今回は前回の続きになります。
「日菜さん、さすがにそれだと誤解がありますよ」
「……どういうこと?」
日菜さんの”丸山さんがクビになった”という耳を疑うような知らせに、慌てた様子の大和さんに、僕は正確な情報を求める。
「私が説明するわ」
大和さんが口を開こうとした瞬間、それを遮るように一歩前に出た白鷺さんが口を開く。
「彩ちゃんはついさっき、スタッフから無期限の謹慎処分を言い渡されたわ」
「謹慎って……理由は?」
「簡単に言ってしまうと、この間のライブで録音ではなく、実際に歌いたいってプロデューサーに直談判直談判したことが事務所の方針に背いたという理由らしいわ」
(ひどいな)
人間、衝撃が大きすぎると言葉を失うらしいが本当のようだ。
それほどに森本さんの疑問に答えるように言われた内容が衝撃的過ぎたのだ。
「今はまだ謹慎だけど、スタッフの人の感じからおそらくは契約解除……要するに首にさせようとしているわ」
「くそっ。そんなふざけたことがあるかっ」
田中君が憤るのも無理はない。
現に淡々とした口調で説明している白鷺さんでさえ、時頼怒りの感情をあらわにしているくらいだ。
「丸山さんは?」
「彩さんは既に帰りました。今回の謹慎処分にショックを受けているみたいです」
中井さんの問いかけに答えたところで、僕は静かに口を開く。
「……それで、結局何を言いたい? ただ報告してきた……わけじゃないよね?」
「彩ちゃんを助けられないかな?」
日菜さんの表情はとても真剣だった。
そう思えるほどの居場所を見つけられたということは、友人としてはうれしく思う。
だが。
「それなら残念ながら難しいな。僕たちは所詮はミュージシャンだ。人の処分内容を覆せるほどの力はないよ」
現実は本当に残酷なものだ。
「でも――「悪いけど、こっちは話し合いの最中だ。出て行ってくれない?」――一君」
「そんな……あんまりですっ。アヤさんがかわいそうです!」
「僕たちにできるのはせいぜい、演奏の指導をすること程度だ。そもそも、原則バンド内の問題はそのバンドで解決するべきだ。分かったならお引き取りを」
若宮さんの抗議を一蹴した僕は、そのまま彼女たちに背を向ける。
啓介たちも、無言ではあるが手を貸してやったらどうだと言わんばかりの表情でこちらを見ているが、それをも僕は無視する。
「……帰りましょう」
「……はい」
そんな僕の様子にあきらめがついたのか、白鷺さんの言葉にみんなが部屋を後にしていく。
「あたしの勘だけど。彩ちゃんなら、多分公園にいると思うよ」
最後に日菜さんはそう言って去っていき、ドアが閉じられる。
「……それで、本当にいいのかよ? 一樹」
「何度も言わせないで。Moonlight Gloryの作戦参謀として、彼女たちに手を貸すメリットはない。それに白鷺さんがいるから、彼女に任せるのが最適」
本当は分かってる。
この問題は白鷺さん一人で解決するには難しすぎるということを。
それでも、彼女たちに干渉するのは得策ではない。
今月末のライブでは失敗は許されない。
それは今回に限ったことではないが、今回のは僕たちの今後を左右する重大な局面という意味では、いつものとは違うのだ。
だからこそ、万全のコンディションで本番を迎えたい。
そのためには
人のバンドに干渉する余裕などないのだ。
「……そうか」
田中君は、そう口にしただけで僕には何も言わない。
「申し訳ないけど、今日華道の集まりがあるから、僕はこれで失礼するよ」
「……お疲れ」
僕はまるで父親のような笑みを浮かべる啓介たちに見送られるようにして、ミーティングルームを後にするのであった。
「集まりだって言って抜け出したけど、あいつら気づいてるだろうな」
事務所を後にした僕は、ため息を漏らす。
華道の集まりの予定は、そもそもないのだ。
つまりは、嘘の理由で抜け出したことになる。
(こういうのは、あまり得意じゃないんだけど)
その理由は、先ほど日菜さんたちによって知らされた丸山さんへの処分の問題に干渉するためだ。
作戦参謀としては、彼女たちに干渉するのは得策でなかったとしても、それが僕個人としてでは状況は大きく変わってくる。
(だから、今から僕はMoonlight Gloryの作戦参謀としてではなく、美竹一樹として、何とかする)
我ながら、何ともひねくれていると思うが、それが分かっているからこそ、啓介たちは何も僕には言わなかったのだ。
幼馴染という名の強みが、このような形でも効果を発揮するのは、ある意味複雑な心境ではあるが。
「さて、まずは日菜さんの直感を頼りに、丸山さんを探すか」
さらに言えば、付き合いが約1年程度しかないはずの日菜さんまでもが、それに気づいているかのような助言を出してきたのも驚きだ。
「この近くの公園をしらみつぶしに探すか」
この付近の公園は、そんなに多くはないが距離が離れているのでかなり時間がかかる。
なので僕は駆け足で丸山さんを探すべく、一番近い公園に向かうのであった。
それからしばらくして、付近の公園を探し回っていた僕は、ついに最後の一か所の公園に絞り込むことができた。
(まあ、あそこ以外の公園すべて探しただけだけど)
おかげですでに空はオレンジ色の光に包まれていた。
正直、丸山さんがいる保証なんてない。
でも、彼女はまだ公園にいる。
僕の直感ではあるが、何となくそう感じたのだ。
そして、それはすぐに明らかとなった。
(いたっ)
最後の公園……住宅地内にあるその公園のベンチに、腰かけて俯いている丸山さんを見つけ出せたのだ。
僕は、それまで走っていて乱れている息を軽く整えながら彼女のもとに歩み寄る。
「こんなところで、何をしてるんだ?」
「……え?」
突然声をかけられた丸山さんは、驚いた様子で顔を上げて僕を見てくる。
「美竹、君? どうしてここに」
「日菜さんたちから話を聞いたんだ。ちょっと心配になったから」
「そっか」
丸山さんはそう言うと僕から視線を外して、再び俯く。
僕は”隣座るよ”と声をかけて彼女の隣に腰かける。
それからどれほどの時間が経っただろうか。
「……私ね」
それまで無言だった丸山さんが、静かに話し始める。
「あのライブの時、ちゃんと歌いたいって思って……それで歌えたからよかったって思ってたんだ。でも、事務所から見ればそういう風には思われないんだよね」
「……」
丸山さんのその言葉に、僕は何も答えない。
いや、何も言えなかった。
「ねえ、美竹君。私の歌いたいってお願いしたのは、間違いだったのかな?」
(いきなり処分を言い渡されたんだから、当然か)
「ふぇ?」
弱々しく、まるで縋るように聞いてくる丸山さんに僕は、無意識的に彼女の頭をなでていた。
「確かに、事務所からすれば丸山さんの選択は事務所の方針に背いたということになるかもしれない。でもね、ミュージシャンとしては丸山さんの行動は正しい。いや、むしろ賞賛されてしかるべきだし、僕もすごいと思ている」
それは僕の本当の気持ちだった。
「だから、自分を責めないでちゃんと自信をもって。自分は間違えてないって」
「う……グス……うわぁぁんっ」
(あ……)
僕が言った言葉が、彼女に浸透したかのように僕にしがみつく形で泣き始めた丸山さん。
(やっぱりこうなるのね)
普通であれば、このような状況にドギマギするのだが、この時は不思議とそういった感じはせずに、冷静だった。
……恥ずかしかったけど。
「ご、ごめんね。なんだか恥ずかしいところを見せちゃったね」
「いや、全然大丈夫」
しばらくして落ち着きを取り戻した丸山さんは、顔を真っ赤にしていた。
……僕もおそらくは顔が赤いが、それは夕陽のせいだと思うことにした。
「とりえず、この一件僕に預からしてくれないかな? 悪いようにはしないから」
「うん。それはいいんだけど、どうするの?」
「この状況を打破する。だから、そのために丸山さんにお願いしたいことがあるんだ」
「お願い? それって、何かな?」
真剣な表情で聞いてくる丸山さんに、僕はある頼みごとをするのであった。
感想などお待ちして理ます。
次回は二つ目の”想定外”がメインの内容になる予定です。