実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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敗北者

 特別試験最終日。憂鬱とした気持ちで起きた。昨日の夜の綾小路の点呼遅れと堀北の脱落(どうも堀北は点呼の時間の少し前に脱落したので点呼遅れはしていないらしい)により、Dクラスの士気は落ち続けている。クラス全員で綾小路を磔にしろと盛り上がったものの、平田が庇ったため、結局綾小路への追求も有耶無耶になった。ちなみに今回、俺はだいぶ怒っていたので、思わず綾小路の方をガン見してしまった。ヤツも睨み返してきたが、いつもはビビッて退く俺でも、今回は怒りの感情を優先し睨み続けた。20秒くらいで、綾小路の方が視線を外した。俺は負けない。

 昨日の夜でDクラスは全ての食料を使い切ったので、本日の食料はない。綾小路は昨日の昼から食べていないようなので、実質一日飯抜きだ。因果応報である。特にやる事も無いので、テントなどの片付け作業に従事した。片付け中に指示を出していた平田が失踪するというアクシデントがあったが、櫛田に聞いたところ、なんか綾小路と話があるらしく森へと行ったらしい。さては綾小路、昨日の失態の言い訳をする気だな……いや、まてよ、これはチャンスか。いつ話そうか悩んでいたが、俺はAとBのリーダーを知っているのだ。これを平田に報告したいが、今までは平田が忙しく機会が無かった。けれど、今、森に綾小路と平田は二人きりだ。綾小路が言い訳を終えた後に平田に話しかければ、他者に伝わるリスクなくリーダーの情報を渡すことができる……チャンスだ。

 俺は、櫛田にちょっと平田に伝えたいことがある旨を伝えて、ベースキャンプを去り、綾小路たちが向かった森の中へと進んでいく。3分ほど歩いたあたりで、綾小路と出会った。ありゃ?平田は?

 

「おや、綾小路君。平田君は?」

 

 お前、まさか口論に発展して平田を殴って気絶させちゃったんじゃないだろうな?

 

「……オレと平田が一緒だと、何で知ってるんだ?」

 

 なんか苛立ってるな……まさか本当に殴ったのか?

 

「櫛田さんに聞いたら教えて貰えました」

 

 素早く櫛田を売る。え?櫛田への恩?そんなの寝て覚めたら忘れたよ。第一、櫛田はこれまで綾小路を巡る三角関係で俺に八つ当たりしたり、堀北に煽られる原因を作ったんだよ。むしろ、こういう時、俺の盾になってくれないと困る。まあ、盾と言うと外聞が悪いかもしれないが、実際、櫛田に多くの功績を渡したのだから、このくらい良いかなって思っているのだ。櫛田は褒められると嬉しいタイプに見えるし、win-winの関係なんじゃないだろうか。

 

「そうか……平田なら、この先にまだいるぞ。何か用なのか?」

 

 よし、平田は生きているようだ。よかったよかった。

 

「特に重要な要件ではありませんが……綾小路君こそ、平田君に何か用があったんですか?」

 

 俺の案件について詮索されたくないので、卑儀『お前、平田に言い訳してたんだろ、知ってるぞ』を使うことにした。

 

「……、いや……、そうだな。お前の言う通りだ。…………確かに、お互い、平田に重要な要件などないな」

 

 効果は抜群だ。綾小路は早足にベースキャンプを目指して行った。堀北風に言うなら、せいぜい櫛田への媚売りをやってクラスメイトから守ってもらうんだな!

 

 

 

 その後、平田に初日にAクラスとBクラスのリーダーが占有するところを見たと証言した。Aは王の功績として、Bに関しては偶然、俺が見てしまった事にした。Bも王の功績にしたかったが、もし確認などがされた場合は不自然になると考え、断腸の思いで俺の功績にした。

 平田は呆気にとられつつも口を開いた。

 

「ありがとう。赤石君。Aクラスのリーダーについては異論はないよ。ただ、Bも書くべきかな。堀北さんはBの一之瀬さんと同盟を結んでいるみたいだけど、君はどう思うかな?」

 

 あー、やっぱりそこがネックだよね。一之瀬様は怖いけど……

 

「……こういう言い方は卑怯かもしれませんが、堀北さんが勝手に結んだ同盟です。クラスの総意とは言えませんし、それに彼女は試験を降りた身です。第一、堀北さんは試験の上での名目上のリーダーというだけで、このクラスの指導者、代表としての意味なら、平田君です。堀北さんは頭が良くて判断力もありますが、皆の心をしっかりと分かっているのは、平田君です。それにAクラスを目指すなら、何時か必ずBと戦う時が来ます。堀北さんもそれは分かっているでしょう」

 

 訥々と話しながら平田を観察するが、あまり好ましい回答は得られそうにない。一応、言葉を切らずにもう少し説得してみることにする。

 

「それと、……今回の試験でDクラスには亀裂が入っています。少しでもそれを癒すためには、今は多くのポイントが必要です」

 

 しかし、平田の顔色は芳しくない。うーん、駄目っぽいか。

 

「……いえ、勿論、決めるのは平田君で、あくまで、これは意見として、ですが……」

 

 一応、念のため、お前が責任を取るんだぞ、と平田に含みをもたせる。俺はちょっと甘言、おっと、間違えた、諫言しただけだから。ちゃんとBのことを問い詰められたら、平田がリーダー名を書いたことを言うんだぞ。

 

「……うん、そうだね。確かに君の言う通りだと思う。……ただ、それだと同盟を取り付けてくれた堀北さんの名誉にかかわるよ。赤石君の気持ちは、本当に嬉しいけど。Bに関しては書かないことにするよ」

 

 ちぇ、失敗か……まあ、平田のこういう所は良い所だと思うし、別にいいんだけどね。なんか、井の頭にタダ働きさせてしまって申し訳ない。今度謝っとこう。

 

「そうですか……分かりました。それなら俺はこれで」

 

 そう言って、平田に背を向けて、3歩ほど歩いたところで、鋭い声が後ろからかけられた。

 

「――っ、赤石君!」

 

 え、何、なんかあるの?

 

「はい、まだ、何かありましたか?」

 

 気になり振り向くと、何か、痛みを堪えるかの表情をした平田が目に入った。いや、何?

 

「実は、君に謝らなくてはいけない事があるんだ……」

 

 その出だしは無茶苦茶怖いんだけど。何かあったの?

 

「ええっと何でしょう?」

 

「その前に、君は、今Dクラスが持ってるポイントがいくつか知っているかい?」

 

「確か……176ポイントでしたね。120のラインは完全に守り切れましたね」

 

 堀北と高円寺と綾小路がバカしなければ、241ポイント。Aへの攻撃が当たれば291ポイントだったのだ。あー、まったく、無能が3人もいると困るぜ。

 

「いや、実際は160ポイントだよ。……か、――いや、女子側のテントにマットと扇風機が配置されてる。それが2セットで合計16ポイント使ったんだ。僕もそれを許可した。女の子に無人島での生活は酷だと思ったからね。でも僕は男子には黙っていたんだ。余計な不和を呼んでしまうのではないかと思ったから。そして、献身的に僕やクラスのために貢献してくれた、君にも黙っていたんだ。……ごめんね」

 

 駄目です。ポイントの無断使用は許しません。0.533高円寺です。いや、まあ苦労を背負っている平田が悩んだ末のことなら別にいいけどさ。でもさ。これ絶対後で揉めるじゃん。俺だってポイントの使用状況について知ってたんだから、綾小路は当然として、幸村なんかも知ってるだろうし、絶対後で分かるやつじゃん。無人島の時は女子が男子に不信感を持ってたけど、船上試験の時は間違いなく逆転するぞ。どうするんだ……?俺が言うようなことじゃないけど、隠すならちゃんと隠せ。まさに姑息だ。その場しのぎだ。

 

「それは……何というか、残念です。……勇気を持って言ってくれた平田君にこんな事を言うべきではないかもしれませんが……」

 

 途中で言葉を濁す。頑張って、かなり苦しそうに言ってみた。まあ、実際、平田からの信頼度があまり高くなかったのは残念だ。もう少し信頼されていたと思っていたのだが……平田を宿り木にするデメリットも増えてきたし、あんまりメリットが無いなら、無理に平田の参謀気取りをするのも良くはないな。実際、軽井沢軍団は誰にも止められないことが判明したし、軽井沢は怖いけど、篠原や櫛田相手ならそんなに怯えなくても大丈夫そうだし、いっそのこと宿り木チェンジもありかな……?あー、でも、盃は嫌だなー。

 

「――いや、何でも言って欲しい。君には言う権利があるはずだ」

 

 マジで!何でも言っていいの!それなら……

 

「俺を信じてはくれなかったのに、堀北さんの同盟話は信じるんですね……一之瀬さんは確かに立派な人だと思いますが、他クラスです。Dクラスの利益は考えてくれないかと思いますが……」

 

 まったく、それとこれとは話は別だけれど、関係ない、今はチャンスだ。Bクラスのリーダー当てをやって貰おう。今の平田は頼めばなんでもしてくれそうだし、我ながらゲスいが、構わない。失った16ポイントを取り返すどころか、お釣りがくる。なーに、堀北の信頼度が下がって、平田にちょっとばかり一之瀬様からのヘイトが向くだけですよ。心配いりません。俺にダメージが無いし、実質ノーダメ。ノーダメ。

 

「――っ!…………、……確かに君の言う通りだ。……ただ、Bクラスに関しては、少し考えさせてほしい」

 

 うーむ、平田はかなり悩んでいるようだ。ちょっと悪い事したかもしれん。でも、もし可能なら、Bクラスからポイントを奪ってほしい。

 

「いえ、いいんです。クラスの舵取りをするのは平田君ですし、平田君にしかできないことですから」

 

 あんまりBクラス攻撃論を押し過ぎて、梯子を外されると怖いしな……俺は一之瀬様に恨まれたくはないんだ。

 

「…………リーダー当てまでもう少し時間がある。それまで考えさせてほしい」

 

 まあ、かなり良いラインだな。これなら俺がやったのは甘言だけだし、責任は平田が取ってくれるだろう。サンキュー平田。

 俺は平田に了承の念を伝えると、ベースキャンプへ帰参した。平田が戻ってきたのは、その10分後だった。

 

 

 

***

 

 

 

 そして、荷造りを終えたDクラスの面々はベースキャンプを放棄して、開始地点である桟橋がある浜辺へと戻ってきた。

 それから、がやがやしながら、正午を迎えた。ふー、試験終了。あとは結果発表かな?

 

『ただいま試験結果を集計しております、しばらくお待ちください』

 

 まあ、平田がどうあれ、210ポイントは堅い。あとは彼の覚悟次第では260ポイントだ。夢が広がるな……

 幸せな妄想に耽っていると、ふと、怨霊のような声が聞こえてきた。

 

「おい、腰巾着。鈴音はどうした?」

 

 見ると、綾小路が龍園に絡まれていた。はて?お前脱落したんじゃなかったっけ?何でいるの?

 

「さあ、オレに聞かれても困る」

 

 綾小路が事案を隠蔽した後、そこに須藤・平田が加わり、プチ口論が発生した。それにしても何で龍園が残ってるんだ。おかしいぞ。というより、龍園の恰好は異常だ。髪がボサボサで髭も伸び放題。浜辺で会った時よりもゲッソリとして明らかに痩せている。その上、ここからでも分かるほど臭い。うん、これは状況証拠的に見て、間違いなくサバイバルしてたな……それもポイントなど使わない本物のサバイバルだ……とすると、龍園はずっとこの島にいたのか。なんか雲行きが怪しいぞ……

 それから、真嶋先生の説明が始まるが、龍園とDクラスの口論は一向に止むことなく続いてた。先生の話聞けよ。……それにしても、なんで龍園は島に残ったのだろうか。スポット占有のボーナスポイント狙いか?何か嫌な予感がする。

 

「は、その程度のポイントで満足できるとは、雑魚の神経が羨ましいな」

 

 現在は平田と龍園がレスバしている。思ったより平田は強い。やっぱり平田は安定感もあるし、宿り木のままでもいいかもな……あーでも、さっきの俺の平田への態度が悪かったから、心証良くないだろうし、それも踏まえると微妙か?うーん。

 

「何を言おうと構わないけど、Cクラスが0ポイントであることには変わらないよ」

 

 平田が強気で答えると、龍園は蛇のような目でじっと平田を見ながら、ククと嘲笑した。

 

「確かに俺は300ポイントを使い切った。だがな、追加ルールの事を忘れたのか?」

 

 ぐ、まさか……本当に?

 

「クラスのリーダー当ての事を言ってるんだね」

 

 いやいや、まさか……

 

「そうだ、俺は紙に書いたぜ。お前らDクラスのリーダーの名前をな」

 

 やべぇ、これはアレだ伊吹何某だ。やはりスパイだったか。リーダーカードを見られていたら大損害だ。状況的に、昨日の堀北の水浴びの時か……クソ、無能堀北。何で一人で水浴びに行ったんだよ。あと、綾小路も綾小路だ。お前が一緒にいながら……

 

「それと、Aの連中も同じように書いた。これがどういう事か分かるか?」

 

 は?え、誰だ……神室か、いや、それはないか?というか、龍園の文脈を考えると、龍園がAクラスに教えたのか……?なぜ、そんなことを……

 いや、単なるミスリードかもしれないが……本当なら大変な事だ。もし本当ならDクラスはボーナスポイント抜きとマイナス100ポイント。下手したら、100ポイント割るぞ。絶対ラインである120どころではない。俺の努力が報われなかったのも悔しいが、やはり今後のポイント配給、それに絶対ラインを抜かれたことによるDクラスへの精神的な影響も危険だ。これはマズいぞ……

 

「ちょっと待てよ、それどういうことだよ。おい……」

 

 須藤の言葉に対して、龍園は勝者の笑みを浮かべた。ふと、笑みに釣られて再び龍園を見る。あまりにも酷い見た目だ。きっと俺らとは違い本気のサバイバルだったのだろう。他のクラスを騙しつつ、その上、他のCクラスの生徒には無人島を精一杯楽しませ、さらに邪神を鎮めた。どう考えても努力のし過ぎだ……俺のした暗記なんて、龍園の努力に比べるとカスみたいなものだ。成果が努力に比例するなら、この結果は当然のことなのかもしれない……悔しいが受け入れなければいけない。龍園、今回の特別試験、お前の勝ちだよ。

 あー、でもやっぱり、堀北と綾小路は許されない。お前らがちゃんとリーダーカードを守らなかったせいで、こんな事になったんだし、その上、おそらくリーダーカードを守れなかった後、ヤケになって島でアオハルだ。そのせいで35ポイント失ったのだ。うーん。これは無能と言っても過言ではない。というか、綾小路も結局は無能だったな。アイツ、意味深な態度を取ってるけど、ただの思い込み野郎だな。ある意味、お前ら二人が出した被害は高円寺以上だぞ。誰だよ、この二人の事を最強の参謀タッグとか言ったのはよ。ただの最弱じゃねーか。また、あの二人なんか犯っちゃいましたか~って感じだ。綾小路と堀北の参謀力が弱すぎるってことだよな。まあ、口にしたら、綾小路に黙れドンとぶっ飛ばされそうだから黙ってるけどな……はー、あの二人本当に使えないわー。暴力事件の裁判で勝てたのはマグレだろ。やはりこのクラス最強タッグは平田と櫛田だったか……マジであの無能二人をDクラスから追放する方法ないかな?もし、俺がクラス内で誰か一人を追放できる権利があったら間違いなく、綾小路か堀北に使うよ。もう、はっきりと断言する。綾小路と堀北は無能!この評価は絶対に、絶対に、絶対に、覆らない!!

 

「それでは特別試験の結果を発表する――」

 

 まあ、うちのクラスが4位か3位だな。最後に、発表を聞く前に、これだけは言っておきたい。

 堀北、堀北、敗北者!リーダー、脱落、敗北者!

 

 

 

***

 

 

 

 うおぉぉぉぉーーーー!!!よくわからないけど勝ったーーーー!!!うぉぉーーー!堀北ー!綾小路ー!また、お前らが何かやってくれたんだなーー!!よく分からないけど!

 お前らなら、Dクラスを、勝利に導くと、俺は最初から確信していたぞーーー!!うおぉぉぉぉーーーー!!!!!

 

 

 

 

 ふぅ。一先ず落ち着いたので、近くで大歓声を上げているメンバーと合流し、船で待つDクラス一の才女にして、参謀、大正義である堀北を讃えに行く事にする。

 船のデッキに向かう途中、やっぱり堀北は神だな、というクラスメイトの意見を聞いて、嘆かわしく思った。お前らはあんなに堀北をディスっておきながら、今更といった感じだ。なんという誠実さの欠片もない態度であろう。手のひら返しが早過ぎる。俺のように堀北と綾小路のことを最初から最後まで信じ切っていたのは平田と櫛田ぐらいであろう。まったく、困ったものだ。

 途中で高円寺に会ったりもしたが、まあ、終わり良ければ総て良しとも言うし、特別に許してやろう。まあ、次やったらマジで高円寺の実家、綺麗にするから、覚悟しとけよ。

 高円寺に皆で絡んだあとは、Dクラスの参謀である堀北と対面した。皆で囲んだり、謝ったり、讃えたりした。

 いやー、本当に、堀北は凄いですよ。あと、綾小路もね。お前も一枚噛んだんでしょ?ふと気になり彼を探すが、デッキにはいなかった。まあ、目立つの嫌いみたいだし、いっか。……ここまで手柄を堀北に渡しているのを見ると、目立つのが嫌いなんじゃなくて、堀北に手柄を献上したいのかもな。今だって、堀北、なんか嬉しそうに見えるし。

 やっぱり綾小路は、かなり堀北が好きなようだ。こりゃあ、櫛田は大変だな。

 

 

 

***

 

 

 

 堀北を皆で讃えた後は、船室に戻りゆっくりと過ごすことにした。とはいうものの、今回の試験色々と考えることがあった。まあ反省会だ。

 

 結果だけ言うと、1位Dクラス310ポイント、2位Aクラス120ポイント、3位Bクラス42ポイント、4位Cクラス0ポイントだ。一応自分なりに考えてみた。

 まずはDクラスだ。俺の考えた予想は210ポイントで平田次第では260ポイントだ。単純に考えて、平田が覚悟を決めて、その上でさらに50ポイント手に入れたのだろう。まあ、50なんて値は1つしかない。残ったCクラスのリーダーを当てたのだ……間違いなく参謀タッグの仕業だろう。うーん、もしかしたら、今日綾小路と平田が会ったのは綾小路がCクラスのリーダーを告げたのかもしれない。結局誰だったんだろう?最後まで残っていたし龍園なのかな?いや、別にリーダーが最後まで残らなくちゃいけないみたいなルールはないし、途中で脱落した他の生徒の可能性もあるか?まあ、終わったことだし、そこは誰でも良いか。何だかんだで堀北と綾小路はリーダーカードを守り切ったのだろう。その上、龍園の言葉を信じるなら、何らかの手段で龍園に誤情報を流したみたいだ。まあ、伊吹何某が文字も読めぬ無能だったのかもしれないが。

 次にAクラス。ここは思った以上に低かったな。もっと頑張るかと思ったが……いや、食料をポイントで全て賄うと、そんなもんか。ある意味平田の言う120ライン計画と同じ考えをしていたのかもしれない。うーん、ここは、Aクラスの首脳陣と同じ発想を短期間で行った平田を褒めるべきだろうな。Aクラスは、それ以上には特にないかな……いやいや、待てよ。少なくとも彼らは50ポイント減点されているのだ。その上龍園の発言を信じるなら、Dクラスのリーダー当てを失敗しているはずだ。というと、少なくともマイナス100ポイント。それに坂柳がリタイアしている事を考えると、彼らの残りは170ポイント。つまり50ポイントの消耗だけであの無人島試験を乗り切ったことになる。変だ。凄く変だ。食料をポイントで賄っていたのなら当然足りない。しかし、四日目の偵察では、食料を採取した痕跡は無かった……不気味だ。まあ、ここは寮に戻った後の盗聴で調べてみよう。それに上手く衛星写真が取れていれば、主要人物の行動も少しは割り出せるかもしれん。

 その次は一気に落ちたBクラスだ。ここは駄目だったな。なんかあったのかな?まあ、平田がリーダー当てをして、ボーナスポイントも抜きになったから、平田と同じ絶対ラインで考えていれば、120から50引いて、70だよな……うーん、Aはポイントが残り過ぎだが、こっちはポイントが減り過ぎだな。何かアクシデントでもあったのだろうか?わからん。

 最後のCだが、まあ、ここは龍園も言っていたし、嘘でなければ0ポイントからスタートしたのだろう。綾小路がCを当てた以上ボーナスポイントは無いし、クラス当ても間違えたのだから0ポイントだ。分かりやすいな。

 AとBの謎のポイントについては、夏休み中に解析するとしよう。というか、今パソコンないし、帰ってからだな。元気かな、貯金箱1号。彼は、ちゃんと役目を果たしているだろうか……

 

 まあ、今日くらいは休むかな。三日挟んだらボーナスタイムである船上試験だ。そこで大量に稼ぐためにも、休養が大事だ。

 そう心に決めた瞬間メッセージが飛んできた。ッチ、櫛田だ。無人島試験が終わったし、未読スルーでいいか、と思ったが、もしかしたら宿り木を変える可能性もある。しゃーない、見るか。

『赤石君、今、暇かな』

 今は、ゴロゴロしてるから、忙しい。

 

 

 

***

 

 

 

 櫛田に呼び出された俺は仕方なく船のデッキに来ていた。しかし、待ち合わせの時間になっても櫛田は来なかった。ドタキャンやめろ。

 

「赤石、いきなり呼び出して、悪いな」

 

 いや、俺を呼び出したのは櫛田であって、お前じゃないんだけど?綾小路。

 

「……綾小路君?櫛田さんに呼ばれたと思ったのですが」

 

「いや、悪い。ちょっと話したくてな。俺の知り合いだと番号を知ってたのは櫛田だけだったからな……」

 

「……えっと、何か俺に用でしょうか?」

 

「……、……そうだな。いくつか、聞きたいことがあるが、答えてくれるか?」

 

 やだ。

 

「勿論です。何でも聞いてください」

 

 綾小路はじっと俺の目を見ている。何か変だな。綾小路って左右のバランスがおかしいのだろうか。正中線を見ていないというか……俺の左側を意識しすぎている気がする。

 

「………………、せめて、一つだけ答えて欲しい」

 

 あれ、俺そんなに答えたくなさそうな顔してたかな。思わず、黙っていると、綾小路は質問を投げてきた。お!その質問だけ答えればいいんですね。

 

「どうして、執拗に龍園を痛めつけた?お前は龍園をどう思っている?」

 

 ここぞとばかりに難解な質問をしてきた。英雄だと思っている、とは言えないし……というか、龍園を痛めつけてるのは邪神だよ。俺じゃないよ。

 

「痛めつける……すみません、言っている意味がよく分かりませんが……」

 

「試験終了時、龍園は痩せ細っていた。恐らく、無人島では殆ど何も食べれなかったんだろう。……そこまでする必要があったのか?龍園の何が気に入らない?」

 

 いや、龍園関係はノータッチというか、龍園の計画を壊したのは堀北と綾小路だろ……コイツどさくさに紛れて俺のせいにするつもりか。さては、このあたりにCクラスの生徒を潜ませているな!そうはさせるか綾小路。Cクラスの見てる人、コイツです!綾小路です!コイツが龍園君の邪魔してまーす!

 

「……いえいえ、俺は特に龍園君のことは何とも思ってませんよ。綾小路君こそ、龍園君に思う所があるのでは?彼に何か悪い感情を持ったりはしませんか?」

 

「……危険な生徒だと思っている。この学年では二番目にな」

 

 一番だれだよ。あ、いや、邪神か。……んー、でも綾小路って邪神を知らないと思うが、実は知っているのだろうか。まあ、俺の知らないだけで、龍園以上邪神未満のヤツはいるかもしれないし、いっか。俺と、そのヤバイ奴が出会わなければ何の問題も無い。

 

「綾小路君に危険と言われるとは、よっぽどの人ですね、龍園君は。俺も気を付けますね……今回、堀北さんの活躍で何とかなったみたいですが、やはり綾小路君としては、これからも堀北さんと一緒に活動されるんですか?」

 

 龍園ネタで引っ張ってもボロを出しそうにないし、というか、俺がボロ出しかねないし、適当な話題に変えよう。

 

「…………、そうだな、悪かったな。今まで通りいこう。オレは何もしてないし、これからも何もしない。お前も知ってる通り、堀北が勝手にやったことだ。お前も、何もしていないし、これからも何もしないだろう。無人島ではオレもお前も、何も活躍していない。……そうだろ」

 

 おい、ナチュラルに俺の質問を無視するな。てか、俺は結構、食料班で働いてたと思うんだけど……功績の殆どは櫛田にあるが、それでも彼女に従事して働いたから、少なくとも普段の活動では、散歩ぐらいしかしてない綾小路よりは働いた時間は長いが……いや、まあ、クラスに対する貢献度という意味では参謀タッグの方があったかもしれないけど。

 うーん、綾小路の俺への評価、思ったより低い……その上、堀北に関係していることを話さないとは、まったく信頼されていないな。いや、まあ、俺は表面的にはあまり活躍していないし、俺の事をDクラスの無能の一人、と綾小路が判断しているのなら、信頼しないのも当然か。それに、それはそれで動きやすいし、まあいっか。ちょっと釈然としないけど。まあ、いいか。

 

「そうですね。すみません。……その、次に特別試験のようなものがあったら、その時は頑張りますね。綾小路君も、色々大変でしょうが、頑張ってください」

 

 最後にそう、話を打ち切り、綾小路と別れた。最後まで彼は無表情だった。圧巻のポーカーフェイスである。まあ、綾小路の俺への評価を再確認できる、いい機会だったか。どうもアイツは俺の事を『Dクラスの無能だが肉盾程度にはなるヤツ』と判断しているようだ。実にけしからん。というか、櫛田経由で俺の事呼んだのも、明らかに今回の特別試験のCクラスへの贄にするためだよな……なんてヤツだ。人のことを贄にしようとするなんて。あそこには邪神が封印されているのだ。人を邪神のクラスの贄にするような、そんな薄汚いヤツだったなんて。綾小路、見損なったぞ。人の事を贄と考えることすら許されないのに……自分の安全の為に、人を邪神の贄にしようとするなんて、絶対に絶対に絶対に、許されない行為だ。なんて酷いヤツだ。許さん。

 そういえば、櫛田は知っているのだろうか……もし、知ってて綾小路に会わせたのなら、許されないが……そもそも、櫛田って綾小路が堀北を支援してることを知ってるのかな?……まあ、三人の関係性から考えると知ってて当然か。うーん、そうすると、なんか今回の件は櫛田の善意より情欲が上回った感じか。そういうところだぞ、櫛田。根は良いヤツだと思うけど、綾小路への複雑な感情で、判断を誤りすぎなんだよ。次、俺に間接的に被害を与えたら、お前の-0.1高円寺(今回ので0.2加算された)を0に戻すからな。

 

 

 

 




 

 これにて三巻部分は終了です。
 ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

4巻部分以降についての知識調査(今後の執筆内容に関わります)

  • 小説の4巻部分を読んだことがある
  • アニメ版の無人島(3巻)までしか知らない
  • 小説未読だが、4巻部分の内容を知っている
  • そもそも原作を知らない

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