四日目の朝、いつも通り、井の頭と作戦会議を済ませた。とはいっても、先日から俺の方では新たに得た情報はなく、井の頭はどこか上の空であるのか、何かを考えているようで、彼女の言葉はいつも以上に歯切れが悪く、お互いにあまり多く情報を交換することはなかった。
ただ、会議の終わりに見せた顔は、なにか決意を秘めているような顔で、危うく感じた。上手く言えないが、少し気合が入り過ぎているように見えたので、「無理しない程度に頑張って」ということを伝えておいた。
そして、いつも通り、個人探索、朝食、点呼をこなした。今回の午前の食料探索には参加しない予定なので、個人探索で得た情報を櫛田に託し、平田に許可を貰った後、Aクラスの偵察を一人で行う事にした。
井の頭の略奪推奨クラスだ。今日はここを探索し、歩哨の数と採取物の分布の確認を行う。そして可能であれば、以降の食料探索の対象とし、今後の試験ライフを豊かにしていきたいところだ。
哨戒網に引っかからないように森の中を歩き、Aクラスの洞窟を目指す。ちなみに、今回の目的は偵察と食料採取状態の確認だ。昨日のトウモロコシ騒ぎの際、葛城はどういう訳かトウモロコシを採取しなかったらしい。あの一之瀬様でさえ、目の前に食料があったら採取を試みるのだ。葛城だってそうだろう。それでも、なお、彼がトウモロコシを取らなかった理由は、考えられる限り二つだ。
一つ目は食料過多である可能性だ。これは、AクラスがDクラスと同じように周囲の食料を蝗のように荒らしまわり、食料を確保しているということだ。ただ、個人的にはこちらの可能性は低いと思う。井の頭の報告曰く、Aの生徒は彼女の視界内では殆ど見ないとの事だ。つまり、Aは洞窟に隠れている、又は洞窟を挟んで反対側で活動しており、井の頭の視界に入っていない。
しかし、井の頭の視界に入らないようにする場合は、おそらく食料分布の関係上、不足が出てしまう。とすると、トウモロコシを奪うはずだ。つまり、もう一つの可能性の方が高い気がする。
二つ目は食料をポイントで賄っている可能性だ。これならば洞窟で穴熊するのにも適している。ただ、まあ、平田の試算では食料はポイントで賄うと110ポイントも使用する。しかも、この計算は一日二食とした場合だ。つまりお腹が減る。
この選択を取っていた場合はAクラスは隠蔽性が確保されるものの、洞窟という閉鎖的環境と栄養不足、そしてポイント浪費と、大きな問題を抱えることになる。葛城と坂柳が停戦したとしても、それだけの重荷をクラスに払わせて、今回のAクラスの指導者(坂柳は欠席なので、おそらく葛城)は大丈夫なのだろうか?
というか、こちらの可能性であったとしても栄養不足であるはずだから、トウモロコシは必要なハズだ。なぜ彼は採取しなかったのだろうか。
そんなことを漠然と考えながら、そろり、そろりとAクラス近くの裏道を使う。ここまで、見た所、採取物は手つかずだ。やはりポイントで賄っているのだろう。
しかし、何か妙な気がする。確かに、完全穴熊戦術は、リーダー当てでは圧倒的な防御力を誇るが……もし、そうするのならば、探索のとき戸塚を本隊に紛れ込ませて、先遣隊に入れるべきではなかった気がする。それさえなければ、俺や王にリーダーが露見せずに済んだのに。いや、まあ結果論だが。
うーむ、葛城の戦略に一貫性がない気がしてきたぞ……ああ、いや、まあ、あの時点では葛城の言う通り、彼にとっての最速であったため、攻勢を優先して、スポット確保のためにも戸塚が必要だったのだろう。そして、可能な限りの攻勢を行った後は、戸塚ごとAクラスを隠して防御に徹した。
ううむ、そう考えると最善手のようにも見える。あー、でも、やっぱりポイントを食料に回したことによる浪費が気になるな。やはり、彼の戦い方は持久戦というより消耗戦と言える。まあ、自力があるAクラスが消耗戦を行えば、最終的に勝てるのかもしれないが……
「あんた、何やってんの?」
うーん、やっぱり葛城の考えることは……ん?今、誰か俺に声をかけなかったか?
「ねえ、聞いてるんだけど」
声の方を見ると、強襲型堀北、といっても最近堀北もなんか強襲型っぽくなってきたから、堀北でいいか、堀北である神室がいた。誰か分からないから、形容詞の堀北取るか。神室がいた。
「えっと、あなたは、確か、モールにいた……」
こういう時に不便だから、さっさと『神室』と名乗れ。とっさに、名前で呼んじゃったら不自然になるだろ。だから、早く名乗れ。
「何やってるか聞いてるんだけど?」
コイツはやっぱり堀北と同類の臭いがする。
「えーっと、そのクラスの皆に頼まれて、食料を調べてくるように言われて……そういう、あなたは、何をやってるんですか?」
俺の質問を神室は無視すると、次の疑問を放ってきた。会話しろ。
「ここ、Aクラスの占有してる場所なんだけど」
嘘やめろ。この辺りにスポットはないぞ。そういえば、コイツは前会った時に偽名を名乗ろうとしたりしていたな。虚言癖でもあるのかね?
「そうだったんですか……すみません、気づかなくて」
俺がそういうと、神室はジロジロとこちらを訝しむように観察してきた。おい、なんか、俺が嘘言ってるみたいな雰囲気はやめろ。嘘吐いてるのはお前だろ。
「『すみません』、で済む問題じゃないでしょ。スポットの不正使用は減点って言ってたから」
そもそも、ここにスポットはねーぞ。というか、これ、分かったぞ。さては神室、テメー、俺からカツアゲする気だろ。マジで綾小路さん呼ぶぞ。謎技術で、お前を洞窟のシミにしてもらうぞ。
「ええっと、それは……その、何と言いますか、ここに本当にスポットがあるんでしょうか?もしあったら、見せて欲しいのですが」
正直、上手く対応できない。というか、何で、こんなところに神室がいるんだ。ここは裏道の一部だぞ。普通の生徒じゃ立ち入れない場所だ。なんでお前がいるんだよ。第一、Aクラスは皆穴熊やってるって――はっ!もしかしてコイツか、井の頭が言ってたAクラスの女子って。謎の見張り女はお前かよ。何やってんだよ。
「誤魔化したいのは分かったけど、そういう態度取るなら、……さ、――葛城に報告するけど、いいの?」
だから、俺が誤魔化してるみたいな言い方は止めろ。ここにスポットは無いんだって。あと葛城には黙っとけ。
「その、……誤魔化しているつもりはありません、ただ、どうも、あなたは何か俺に望みがあるように感じられます。何かあるんですか?」
まあ、たぶんDクラスの情報寄越せ、とかポイント寄越せとかだろうな。断固拒否だが、ここは適当に話をして、逃げた後、綾小路さん呼びますかね。
「……、……別に無いけど、自意識過剰なんじゃない?」
今の間はなんだよ……アレか?ちょっと罪悪感を抱いたのか?罪悪感を抱いたなら、謝罪しよう。今なら邪神の
「……そんな、つもりは、ありませんが……すみません、Dクラスの合流時刻に遅れるので、俺は失礼します。あと、俺はスポットを不正利用する気はありませんし、現にしてません。スポットの所在が、俺にも、そして、あなたにも明らかではない以上、これで説明は十分だと思います」
適当に詭弁を放ち、さっさと逃げることにする。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。というか、まあ、そもそも冤罪だけど、
「――ちょっと、待って」
しかし、素早く神室は俺の腕を掴みやがった。最近、よく俺の腕って掴まれるんだけど、掴みたくなる腕に見えるのか。お前らは全員綾小路の舎弟なの?
「あの、放してもらえないでしょうか」
神室はじっと俺の目を睨んできた。やめろ。
「私の質問に答えたら、今回の件は見逃してもいいけど、どうする?」
見逃すも何も、そもそも証拠どころか、事件すらなかったんだけど。というか、さっき、望みを聞いたときに言えよ。
「内容にもよりますが……クラスを売るようなことはできません」
最低でも200万ポイントは用意して。ちなみに1000万ポイントならクラスの情報全部売るよ。
俺の回答に神室はフンっと鼻を鳴らすと、予想外の質問をしてきた。
「――坂柳、坂柳有栖って知ってる?」
知らないって答えたい。……でも俺は、嘘はあんまり得意じゃないからな。
「……聞いたことがあったと思います。確か、Aクラスの人でしたっけ?」
というか、なんで、こんな事聞くんだ。正直、坂柳派閥には盗聴以外は何もしてないぞ……逆探知されるわけがないし。うーん、前に神室と話した時に不審な事をしてしまっただろうか。
「……私が、前、あんたとモールで会ったとき、坂柳って名乗った。その時、あんたは何も言わなかった。なんで?」
やっぱ、そこ突いてくるよな。どうしたものか。
「えっと、すみません、よく憶えていませんが……ただ、単にその坂柳さんという方があなたかと思ったのでは?あなたもAクラスでしたし」
「やっぱりおかしい。私が坂柳って名乗ったのはクラス名を告げる前だから、なんか隠してるでしょ」
ッチ。ミスった。確かにそうだった気もする。正直あの時のモールの事なんか、うろ覚えなんだよ。なんたって、この試験の内容を全て暗記していたのだ。だから、あんな些細な出来事忘れるだろ、普通。……適当に誤魔化すか。
「えっと、すみません、先ほども言ったように、俺はあの時のことはうろ覚えで、あなたと違って、俺はD、……というより、あなたの名前は何なんですか?いい加減教えて貰えませんか?」
毎回、神室って呼んじゃいそうになるから、早く教えろ。
「何で教えなきゃいけないの?」
いや、面倒だから、早く名乗れ。
「……こんな、尋問まがいの事を2度も受けて、その上、名前すら教えてもらえないのでしたら、これ以上の会話は俺には難しいですね」
俺に、こんな真っ当な台詞を喋らせるんじゃない!まあ、神室は名乗りたくないみたいだし、これでコイツの会話からは解放されるな……
「神室、神室真澄。これでいい?」
名乗るのかよ……
「神室さんですか、よろしくお願いします」
アイサツは大事。
「あっそ」
アイサツしない、スゴイ・シツレイ。
「えっと、俺は前、確か名乗りましたよね?」
喋ってから、少し後悔した。このまま、腕を振り払い、適当に去ればよかったのに、何でムキになってしまったのだろうか。第一、坂柳派にわざわざ、名前を売り込むみたいな感じになってしまっている。大失態だ。なんか、神室と一緒にいるとペースが崩れるな……
「い、……赤石でしょ」
今間違えそうだっただろ。なんだよ『い』って。俺の名前は『あ』からだよ。『い』からじゃないよ。まあ、五十音だと隣だけどさ。
「そうです……、ええっと、そろそろ、クラスメイトに言われた合流時間なので戻っていいですか?」
一応、平田には昼飯までには戻ると言っておいたので嘘ではない。自信の誠実さを再認識しながら、チラリと神室が掴んだ俺の腕を見る。コイツはなんと、会話の最中ずっと俺の腕を掴んでいるのだ。いい加減放せ。あの綾小路でも1分以上は掴まなかったぞ。なんという礼儀知らず。
しかし、俺の思いは届かず、神室は腕を放さなかった。おい、放せ。
「まだ、質問は終わってないから。……本当に坂柳のことを知らないの?」
そう言うと、神室はグッと掴んだ俺の腕を引っ張り、じっと俺の目の中を覗き込んできた。神室の目は、何か期待をしているような、まるで、希望を見出そうとしているかのように見えた。
「で、ですから、名前は聞いたことがあったと思いますが……何か神室さんにとって重要な名前なんですか?」
どうも、神室は話題を坂柳にしたいようなので聞いてやることにする。きっと、いつもコキ使われているから、悪口でも言いたのだろう。神室は十数秒ほど、俺の瞳をじっと見た後、小さく溜息を吐き、顔を離した。
「坂柳はうちのクラスのリーダー。名前がどこまで広まってるか聞きたかった。それだけ、じゃあ、もう行っていいから」
そう言うと、ようやく手を放した。ふう、コイツ、ちょっと、やべー奴だな。ストレス過多で、錯乱して無関係の通行人に襲い掛かるとか、信じられないぞ。堀北風に言うならば、坂柳はちゃんと神室に首輪でも付けとけよ。
……神室は0.5椎名に更新だな。今後は関わらないでおこう。
「そ、そうですか……えっと失礼します、神室さん」
対応に困ったので、適当に神室に別れを告げた後、Dクラスへの帰路についた。
「――が……足掻いて……には…………」
最後に、小さな声が、背後から聞こえた気がした。最近ブツブツ喋る奴が増えたな。もっとはっきり喋れ。
***
11時20分にベースキャンプに帰還した。一応、偵察しながら帰ってきたが、やはり歩哨は神室のみで、植物も殆ど採取されていないようだ。午後の探索では櫛田に相談して、Aクラス側から食料を調達するのもいいかもしれない。
しかし、なんとも微妙な時間である。ベースキャンプで手持ち無沙汰の生徒に聞いたところ、櫛田率いる食料探索班は、既に最後の往復輸送に向かったらしい。うーん、今からだと手伝えることは無さそうだ。昼飯まで少し暇だな。何するかなー。
試験の折り返し地点だし、そろそろ平田にAクラスのリーダーについて話すか?あー、でも、今、平田の周りに人が結構いるからな……まあ、平田の周りには、いつも人だかりが出来ているし、何か情報が出回っても嫌だから、六日目か最終日に、こっそりと告げる方がいいか。
「ちょっと、いいかしら」
よくない。
振り返ると、堀北がいた。珍しく一人だ。綾小路はどうした?気になり、辺りを見回したが、彼の姿は確認できなかった。
「はい?どうしましたか、堀北さん」
今日は、既に堀北と会話した気分なので、あんまり、これ以上会話したくないのだが……
「……そうね、貴方はこれから――いえ、違うわね……」
なんか歯切れが悪いな。堀北ってズバスバものを言うイメージがあったが……ここ最近、険のある視線も減ったし、本当に堀北はどうしたんだろう?
それから、堀北は少し出だしの言葉に悩みつつも、何かを決めたような顔になり、鋭い声を発した。
「――貴方が私に嫌悪の感情を抱いているのは知っているわ」
俺は今初めて知ったよ。てか、別に自分で言う事でも無いかもしれないけど、俺は、あんまり人間関係の好き嫌いは少ないよ。
「……よく分かりませんが、俺は堀北さんのことを嫌ってませんよ」
そう言ってはみるも、堀北はこちらの言葉をまるで信じていないように言葉を続けた。コイツ、俺の事まったく信用してないな。さては、櫛田に綾小路を取られるのが怖くて、櫛田に関わりのある人間を警戒しているな……
「そう、わかったわ。ただ、この試験ではある程度協力する必要があると私は言いたいの――今後の為にも、お互いの立場を、はっきりさせましょう」
立場もなにも、俺にとって、お前は、ただのクラスメイトであって、それ以下でも以上でもない。というか、お前も俺のことは同じように思ってるだろ。ほら、じゃあ、終わり、相互理解完了したから、帰って。
「まず、貴方も知っている通り、今回の特別試験では、私はクラスを率いる立場にあるわ。そして櫛田さんは私を補佐する立場にある……つまり櫛田さんは私に従う立場にある。ここまでは理解できたかしら?――そう、続けるわね」
俺が「はい」と答えるか答えないかの寸前で、堀北は次へと話を繋げた。俺が『いいえ』って答えたらどうする気だったんだ……
「――貴方は櫛田さんの犬。つまり、櫛田さんに隷属している立場にあるわ。演繹的に、貴方は私に隷属していると言えるわね。よって、貴方はこれから私のする質問に対して、偽りなく答える義務があるわ」
ないよ。というか前提が間違ってるよ。別に櫛田の犬じゃないよ。そう思ってるの、このクラスで、いや地球上でお前だけだよ。
その思いは堀北には届かず、彼女は尊大に腕を組むと質問を始めた。
「まず、一つ目、綾小路君がベースキャンプに見当たらないのだけれど……貴方は彼が今どこにいるか知っている?イエスかノーで答えなさい」
ノー、というより、俺は今戻ったばかりなんだけれど……いや、まあ、堀北が、Dクラスで注視しているのは綾小路だけみたいだし、無関心の相手が何時ベースキャンプに戻って来たかなど分からないだろうが。
「ノーです、知りません」
なんか堀北のエンジンが回ってきたな。さっきの歯切れの悪さはどこへ消えた。戻って来い。
「そう、では次に、綾小路君が今何をやっているか、貴方には分かるかしら?これも、イエスかノーで答えなさい」
それは、さっきの質問と同じ質問のように俺には感じられるのだが……
「ノーです、知りません」
このままずっと綾小路に関する質問が続くのではないか、と堀北のストーカー具合に恐怖していると、堀北は溜息を吐き、困惑と焦燥と疲労を足したような顔になった。いや、俺の方が疲労してるよ。困ってるよ。
「貴方が知っているはずも無いわね。いえ、気にしないで頂戴。あまり期待もしていなかったし、念のため聞いておいただけよ。質問を変えるわね」
まだ、質問があるのか……
「はい、お役に立てず、すみません……」
適当に謝り、先を促す。
「貴方はさっき帰ってきたようだけれど、何処で何をしてたのか、詳しく話しなさい」
堀北みたいなヤツと話してた。ちなみに今は神室みたいなヤツと話してる。というか、お前は俺が帰って来たのを知ってたのかよ。なら、綾小路が今何をしているのかなんて、俺が知るはずがないことは分かっていただろ。さっきの綾小路の下りはいらなかっただろ。何で、あんな意味のない質問をした。
「Aクラス側の偵察と探索を個人で行っていました。あちら側はどういう訳か手付かずで、まだ食料が沢山ありましたよ。堀北さんは午前中はベースキャンプで過ごされたんですか?」
お前は、俺と違って、クラスのために直接動いてないよね?ベースキャンプでゴロゴロしてただけだよね?と間接的に煽っておく。
「そう……それはご苦労様。ただ、少し変ね。櫛田さんは食料を探しにいったようだかれど、どうして貴方は参加しなかったのかしら?飼い主の下から離れるなんて忠犬の名折れよ。首輪だけじゃなくて、リードも付けてもらった方がいいわね」
しかし、鋼メンタルの堀北にはまったく効果が無いようだ。それどころか、煽り返してきた。なんとなく、心配になり近くを確認するが、平田は遠く離れた場所にいて、櫛田はまだ戻っていなかった。まったく、何で俺が人の精神状態まで気にしないといけないんだよ……
というか、アレだな。近くを確認したが、かなり皆離れてるな。いや、そもそも、俺が少し集団から離れた隙に、堀北が話しかけてきた気がする。コイツはどんだけ集団が苦手なんだよ……
「堀北さんが以前仰ったように、食料班は櫛田さんが率いることに意味があり、……俺がいることには、そこまで大きな意味はありません。櫛田さんを単独行動させるわけにはいきませんので、食料班にいなくても問題のない俺が別行動をとりました」
適当に言葉を濁しながら答えていく。そろそろ、櫛田も戻ってきそうだし、堀北と絡んでいる所を見せると、揉めそうだから話を終わらせたいんだけど。というか、綾小路帰って来い。お前がいないせいで、堀北が欲求不満みたいだぞ。はよ戻れ。
「確かに、効率を考えると正しいわね。でも意外だわ。……貴方が自身の能力を正しく理解していたとは思わなかったから。一昨日はやけに自意識過剰だったけれど……最低限の思慮は持ち合わせているようね。……そうね、僅かに、私の中で貴方の評価が上昇修正されたわ。ほんの僅かだけれど」
光栄でーす。じゃあ、話はこれで終わりね。
「それは、何というか、光栄です。……すみません、そろそろ櫛田さん達が戻ってきますので、作業を手伝いたいので……またお話は今度にさせて頂けると助かるのですが……」
俺がそう言うと、こちらを見下すような挑発的な笑みを浮かべた。コイツ身長が俺より10cm以上低いのに、精神的に人より高く立つのが上手いな。天然なのか、狙ってやってるのか悩むところだが、彼女のスペックの高さと、それに見合うプライドの高さから前者なんだろう。
「ええ、忠犬の役目、頑張りなさい。隷属する生き方は、私は惨めだと思うけれど、考え方は人それぞれよ、否定はしないわ」
お前も、綾小路の恋人頑張れよ。恋愛の仕方は人それぞれだけど、路上で行為を行うのは個人的には無しだと思うぞ。完全否定はしないけど。あと、あんまり束縛ばっかりしてると、櫛田に取られちゃうから、ほどほどにな。
あー、でも俺的には櫛田と綾小路が結ばれた方が、櫛田が安定するから楽か?いや、でも今日のことを考えると堀北が俺に八つ当たりしてきそうなイメージあるから、それはそれで嫌だな。綾小路には頑張って二人とも幸せにしてもらいたいところだ。
***
食料班の物資搬入を手伝った後、昼食を食べ、櫛田にAクラスへの略奪計画について話をした。しかし、残念ながら櫛田はあまり乗り気ではなかった。どうやら、彼女のグループが塔の方へ偵察に行きたいらしい。自分の目で確かめたい事があるとか言っていた。
うん、いいんじゃないですかね。櫛田は洞察力とか高そうな雰囲気もあるし、戦闘力も高そうだから、Aクラスが占領していると思われる塔に行くのは悪くない気がする。ちなみに俺も櫛田に誘われたが、辞退しておいた。井の頭から、塔側にはAクラスを数人目撃したとの情報をもらった。行くわけがない。
ただ、井の頭も櫛田に同行するらしいので少し心配だが……まあ、櫛田は強いし、井の頭自身も塔の敵については知っている上で、櫛田に同行するようなので、彼女にも何か考えがあるのだろう。
昼飯後に櫛田グループの塔への出立を見届け後、適当にAクラス側から、食料を個人で持てる量だけ回収して、調理班に届けた。連日の食料供給が高すぎたためか、今日の午後は組織的な食料調達はしないことになったのだ。この辺りも、櫛田が食料探索を止めて偵察へと考えをシフトさせた要因かもしれない。
なお、俺の個人行動に関してはちゃんと理由があり、篠原軍団に少し足りないものがあるので、もしあったら欲しいと注文されたからだ。
食料班に物資を少し届け時刻が15時を少し過ぎたところで、綾小路がベースキャンプに戻ってきた。遅すぎるだろ。お前は何をしていたんだ。お前のせいで堀北が欲求不満で俺に絡んできたんだぞ!思わず、睨むと、なんと、ヤツがこっちへゆっくりと近づいてきた。ひぇ、すみませんでした。
「赤石、なんか、久しぶりだな。そういえば、今日はまだ会ってなかったか……こういう時は、おはよう、でいいのか?」
もう三時だし、こんにちは、でいいんじゃないか?
「どうでしょう?個人的には『こんにちは』が正しいと思いますが……というより、綾小路君は今までどこに行ってたんですか?」
「ちょっと散歩してた」
フリーダムすぎるだろ。お前は6時間近く散歩してたのかよ。昼飯も食わずに散歩かよ……
「そうですか……」
あ、いや、待てよ。コイツ、もしかして島で迷子になって、それを隠してるんじゃ……優秀な参謀が必ずしも方向感覚が正しいわけではないし、実際この島は迷いやすい構造だし、十分にあり得るな。
「なあ、赤石、なんで女子と男子で扱いが違うんだろうな」
唐突すぎて何から突っ込めばいいかわからない。6時間の散歩で頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「ええっと?性差の話でしょうか?」
「いや、櫛田はすごいなって話だ」
そして唐突な愛人自慢。それは堀北にはマジで黙っておけよ。俺が八つ当たりされるから。
「まあ、確かに櫛田さんはDクラスとは思えないポテンシャルを持っている方ですが……」
その日はなんか適当に綾小路と話して、そして、適当に時間が過ぎ、なんか一日が終わった。今日、俺は意味の分からない会話ばかりした気がする。
あ、あと、今日も、脱落者は当然いないようだ。とてもよいことだと思う。俺卒業したら世界一クリーンな企業作るんだ!