BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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先日でガルパが2周年を迎えました。
私の場合は、プレイし始めてから約1年経ちます。

これからもマイペースに続けていこうかなと思います。


第113話 招待状と思い

「よし、これで完成!」

 

夜、自室で僕は机の上に置かれた二通の封筒を前に額をぬぐう仕草をする。

 

(急ごしらえではあるけど、それっぽくはあるかな)

 

僕が作っていたのは、招待状もどきだ。

封筒の中には僕のライブのチケットが入れてある。

表にはそれぞれ宛名が記されているオーソドックスなものだ。

 

(それじゃ、早速手渡しに行きますか)

 

僕は一通の封筒を手に取ると、自室を後にする。

 

「蘭、今入ってもいい?」

「……いいけど」

 

訪れたのは妹である蘭の部屋だ。

ドアを開けると、怪訝な表情を浮かべた蘭の姿があった。

机の上にノートなどを広げているところを見ると、作詞(モカさん情報)をやっているようだ。

 

「蘭達って、今月末の日曜日予定とかある?」

「日曜日? そういえば皆予定がないから全員でスタジオに集まって練習をすることにしてるけど」

 

今月末にある連休の中日でもある日曜日が、僕たちのライブの開催日だが、どうやら蘭達には特に予定はないようだ。

 

「もし蘭達が良ければだけど、今月末に僕たちのバンドのライブがあるんだ。見に来る?」

「兄さんたちの……確か、Moonlight Gloryだっけ」

 

僕は無言で頷きつつ話を続ける。

 

「蘭達のバンド、Afterglowの音楽は、僕たちのバンドの音楽と似ているところがある。蘭達のこれからのバンド活動の参考になるんじゃないかと思うんだ」

 

そう言って僕は手にしていた封筒を蘭に差し出す。

 

「これがそのライブのチケット。Afterglowのメンバー分入ってる。もちろん無理強いはしない。嫌なら捨ててもらって結構だ」

「それって、宣戦布告ってこと?」

「別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけど……まあ、そうとるんだらそれでいいけど」

 

蘭の目が少しだけ鋭さを増す。

どうやら僕の言葉を、挑発と受け取ったようだ。

 

「……ひまりたちに聞いておく」

 

どうするのかと思っていたが、蘭は軽く息を吐きだして、僕からそれを受け取った。

 

「それじゃ、おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

そして早々に挨拶をして部屋を後にする。

 

(ちょっとだけ、強引だったかな?)

 

どことなく蘭をあおった形になってしまったのが心残りだが、もはや今更だろう。

 

(明日はもう少し言い方を考えよう)

 

僕は明日、渡そうと思っている人物への言い方を考えようと思いつつリビングに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どこにもいない)

 

翌日、僕はある人物に会うべく、休み時間のたびに色々な場所を探し回っていたが見つかることはなく、放課後を迎えてしまった。

 

「……どうするべきか」

 

こうなったら彼女のクラスを聞いておけばよかったと思うが、もはや後の祭りだろう。

「美竹君? 何をしてるのかしら?」

 

どうしたものかと考えている僕のもとに声をかけてきたのは、今まで探していた湊さんだった。

 

「考え事」

「そう……」

 

僕が適当に答えると、湊さんは興味がないのかそっけなく相槌を打つ。

だが、こちらを見続けたまま何も言わない。

 

(何かを言いたげなのが、はっきりわかるんだけど……)

 

このまま膠着状態になるのもあれなので、こちらから声をかけることにした。

 

「何か言いたそうだけど、言いたいことがあるならはっきりと言って」

「……わかったわ。観客を欺くことを手助けするなんて、何を考えているのかしら?」

 

湊さんから言われた言葉は、非常に鋭く僕の心に突き刺さるものだった。

 

「それに関しては、反論のしようもない。犯した罪はしっかりと償っていくつもりだ。どうやってかは、まだわからないけど」

「…………」

 

僕は彼女に背を向けて空を仰ぎ見る。

空はややオレンジ色の光に包まれかけているが、何となく清々しさを感じた。

 

「貴方はどうして、バンドを組んだの?」

「根本的なことを聞くね。ほんと」

 

これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、僕の様子を見てそれ以上言うのを躊躇ったのか、湊さんは話題を変えて僕に聞いてくる。

 

「小さいころ、あるバンドのライブ映像を見たんだ」

 

気が付けば、僕はまだ啓介たち以外の誰にも話したことがないきっかけを話し始めていた。

理由は分からない。

だが、彼女なら僕の話を分かってくれるという、根拠のない確証があったからなのかもしれない。

 

「……そう」

 

話し終えた僕への相槌はそっけなさそうだが、その表情はとても柔らかい笑みを浮かべている。

そんな彼女に、僕は”それじゃ、僕からも一つ”と前置きを置いて彼女に問いかける。

 

「Roseliaのバンドリーダーって、湊さん?」

「ええ、そうよ」

「だとしたら、先達者として忠告をしておくよ。今すぐリーダーを辞退するべきだ」

「……なぜかしら?」

 

僕の言葉に目を細める湊さんの視線を受けつつも、僕はその理由を口にする。

 

「実は、僕たちのバンドは一度解散してるんだ」

「え!?」

 

解散しているという事実に、湊さんは目を見開かせて驚きをあらわにする中、僕は言葉を続ける。

 

「理由はまあ……家庭の事情というやつかな。色々あって自暴自棄になって当時バンドリーダーだったから、ぶっ壊しちゃったんだよね。色々な偉業を成し遂げたりしちゃったから、続けてれば今頃はとっくに日本一になってたかもしれない」

「……」

 

僕の独白に、湊さんは何も言わなかった。

僕は僕で、当時のことを思い出してしまった。

鳴り響くクラクションの音と、人々の怒号にのような声。

そして、真っ赤な炎に包まれた―――

 

「ッ!!」

「美竹君!?」

 

一つ思い出すたびにさらに鮮明になってくるその”光景”に、僕はたまらず地面にしゃがみ込んで、思いっきり頭を振りかぶる。

そうすれば、その光景が頭の中から消え去ってくれるから。

 

「……ごめん」

「つらいようだったら、それ以上は言わなくてもいいわ」

 

突然しゃがみこんだ僕に心配そうに駆け寄ってきた湊さんの言葉に、僕は甘えることにした。

 

「湊さんからも、僕と同じ匂いがするんだ。少なくとも、”前科”があるという部分は共通している」

湊さんの”前科”。

それは、少し前にRoseliaが空中分解しかけた一件のことだ。

そのきっかけも、湊さんへのスカウトだった。

そして僕がやった一件が、僕の“前科”だ。

 

「あの時は良い感じに解決した。でも、湊さんはまた同じ過ちを繰り返す。だから、そうなる前にリーダーを変えたほうがいい。ちゃんと周りを見て、バランスをとることができる人に」

「美竹君。貴女の言いたいことはよくわかったわ。だから、貴女のようにならないように続けるつもりよ」

「そうか……」

 

僕なりの忠告は、彼女には聞き入れられなかった。

それも当然と言えば当然だ。

RoseliaにはRoseliaの考え方がある。

それを変えさせるような資格も、力も僕にはないのだ。

 

「今のバンドは、昔組んでいたメンバーではあるけれど、目標は同じで一からやり直している。今はまだまだだし、このありさまだけど、挽回して見せるさ」

 

そういいながら、僕は湊さんに茶封筒を差し出す。

中身は蘭に渡したのと同じ、今月末に開催されるライブのチケットだ。

 

「これは……ライブチケット?」

「今月末、僕たちのライブがある。そのライブに来て欲しいんだ。そして、その目と耳で確かめてほしい。僕たちがどういったバンドなのかを」

 

最終的にものをいうのは自分たちの演奏だ。

音は何よりも雄弁に語ってくれる。

湊さんたちなら、それをちゃんと受け取ってくれるはずだ。

 

「……1枚は私のとして、あとの5枚は? 4枚はRoseliaのメンバーだっていうのは分かるけど」

「2枚は紗夜さんの。おそらく……いや、間違いなく一緒に行きたいと言い出すのが一人いるから、その人用」

 

本人に直接手渡せばいいんだろうけど、ここは姉に渡されたほうが嬉しいだろうなということで紗夜さんに任せる(まあ、丸投げだけど)ことにしたのだ。

 

「わかったわ。リサ達には私から聞いてみるわ」

「ありがとう。ついでに、一つ頼みごとをしていい?」

「……内容にもよるけど」

 

僕は彼女たちに言おうと思っていたもう一つのことを口にする。

 

「僕は今、音楽という名の山の山頂を目指して登山中なんだ。それはRoseliaも同じだと思う」

「ええ、そうね」

 

例えが山というのは、少しばかりセンスが悪いかなおは思うが、僕にはこれしか思いつかなかったので、開き直ることにした。

 

「でも、貴方たちが目指す山は、いわば8合目といったところ。本当の頂上……頂点はさらに上だ。僕たちはそこを目指してる。そして、山頂からの景色っていうのは、1人ではなく複数人で見たほうがいいと思わない?」

「……悪いけど、美竹君は何を言いたいのかしら」

 

遠まわし的な例え方にしびれを切らした湊さんは、単刀直入に聞いてくるので、僕は静かに

 

「僕と一緒に同じ場所を目指してみない?」

 

と告げる。

 

「同じ場所……本当の頂点を?」

 

僕の申し出が意外だったのか、湊さんは目を見開かせて驚きをあらわにする。

 

「今のRoseliaだと無理だけど、うまく磨き上げれば十分に、僕たちと同じ場所を目指すことができる」

「……」

 

これはまだ啓介たちにも言ってない。

僕たちが頂点に行くという夢は、決して覆ることはない。

でも、1人で立つ頂上ほど、虚しい物はない。

なので、自分と同じ場所にもう一組と立ちたい。

そして、そのバンドとともに対バンを行って、会場全体を僕たちの音で包み込みたい。

それが今の僕の夢なのだ。

 

「もちろん、すぐに結論を出すのが難しいのは理解している。だからこそのライブだ。このライブで湊さんのお眼鏡にかなうようであれば、ぜひ一緒に山を登ろう。もちろん、そのためならこちらもできる限りの支援はする。例えば、練習のコーチとか」

「っ!?」

 

最後に付け加えた”練習のコーチ”という単語に、湊さんは表情を変える。

これは僕にとって最大の切り札だ。

彼女が僕にコーチをお願いしたいのではないかという、仮説に基づいての物だからだ。

もし僕の勘違いであれば、大恥どころの話ではない。

だが、結果は非常に効果てきめんだった。

 

「良いわ。それじゃ、あなたたちの演奏、しっかりと見せてもらうわ」

「それと、もう一つ頼みがあるんだけど」

 

僕はついでにとばかりにそう切り出して、もう一つの頼みを湊さんに伝えるのであった。


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