BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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こんばんは。ついに110話になります。

内容はただ一言。
『倉田クソ野郎過ぎ』です。

それでは、本篇をどうぞ


第110話 学ばない人

お菓子作りを教えてもらってから数日が経過したこの日。

僕たちは、練習前に会議室に集まっていた。

 

「フヘヘ、わかりますか! このスティックとスネアがぶつかった時の感触がっ」

「ああ、わかる。分かるぜ! あの何とも言えない感触がまたいいんだよなっ」

 

先ほどから繰り広げられている、田中君と大和さんのドラム談義に僕はどうしたものかと悩んでいた。

最初は普通にドラムの話だったのだが、田中君という理解者を得た瞬間に、話はどんどんヒートアップしていき、かなりマニアックな内容になりつつあった。

 

「あの、麻弥ちゃん。そろそろ練習を始めないかしら?」

 

そんな中、困惑した表情で二人のドラム談義を止めたのは白鷺さんだった。

 

「す、すみませんっ。ジブンまたやっちゃいましたか?」

「……やっちゃったかも」

 

恐る恐る菊大和さんに、答えたのは苦笑している丸山さんだった。

 

「麻弥ちゃんの機材に詳しいところには、いつも助けられているわ。ありがとね、麻弥ちゃん」

「う……千聖さんのその言葉がとても痛いっす」

 

(今のって、絶対に嫌味だよね)

 

笑みを浮かべて言ってるけど、目が笑ってないし。

 

「あはは、感謝してるんだって」

「日菜さんも、お願いですからこれ以上傷口をえぐらないでください~」

「日菜さん、性格悪いよ?」

「しーらないっ」

 

大和さんに追い打ちをかける日菜さんに注意をするも、日菜さんは耳に手を当ててそっぽむかれてしまった。

 

「でも、楽器に詳しいアイドルは良いアピールポイントになるから、前面に押し出してみるのもいいと思うわよ。ただ、その『フへへ』はやめたほうがいいかもね」

「それ、彩さんにも言われました」

「ということは、癖ってこと?」

 

苦笑交じりに相槌をうつ大和さんに聞いてみると、”はい”と頷かれてしまった。

 

(まあ、僕的には個性的だしありだと思うんだけど……まあ、言わないでおくか)

 

はっきり言って、アイドルなどの分野は専門外。

知ったかぶって口出しすることの危険性は、僕も十分心得ているので、あえて何も言わないでおくことにした。

 

(ライブまであと少し。ここにきてバンドメンバーはなんとかまとまりつつある)

 

最高とは言えないが、十分に一発逆転を狙える状態だ。

 

(願わくば、このままライブ当日を迎えてほしい)

 

「あ、皆さん。こちらにいらしたのですね」

 

そんな僕の願いに反応するように部屋に入ってきたのは、プロデューサーの倉田さんだった。

 

『お疲れ様です』

 

礼儀として挨拶をするのを忘れない。

 

「どーかしたの?」

「ええ。ライブの日が近くなりましたので、打ち合わせのほうを。あ、Moonlight Gloryの皆さんも、よければご一緒に」

「それでは、お言葉に甘えて」

 

地味にため口な日菜さんに、ある意味尊敬しつつ倉田さんの好意に甘えて同席することにした。

 

「皆さんのチケットの手売り販売の効果で、チケットの販売は順調に進んでおります。また、事務所のレッスンに加えての自主練などの効果か、皆さんの演奏技術は大変上達しているとお聞きしております」

 

倉田さんからの説明は、この状況がいい感じの物であることを確信するのに十分なものだった。

パスパレのメンバーも全員が、ぱあっと輝いた表情を浮かべて喜んでいるくらいだ。

 

「ですので、ライブでは生演奏という方向で行きたいのですが……行けそうですか?」

「わぁ! ぜひやりたいですっ」

「やれないわけないでしょー。そのために練習してきたんだし」

 

倉田さんの問いかけに、若宮さんは嬉しそうに頷き、日菜さんは自信満々に答える。

そのほかのメンバーも、口には出さないがやりたいという意志は、とても強く感じられた。

 

「それでは、その方向で進めさせていただきます」

「良かったぁ……練習を頑張ってきたかいがあったね」

 

特に丸山さんはとても嬉しそうだ。

 

(本当に良かった。僕のこの計画も、何とか良い感じにまとまる)

 

「ただ……」

 

僕がほっと胸をなでおろしている中、それまでの明るい雰囲気を変えるように、倉田さんは言葉を続ける。

 

「申し訳ありませんが、彩さん。本番では依然録音させてもらった音源を使わせてください」

「えっ!?」

 

(はぁ!?)

 

倉田さんの指示に、丸山さんは目を見開かせて驚きの声を上げる。

それは僕も同じことだ。

 

「Pastel*Palettesの評判は確かに上がっています。ですが、当日は色々なグループのファンが集まりますので、やじなどが飛んでくる可能性があります。彩さんは本番に極端に弱いですので、もしヤジなどが飛んできた場合、歌えなくなってしまう可能性もあります」

 

倉田さんの言うことは確かに筋は通っている。

本番に弱いかは置いとくとして、やじが飛ぶ中で普通に歌いきるというのは並大抵のことではない。

 

「私はアイドルである皆さんをお守りしたいのです。ご理解のほうをお願いします」

 

倉田さんの言い分は分かる。

だが……

 

「待ってください。元々、演奏の練習は本番の際にトラブルが起こっても大丈夫なようにとして組まれたものです。もしまた音が消えてしまったらどうするのでしょうか?」

「そうならないように、今度は全力で準備を進めております」

 

(普通、一度犯したミスから学ぶものだけど、同じ過ちを犯そうとしてるな。これ)

 

正直、頭が痛い。

倉田の出した指示はもはや無能中の無能……いや『無能王』の称号がふさわしいほどに馬鹿げていたものだった。

 

「待ってください! アヤさんは一生懸命本番の時のために練習をしてきたんです!」

「そうです。あの時のような事態にならないよう、歌も生にするべきです」

 

当然だが、若宮さんたちも大反対だ。

田中君も沈黙を破って若宮さんに続くように意見を言っている。

 

「失礼ですが、田中さんたちはミュージシャンですよね?」

「そうですが……何か?」

 

田中君の意見に対して、倉田さんは一瞬不愉快そうな表情を浮かべていたような気がした。

 

(嫌な予感がする)

 

そんな僕の予感は、最悪の形で現実のものとなる。

 

ただの(・・・)ミュージシャンが運営のほうに口出しをするのは、非常識ではないかと」

「んだと? もう一遍言って――「聡志ッ」――か、一樹!?」

 

倉田(さんをつける価値もない)のその暴言に、ついに怒り出す田中君を、僕は一喝で止めさせる。

 

「このような人に何を言っても無駄です。私たちはこれで失礼します」

 

言うことだけ言って僕は早々に会議室を後にする。

僕と田中君に続いて、中井さんたちも続く。

 

「おい、一樹。お前は何んともねえのかよ! あいつのあの言葉っ」

「あれはいくら何でも……」

「ちょっとひどすぎるわね」

 

田中君だけでなく、中井さんたちも不快感を露わにしているほど怒っていた。

それは僕も同じことだ。

 

「……この僕が、あのような言葉を言われて何も思わないと思う?」

「っ!?」

 

足を止めて、田中君のほうを見ながら聞き返す僕を見て、田中君は息をのんだ。

 

「もはや、あの男の運命は決まった。彼には、相応の報いを受けてもらう。ただ、それだけだ」

 

それだけを告げて、僕はみんなに背を向けると歩き始める。

 

(言葉が過ぎたな、倉田。この屈辱……きっちり落とし前、つけさせてもらうぞ)

 

僕の後を追うものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの打ち合わせの日から数日が経過したこの日。

僕は、ある人物を探して休憩スペースに来ていた。

 

「丸山さん」

「あ……美竹君」

 

そこにいたのは、どこか元気がない(というよりは思い悩んでいると言ったほうがいいだろうか?)丸山さんの姿があった。

日菜さんから、丸山さんが元気がないというのを擬音交じりに(正確には『彩ちゃんがね、最近ズーンでどよーんだから全然るんってしないんだよねー』だけど)教えられたため、はげませないかと思ったのだ。

 

「なんだか元気がないみたいだけど……やはり、この間のあれが原因?」

 

とりあえず適当に自動販売機でココアを買い、それを彼女に手渡しながら聞いてみると、丸山さんは静かに頷いて答えた。

 

「私ね、研究生時代から頑張って努力して歌とかダンスとかうまくなろうって思ってたんだ。でも、本番になるとどうしても失敗しちゃって……」

 

始まったのは、丸山さんが研究生時代の出来事の数々だった。

どれも彼女らしいと言ってしまえばそれまでだが、いずれも共通していることがあった。

それは、彼女の決してあきらめずに地道に努力をし続けてきたこと。

 

「だから、パスパレの話をもらった時はとっても嬉しかったんだ。努力が報われたんだって……ねえ、美竹君」

 

そこで、丸山さんは僕の名前を呼ぶ。

それまで手に持っていた紙コップから彼女のほうを見る。

その表情はとても悲しげで、今にも泣きだしそうなものだった。

 

「私の努力って……無駄だったのかな?」

 

こういう時は、優しい言葉をかけるべきだと相場は決まっている。

 

「……さあ?」

 

でも、僕が返したのは無責任な言葉だった。

 

「僕はそもそも努力万能説には疑問の余地があるという立場だ。努力はもともとの才能という値に対しての掛け算のようなもの」

「っ……」

 

僕のその言葉に、丸山さんが息をのむが、僕は言葉を続ける。

 

「でもね、だからと言って人の努力を無駄だなんて決めつけるというのは、身の程知らずだと思う。無駄か否かは結果でわかるし、そもそも本人が決めることだ。丸山さんは自分のこれまでの努力を無駄だと思ってるの?」

「思ってないよっ。少しずつだけど上手くなっているなっていう気がしなくもないようであるような……」

 

最初は威勢がよかったのに、最後のほうでどんどんと弱々しくなっていく言葉に、僕は心の中で苦笑する。

 

「それなら、その努力は無駄ではないということだ」

 

結局のところ、すでに結論は出ていたんだ。

ただ、それを丸山さんは見失いかけていただけのこと。

 

「だったら、歌ってしまえばいい。事務所の指示? そんなもの蹴り飛ばしちまえ。もしそれで丸山さんが不当な扱いを受けるようなことがあれば、白鷺さんと僕が黙ってないと思うから」

「美竹君……」

 

白鷺さんだったら絶対に倉田さんの首を飛ばしそうな気がする。

 

「それじゃ、僕は練習があるからこれで失礼するよ。丸山さんの出す答え。楽しみにしてるよ」

 

僕は最後にそう告げて、休憩スペースを後にする。

 

「あ、飲み物のお金まだ渡してないよっ!」

 

後ろのほうから慌てた様子の丸山さんの声が聞こえるが、僕はそれを気にも留めずに走る。

 

(さて、早くクッキーを作る練習をしないと)

 

日菜さんの言葉を聞いて心配になって、用もないのに事務所に飛んで来ていた僕は、急いで羽丘に戻る。

無理を言って貸し出してもらっている家庭科室で、クッキーを作る練習をするために。




次回で本章は終了の予定です。
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