実力至上主義の教室と矮小な怪物   作:盈虚

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綾小路清隆の独白3-2-2

 Cクラスへ向かう最中、自身の苛立ちを鎮めようとする堀北の余計な呟きに対して、思わず笑いが零れてしまう、というハプニングがあったものの、概ね問題なく目的地へと辿り着いた。

 厳密に言うと、オレが笑ったとき、視線を感じたことから、赤石にも気づかれてしまったことが問題と言えば問題か?堀北の呟きに対するスタンスは赤石に対するスタンスを表すことになってしまうのだから。

 いや、オレの赤石の能力に対する警戒は朝の会話から察するに、読まれていると考えていい。ならば、今更か。

 

 それに、そんな事を考えている暇は、どうやら無いらしい。

 浜辺で文字通り、無人島でのバカンスを満喫しているCクラスの生徒たちを見て、堀北が驚愕し、龍園の下へと向かいだしたからだ。勿論、それだけなら、何の問題の無いことだが……あろうことか、赤石がその場から動かなくなったのだ。一方で、使命感に突き動かされた堀北は、赤石に気付くことなく、そのまま、龍園の下へと恐れ気もなく進んでいく。

 人は理解できないものを恐れるという。堀北鈴音は勇敢だ。だから、堀北にとって理解できない、本来であれば恐ろしい龍園相手に向かって行く事ができる。龍園を見て、他が見えない堀北。堀北の後ろから着いて行くオレ。そして、草陰から隠れて動かない赤石。

 オレは恐怖を感じている。この『ありえない』状況が理解できないからだ。龍園の行動は確かに興味深い。まだ会ったことは無いが、会うことが期待できる程度には面白い男だ。堀北は優秀な面を多く持つ少女だ。そして何より『使える』。そんな二人の対話の陰で、異常な才能の男が草むらに隠れている。流石に、これでは堀北があまりに不憫だ。

 このような展開になった責任の一部はオレにもある。そしてついでに言えば、このままでは、堀北が赤石が居ないことに気付くのは龍園と話を始める直後になるだろう。そうなれば、赤石不在への怒りはなぜかオレへと向かう。できれば避けたい展開だ。

 

「堀北、赤石が草陰に隠れたまま動かないぞ」

 

「何を言っているの?いくら彼でも……いないわね」

 

「知識的に考えて、一緒に来てもらった方が……」

 

 オレが最後まで言い切ることなく、堀北は顔を般若の様に歪めると、鋭く口を開いた。

 

「すぐ、連れてきなさい。第一、綾小路君がどうしても、赤石君を連れて行ってほしいと言ったからでしょう。まったく」

 

「あー、それは悪かったな。まあ、赤石も驚いてるのかもな。まさかCクラスがこんな風にポイントを使っているなんて完全に予想外だ」

 

「言い訳は聞かないから、早く連れてきなさい。何なら、櫛田さんを出汁に使っても構わないわ」

 

「……それを構うのはお前ではなく、櫛田……あ、いや、何でもない。すぐ連れてくるから、そう怒った顔をするな。須藤が悲しむぞ」

 

 意中の美少女が怒りの表情ばかりしていたら、オレの友人も嘆くだろう。いや、案外、それはそれで良いと言うかもしれないが。

 背後から堀北の殺意の視線を感じつつ、赤石の下へと向かう。今日は、よく瞼の動く日だ。

 

「赤石、堀北が一緒に来いって言ってるぞ」

 

「綾小路君、俺は人前があまり得意ではないですし、他のクラスの人たちに囲まれるのは、どうにも、自分には合わないような気がします。お二人の邪魔になってしまったら申し訳ないですし、ここでお二人を待とうと思います」 

 

――赤石はどこまでオレを困らせれば気が済むのだろうか。

 

 堀北だけではなく、オレの精神的な摩耗まで狙っているのか……?流石に、それは無いと思いたい。いや、無いはずだ。恐らく、少しでも堀北を精神的に消耗させたいのだろう。しかし、分からないな。この特別試験になった瞬間、赤石の堀北への精神的な操作は病的といって良いほど激しくなっている。この特別試験のためか、それとも今後のより大きな視点での判断か。どちらか分かれば、ある程度オレの方でも考えが纏まるのだが。

 

「あー、分かった。一応、堀北には知らせるが、何が起こってもオレは責任を取りかねるからな」

 

 成果もなく、堀北の下へと歩く。……いや、駄目だ。堀北の殺意の眼差しが強くなっている。思わず、赤石の方へと振り返りそうになるが、鋼の意志で耐える。ここで振り返れば、赤石の謀略にケチがつく。

 堀北の機嫌、赤石の謀略、どちらも関わりたくない。だが、どちらとも関わらなくてはならない。重いな。流石は自由の代償といったところか。だが、オレはイカロスだ。ならば、やることは決まっている。水底(あかいし)よりも太陽(ほりきた)だ!

 

「赤石は、まあ、見ての通りだ」

 

 オレの報告を聞くと、堀北は一度、赤石のいる方へ鋭い視線を飛ばすと、そのままオレを流し見た。

 

「随分なげやりな言い方ね。とても失敗の報告とは思えないのだけれど……赤石君を今まで高く評価していたことに対する弁明と、今、赤石君を連れてくるなんていう簡単な使命も達成できなかった弁明、どちらの方が貴方にとって簡単かしら?」

 

 太陽に近寄りすぎたようだ。蝋が溶けてどころか、肉体まで焼かれてしまいそうだ。

 

「まず、赤石を連れてくることが簡単と定義することにオレは、そこはかとない疑問を感じるのだが」

 

「次、ふざけた事を言ったら、コンパスが火を噴くことになるわ」

 

「待て。それは恐喝だ。第一、コンパスを持ってないだろう」

 

「二学期をお楽しみに、とだけ伝えておきましょう」

 

 目が冷たい。これは本気だ。

 

「わかった。理解した。そうだな。どちらが難しいか、だったな。よし……真面目に考えるから少し待ってくれ」

 

「二学期をお楽しみに」

 

 流石に少し話が過ぎたようだ。まあ、これで赤石への義理は果たした。二学期のオレの健やかな日常が僅かに脅かされた気もするが許容範囲だ。

 

「わかった。今から話す。えっと、そうだな。まず人には得意不得意、向き不向きがあってだな――」

「もういいわ」

 

 全て聞くことなく、堀北は赤石の潜む草陰へと歩き出した。これは大変なことになるぞ。僅かに躍る心を隠し、堀北の後を追う。

 

「赤石君、ベースキャンプで話したことをもう忘れたのかしら?私は、Cクラスの偵察に一緒に来て、その上で協力するように言ったはずよ。そして、貴方は私に従うと約束したはずだわ」

 

「ええっと、堀北さん。仰りたい事はよくわかります。しかし、人には得意不得意、向き不向きがありまして……俺はお二人のように勇敢でも優秀でもありません。ここで残って、その上で、お二人がCクラスの本陣に入っている間はCクラスの観察をして、何か情報を得られれば、俺なりに役に立てるのでは、と思っています」

 

 この男、耳も異常に良いようだ。堀北のオレへと向ける感情を悪用するためだろう。

 

「櫛田さんの命令は聞けても、私の指示は聞けないという事からしら?」

 

 眉根を寄せながら、堀北が憎々し気に言葉を漏らした。

 

「そ、そういうつもりは……無いのですが、すみません。ただ、今の堀北さんは冷静ではないように感じられます。果たして今の判断は正しいのでしょうか?」

 

 赤石は瞼を僅かに震わせていた。あまりにも自然に瞼が震えるタイミングが自然すぎる。まるで焦っているように見える。

 

「今、私はクラスを率いる立場として、やるべきことが山ほどあるわ。貴方一人に時間をかけている暇はないわ。場合によっては実力行使もせざるを得ないわね」

 

 今の堀北であれば、傷が残らない程度に手が出る。そして今までの赤石の対応から、何が起こるのかも完全に理解できる。

 

「不快に感じたのなら謝りますが、……先ほどにも言った通り、人には得意不得意が――」

「謝罪は必要ないわ。来なさいと言ったのよ」

 

 堀北の技を受けた赤石の動きは素人同然だった。おそらく、肉体面では本当に素人なのだろう。今までも何度か赤石の身体能力についての情報を持っていたが、これまでの経験上、それも偽装の可能性があった。しかし、肉体の動きは誤魔化しがきかないものだ。

 

――思考は誤魔化せても、肉体は誤魔化せない。

 

 これなら最悪、オレでも制圧可能だ。できれば避けたいが、最後の手段として考慮に入れるべきだろう。この情報を知れただけでも大きな意味があったと言える。やはり堀北は『使える』。

 

 

 

***

 

 

 

 予想外の展開というのは続けて起こるものだ。目の前で行われている光景を前に、僅かに、背筋が冷たくなるのを感じた。

 今、オレと赤石を無視し、龍園と堀北が激しい舌戦を繰り広げている。

 龍園という男を始めて見た。しかし、まさか、この男が龍園だったとは。

 

 5月のはじめ、赤石と話をしていた男だ。この男が龍園であったならば、今までの赤石の行動が全て裏返る。

 これまでは、須藤の事件では赤石が関与した痕跡はなかった。勿論、一之瀬に送られた怪しい動画や、審議会の日の態度など気になる点はあった。しかし、決定的なものは何一つなかった。だが、この男が龍園であったならば、赤石の行動の意味が大きく変わる。5月の時には龍園と赤石に交流があった。恐ろしいな。いや、待て。櫛田と赤石の関係は何時からだ。嫌な方向にばかり思考が進む。

 いや、根本的に言えば、龍園も櫛田もまだ(・・)脅威ではない。脅威になり得るのは現状ただ一人だけだ。ならば、選択を強いられる事態になれば、そこを叩けばいいだけだ。

 幸いにしては、オレには先ほど堀北が寄越した情報がある。…………随分タイミングの良い情報だった。オレの動きを全て読んでいたならば、赤石の能力を試すことも読めているはず。ならば、オレに逃げ道を残すかのような情報が、あまりにもタイミングが良いのは偶然ではなく必然では?先ほどの情報だけに頼りすぎるのは危険だな。もう一度、堀北を使うか?いや、そこまでの迂闊さを赤石は許さないだろう。

 ならば、発想を変える。堀北を『使う』のではなく、堀北を『使わない』。この方法で赤石の出方を窺う。そして場合によっては他の駒も使う。オレに現状使える手駒はそう多くはない。だが、一時的な利用という意味では、思考パターンが読みやすく、特殊な情報を共有している櫛田という選択肢もある。櫛田は赤石の手駒であることを考えると危険性は非常に高いが、だからこその櫛田という選択を取るのも手だが……

 

 やはり恒常的に使える手駒が堀北一人というのは、こういった場合に困るな。もう一人、手駒が欲しい。クラスに影響力がある、堀北とはまた別のタイプの、そんな手駒だ。

 一人、都合の良さそうな候補がいるが、今はまだ時期早々か。

 

 手札の数では赤石に劣る。今までは赤石とは争う必要性は皆無であった。いや、皆無でありたいと願っていた。故に、できるだけ考えないようにしてきたが、龍園と赤石の繋がり(ライン)を見てしまった以上、もう目を背けることはできないかもしれない。

 幸い、手札の質はいい勝負だ。しかし、手札の切り方は赤石の方が一枚上かもしれない。いや、正しくは、手札の引き方か。あの男の手札の引き方はどこか不可思議だ。超常的というべきだろうか。朝の地図の件が頭に過った。この考え方は、あまりに発想が飛躍しているが、やはり、そう(・・)なのか。

 

 確信が持てないが、調べるのは危険だ。しかし、調べないのはそれ以上の危険性を持つことになる。直接的な危険か、可能性の危険か。安全性を考えるなら手札の補充だが、タイミングが悪いし、目下の危険性がある以上、そちらへの対処が優先される。後手後手な状況だ。……一度、整理しよう。合理性と蓋然性から考えるべきだ。

 赤石はどんな人間か。手段を択ばない人間だ。そしてプライドは能力よりも遥かに低い。この学校では珍しい特質だ。一方で堀北への干渉の仕方を見るに、効率的な残酷性も持っている。性格は表面的には温厚、内面は掴めない。目的は一切不明だ。だが、あくまで戦術選択は合理性を考える人間だ。朝の要求から考えると、赤石の短期的な行動指針としては、Dクラスを上のクラスへと押し上げる、ないし、それに準ずる行為、またはその過程上での選択そのものが指針のように見える。

 そして、目の前で展開されている堀北と龍園の舌戦から、大まかな龍園の性質は見えた。赤石の戦術選択から考えて、龍園と櫛田を直結させるということはしない。そして、龍園が現在最も注視している相手は堀北だ。赤石でもオレでもない。ならば、龍園と赤石の関係性はおそらく非対称的なものだ。つまり堀北と赤石の関係に近い。無意識的に龍園が操作されているという考えが最も蓋然性が高い。

 おそらく、最悪の状態ではない。もちろん、あと数か月放置すれば、赤石に大量の手札が補充されることになる。ならば、その前に手を打つか。いや、結論を急ぎすぎている。…………?

 

――オレは赤石をどうしたいんだ?

 

 排除したいのか、そうでないのか。いや、そもそも赤石は『利用してはいけない相手』だ。なぜ、オレはここまで焦っている。直接的な理由は、龍園と赤石のラインが見えたからだ。異常な才能の持ち主が水面下で行動し、こちらの動きを阻害している。排除するには十分な理由と言えるかもしれない。焦ってはいない。オレは自分を『焦っている』と誤認している、いや、そう思いたいのか?だが、なぜだ……

 

 纏まらない考えになんとか答えを出そうとしていて、ふと、こちらに強い視線を感じた。どうやら、一度考えることを止める必要があるようだ。

 

「そのわりには随分とビビッてやがるみたいだな。お供を二人も付けて、一人じゃ怖くて来れなかったか?」

 

 龍園は強い視線のまま、こちらに声を投げかけてきた。オレは、朧気に龍園を流し見る。

 

「確かお前は金魚の糞の綾小路で、お前は……いつぞやの間抜け野郎じゃないか。久しぶりだな」

 

 金魚の糞。表現から察するに、この男はあの時、すれ違ったオレを覚えてはいないようだ。そして、赤石への言葉。やはり龍園と赤石の関係はオレの予想通りの関係に近い。

 

「え、えっと、どうも」

 

 赤石もいつも通りに答えた。まさに『龍園を前にした赤石』だ。いや、正しくは『堀北の監視の下で、龍園を前にした赤石』か。本当は龍園に適当に頭でも下げて誤魔化したいが、堀北の手前それはできない。そんな風に見えるDクラスの生徒だ。

 

「鈴音、良い事を教えてやる、この間抜け野郎がここに来た理由はお前のためでも、クラスの為でもない」

 

「勝てないと分かって、こちらを混乱させる気でしょうけど、その手には乗らないは、行くわよ綾小路君、赤石君」

 

「……赤石か、憶えたぞ。一つ教えておいてやる、赤石。ひより目当てで来たんだろうが、あいつはもうリタイアした。残念だったな」

 

 名前すら知らなかったのか。僅かに、息をなでおろす。ここまで、一方的な関係であれば、むしろ龍園は安全だろう。

 その後も、赤石の巧妙な心理操作は続き、龍園と堀北は綺麗に踊り続けた。

 

 Cクラスのベースキャンプに来たことで得られたものは多かった。

 龍園の性質、そして何より赤石との関係性を知ることができた。それと、0ポイント作戦ということを考える発想も中々面白い。この学校には、あまり見なかったタイプだ。それにしても、

 

「0ポイント作戦か、面白いな」

 

 浜辺を去るときに、ふと、笑みが零れた。

 

――龍園は面白い。その上、適度な刺激をオレに与えてくれそうだ。

 

 刺激というものは人生を彩るスパイスだ。しかし、何事も限度がある。強すぎる刺激は、心や体を壊す。オレには龍園くらいが丁度良いのかもしれないな。

 鋭い視線を背後から感じながらも、オレはそんな現実逃避をするのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 堀北がまた『良い』仕事をしたのは、浜辺から森へ入ってすぐのことだった。

 

「赤石君、さっき龍園君が言った言葉に何か心当たりはあるかしら?」

 

 堀北というカードは一度使えば、役目を何度も果たしてくれる。たとえ、オレに使う気が無かったとしても。

 

「龍園君ですか、彼は努力を否定していましたが、個人的には努力すべきだと思います。俺は平田君や堀北さんの考え方の方が正しいと思います」

 

 だいぶ苦しい話の逸らし方……いや、違うな。どうやら、赤石は、この件に対する情報の秘匿よりも、堀北の精神を蝕む方を選んだようだ。

 

「……そこではないわ。龍園君が去り際に言った、『ひより』という言葉についてよ。聞いたところ、人名のようだけれど、赤石君の知り合いかしら?貴方にCクラスの友人がいたとは聞いてないのだけれど。もし内通行為などがあった場合は厳しく処理するから、そのつもりで答えなさい」

 

 堀北の言葉に対して、赤石は不快そうに眉を寄せた。珍しい表情だ。堀北も僅かに目を開いている。

 

「まず、『ひより』という名に聞き覚えはあるかしら?」

 

 堀北は勇敢だ。オレなら躊躇うことを躊躇わない。堀北の決意を無駄にしないために、赤石への意識を集中させる。

 

――実は、オレは、この『ひより』という名前には心当たりがある。おそらくCクラスの赤石が付き合っている少女のことだろう。だからこそ、興味がある。オレは今まで恋愛というもの経験がない。一般的な知識はあるが、それではオレにとっては不十分な気がしてならない。赤石ほどの非才の人物の恋愛観というのには、自身の恋愛観を見つめ直す貴重な知識となりそうだ。知的好奇心を満たすという面が無いわけでは無いが。いや、勿論、一番重要なことは、赤石という危険人物のメカニズムを知ることである。自分の恋愛観以上に、ましてや、人の恋路を野次馬気分で見たいわけではない。当然だ。

 

「えっと、たぶんですが、椎名ひよりさんのことですね。Cクラスの生徒で、俺の、なんて言ったらいいんでしょうかね?……友人と言うべきでしょうか」

 

――嘘だ!!

 

 思わず、少し前に放送していた猟奇的な内容のアニメの名セリフを心の中で叫んでしまう。

 

「Cクラスに友人ね……別にそれは否定しないわ。貴方以外にも他クラスに友人を作っている生徒はいるし、実際、櫛田さんもCクラスに沢山の友人がいるらしいわね。一説によると飼い犬は主人に似るそうね」

 

 違う堀北、そこではない。もっと深い関係ではないのか、という方向に話を進めるべきだ。

 

「ええ、俺も得難い関係を得られたと思っています」

 

「――ただ、龍園君はまるで貴方を知っているようだった。貴方は一部の能力は平均以上にあるものの、飛び抜けて優秀ではない生徒よ。なぜ、Cクラスの暴君とも言える龍園君が貴方の事を知っていたのかしら?その背景を詳しく知りたいわね」

 

 ………………。確かに、それは追及する価値のある情報だ。堀北のおかげで助かったと言うべきか。危うく、赤石の策略に騙されるところだった。そうか、椎名ひよりは見せ札だったか。そうか、恋人ではなかったのか。ではなぜ恋人繋ぎをしていた、赤石。疑問が尽きない。

 

「前、椎名さんと話していた時に龍園君に話しかけられまして、その時、一方的に彼の事を知ったんです。ただ、俺は、その、龍園君ってちょっと威圧的なところがありますよね?それで、怖くて、名前を言わなかったんです。そういうこともあって、本当は龍園君の前に行きたくはなかったのですが……」

 

 あの時が最初のコンタクトだったと言いたいということは……どうも、オレがあの時、あの場で三人を目撃していたことに気付いていたようだ。あの時、赤石とはだいぶ距離があった。赤石の肉体的な能力は平均より少し上程度。おそらく五感に関しても、ほぼ肉体と同等と考えていいだろう。

 あの時、龍園が気付いていなかったことを考えると、赤石が気付いていたとは思いにくいが……いや、Cクラスの女子の方、椎名ひよりの方は、あの時オレの目の前を通っていた。おそらくオレの存在に気付き、赤石に報告したと考えるのが自然か。

 

「そう、大体わかったわ。つまりクラスを裏切っているわけではないのね」

 

「勿論です。平田君や櫛田さん、他にも最近では軽井沢さんや篠原さんたち、俺みたいなヤツの友人になってくれる優しい方が、Dクラスには多いですから、裏切ったりなんかしませんよ」

 

 平田は分かる。櫛田も、まあ、分からないことはない。しかし、軽井沢と篠原を『優しい』に分類したか。勿論、真面目に答える気が無いというだけだが、思わず笑いそうになる言い方だ。

 

「確かに、忠犬の貴方が主である櫛田さんを裏切ったりはしないわよね」

 

 堀北は不快感をあらわにしながら、そう答えた。

 

 

 その後、Bクラスへの偵察を赤石が辞退し、堀北はそれを止めることはなかった。僅かに、この赤石を、堀北の監視の下で一之瀬と衝突させたらどうなるか、という実験に興味があったが、さすがに堀北への負担が大きすぎることから断念した。

 

――堀北への負担のコントロール。

 

 おそらく、これが赤石の特別試験での戦術の一つだ。先程までは分からなかったが、龍園を見た後なら分かる。赤石は、堀北をリタイアさせ、リーダー変更を行うことを画策している。

 

 これは龍園対策の一手だ。龍園の性質と、所持していたトランシーバー、そして伊吹の存在。これらを繋ぎ合わせれば、龍園が何をしようとしている予想するのは容易だ。

 伊吹を使い、こちらのリーダー情報を得ようとしている。赤石は龍園の性質についての情報を持っていたが(ゆえ)に先手を打ったと考えるべきだろう。だが、赤石の場合は行動するタイミングが、あまりにも早すぎる。

 

 赤石が堀北の精神を摩耗させようとしたのは特別試験が始まってすぐだ。つまり伊吹がこちらに潜入する前だ。すなわち、特別試験開始直後、ないし開始する前(・・・・・)には龍園の戦術を読み取っていたことになる。これは異常と言って良い。伊吹という情報も、トランシーバーという物証も無いのに、龍園の行動を読み、その行動がDクラスでは防げないと確信していたことになる。試験開始直後に、そこまでの未来を確信できるだろうか。

 だが、実際に赤石の予想通りの展開になりつつある。いや、堀北の体調不良に気付いた故に、このような戦略になったのかもしれない。堀北の不調を、最も効率良く利用できる手。そして、赤石にとって最もベストな手が、堀北を使ったリーダー変更だったのかもしれない。

 

 赤石の今回の戦術を振り返る。

 試験開始直後に龍園の行動を予想。そして恐らく、堀北の体調不良を確認し、対龍園のために利用するために、堀北の精神を執拗に摩耗させた。さらに、櫛田を使い、堀北をリーダーへと誘導した。

 予想が突飛なところを除けば、戦術としては「ありえない」という考えではない。試験中にリーダーを交代させるといのは本来は奇手だが、状況によっては妙手と言える。龍園のあの性格、そして、伊吹の存在や、Dクラスの性質を考えれば考えるほど、堀北を脱落させるのは理にかなっているようにも思える。時間があれば、オレも同じことを考えただろうが、試験開始直後に思いつけただろうか。

 

 兎も角、赤石の堀北の使い方は理解した。なるほど、つまり、赤石はオレへ『堀北脱落の邪魔をするな』と警告したかったという事か。さて、どうしたものか。オレも真っ当な人間だ。摩耗していく隣人を見るのは心が苦しむ。しかし、仕方ない。ここは赤石に従おう。が、赤石の要求が堀北の脱落を阻止するなということならば、他の面はオレにやらせてもらおう。こちらも、先生相手に多少成果がほしい。

 幸い、Aクラスのリーダーは目星がついている。そしてCクラスのリーダーに関しても、試験終了までには確信を持てるだろう。

 

 堀北とともにBクラスの陣地へと向かう最中、ふと、疑問が頭によぎった。

 

――なぜ、オレは成果が欲しいと思ったんだ?

 

 茶柱先生は赤石の能力を認識していない。そして赤石の性質上、オレが赤石の手柄を横取りして報告しても気にしないだろう。赤石相手に先手は打てず、そして、主導権を取る必要性がないのならば、無理に行動する必要はない。ならば、この試験を赤石任せにするという手もあるはずだ。

 なぜだ?

 

 

 今のオレには、その答えを出すことはできなかった。

 





特別試験二日目。
「伝説的な功績」の別視点となります。

4巻部分以降についての知識調査(今後の執筆内容に関わります)

  • 小説の4巻部分を読んだことがある
  • アニメ版の無人島(3巻)までしか知らない
  • 小説未読だが、4巻部分の内容を知っている
  • そもそも原作を知らない
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