シャルティアが精神支配されたので星に願ったら、うぇぶ版シャルティアになったでござる   作:須達龍也

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今回も視点変更があります。


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「…おまぇがあああああ! いうなああああ! うわぁあぁあああああ!!」

 

 

 

 冷静さも失われ、ただ怒りにまかせて突っ込んでくるだけ。

「悪魔の諸相:豪魔の巨腕」

 たやすくひねり潰すことにしましょう。

 

 ドガァアアァァン!!!

 

 私と仮面の少女の丁度中心、狙ったようなタイミングで降ってきたのは、巨大な大剣とそれを握る漆黒の戦士。

 仮面をつけていて良かったというのが、正直な感想になるでしょう。

 予想していなかったアインズ様の登場に、無様な表情を見せることがなくて、本当に良かった。

 

 これは私のシナリオにはない。

 

 だが、アレンジによっては、前のシナリオなどよりももっとずっと、うまい結果を得ることができるのではないのか?

 いや、違う。できるのではないのか…ではない。できるのだ。

 アルベドに伝えていた私の不出来なシナリオを、アインズ様はどうやら聞かれたのだろう。そして、その修正の為にこちらに来られたに違いない。

 ラナー王女を通じ、漆黒に依頼するように動かしたが、アインズ様の登場のタイミングはどうしようもなかったので、最悪でも準備が整った場での参戦になるだろうと考えていた。

 もちろん、準備が整う前に一当りして、英雄の実力を知らしめておいた方が、その後の流れがスムーズではあるが、さすがにそれは難しいと諦めていたのだが。

 

「それで……私の敵はどちらなのかな?」

 

「漆黒の英雄!! 私は蒼の薔薇のイビルアイ! 同じアダマンタイト級冒険者として要請する! 協力してくれ!」

「…承知した」

 少女をかばい、アインズ様が私の目の前に立つ。

 偶々、この場で、王都のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇と交戦になって、この最高のタイミングでの漆黒の英雄の登場となったのか?

 

 …偶々? そんなはずがない。ここで最初に大暴れしていたのは誰だ?

 

 シャルティアだ。

 

 では、そのシャルティアをこの作戦に関わらせよと命じたのは誰だ?

 

 

 おおお…!!

 

 

 全てが、この最高のタイミングを作り出す為の布石であったのか!

 簡単に私の上を行かれる…まさに神算鬼謀。

 

 あらゆる想いを込めて、ゆっくりと頭を下げた。

 

 ダンスのパートナーとして、私ではいささか頼りないでしょうが、全力でついて行かせてもらいます。

 まずは情報収集から、申し訳ございませんが、お付き合い下さいませ。

 

 

 

 

 

「はー…」

 

 最近はため息ばかりだ。

 王都の準備とやらにデミウルゴスに借り出され、やったことと言えば<転移門>による物、金、人の移動。運送屋じゃねぇっつーの。

 その準備も終わり、いざ本番で与えられた役割は、メインの舞台からだいぶ離れた場所の監視だった。

 さすがに、アインズ様と同じ舞台に上がって、デミウルゴスを含めた三人で踊りたいというのは、無理なわがままだとは理解している。ただ、せめて舞台脇でアインズ様とデミウルゴスのダンスパーティを見たかったなあ。

 ふと、人間が一人、こちらにやって来る気配を感じる。

 

「へー、貴方がわたしのダンスパートナーを務めようって言うわけかしら」

 

 思わず出た独り言に、おっとと思い出す。

 わたしは別人。エリザベートでしたね。初対面初対面。

 もたもたとそいつが登ってくるのを、横目で伺う。

 緊張した顔でわたしの前に立つのは、ブレイン・なんちゃらとかいう武技使いだ。前回あんなに弄ばれたのに、またわたしの前に立つとは、意外と根性があるのかしら? それとも馬鹿なだけ? …あっと、そういえばわたしは別人、初対面だったわね。

「……なんの用?」

「蒼の薔薇のイビルアイから話は聞いている。エリザベートだったか、お前たちは王都で何をしている?」

 ブレインの方はやはり初対面だと思っているらしく、平然とそんなことを聞いてきた。まあ、答える必要はないわね。

 

「他の誰かを探していたのか? 俺じゃなくて?」

 

 おや、どういうことだ?

「貴方を? なぜ?」

「これで会うのは二度目だろ? お前の綺麗な顔はあの時以来忘れたことがないぞ?」

 あれ、仮面付け忘れてる? …と思わず仮面を触るが、ちゃんと付けていた。

 

「………………勘違いじゃなくて?」

 

 これは最後通牒だ。

 もしこいつがわたしをシャルティア・ブラッドフォールンであると認識しているのならば、折角の変装が何の意味もない。

 シャルティア・ブラッドフォールン…ホニョペニョコがこんなところに居るとなると、アインズ様の仮の姿の名声に傷かつくやもしれない。それだけは何としても阻止しなければならない。

 殺すか? 捕らえるか? とにかく、絶対に逃がすわけにはいかない。

 

「いや……すまないな。そうだな……その通りだ。会うのは初めてだな」

 

 なんだ、確証はなかったのか。まあ、変装しているしね。しゃべり方も変えてるし、気付くわけないわね。

 …となると、こいつの相手はどうでもよくなる。遊んでも面白くなかったことは前回でわかっているし、下僕にしたところであっちでも大して役に立った記憶もないし。

「……そう? 納得してくれたなら構わないんだけど……しかし殺した方が良いのかしら? 死にたい、それとも生きたい? 土下座して、わたしの靴でも舐めれば、わたしの機嫌が良くなるかもしれないわよ?」

「悪いな。その気はない」

「はぁ……」

 わたしの寛大な提案に聞く耳持たずに、前に見たように戦う準備らしきものをしだすブレインに、思わずため息が出るのは仕方ないことだろう。

 別人と思っているとは言え、頭が悪いにも程がある。身の程はこないだ教えてあげたでしょうと言ってしまいたい気持ちをぐっと抑える。

「お互いの実力差を知らないって……本当に厄介ね」

 頭を軽く掻いて、そこまで言うに留める。あとは殺すだけ。もはや、ばれるばれないも関係ない。

 そうだ。どうせだったら、前と同じように遊んでやろう。わたしに気付いたブレインがどんな無様をさらすか、それを楽しんでから殺してやろう。

 ゆっくりとブレインに向かって歩いていく。

 ブレインは抜刀の構えのまま動かない。

 くふふ。貴方のそのご自慢の武技が、わたしの小指の爪で弾かれて、一体どんな顔を魅せるのかしら?

 ブレインの刀の間合いまであと二歩…

 

「剣を振るうことが……人生か」

 

 ブレインがボソリと何かをつぶやいた。辞世の句かしら? お疲れ様。

 

「…あああああ!」

 

 奴が叫びながら、最期の一撃を放つ。無論、あくびが出る速度だ。

 

「四光連斬!」

 

「ふん」

 鼻で笑ってしまう。

 前とは違い、何らかの武技を重ねて来たのだろうが、一匹だった蝸牛が四匹になったからどうだと言うんだ。

 一撃で弾き返してやるわ。

 

 キンッ…

 

 さあ、無様にうろたえろ! 見事なアホ面をさらせ!!

 

「…………え?」

 

 横目に入ったものに、信じられない気持ちで、つい声が出た。

 小指の爪が…欠けている?

 あの鈍い四連撃、一撃で弾き返してやったのが…まさか…

「……狙って?」

 

「くっ! あはははは!」

 

 奴の笑いが答えだろう。

 前に弄んでやってから、それほどの時は経っていない。この短期間でこれほどの成長を? 

 強さという意味では、おそらく向こうの世界のブレインの方が強いだろう。肉体は人間から吸血鬼へとランクアップしているし、武器にしてももうちょっとマシなのを与えてやった。

 

 …だが、向こうのブレインにわたしの爪を切り飛ばせるか?

 

 思わず知らず、仮面の奥で笑う。

 

「貴方、名前は?」

「え?」

「だから、名前よ、名乗りなさい」

 

 私のその問いかけに、奴が笑みを引っ込めて、真剣な面持ちになる。

 

 

「ブレイン。…ブレイン・アングラウスだ」

 

 

 

「わかった。ブレイン・アングラウス。覚えといて上げるわ」




ブレインさんの成長、シャルティアもしっかり認識しましたよ。

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