした顔で見ていた。

 

「隠れましょう」

 

「え、小屋の中?」

 

 王はかなり気が動転しているようだ。

 

「いえ、小屋はまず探索されると思うので、外側の(やぶ)の中です」

 

 王を引っ張り小屋から(やぶ)へと連行するが、途中で逆に王に引っ張られた。何してる!今マウント取ってる場合じゃないぞ!

 

「あ、赤石君!それなら、こっちの方が!」

 

 そう言って、微妙に隠れにくそうな小さな藪を指差した。いや、その藪だと二人隠れるのは難しそうだぞ。

 

「いえ、あそこはかなり狭そうですし――」

 

 俺が慌てて説得すると、さらにウグイスの声が続けて二度聞こえた、合計3回だ。これは、アレだな。井の頭の早く隠れろという合図だな。スマン。

 

「ううん――こっちの方がいいよ!」

 

 そう言うと、王は強引に俺を引っ張り小さな藪の中に押し込みやがった!お前!何しやがる!と思う暇もなく、王が小さな体をさらに小さくしながら押し込んできた。や、やめろ、つぶれる、やめろ、やめろ。

 

「赤石君、静かにして……」

 

 俺が思わず声をうめき声を漏らすと、王はそれを見咎めてきた。じゃあ、体重かけるのはやめろ。お前小柄とは言え、人間一人分だからかなり重いぞ。

 思わず王を指差し、お前が悪いとアピールすると、王は体重のかけ方を変えるものの、何も言わずに体を小屋の入り口の方へと向けた。おい、謝罪しろ。

 王が態勢を直したため、僅かに負担が軽くなり、なんとか呼吸できるようになった。うーむ、改めて考えるとこの態勢は辛いな。というか密着しててとても嫌だ。早く他クラスの生徒はどっかに行ってくれないかな。と思っていると、崖上の梯子の方から声が聞こえてきた。

 

「か、葛城さん、ここ行くんですか!なんか、この梯子グラついてて、危なそうですよ」

 

 葛城か!こりゃまた大物が来たな!井の頭、ナイスだ。

 

「弥彦、よく見ろ、一見錆びているようにも見えるが、着色されているだけで梯子自体は新しい。梯子の掛け方、崖下に見える小屋との距離、ここまでの茂みの具合から考えてもよく整備が行き届いているのは分かるはずだ」

 

 ほえ~、すげぇな、よくそんな細かいところまで見てるな。というか、俺は錆びているように見えることに気づかなかったよ。いや、まあ、3Dマップ調べた感じからして大丈夫だと思い込んでいたが……本当に錆びていたら危なかったかな。

 

「さ、さすがです、葛城さん」

 

 弥彦と呼ばれた男の声を聞くと、葛城は溜息をつき、「お前はもう少し……いや、後でいいか」と口にしていた。その後、葛城が梯子を叩くような仕草をした後、慎重に、けれど素早く梯子を降ってきた。俺と王より素早いのに安定感がある降り方だ。

 葛城が降りると、それに続き弥彦、確か姓は戸塚だったかな?戸塚も降りてきた。おう、緊張してきたぞ。ステルス、ステルス、と念じていると、二人は小屋へと近づいていった。やっぱり最初は小屋だよね。そして小屋で満足したら、そのまま周囲を探索せずに崖の上へ戻って欲しい。

 

「見て下さい!葛城さん、ここにもスポットが!」

 

 戸塚が小屋の入り口にあるスポットを発見したようだ。しかし『にも』か、こりゃ、やっぱり洞窟はAクラスが確保したと思っていいかな?

 

「…………よりにもよって、入口か」

 

 葛城はそう言うと、周囲と、特に崖の上を念入りに何かを探るように見ていた。やべぇ、気づかれたか?……それとも警戒しているだけか?

 

「葛城さん?」

 

 戸塚がそう聞くと葛城は手で顔を少し抑えたあと、何かを決めたような顔つきになった。

 

「弥彦、このスポット、取るぞ」

 

「ええっ!いいんですか!あの、さっき洞窟では――いえ、その、葛城さんはリーダーですから判断には従いますが……」

 

 なんか重要な情報がゴロゴロ出てきたぞ。Aのリーダーは葛城なのか?あ、いや、これは指導者という意味のリーダーであってスポット占有者という意味のリーダーとは限らないか?ああ、いや、でもスポットを取るのは占有を行うリーダーカードが必要だから……

 つまり、これはもしやこの二人のどっちかが占有者の意味でのリーダーなのか!こりゃあ収穫だぞ!しかも、この藪の中からはスポットの装置が丸見えだ!どっちがリーダーか分かるぞ!よし、王、よくやったぞ。さっきは良く分からん所に俺を押し込んだと思ったが、結果オーライだ。

 …………ん?もしかして王のヤツ、これを予想していたのか?ふと近くにいる王の顔を見ると、こちらに圧倒的なドヤ顔を見せつけていた。え?マジで。お前、あの状況でよく思いついたな……これは、お前、アレだ。うん。ドヤ顔していいよ。うん。本当に凄いよお前。

 

「し、しかし大丈夫でしょうか、ここは結構視界も通りますし、何より崖上からは丸見えですよ」

 

 丸見えもなにも、崖の上には井の頭、そしてお前らの近くの藪には俺と王がスタンバイしてるぞ。

 

「それなら大丈夫だ。この小屋まで俺達は洞窟経由で最短距離を進んだ。おそらく理論上の最短時間で来たと言える。浜辺で時間を浪費しているCクラスとDクラスは勿論、Bクラスも動きと方向から考えてここまで来るにはどんなに早く斥候を送ってもあと十数分はかかる。一度占有すれば、後は素早く塔に向かったメンバーと合流し、ここに洞窟から追加の人員を送れば確保は容易だ。Bクラスも近づけまい。しかし、今ここで占有を怠れば他のクラスに付け入る隙を与える。初動の今が最大の好機と言えるだろう」

 

 理論上最短なんて言葉を簡単に使うんじゃあない。俺は1時間ぐらいかけてちゃんと軍事行軍プログラム作って演算したぞ。

 

「そうですよね!他のクラスにAクラスの俺達が負けるはずありませんよね!」

 

 戸塚が自信あり気に言うと、葛城は苦笑し、その大きな体で崖側から装置を隠しながら懐からカードを取り出し、戸塚に渡した。そして戸塚は思ったより素早くカードを使い、装置にアクセスしていた。俺はスポット占有の方法をちゃんとは知らないが、恐らく今の行動でスポットが占有されたのだろう。これは決まりですな!Aクラスリーダー!判明!棚ぼた!

 

「弥彦、行くぞ、塔側のメンバーを待たせるのも忍びない」

 

 葛城はそう言うと、降りてきた時と同じように、素早く梯子を登っていった。

 

「はい!葛城さん!」

 

 戸塚の声音は自信と安心感に満たされているように感じた。なんか悪い事をした気分が少しだけした。ごめんな。でも俺のポイントは全てに優先されるのだ。許せ。

 

 

 二人が崖上に登り終えてしばらく経つとカラスの鳴き声が聞こえた。よし、大丈夫そうだ。俺と王は顔を見合わせた後、(やぶ)から出て小屋へと向かった。そして入り口にあった装置を念のため確認すると、やはりAクラスの占有マークが刻まれていた。当然、先ほど見た時は無かったものだ。

 

「赤石君、やっぱり、さっきの人がリーダーだったみたいだね」

 

 ドヤ顔だが、今日は、いや、あと3時間、ああ、いや1時間……いや無理だ、特別にあと5分間だけ許そう。

 

「そうみたいですね」

 

「このことを桔梗ちゃんや平田君に報告した方がいいよね……?」

 

 ……俺がサバイバル経験者という風に見られている現状、俺の所属班がAクラスのリーダーを知ったという情報はない方がよい。勿論、ポイントが欲しいのでこちらのリーダーとなる人物には伝える必要があるが……まあ、誰になったとしても実質的な指導者は平田だし、平田にそれとなく伝えれば問題はないだろう。

 

「ええ、俺もそう思います……ただ、Dクラスは少し纏まりに欠けますからこの話をいきなり持っていくと混乱を呼ぶかもしれません。そこで提案なのですが、この情報を一旦俺に預けてくれませんか?試験の終わりに近くなったら平田君に伝えようと思います。勿論、王さんのおかげで得られたということも報告するつもりです。どうでしょうか?」

 

 この提案は、王はクラスのカリスマリーダーである平田からの高い評価を得られ、俺はクラスで目立たなくてすむwin-winの関係だ。まさか断ることはあるまい。しかし、そういった俺の考えとは裏腹に王は何かを思案し始めた。おい、即答しろや!

 

「…………、えっと、赤石君、私はっ――、……ううん、……うん、赤石君の言う通りだと、……思うよ」

 

 めっちゃ悩んでたようなんですが、大丈夫でしょうか。というか、アレ、何これ、俺なんか変な事言った?俺、また何かやっちゃいましたか~、って、煽るべきか?いや、何か、王の顔は結構真剣だ。止めておこう。今日は王の表情が全体的にいつもよりキリリとしているな。いや、まあ結局ドヤ顔に収束するからあんまり変わらないけど……

  

 

 葛城達の調査後の小屋の変化を確かめた後、俺と王は梯子を登り、(やぶ)の中のに隠れていた井の頭と合流した。ちなみに臆病者である俺と王は何度も、それはもう何度も周囲を確認し、ゆっくりと梯子を登っていたためか、途中から何度もカラスの鳴き声が聞こえてきた。はよ来いという井の頭の強い意志を感じた。

 

「二人とも無事で、よ、よかったです」

 

 井の頭の第一声であった。わりと普通である。

 

「うん。心ちゃんも大丈夫だったんだね」

 

「う、うん、ずっと藪の中にいたから見つからなかったよ……美雨ちゃんは、何か良い事があったの……?」

 

 友よ、さすがだ。鋭いな。あ、いや、王が分かりやすく、『私、凄い事しました』みたいな顔しているから、誰でも分かるか……

 

「う、……ううん、と、特に何も無かったよ」

 

 王は俺の方を少し見た後、口を噤んだ。どうも、さっきの約束を守ってくれたようだ。なんだかんだで、彼女も中々真面目な少女である。まあ、別に井の頭に言っても良いのだが……はて、どうするか、井の頭のポジションからすると知らなくても良いハズ、いや、『知らない人』であるとされた方が良いか。

 とりあえず、今は王に合わせておいて、明日、井の頭と事前に計画していた集合時間の時にAクラスのリーダーについて伝えよう。その時、井の頭から『王によってAクラスの情報がもたらされる必要性』があるかどうか聞こう。必要ないならこのままで。必要だと井の頭が言ったら、改めて適当に理由を付けて三人で行動し、そのときに王に『井の頭にも同じ班員として情報共有が必要だと感じた』とでも言えばいいだろう。

 俺は王相手に、井の頭には秘密だぞ、という意味を込めて軽く頷き、次の目標について話すことにした。

 

「お二人とも、次の探索ですが」

 

 と、言いかけたところで、井の頭がこじんまりと手を挙げ俺の言葉を遮った。はて?と思い見ると、井の頭がビクビクしながら、話始めた。

 

「あ、あの、赤石君。少し言いたいことがあって、い、いいですか……?」

 

 うむむ。友がこうして手を挙げるということは、何か大きなことがあったのだろう。なんだろう?

 

「ええ、勿論ですよ、何かありましたか?」

 

 俺がそういうと、井の頭は若干、恐怖感を抑えたような表情になった。

 

「は、はい、あ、あの、赤石君たちの所に降りた人は、多分Aクラスだと思います。何だか、Aクラスについての事とか戦術?みたいなことを言っていたので。それと、その人たちが来た方向からさらに三人の人があっち側にある塔みたいな物がある方に走っていきました。赤石君たちのところに二人が降りた後です。その後、また同じところから、今度は女の子が一人、私たちが休んだ川辺の方に向かっていきました……私が見たのは以上の6人です」

 

 え、えっと、何というか、ほ、報告ありがとです。君は観測手か何かなのかな?

 しっかし、どうするかなー?一応、葛城達が来た方向について井の頭に聞いたところ、「あっちです」と指差した方向はまさしく洞窟のスポットがある場所だった。つまり葛城率いるAクラスは洞窟確保が濃厚だ。

 そういえばさっき戸塚が洞窟が云々とか言ってたな。何かひと悶着あったのかな?現状だとそれについての深い考察はできないが……少なくとも洞窟方面から葛城・戸塚以外に4人が現れ、内3人は走って塔のスポットへ、そして残る1人(女子らしい)は川辺かー。

 川辺側はDクラスの陣地になるっぽい気がするから、あんまり行ってほしくないな。というか、一人とはいえそちらに歩哨がいると川辺に行きにくいな。この後は、塔を偵察してから川辺で赤点三人衆と合流するか、もしくは三人衆をスルーして平田本隊と合流するのもアリかと思っていたが……

 

「あ、あと、崖下を探索していた二人組も塔の方へ行きました……」

 

 おっと、追加情報サンクス。葛城たちも塔か……?んー、どうすっかなー。少なくとも5人が塔にいる。うち三人は先行している。つまり、こちらから仕掛けるのはおそらく不利だ。となると、塔は避けたいが、かといって、洞窟前はAクラスの陣地ができている可能性が高い。川辺方面には謎のAクラスの歩哨が1人立っているから何となく戻りにくいし、それに時間からしてもあと一箇所くらいは偵察したいところだが……

 あー、こっからだと滝壺スポットに繋がる裏道がちょうどAクラスの哨戒圏の盲点になるな……よっし、いっちょBクラスを見てきますかね!

 

「井の頭さん、貴重な情報ありがとうございます。俺の見立てになりますが、だいたい、ここまでの地図を書くとこんな感じになると思います」

 

 そう言いながら、木の棒を使い土に地図を書く。平田、川辺の休憩地点、洞窟、現在地、崖下、塔を記入していく。

 

「船が一周するときに滝が見えました。正確な位置は分かりませんが、周囲の地形から考えるとこのあたりだと推測できます」

 

 俺は暗記した滝の正確な位置を地図に追加する。まあ、地図自体が汚いので、あんまり正確でも意味は無いのだが。

 

「そこで、この滝を目指したいと思います。水源に近いですし涼しいと思います。お二人も良いでしょうか?」

 

 俺の提案を聞くと、井の頭は頷き、王はなぜかドヤ顔をしながら木の棒を持ち地図を指した。なんでお前は当然の権利のようにドヤ顔をするのか……

 

「赤石君、地図書くの、あんまり上手じゃないね……私、結構得意だけど、教えようか?」

 

 あ゛ん゛?

 

 

 

***

 

 

 

 堪忍袋の緒が切れそうになりつつも、俺たちラーメンチーム(このチーム名は正しく機能している気がしないため、今後は「ドヤ顔を許さない会」に変更したい)は、裏道を利用し滝壺スポットを見下せる高所へと向かっていた。

 さきほどは沿岸の近くだったこともあり標高差があるため、裏道も今までのものよりかは険しく、途中王が疲れて休憩を要求してきた。一瞬、「ドヤ顔を許さない会」として厳粛な処分を下すべきか悩んだが、まあ、あんまり人の苦手な面でイビるのも良くないかと思い、2度ほど休憩をはさんだ。

 俺がお奉行様だったら、「貴様、他の島でもドヤ顔とマウントを繰り返していたようだな、同情の余地なし」と言う所だが、別に俺は奉行でも鬼殺しを生業とする人でも無いので止めておいた。……一瞬、もしこの仮定がなりたったら打ち首から助けるのは井の頭だなとか思ってしまった。いや?どっちかと言うと櫛田か?

 

 休憩中は、休憩が必要な王がなぜか人一倍元気にマウント取りをし、逆に休憩が必要ない井の頭は必死に息を整えていた。これ、一見すると井の頭のために休憩しているように見えて、なんかもう駄目だった。

 

 休憩後に滝の上流にあたる小川を無事見つけたため、裏道から外れ小川を慎重に下っていく。もしかしたら、滝壺にいると予想されるBクラスが斥候を滝上に配置している可能性が頭を過ったからだ。もし俺が一之瀬様と同じ立場なら斥候を送ると思う。まあ、これは俺が高所を取られると不安になるからかもしれないが……

 

「あ、赤石君、下にいます……」

 

 井の頭が小さな声でそう伝えてきた。彼女が指差した方向を見ると、滝壺に多くの人影が見えた。Bクラス発見!……いや、まだ厳密にはBとは確定していないが、状況的にBだと思う。

 

「井の頭さん、ありがとうございます。もう少しだけ近づけそうですか?」

 

 まだ、かなり距離がある。というより、近くを見回してもBクラスはいないし、井の頭も反応していない以上、滝上にはいなかったのだろう。うーん、俺と一之瀬様はやっぱり思考回路がだいぶ違うみたいだ。まあ、いないのならラッキーだ。これで一方的に滝上から滝壺スポットを観測できるぞ!今度は井の頭も一緒だ。

 

「ええっと、少しだけなら、大丈夫だと思います。大きな音を立てなければ……ですけど」

 

 許可が出た。俺達三人は徐々に前進し、滝の下を見渡せる絶好のポイントを確保する。うむ、俺の視力でも結構見えるぞ。いち、にい、さん、うーん、一杯いるぞ。ん?あの特徴的な長髪に美少女オーラ、あれは一之瀬様か?って、あれ、なんか集まり始めたぞ……あれ?俺達バレた?偶々だよね?怖いんだけど……

 

「な、なんだろう?」

 

 王も不思議なようで、小声で疑問を呈していた。チラりと井の頭を流し見るが、……うーん、いつも以上に表情が読めんが、かなり集中しているように見える。邪魔しないでおこう。

 

「…………あ、」

 

 あの、井の頭さん、いきなり呟かないで下さい。あなたがやると少し怖いです。大丈夫だよね?Bクラスにバレてないよね?

 

「……あ」

 

 何を思ったのか王が井の頭の物真似をした。おい、馬鹿、やめろ。今は真面目にする時だぞ。そう王に対して内心注意しながらもBクラスを観察すると、

 

「あ」

 

 と、俺も思わず声が出てしまった。いや、違う、これは笑いを取りたいのではない。純粋に凄い場面を見てしまったからだ。まさか一日にして二度このような場面を見るとは……

 

 なんと、Bクラスの占有行為のようなものを目撃してしまったのだ。具体的に言うと、彼らはスポット装置に対して円陣を組み外部からの視界を防いだ。そして一之瀬様らしき人を含む4名が装置の対して同時に手を伸ばして何かをやっていた。遠すぎて顔も手もはっきりとは見えないがおそらく状況から考えて4人のうちの誰かがカードキーを持っていたのではないだろうか。

 まさかBクラスのリーダーがこんな序盤から4人に絞られるとは……まあ、ここからだと顔が分からないため絞れていないが……一応、一之瀬様もリーダー候補であるというのが分かっただけでも収穫か。あ、あと、今の時間からBクラスのスポット更新時間が概ね分かったな。

 運も大きかっただろうが、高所ゆえ、円陣の効果を無効化できたことも大きいだろう。地の利を得たぞ!思わず王を見ると、驚いた顔をしつつもこちらをじっと見てきた。

 分かるぞ、お前は今こう言いたいんだろう、I have the high groundと、つまり地の利だ。うーん、しっかし、今の4人のうち誰がカードを突っ込んだかまでは分からなかったな。やはり、リーダーは一之瀬様だろうか。何だって彼女は、『Bクラスにバランスをもたらす者』だ。なんか闇落ちしそうな渾名だな。無いとは思うが、もし闇落ちしたり過去に闇があったら『選ばれし者だったのに!』と言うことにしよう。

 

 ふざけた事を考えている間も占領行為を終えたBクラスは活動を続けており、各々が一之瀬様の指示で動き陣地の設営をしていた。皆がテキパキと動いており、Dクラスとの差を感じた。うーむ、やはり一之瀬様率いるBクラスは強い。

 

 

 一通り滝上での偵察活動を終えた後は、時間もだいぶ経っていたために裏道を使い平田本隊へと合流した。川辺を迂回するルートなため、Aクラスの歩哨に会うことはなかった。また、戻るとき念のため王に井の頭の化け物視力と鳥真似能力は秘密だと伝えておいた。一瞬キョトンとしていたが、井の頭が目立つと悪いし、と伝えておくと、納得していたようだった。櫛田にも秘密だからな!

 

 

 

 

 

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