第103話になります。
今回は盆栽好きな彼女が登場します。
とはいえ、タイトルから誰なのかは察しがつきそうですが(苦笑)
数日後の放課後、僕はいつもとは違う道で帰宅していた。
その理由は朝まで遡る。
「うーん、これは失敗したかな」
朝、僕はたまにはと思い、昼食用にと『やまぶきベーカリー』のコロッケパンを買っていた。
もちろん、遅刻しないようにいつもより少し早めに自宅を出た。
だが、現在見事に遅刻の危機(というより、もう確定と言ってもいいだろう)に陥っていた。
(まさか、モカさんクラスの常連客がいたなんて)
僕の前に並んでいた制服からして花咲川女子学園の学生と思われる黒髪の女子学生がたくさんのパンを購入していたのだ。
しかも全部チョココロネ。
それの会計に時間がかかってしまい、結果として僕は遅刻のピンチを迎えることになったのだ。
(まあ、僕もずっと悩んでいたから、彼女のせいではないんだけどね)
とはいえ、軽く二桁にも及ぶ数のチョココロネを一人で食べるのだとすれば、どれほど好きなんだろうかと思ってしまうが。
それはともかくとして、そんなわけで遅刻をしないように僕が知っている最短ルートで学園に向かうことにしたのだがそれが失敗のもとだった。
最短ルートの一部区間で工事による通行止めがあり、う回路をさせられる羽目になったのだ。
幸いにも、迂回してもぎりぎり間に合うような感じだったが、軽く走る羽目になってしまったのは言うまでもない。
(あの道を曲がればルートに戻れる)
少し先に見えたT字路は、僕が知る最短ルートの道で、後は底を一直線に歩けば学園に数分で到着できる。
(時間も……うん、十分間に合う)
僕の計算ミスか、それとも何らかの理由かはわからないが、予想以上に早く到着できそうだ。
別に皆勤賞を狙っているわけではないが、遅刻するのはなんだか嫌だなと思っている。
そして、T字路を曲がろうとした時だった。
「うわ!?」
左側から、速足で向かってきていた少女とぶつかってしまった。
「すみません」
「あ、いえ。こちらこそ、失礼しました」
ぶつかったのは、明らかにこちらの不注意によるものなのに、金髪のツインテールの少女は謝ってきたのだ。
結果、僕は謝り返す格好となってしまった。
「有咲ー!」
そんな中、彼女が来た方向から栗色の猫耳のような髪の少女がこちらに向かって駆けてきていた。
「げっ!」
彼女を見た有咲と呼ばれた少女は栗色の髪の少女を見るや否や、やばいといった様子で逃げるように走り去っていった。
「待ってよー、有咲―!」
それを追いかけるように、栗色の髪の少女も走っていく。
「なんだったんだ? 今の」
二人が走り去って行った方向を見ながら、唖然と立ち尽くすしかなかった。
「ん?」
そんな時、ふと地面に布のようなものが落ちているのに気づいた。
拾ってみると、それはハンカチでかわいい花柄の物だった。
(見た感じ男物ではないよな)
もしこれが男の持ち物であれば、かなりすごい趣味をしていると思う。
(だとすると、さっきの人だよね)
もしかしたら栗色の髪の少女の可能性や、彼女たちの物ではない可能性もあるが。このハンカチは僕がぶつかった金髪のツインテールの少女の持ち物であるような気がしていた。
……勘だけど。
「って、こうしてる場合じゃなかったっ」
ふと、自分の置かれた状況を思い出した僕は、先ほど拾ったハンカチをカバンの外側のポケットにしまって彼女たちが走り去って行った方向に向けて走り出して行くのであった
そして、昼休み。
僕は屋上のほうに移動するとある人物に連絡を取る。
『美竹君? どうかしたの?』
相手は中井さんだ。
「突然で悪いけど、花女に金髪のツインテールで名前が『有咲』っていう学生はいない?」
彼女の制服から花女の学生であるのはすでに把握できていたので、あとは苗字さえわかれば自宅を特定できる状態だ。
『……もしかしてナンパ?』
「なわけないでしょ。その人物が落とした持ち物を届けるために必要な情報が欲しいだけ」
啓介であればまだしも、僕までそういう扱いをされるのは嫌だ。
『何だ、そういう理由なんだね……えっと、確か1年の学年で成績トップの子だと思う。確か、市ヶ谷さんだったと思う。覚えてない? 不登校の』
「あー、そういえばそんな人いたかも」
中学の時、一つ下の学年で成績優秀(もしくはトップ?)の生徒は、実は不登校であるという話を小耳にはさむことがあったのを思い出していた。
僕としてはあまり興味もなかったので、完全にスルーだったが。
と、そんな時に不意にある疑問が浮かんだ。
「でも、今日は学園に行っているようだけど?」
『そうなの? 学年が違うし、噂とかも聞かないからわからなかった』
中井さんの性格からして、知り合いじゃない……ましてや後輩に積極的に話しかけるようなことが苦手なことから、後輩に関する情報がなくても不思議ではない。
(とりあえず、必要な情報はそろった)
中井さんのおかげで、何とかハンカチの持ち主に関する情報をそろえることができた。
あとはこれを本人に渡すだけだ。
「昼休みなのにごめん。助かったよ」
『ううん。大丈だよ、私はお姉さんだから』
「そうだ……って、だから中井さんは妹だって……切れたよ」
さりげなく自分がお姉さんであると言い出す中井さんに反論しようとするも、思いっきり切られてしまった。
(……中井さんには、次に会った時にでも訂正させておくか)
スマホをしまいながらそう心の中で決めた僕は、そのまま屋上を後にしたのであった。
そして、今に至る。
「ここから先にある住宅に、市ヶ谷さんの家があるはず」
場所は朝市ヶ谷さんとぶつかったT字路だ。
僕が考えた探し出す方法、それは僕がの立っているT字路の先にある住宅で、市ヶ谷という表札を見つけるという、ものすごく古典的な方法だ。
(これ、もしかしなくても中井さんとか誰かにお願いしたほうがよかったかな)
よくよく考えれば、そのほうが手っ取り早く確実に相手に渡すことができそうだ。
とはいえ、ハンカチを拾ったのは自分なのだから、ちゃんと自分の手で届けたいという気持ちもあったりする。
「まあ、今日無理だったら中井さんに渡してもらうようにお願いしようかな」
とりあえず、これからの方針は決まったので、僕は市谷家を探すべく行動を開始するのであった。