BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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お待たせしました。
今回は”想定外”が登場します。

それでは、本篇をどうぞ。


第114話 忍び寄る想定外

「はぁ、ものすごく睨まれた」

 

夜、僕は自室で深いため息を漏らす。

その理由は放課後の屋上でした、最後の頼み事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは屋上でのことだ。

 

「………ごめんなさい。ちょっと耳の調子が悪かったみたい。もう一度言ってくれるかしら?」

「ライブで、Roseliaの楽曲『BLACK SHOUT』を演奏させてほしい」

 

こめかみをひくつかせながらも再度聞き返してくる湊さんに、僕は先ほど言ったのと同じ言葉を繰り返した。

 

「一体何を考えてるの?」

 

口調は疑問形だったが、その目から放たれる怒りは尋常じゃないほど強いものだった。

 

「僕たちのバンドがどれほどかを知るのに、自分たちの楽曲ほど最適なのはない。そういう考えだけど」

「好きにすればいいわ」

 

こちらに背を向けて呆れた様子で言い放ったその言葉を、僕は承諾と受け取ることにした。

 

「ありがとう。決して、Roseliaの名に泥を塗らない、いい演奏をしてみせる」

 

僕はお礼の言葉を言ってその場を後にしようとしたところで、ふと足を止める。

 

「最後にもう一つ。先達者からのアドバイス」

 

これだけはどうしても伝えておきたかった。

 

「安易な気持ちで事務所と契約は結ばないほうがいい。事務所にもよるけど、下手するとRoseliaを破壊することになるから。口パクアテフリの一件も、事務所の大人の事情っていうやつだから」

 

もはや言い訳にもならないけどと付け加えた僕は、ふとあるバンドのことを思い出す。

 

「あるバンドの話をしよう」

 

気が付けば、そう前置きを置いたうえで、僕はその話を始めていた。

 

「そのバンドはインディース時代には数々の名曲、名盤を世に出していた、僕が二番目にすごいと思ったバンドだ。どのパートもうまいけど、一番すごかったのはギターボーカルだった。あの人の演奏……歌声は逸品で、本物だった」

 

今でもあのバンドの楽曲はよく覚えている。

最初聴いたときは、その歌声と演奏に僕は一瞬で引き込まれていた。

PROMINENCEほどではないが、それでもすごかった。

 

「ただ、それでもメジャーデビューするまでの話。メジャーになった瞬間、曲が腐った」

「腐る?」

「なんていえばいいんだろう……表面上は確かにそのバンドの音だけど、誰かに媚を売るような感じになってたんだ。聴いてたら頭の中がもやもやしてきたから聞くのをやめて、その人のCDを買うのをやめたんだ」

 

あの時の僕の気持ちは、おそらく失望感とそのバンドの人たちが聞いている人を馬鹿にしているように感じた怒りの感情だけだった。

 

「もちろん、理由は所属していた事務所の指示らしいっていうのは分かってた。まあ、大きなステージでライブをやって、音楽性そのものを否定されて解散しちゃったけど」

「………っ」

 

それまで静かに聞いていた湊さんが、突然息をのんで目を見開かせてこちらを見てくる。

 

「そのバンド……名前はなんていうのかしら?」

「忘れたから知らない。CDだって家庭の事情のごたごたで全部紛失した」

 

恐る恐るというか、もしかしてといった様子で聞いてくるが、バンド名はおろかメンバーの名前すら覚えていない。

CDも、引っ越しの際の不手際か何かですべて紛失している。

CDを揃えようにも、やはりわかる人にはわかるもので、すべてのCDにプレミアがついており、揃えるのに数十万は軽く必要になるほどだ。

 

「僕はあの音楽を腐らせるようにしたやつにも怒っているけど、そのバンドにも怒ってる」

「どうしてっ……やりたくてやったわけじゃないのに、音楽すべてを否定されて辞めた気持ちくらい、あなたならわかるはずでしょ!」

 

僕のその言葉に、湊さんが感情をあらわにする。

 

「わかるさ! だからこそ、なぜ1からやり直そうとしなかった? また1からコツコツやり直せばいい。音で周りの野次をつぶせばいい。でも、それをせずに何もかもを捨てたことが、僕には許せないし、理解できない」

 

そんな彼女に、僕はすぐさま答えた。

啓介たちが聞けば”お前が言うな”と言われそうだが、これが僕の気持ちだ。

最後まで抗ってほしかったし、また彼らの音を聞きたかった。

だが、今となっては、僕にできるのは労いの言葉をかけるくらいしかない。

 

「だからこそ、忠告するんだ。安易に事務所に所属するのはやめるべきだってね」

「………それならなおさら心配はないわ。私たちは誰のマネージメントも受ける気はないわ」

 

落ち着きを取り戻したのか、いつも通りの感じで答える彼女の眼には、強い意志を感じた。

だからこそ僕も「そうか」と胸をなでおろしながらつぶやく。

僕は、バンドの名前もメンバーの名前も覚えていない。

だが、”音”だけはしっかりと覚えている。

その”音”と、湊さんたちの”音”は似ているような気がするのだ。

 

(もしかしたら、あの人は湊さんの……いや、やめておくか)

 

なんとなくわかってはいたが、僕はそれ以上考えるのを止めた。

もう彼らは戻っては来ない。

ならば、それを尊重してあげることが、ファンである僕にできる唯一のことだと思ったからだ。

 

(まあ、ちゃんと仇は取らせてもらうけど)

 

彼らのバンドの音を腐らせた事務所の人間はすでに判明し、復讐のプランも完成している。

さらに言えば、今どこにいるのかも掴んでいる。

後はタイミングを見て実行するだけだ。

 

(あれ?)

 

そんなことを考えていると、不意に目の前が真っ白な光に包まれる。

 

「っと」

 

その直後、体がよろめいた。

何とか倒れずに済んだが、危うく倒れるところだった。

 

「美竹君!? 大丈夫なの?」

「ごめん、ちょっとよろめいただけ」

 

いきなりよろめいた僕に心配そうに聞いてくる湊さんに苦笑しながら大丈夫と答えた僕は、それを証明するべく軽くジャンプして見せた。

そんな僕の様子に、湊さんは「それならいいのだけど」と言って、それ以上何も言わなかった。

その後、話すこともないので、早々に屋上を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それにしても、最近多いな)

 

少し前にもめまいが起こっていたこと、あと少しでライブがあることを考えても、そろそろ体調管理をしっかりしておきたい。

一度病院にでも行ったほうがいいのかもしれない。

 

「さてと、頼んだ以上はこっちもちゃんと完成させないと」

 

僕はスマホを手にするとRAINを起動させて、啓介たち全員に”セットリスト”というタイトルの文章を送信する。

 

「あはは、明日は尋問だな。これ」

 

田中君からの『明日詳しく聞かせてもらう』というメッセージから放たれる怒りのようなオーラに、僕は明日の光景が少しだけ予想でき、思わず苦笑する。

そんなこんなで眠りに就くころには、体調のことなどすっかり忘れ去られることになるのだが、これが後にとんでもない事件を起こすことになるのを、この時の僕は知らなかった。




ハーメルンのアンケート機能を使って、何か企画のようなものをやりたいなと思う今日この頃。

内容が決まり次第あとがきでお知らせいたします。

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