Bクラス付近の裏道で、特に隠密性が高いものを使用しながら、食料の目星をつけていく。Bの食料回収率はいまいちのようだ。特に陣地付近から円状に採取しているためか、Bの本陣から100メートル以上離れると、ほとんどの食料が手つかずのようだ。今のうちに、全部かっさらうか?午後になったら、平田にお願いして、Dクラスの武闘派を率いて、ここらへんの食料を全部持ってっちゃうか?
どうするかなー、と考えていると、肩をポンポンと叩かれた。ふむ。叩かれた方を見ると井の頭が立っていた。友よ、どこから現れた。
「赤石君、何してるの?」
いつもの、おっとり無表情だ。
「ああ、井の頭さん、ちょっとBクラス側の植生と、その採取具合を確認したかったから探してた。というより、井の頭さんは櫛田さんと一緒じゃないの?」
報告を済ませると、井の頭は不思議そうな顔をした。はて?
「……?いや、赤石君が……あれ?そういう意味じゃなかったの?」
え……どういうこと?
「……赤石君、さっき堀北さんたちとCクラスを見に行くときに、私の方を見たから……てっきり援護しろって意味かと思って」
いや、まあ助けを求めたけど。というか援護してたの?
「えっと、まあ、なんとなく助けてくれたらと思ったけど、あの場では難しいから、特に何かを求めていたわけではなかったけど、援護してくれてたの?」
「一応、あっちにある浜辺を見渡せる岩場からずっと視てたけど……なんか、Cクラスの人たち凄く遊んでたね」
マジっすか。見てたんですか……それは、なんというか、分かりにくいタイミングで井の頭をチラ見して申し訳ない。
「遊んでたね。どうも、龍園君が言うのには、Cクラスは試験を降りるらしい……」
「やっぱりそうなんだ……本当にポイントがマイナスにならない、って何で信じてるんだろうね」
ほう。確かに、この学校は嘘つきを育成しているのでは?とたまに考えてしまうこともあるので、ポイントがマイナスにならないという先生方の発言に根拠はない。
「それは……単純に学校が言ったから、信じてるんだと思うけど。井の頭さん的には信用ならないポイントなの?」
井の頭は俺とは物事の考え方が少し違う。というか、一般人とは少しズレてると思う。だからこそ、ここは聞いておきたいポイントだ。
「この学校は本当の事を言わないから……たとえば、二学期以降に悪影響はないって先生は言ってたけど、そもそも何をもって悪影響と判断するかなんて、できないはず。だから、ポイントがマイナスになった分は何か特殊なカウントがされて、この後の、別の特別試験に影響を与える、ってことだって考えられると思う。だから、私だったら、怖くて、龍園君と同じ判断はできないかな」
あー、なるほど、そういう考え方は確かにできる。まあ、Dクラスでルールの穴を突くみたいなヤツはいないと思うので、あまり考慮しなくていいと思うが……まあ、他クラスの思考の方向性を探る意味では井の頭の考え方は重要なやり方の一つであると思う。
「まあ、確かに、それは言える。でも、Cクラスは色々と大変そうだし、聞くところによると、龍園君の独裁体制になっている以上、どこかで、クラスメイトにガス抜きをさせる必要があると思うから、それを今回の試験にしたんじゃない?一応、最悪マイナスになってもいい、もしくは絶対にマイナスにはならないと賭けたのかもしれないけど」
そうすれば、Cクラスの連中も、やっぱり龍園は最高だぜ!ってなって付いていきやすくなるし。
――ただ、ポイントについては龍園はどっちだったのだろうか?彼は覚悟を持つタイプだから、最悪マイナスを覚悟している可能性もあるし、一方で自分の判断に自信を持っている人でもあると思うから、マイナスは無いと思っているのかもしれないし。どっちだろうか?
「……私は後者だと思う。岩場からずっと視てたけど、龍園君の雰囲気やCクラスの遊び方やポイントの使い方から見ても、迷いがない気がする。だから龍園君は迷わない人なんだな、って思ったよ……怖いね」
むむむ、迷わない人というのは言い得て妙だな。というより、直接龍園と話すどころか会っていないのに、よく井の頭はそこまで分析できるな……ちょっと怖いぞ。
「……なんか意外、井の頭さんでも怖いものってあるんだね」
正直、怖いもの無しのイメージがありますね。
「……結構あるよ。というより、私は怖いものの方が多いと思うよ。最近だと、櫛田さんとか、怖いなって思うよ」
それって井の頭の盾じゃん。つまり、まんじゅう怖いみたいな感じだろうか。やっぱり怖いもの無しであったか……
「あと、綾小路君も怖いかな……」
つまり、井の頭的には綾小路は大したことないってことか?頼もしい限りだ。まあ、でも確かに井の頭は綾小路を前にしても動じないイメージがある。まあ、不確定事項が多すぎるし、今後の計画も考えると、綾小路と井の頭が相対するのは避けたいが……
「なるほど、ちなみに他に何か分かった事とかあった?こっちは、Cクラスの脱落予定と、あと堀北さんと龍園君は口が悪い同士、意外と相性良さそうってことと、それと、今、櫛田さんの班が食料探索に向かってる。この辺りにはこないよ。ええっと、あとは……綾小路君と堀北さんは少し前にBクラスの偵察に行ったみたい。この辺りの地形には疎いと思うから、大丈夫だと思うけど……あと、あの二人の雰囲気とバイタリティーを考えると、たぶんBクラスを偵察した次はAクラスの洞窟に行くと思う」
俺の報告を聞くと、井の頭は少し、ぼーっとした表情を作った後、口を開いた。最近分かったんだが、井の頭がぼーっとして見える時は大概、考え事をしている時だと思う。
「そっか、ありがとう。私の方からは、Aクラスに1人ずっとDクラスの方を見張っている女の子がいたよ。昨日川辺に向かった女の子の話憶えてる?あの子が、Aクラスの洞窟の高所から、Dクラスの方を見ていたみたい。……これは自信がないんだけど、赤石君がベースキャンプを離れたのって今から、50分前くらいで合ってる?」
朗報、俺の友達はエスパーだった。
「合ってるけど、よくわかったね。俺がCクラスの方を出た時から逆算したの?」
「うーん、それもあるんだけど……じゃあ、やっぱり、そうなのかな……」
そう、とは?
「何かあるの?」
「さっき言ったAクラスの女の子、たぶん赤石君をマークしてるよ。50分くらい前、洞窟の近くからずっとDクラスのベースキャンプを見張っていたのに、こっち側に視線を動かしたから。まるで誰かを目で追っているのかな、って思ったけど……赤石君みたいだね。昨日から活躍しすぎたからかな……」
マジかよ。誰か分からないけど、Aクラスの女子最低だな。……というより、ヤバくね。ここも見られてると困るぞ。
「あれ?ちょっと待って、そうすると、今の俺達も見られてる……?」
「それはないと思うよ。ここは木が上手く重なり合って、周りからは見えないから……というより、だから私も今赤石君に近寄ったんだよ」
さすがじゃ、友よ。俺に声をかけるタイミングが絶妙じゃ。というか、これからベースキャンプに近くにいる時は振る舞いに気を付けるか。
「あ、ああ、なるほど。気遣ってくれてありがとう。……俺はこのままもう少しBクラス側の食料に目星をつけたいって思ってるけど、井の頭さんはどうするの?篠原さんが言うにはそろそろ昼飯みたいだけど」
予定を聞くと、井の頭は少し困ったような顔になった。
「うん。もう少し、ううん、日没までCクラスを見張ろうと思ってるよ。やる事もないし、それに、点呼の後にDクラスを無断で抜けてきたから、櫛田さんに見つかったら、しばらくは単独で動けないし、それなら、今だけでも、一人でできる事をやっておきたいと思うから。昼食もさっき果物を見つけたから、大丈夫だよ」
果物だけって少なすぎないか?いや、まあ、この辺りを調査した感じ、Bクラスの方がもっと腹が減っていると思うけど。
「昼飯いいの?井の頭さんの計画にケチをつけるわけじゃないけど、昼飯減らしてまで、脱落するCクラスの観察ってメリットが薄いような気がするけど……」
「……うん、確かに、私もそう思うよ。でも何か、変な感じがするんだ。奥歯に何かつまったような感じ?……それに女の子は一食くらい抜いても大丈夫だよ。代謝も低いし」
代謝とか生々しい表現が出てきたな……
「そ、そっか、了解。じゃあ、偵察頑張って。俺もBクラスの食料根こそぎ奪う気持ちで頑張ってくる」
そう言い残し、井の頭の元を去ろうと、背を向けると、鋭い声が刺さった。
「――赤石君、……いや、ごめん。何でもないや」
しかし、井の頭は全て言い切ることもなく、途中で言葉を萎めた。気になり振り返るも、既に彼女は、先ほど言っていた岩場の方へと駆けて行った。き、気になる。
***
その後、一旦昼飯を食べにベースキャンプに戻った。昼飯は食料班の探索結果次第ではなくなる事も考えられていたが、多くの生徒が昨日の成果を知っているためか、ベースキャンプに戻ってきていた。欠けているのは綾小路、堀北、井の頭、あと数名といったところだ。
これはかなり食料が必要なのでは?と思ったものの、櫛田率いる食料班はその期待に見事に答えてくれた。ブドウやリンゴ、タロイモやシイタケなんかもある。これはあれか、篠原に漠然と伝えた情報を、櫛田がくみ取ってくれたのかな?
うーむ、今日は櫛田とは話す時間があまりなかったが、俺と篠原が話をしていたのを見ていてくれたのかな。篠原から情報を聞き出し、その漠然とした情報を組み立て、探索場所を当てたようだ。やっぱり櫛田は優秀だな。なんでコイツもDクラスなの?判定ミスじゃない?
まあ、篠原の調理技能や、池君の着火技能など、皆なにかしら優れている点を持ってるし、Dクラスは意外と強いんじゃないだろうか?よく皆、不良品って言うけど、不良品だって直せば使えるんだぞ。自慢だけど、俺は機械のスクラップから結構品質が良い盗聴器が作れるぞ。自慢だけど。つまり不良品だって戦い方では強くなれるのだ。たぶん。
そんな事を考えながら、食料班が調理班に食材を渡しているのを眺めていると、肩を叩かれた。叩かれた方を見ると、櫛田がいた。俺の半径1メートル以内は立ち入り禁止だよ。
「赤石君、お疲れ様。それと、さっきはごめんね。堀北さんがクラスの為に頑張ってくれてたから、赤石君にも手伝って欲しかったんだ……それに、赤石君が頼りになるって堀北さんに分かって欲しかったから……」
人前苦手というアピールを定期的に平田と櫛田に送っているのだが、なぜ理解されないのだろうか。というか、櫛田、それ本音か?実は建前だろ。お前、本当は堀北のこと気に入っているだろ。クソ、お前のせいで俺はビクビクしながら浜辺を探索することになったんだぞ。
……まあ、邪神がCクラスにいなかったから、特別に許してやろう。もし邪神が降臨していたり、俺が邪神の攻撃を受けていたら、櫛田の今回の行動を俺は許さなかっただろう。櫛田!龍園に感謝しろよな!
「いえ、よくよく考えたら、食料班は櫛田さんがいますし、俺の役目はあまりなかったと思います。ですから、櫛田さんの言う通りにしてよかったんだと思います。……ただ、俺はやはり堀北さんとはあまり相性が良くなかったみたいで。上手く手伝うことができなかったですね。櫛田さんと違って、堀北さんは話しにくい方ですから……」
まあ、最近、櫛田も0.7椎名っぽいから話しにくいけどね。でも、今の櫛田は安定櫛田っぽいから、ここ最近では一番話しやすいかな。
「あはは、確かに堀北さんはちょっと堅いところがあるからね~。私もまだ、堀北さんとは仲良くなれてないし、あんまり人の事言えないんだけどね」
嘘だろ。実は気に入ってるだろ。もしくは、逆に、堀北の相手をしたくなくなって俺に押し付けようとしてるだろ。
「いえいえ、櫛田さんは凄く頑張ってると思いますよ。……言ってしまっては悪いかもしれませんが、堀北さんと二言以上会話を交わせるのは、このクラスだと櫛田さん、……くらいですよ」
今、一瞬綾小路の名前を出しそうになって止めた。愛憎交える感情を向ける相手の話などしたら、不安定櫛田になるかもしれないと思ったからだ。
「……ううん、それは違うよ。一番堀北さんの事を分かってるのは、きっと綾小路君だよ」
しまった。やっちまった。話題チョイスをミスったー。まさか、自分から綾小路の名前を出すとは。うーむ困ったな。不安定櫛田になったらどうしよう?俺がなんとも返答に困っていると、櫛田は何時もの人の
「でも、ありがとう。少しだけ自信が戻ってきたかな。やっぱり、こうやって友達と話せると、勇気がもらえるよ」
俺って友達認定だったんだ。まあ、櫛田は学年全体と友達になりたいと言っていた猛者だし、友達の閾値も低いのかもしれない。
「友達、ですか、……それは、光栄です」
まあ、友達認定されて悪い事もないだろうが、……思わず漏れてしまった単語を適当に誤魔化すことにした。
「もしかして、赤石君、私の事友達って思ってなかった?」
誤魔化せなかった。
「い、いえ、勿論、友達としてもらえてれば嬉しいなと思っていましたが、中々、対等とは思えなくて……櫛田さんのような立派な人に改めて言われると、少し驚いてしまって。すみません」
誤魔化せなくても、上手い言葉が見つからない以上、ゴリ押しだ。
「私にとって赤石君は友達だよ。赤石君にとっても私は友達でしょ。これからも今まで通り、一緒に頑張ろうね」
よし、安定櫛田っぽいぞ。よくやった、俺。
***
その後、適当に櫛田との雑談を終え、昼飯を食い、調理班の偉大さを再確認した。
昼食中に、井の頭の言葉――自分が見張られているらしいという情報について考えを巡らす。うーん、個人的にあまり目立たないように振舞ったと思うのだが……でも勉強会とか開いたし、一応クラス内では6位、自分で言うのもなんだが、運動もクラス内では6位くらいだ。そして俺はよく平田と一緒にいる。他クラスにも雑魚参謀くらいには評判が広まってるのかもな。
あー、でも龍園は俺の名前を今日まで知らなかったみたいだしなー、どっちかって言うと、昨日のサバイバル知識を披露しているところを見られたのかな?やっぱり自分の得意科目を捨てて(強制的に捨てられて)変に動くのは良くないな。反省反省。
まあ、とりあえず、今からでもできることをしようと思い、喧騒に紛れながら隣でメシを食っている平田に堀北達の動向を伝え、さらに平田に午後の食料班の結成の許可を貰った。今日の夕飯と明日の朝飯を採取する部隊だ。
昼飯を食い終わり、休憩を挟んだ後、今度は櫛田を拝み招集を行ってもらった。招集されたメンバーは一日目とほとんど一緒だが、変わっているメンバーもいる。例えば、井の頭はまだ戻ってこないので、参加はしない。つまり、特記すべきメンバーはいない。
編成した食料班とともに滝壺側の食料を少しずつ奪っていく。まだ、両陣地の中間地点付近であるため、Bクラス側との接触はないものの、このまま拡張政策を続けて行けば、いずれ戦うときが来るだろう。その時は平田にお願いして、軽井沢軍団を遣わせてもらおう。Bクラスなど恐れるに足りん。
概ね、40人分(39人分+伊吹何某の分)を二セットほど集めたところで、探索は終了となった。現在時刻は午後5時50分だ。前回よりも食料班の人数が多かっため、往復回数も少なくて済んだ。まあ、多かった分統制が大変だったが、そのあたりは櫛田が何とかしてくれたため助かった。
俺はたまに櫛田に「あそこに何かあるような~」みたいな事を言うだけで、後は櫛田が全部やってくれた。本当に助かる。櫛田が殆どの仕事をしてくれたため、俺もあまり目立たずにすんだ。櫛田万歳!やっぱり安定櫛田はいいな。能力も高いし、性格も良い、あと、こういう評価をするのは失礼かもしれないが、見た目も良い、なんでこの人がDクラスなんだろうね?
櫛田に感謝の正拳突き……はさすがに恩を仇で返すことになるので、普通に、協力してくれたことへの感謝を伝え、ベースキャンプで残りの時間を優雅に過ごした。
6時になると、ジャージを汚した井の頭が、へとへとと帰ってきた。近くにいた櫛田が驚き、井の頭の方へ走っていったが……うーん、まあ、つまり、あれだ。井の頭の名演が行われたとだけ言っておこう。
ちなみに堀北・綾小路の凸凹参謀チームは、昼飯が終わって、時計の長針が二周したあたりで戻ってきたようだ。チラリと二人を盗み見ると、堀北は少し疲れているように見えた。昼飯を食べていないからかもしれない。綾小路は、うん、いつも通りだ。つまり無表情だ。なんか、もう少しリアクションしてくれませんかね。観察してて分かる事がまるでないぞ。……まあ、突然笑い出したら怖いから、それはそれでいいか。
夕飯を食べ、8時の点呼を迎えた。点呼後に、なんとなく、ベースキャンプのクラスの様子を眺めていると、20メートルくらい離れたところに座っている櫛田から良からぬ気配を感じた。バレないようにチラチラと櫛田の様子を伺うが……何といえばいいのだろうか?複雑な表情を浮かべていた。うーん、試験が不安なのか、それとも綾小路との恋愛が不安なのか判断に迷うな。
そのまま、見ていると、途中で井の頭と王が櫛田に何か話しかけ始めた。三人はそのまま少し話をした後、櫛田は何か考えたような顔になり、そして、なぜか平田のところに向かっていった。はて?と思っていると、平田からライトを貰った櫛田は二人を引き連れ森へと消えた。たぶん、友が何かをしたのだろうが、それが何かは分からなかった。だが、友の事だ、俺の不利になることはしないだろうと思った。
龍園も言っていたように、夜の闇は深く、少し心配だったが、40分ほどして、3人とも無事に戻ってきた。その後消灯時刻を迎え、Dクラスの皆はテントの中へと戻った。
幸い、本日は脱落者はいないようだ。俺卒業したら世界一クリーンな企業作るんだ!