――贄は俺以外、贄は俺以外、贄は俺以外、贄は堀北と綾小路……
頭の中でそう念じ続けながら、Cクラスの拠点付近で贄二人とともに隠れる。隣には目の前の光景を見ても無反応の綾小路と、さらにその隣には、目の前に広がる光景に驚く堀北がいる。ちなみに俺も結構驚いている。まさか、龍園がそんな方法で邪神を封じるとは完全に予想外だ。まさか、クラスポイントを捨ててまで邪神を鎮めるとは。
「赤石、こんな状態だと難しいとは思うが、何か分かる事はあるか?」
茫然としている堀北を尻目に綾小路がそんな質問をしてきた。分かるも何も、分かり切ってるだろ。龍園は邪神を封じるために、そして、邪神に支配されているクラスメイトの慰安のために、ポイントを全て使ってパーティーしているのだ。
「この試験で得られるポイントよりも……いえ、憶測では何とも言えませんね。聞くところによると、龍園君はなかなか変わった人だという話ですし、俺達とは考え方が違うのでは?」
思わず、龍園の目的である宗教的儀式、邪神封印祭について言ってしまうところであった。まあ、300ポイントで邪神が封印されるなら安いものだと考えたのかもしれない。ケチな俺からすると考えられないことだ。彼も思い切った事をするものだな。
「確かめに行きましょう。彼らがどんなつもりでこんなことをしているのか」
堀北はそう言うと、Cクラス本陣に向けて歩き出してしまった。それを見た綾小路は一瞬こちらを見たあと、堀北に続いた。あばよ、贄共。お前らとはここでお別れだ。そう思い、そのまま草陰で隠れながら先行した二人を観察していると、何を思ったのか綾小路が何かを堀北に吹き込み、堀北がこっちを見た。馬鹿!何見てる!俺の居場所がバレたらどうするんだ!死ぬなら二人で死んでくれ!
しかし、俺の思いは届かず、綾小路のヤツが引き返してきた。こっち来るな。
「赤石、堀北が一緒に来いって言ってるぞ」
いつもの何を考えているか分からない顔で、心底どうでも良さそうに告げてきた。
「綾小路君、俺は人前があまり得意ではないですし、他のクラスの人たちに囲まれるのはどうにも自分には合わないような気がします。お二人の邪魔になってしまったら申し訳ないですし、ここでお二人を待とうと思います」
「あー、分かった。一応、堀北には知らせるが、何が起こってもオレは責任を取りかねるからな」
俺もお前がCクラスでどんな恐ろしい目にあっても責任を取らないからな。
綾小路が堀北の方へ向かい何かを告げると、キッと堀北がこちらを睨んできた。0.3椎名だ。ちょっと怖いけど、1.0椎名よりはマシだ。俺は梃子でも動かぬぞ。
さっさと二人でCクラスへの最後、いや最期のデートを楽しみな、と思っていると堀北が戻ってきた。こっち来るな。
「赤石君、ベースキャンプで話したことをもう忘れたのかしら?私は、Cクラスの偵察に一緒に来て、その上で協力するように言ったはずよ。そして、貴方は私に従うと約束したはずだわ」
いや、約束はしてないだろ。というよりサバイバルの知識を活かすという名目なら、ここから観察するだけで十分だろ。
「ええっと、堀北さん。仰りたい事はよくわかります。しかし、人には得意不得意、向き不向きがありまして……俺はお二人のように勇敢でも優秀でもありません。ここで残って、その上で、お二人がCクラスの本陣に入っている間はCクラスの観察をして何か情報を得られれば、俺なりに役に立てるのでは、と思っています」
俺は安全地帯、お前らは贄、これが正しい
「櫛田さんの命令は聞けても、私の指示は聞けないという事からしら?」
いや、そういう話じゃないよ。お前らが邪神の生贄になるって話をしているんだよ。
「そ、そういうつもりは……無いのですが、すみません。ただ、今の堀北さんは冷静ではないように感じられます。果たして今の判断は正しいのでしょうか?」
堀北は今も普通にいつも通りだけど、少し焦っている感じがしなくもないので、適当な事を言って煙に撒けないか試してみる。本当は俺も、優秀なDクラスのメンバーである堀北に逆らいたくはないのだ。でも、龍園がここまでパーティーをやらなくてはならないほどの邪神の恐ろしさを見ると、やはり、会いたくないと思ってしまうのだ。許せ。そして、俺の代わりに贄となれ。
「今、私はクラスを率いる立場としてやるべきことが山ほどあるわ。貴方一人に時間をかけている暇はないの。場合によっては実力行使もせざるを得ないわね」
実力行使など!俺は一月前に受けている!そう、お前と話もした、あの日!お前に会う、数分前にな!
「不快に感じたのなら謝りますが、……先ほどにも言った通り、人には得意不得意が――」
「謝罪は必要ないわ。来なさいと言ったのよ」
俺がすべてを言い切る前に、堀北は俺の腕を掴み上げながら鋭く言葉を放った。痛いと思う暇もなく、そのままCクラスの方へ引っ張っていく。なんだこれ、さては綾小路のヤツ謎技術を堀北に伝授しやがったな!非難を込めて綾小路を睨むと、まるで、いやいや俺に言われましても、みたいな雰囲気を出しながらこちらを見てきた。いや、お前も悪いぞ。
ズルズルと堀北が俺を引っ張りCクラスの方へと連行していく。マジで止めろ。温厚な俺でもそろそろキレるぞ。
「あの、堀北さん、放してもらえませんか?」
そういった時には既に、Cクラスの陣中に入っていた。クソ、堀北のせいで結局陣内に入ってしまった。もう逃げるのは無理だが、最悪の事態に備える必要がある。つまり、バックステップできるように堀北に解放してもらう必要がある。
「これに懲りたら、その非協力的な態度は改めることね。あの櫛田さんでも、こういった時は私に最低限の協力はするはずよ。……貴方が犬らしく、主人に忠実なのは十分理解したわ。けれど、櫛田さんがここにいたら私に協力するように言ったでしょうね。……たとえ、彼女が私に嫌悪の感情を抱いていたとしてもね。貴方がしていることは主人の命令を誤解している愚かな犬の行動よ。別に私にも尻尾を振れ、とまでは言わないわ。ただ、クラスメイトとして能力の見合う貢献をしなさい」
そう吐き捨てるように言いながらも、手を放してくれた。よし偉いぞ!そのままお前だけ邪神の贄になれ。俺は一人助かるから。お前が
堀北の死の予兆を見ていると、ひとりの男子生徒が寄ってきて龍園が呼んでいる事を伝えてきた。その男子生徒についていきながら堀北と綾小路の会話を適当に聞き流す。そして、ついに龍園と相見えた。
***
「なんだ、こそこそ嗅ぎまわっている奴がいるって話だったが、お前だったか、鈴音」
ビーチベッドでくつろいでいる龍園の第一声はそんな言葉から始まった。その蛇のような視線は堀北だけ捉えていて、俺と綾小路のことは意識していないように見える。
うーむ、龍園は視野が広い人だから故意に集中しているのだろう。すごい集中力だ。今までの観察から俺なりに龍園という人を分析したのだが、彼は状況によって対象への力の入れ方をかなり変えるタイプだ。危険な相手や障害となる目標に対して意識を向ける力が強い。
つまり、龍園はかなり堀北を警戒しているようだ。何か彼の琴線に触れたのだろうか。単純に暴力事件の時に矢面に立って戦ったのが堀北だからだろうか。あの時は綾小路も一緒にいたと思うが……
あー、でも、初対面だとなんか綾小路って堀北の部下みたいな雰囲気出すから勘違いしてしまったのかもしれない。うーん、たぶん、めんどくさがり屋の綾小路が故意にやっているのだけど……まあ、堀北は承認欲求が高そうだし、綾小路の功績が堀北の分になるのは良いのかもしれない。win-winの関係だ。やっぱり堀北と綾小路は相性がいいな。まあ、路上でする仲だしな。
「随分と羽振りがいいわね。かなり豪遊しているようだけれど」
堀北としてポイント事情が気になるようだ。まあ、普通はこんな事しないよね。邪神の存在が英雄に決断させたのだろう。
「見ての通りだ。俺達は夏のバカンスを楽しんでいるんだよ」
うう、やばい。裏事情を知っているこちらとしてはなんか悲しくなってきた。頑張れ、龍園、お前ならできる。
「どうやら、貴方はこの試験のルール、いえ本質を分かっていないようね。愚かだわ」
しかし、ここで堀北、得意の精神攻撃だー!やめてさしあげろ。
「愚か?俺はそもそも努力が大嫌いなんだ。お前らみたいな雑魚が必死こいて100だか200だかの下らないポイントのために汗を流す。惨め過ぎて笑えてくるぜ」
されど、龍園も挫けない。俺からすると努力人間である龍園の演技力の高さに涙が出そうだ。俺も何時かは龍園・井の頭レベルの演技力を身につけたいものだ。
それから、二人の舌戦は続き、内容は前回の事件のことや伊吹何某のことまで飛び火した。龍園曰く、ヤツの独断行動らしい。本当か?怪しいぞ。
そして、話にひと段落ついたところで堀北が締めに入ろうとした。
「警戒してここまで足を運んだのだけれど、無駄だったようね。一之瀬さんは貴方のことを過剰評価していたようだわ」
一之瀬様が龍園を評価していたか。なるほどな。やはり優秀な者同士は互いを理解しているのだろう。
「一之瀬か、確かにあの女は大したことはない。まあ、不良品のお前らよりは遊びがいがありそうだがな」
理解していなかった。いや、まあ、龍園の優秀の定義が厳しいのかもしれない。あ、それと、内心認めているけど嘘を吐いている可能性もあるか。
「ただ、そうだな、鈴音、お前がどうしても俺と遊びたいようなら、特別に相手をしてやってもいいがな。専用のテントくらい用意するぜ」
そう言って、龍園はビーチベッドから起き上がり、堀北に手を伸ばした。おいおいおい、これは綾小路さんが怒りますよ。マズいですよ。
「不快よ、猿山の大将気取りはいいけれど、人間相手に動物の常識が通じるとは思わないことね」
しかし、堀北は素早くその手を叩き落とした。綾小路の出番はないようだ。
「おいおい、鈴音、暴力行為は禁止だぜ」
さっきから煽られたのが気に食わないのか、ここぞとばかりに龍園の反転攻勢だ。
「あら?私はただ汚い虫が寄ってきたから叩き落としただけよ」
されど、やはり堀北、口が悪い。というより、龍園と堀北はなんか相性いいね。お前ら永遠に浜辺でラップやってろよ。俺と綾小路は適当なところで帰るから。
「クク、この島の夜は暗い。お互い、気を付けた方がいいだろうな」
ちょ、待てよ。今の言い方襲うって意味だろうけど、それはお前が直接って意味だよな。邪神を使うって意味じゃないよな。もし後者なら、堀北が孤立している時にやれよ。決して堀北がDクラスのベースキャンプにいるときに邪神を降臨させるのは止めろよ。
「心配なら不要よ。あなた程度に遅れはとらないわ」
ふむ、堀北はやはり龍園だと判断したか。というか、邪神の存在を知らないよな。……邪神の存在を知っているのはCクラス以外だと俺だけかもしれない。
「そのわりには随分とビビッてやがるみたいだな。お供を二人も付けて、一人じゃ怖くて来れなかったか?」
そう言って、龍園は初めて俺と綾小路に目を向けた。向けないでいいよ。
「確かお前は金魚の糞の綾小路で、お前は……いつぞやの間抜け野郎じゃないか。久しぶりだな」
ククと器用に笑いながらも、俺に話しかけてきた。え?龍園、俺の事憶えてたの?というか、あれ、実は俺今まで冗談で俺の事を助けてくれていると思っていたんだが、本当に俺の事を憶えていたということは、もしや、本当に俺の事を考えてくれていたのだろうか?龍園みたいな怖いヤツに名前を憶えられているのは怖いけど、でも、ちょっと嬉しいぞ。
龍園、お前、本当に俺の為に頑張ってくれてたんだな。勿論、邪神を封じるのはこの学年、いや学校全体の願いだから全てが俺の為ではないというのは分かっているが、少しは俺のことも意識してくれていたのではないだろうか。龍園ありがと。本当にありがとう、それしか言う言葉がみつからない……
「え、えっと、どうも」
一応感謝しておこう。本当はもっとちゃんと頭を下げたかったが、それをやると堀北が怒りそうなので止めておいた。
「鈴音、良い事を教えてやる、この間抜け野郎がここに来た理由はお前のためでも、クラスの為でもない」
おい、龍園、やめろ。真実を暴露するんじゃない。黙ってろよ馬鹿。さっきの感謝は取り消しだわ。お前、本当に黙ってろ。黙って邪神封印に一生を捧げてくれ。
「勝てないと分かってこちらを混乱させる気でしょうけど、その手には乗らないわ、行くわよ綾小路君、赤石君」
そういって堀北は踵を返し、Dクラスのベースキャンプへと歩き出した。ナイス!堀北。俺と綾小路もその後に続いた。しかし、ここで龍園が俺に語り掛けてきた。
「……赤石か、憶えたぞ。一つ教えておいてやる、赤石。ひより目当てで来たんだろうが、あいつはもうリタイアした。残念だったな」
マジかよ。龍園やっぱりお前は英雄だよ。まさか邪神を鎮めるどころか船に幽閉するとは……これは伝説的な功績と言えるだろう。龍園、万歳。ううう、感激で体が震えてしまう。
「そ、そ、そうですか、それは、教えて頂き、ありがとうございます」
打ち震えながら、感謝する俺を見て、龍園は心底見下したような目でこちらを見た。これはアレか、お前も邪神封印くらいできるようになれ、という視線だろうか?俺にはとてもできない。
「どこまでも間抜けな野郎だ。鈴音、飼い犬を連れてくるのは良いが、次はもう少しマシなのを連れてこい。でないとDクラスの層の薄さに、こっちが泣けてくるぜ」
俺って、そんなに犬っぽい顔してるの?違うよね。堀北と龍園の口が悪いだけだよね。そう思っていると、堀北は振り返る事も無く龍園に答えた。
「彼は
こいつ、今、『私の』の部分を強調しやがった。本当にそろそろ止めといたほうがいいぞ。倫理観低そうな龍園や、なんか感情の機微に疎そうな綾小路はいいけど、櫛田や平田が聞いたら傷つくぞ。注意した方がいいかな?あー、でも、堀北が平田や櫛田と少しだけ仲が悪い状況の方が俺的には得かな。二人には悪いけど、止めておくか。
***
龍園の陣から離れると、綾小路と堀北が会話し始めた。どうも会話を聞いたところ、堀北はCクラスが飢え死にすると思っていたようだ。はて?と思っていると、綾小路が龍園の戦略、つまりポイントを使い切ったら全員リタイア作戦について話していた。堀北はそれに対して愕然としてこう言った。
「……正しい考え方ではないわ。ただ愚かなだけ。龍園君には分からないでしょうけど、物事には絶対に守るべき基礎が存在するのよ。奇抜な手と考え無しは、まるで違う事よ」
確かに仰る通りだが、しかし、物事には『絶対に守るべき基礎』すら変えなくてはならない重大な問題、というものがあると、俺は思う。つまり邪神問題だ。まあ、龍園はやり過ぎ感はあるけど……でも、全員リタイアすれば問題ないか。ポイントはマイナスにはならないんだし。
しかし、アレだな。堀北ってやっぱり根がクソ真面目なのか、肝心な所で発想力がたまに落ちるな。自慢だけど、今回は俺は龍園の戦術に関しては読めてたぞ。自慢だけど。まあ、邪神の事を知ってるとか龍園の人柄をよく知っている、という点もあるから、俺の方が事前情報的に優位であったこともあるとは思うが……
うーん、杓子定規すぎるって言えばいいのかな?ある意味長所なのかもしれないけど……彼女がリーダーカードを持っているのは少し不安になってきたな。いや、まあ、そのあたりは彼氏の綾小路が何とかするのかな?
浜辺を去るとき、綾小路がぼそりと何かを呟いたので気になり綾小路の方を見た。――そして即座に、見るんじゃなかったと後悔した。なんと少し笑っていたのだ。コイツの笑い声を聞いたことは何度かあるが、表情をはっきりと笑顔にしたのは初めて見た。ぶっちゃけ怖い。0.8椎名だ。近年の1.0椎名未満では最大の怖さだ。何笑ってんだよ。怖いよ。笑うときは事前に今から笑うと宣言してから笑ってくれよ。
綾小路の思わぬ怖さにビビった後、森に入ったところで唐突に堀北が面倒な事を指摘してきた。
「赤石君、さっき龍園君が言った言葉に何か心当たりはあるかしら?」
おい、そこは追求するな。俺の心の傷だぞ。とりあえず、すっとぼけるか。
「龍園君ですか、彼は努力を否定していましたが、個人的には努力すべきだと思います。俺は平田君や堀北さんの考え方の方が正しいと思います」
はい、じゃあ、これで終わりね。
「……そこではないわ。龍園君が去り際に言った、『ひより』という言葉についてよ。聞いたところ、人名のようだけれど、赤石君の知り合いかしら?貴方にCクラスの友人がいたとは聞いてないのだけれど。もし内通行為などがあった場合は厳しく処理するから、そのつもりで答えなさい」
そう言って、堀北は質問を開始した。マジで邪神の話は止めろ。名前を言ってはいけない本の人だぞ。全盛期には本の印を打ち上げたり、名前を呼ぶとその場に現れるなんて縁起でもない話もあるぞ。
「まず、『ひより』という名に聞き覚えはあるかしら?」
じっと、空気が湿ったような気がした。なんか綾小路がこっちをガン見している。いや、お前は関係無いだろ。
「えっと、たぶんですが、椎名ひよりさんのことですね。Cクラスの生徒で、俺の、なんて言ったらいいんでしょうかね?……友人と言うべきでしょうか」
まあ、椎名曰く俺は友人らしい。邪神の友人とか字面がヤバいわ。
「Cクラスに友人ね……別にそれは否定しないわ。貴方以外にも他クラスに友人を作っている生徒はいるし、実際、櫛田さんもCクラスに沢山の友人がいるらしいわね。一説によると飼い犬は主人に似るそうね」
なんか今日、今までで一番堀北と話をしている気がする。
「ええ、俺も得難い関係を得られたと思っています」
本当に得難い関係だよ。にぎにぎしてくる関係ってどんな関係だよ。一生得たくなかったよ。
「――ただ、龍園君はまるで貴方を知っているようだった。貴方は一部の能力は平均以上にあるものの、飛び抜けて優秀ではない生徒よ。なぜ、Cクラスの暴君とも言える龍園君が貴方の事を知っていたのかしら?その背景を詳しく知りたいわね」
コイツ、さては俺の事をスパイだとか思っているだろ。てか、綾小路も何か喋れよ。何で無言でガン見してるんだよ。
「前、椎名さんと話していた時に龍園君に話しかけられまして、その時一方的に彼の事を知ったんです。ただ、俺は、その、龍園君ってちょっと威圧的なところがありますよね?それで、怖くて、名前を言わなかったんです。まさか自分の事を憶えていたとは思いませんでしたが……そういうこともあって、本当は龍園君の前に行きたくはなかったのですが……」
お前のせいで行くことになったんだぞ、とアピールするが、それを堀北はスルーし、さらに質問を続けた。やっぱ神室の親族だわ、コイツ。
「そう、大体わかったわ。つまりクラスを裏切っているわけではないのね」
疑う気持ちは分からなくはないが、俺は結構義理堅いからな。最低でも100万ポイントぐらいないと裏切らないから安心してほしい。
「勿論です。平田君や櫛田さん、他にも最近では軽井沢さんや篠原さんたち、俺みたいなヤツの友人になってくれる優しい方がDクラスには多いですから、裏切ったりなんかしませんよ」
さりげなく軽井沢の名前を出し、武威を示す。俺は軽井沢軍団の傘下だぞ!オラ!これ以上舐めた口利くと軍団の皆様を招集するぞオラ!という気持ちで堀北を睨む。
「確かに、忠犬の貴方が主である櫛田さんを裏切ったりはしないわよね」
しかし、孤高、もとい、ハイパーボッチの堀北には効果はなかった。ちゃんと女子カーストに参加して下さい。
それから、堀北と綾小路がBクラスにカチコミするという馬鹿なことを抜かしたので、適当に理由を作り即座に辞退してきた。今回は堀北にはあまり引き留められる事なく、抜けることができた。どうも、Cクラス偵察で俺が堀北の期待を大きく下回る活躍をしてしまったためか、ガッカリ感とコレジャナイ感が強かったようだ。
なお、最後に堀北が「忠犬もここまでくると病気ね。櫛田さんにお願いして首輪でも嵌めてもらったらどうかしら?」と煽ってきたのを俺は三日くらい忘れないだろう。お前、絶対神室の親戚だろ。あんまり調子乗ってるとCクラスの邪神降臨させるぞ。にぎにぎでお前なんて一発だぞ。間違いなく一発だぞ。
あと櫛田を絡めた首輪ネタはちょっと最近トラウマあるから止めろ。シャレにならんぞ。まさか呪いの品を送ってきたのは堀北じゃないだろうな……疑心暗鬼だ。
***
ベースキャンプに戻ると、クラスの半数程度はそれぞれの職務にあたっていた。
井の頭がいないな。櫛田と一緒に食料を見に行ったか?
気になり料理班に尋ねたところ、櫛田は食料探索に向かったようだ。ちなみに俺が参加できなかったためか、調理班の希望品が集まるか自信がないと櫛田は言っていたようだ。いや、これは俺のせいじゃないよね、と思ったが、朝調理班に希望を聞いたのは俺だったので、一応調理班に言葉だけの謝罪を告げた後、単身で付近の調査に向かう事にした。
平田にお願いして、何人か連れて食料探索をすることも考えたが、櫛田の班と食料がタブると効率が悪いと思ったので止めておいた。櫛田は昼飯前には戻ってくるそうなので、そこで一旦合流すればいいだろう。
というわけで、昼まで俺も島の調査を行う事とした。まあ、情報は頭に入っているので調査という名の再確認と偵察行為だ。調査の主な内容の他クラスの陣地の食料採取具合についてをメインとしたい。敵方の食料事情を知れれば使用したポイントも類推できるし、食料回収率から探索能力もなんとなく絞り出せると思う。
それと、食料戦争は囲い込みが速い方が勝ちだと個人的には考えている。つまり、他クラスの陣地の近くの食料をささっと回収できれば色々とプラスの面が大きいのではないかと思う。ナチュラルにゲスのような気がしないでもないが……この島のリソースが限られている以上、仕方がないことなのだ。
Cクラスはどうせ食料探索はしないだろうから、Aクラス側かBクラス側のどっちかだな。昨日の「ドヤ顔許さない会」の探索結果から、Aは斥候をよく出していて、一方でBはあまり出していないイメージがある。あとBは、たとえ斥候中に見つかっても道に迷ってしまって、と言い訳すれば許してくれそうなイメージがある。よしBにすっか。