BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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お待たせしました。

今回は二つ目の”想定外”が発生します。


第117話 悪魔が目覚めるとき

「さて、と」

 

夜、僕は自室で気合を入れる。

手に持っているスマホの電話帳に映し出されたのは、ある人物の名前だった。

僕はその番号に電話をかける。

 

「……もしもし」

「美竹です。夜遅くに申し訳ない」

 

数コールで電話に出た相手に、僕はそう切り出す。

 

「何の用かしら?」

「例の丸山さんの一件で、話したいことがある。できれば直接会って話をしたいんだけど、都合のいい日はある?」

「……ちょっと待ってくれるかしら」

 

僕の要件に、彼女はそう言うと暫くの間、音が聞こえなくなる。

おそらくはマイクをミュートにしたのだろう。

 

「ごめんなさい。今週の日曜ならオフの日だから大丈夫よ」

「それじゃ、その日に。えっと、場所は……」

 

話す内容が内容なだけに、道端でするのはまずい。

だからと言って公園というのもなんだか違う気がするし。

 

「場所のほうは、どこがいいだろう?」

「そうね……この間駅前にオープンした喫茶店でいいわよ。それじゃ、日曜日の10時待ってるわね」

思い切って聞いてみた僕に、彼女はくすくすと笑いながら話をする場所と集合日時を告げてくる。

駅前でオープンしたばかりの喫茶店ともなれば、それほど多くはないはずだ。

 

「あ、うん。よろしく頼むよ」

 

そして電話は切られた。

 

「……ふぅ」

 

電話が切れるのと同時に、僕は脱力してベッドに腰かけた。

 

(さすがに緊張するな)

 

電話をかけた相手が相手なだけに、緊張の度合いは計り知れない。

とはいえ、話ができるようにアポを取ることができたのは、大きい。

 

(ここが正念場だ。ミスは許されない)

 

今週の日曜日の話し合いの結果で、丸山さんの不当な処分を無効にすることができるのだ。

そういう意味では、緊張も倍になる。

 

「……あれ?」

 

よし、頑張るぞ。

そう気合を入れようとした僕は、不思議な体験をする。

 

(僕、なんでベッドに横になってるんだろう)

 

さっきまでは確かに、ベッドに腰かけていたはずだ。

それなのに、僕はベッドに横たわっていた。

 

(しかも、電話をかけてからもう1時間経ってる)

 

一体何が起こっているのかわからなかった。

 

「疲れてるだけ。休めば何とかなる」

 

僕は自分に言い聞かせるようにつぶやくと、いつもより早い時間ではあるが眠りに就くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ついに日曜日を迎えた。

 

「あれ、兄さん? またつぐのところ?」

 

玄関で靴を履いていると、後ろから蘭が話しかけてくる。

いつも日曜日はつぐの家である、羽沢珈琲店に行っているので蘭が”また”というのも当然だった。

だが今日はいつもとは違う。

 

「いや、今日はちょっと野暮用で人と会ってくるだけ」

「兄さんがつぐのところに行かないのも珍しいね」

「まあ、用が終わったら行くけどね」

 

そう言うと、蘭から少しばかり呆れたような視線でこっちを見てきた。

 

「今日、モカたちも行くみたいだから、一緒にどう?」

「そうだね。たまにはみんなでお茶をするのもいいかな」

 

モカさんたちとは最近あまり会っていないので、蘭の近況を聞きがてら話でもしようかと思い、僕は頷いて返事をする。

 

「それじゃ、モカたちに伝えておく」

「よろしく。それじゃ、行ってくるよ」

 

モカさんたちとの楽しいひと時を過ごすためにも、今日の話し合いで成果をあげよう。

そう思いながら、僕は家を出るのであった。

これがとんでもない事態を招くことになるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

「待ち合わせです」

 

指定された喫茶店にやっていた僕は、ウエイトレスに待ち合わせをしていると伝えると、待ちわせている人物の姿を探すべく、店内を見渡す。

すると、相手もこちらに気づいたようで、軽く手を上げる人物がいたので、僕はその人物が座っている席に向かう。

 

「待たせてごめん」

「いいえ、全然待ってないわ」

 

先に来ていた彼女にお詫びの言葉をかけつつ向かい合う形で、腰かける。

 

「お水をどうぞ。ご注文はどうされますか?」

「彼女と同じもので」

「かしこまりました」

 

おそらく彼女が頼んだのは紅茶だろうと予想して、僕は注文をすると、ウエイトレスは一礼して去って行った。

 

「さて。今日はわざわざ来てもらってごめん」

「別に構わないわ」

 

彼女が帽子にサングラスという変装をしているのでその表情はうかがい知ることはできないが、一応怒ってはいないようだ。

彼女を怒らせれば僕は万事休すだ。

 

「そのサングラスぐらいは外してもいいと思うけど? 白鷺さん」

 

僕が呼び出した相手は、白鷺さんだったのだ。

彼女ほどの影響力を持った人物をうまく味方にできれば、こちらの勝利は確定と言っても過言ではない。

今日ここに呼び出したのも、僕たちの味方にするためだった。

 

「……ふふ。そうね、貴女の様子を見ていたらそう思えてきたわ」

 

軽く笑いながらサングラスを外す白鷺さんだが、なぜにそう思われるのかがわからない。

とはいえ、それは関係のないことなので置いておくことにした僕は、早速話を始める。

 

「単刀直入に言わせてもらうけど。今回の丸山さんの一件を解決すべく、白鷺さんの力を借りたい」

「……何をするのか、それを教えてもらえるかしら」

 

暫くの沈黙ののちに、真剣な表情で白鷺さんは僕に聞いてくる。

本当であれば、ここでは素直に答えるのが得策だ。

 

「申し訳ないけど、それは言えない」

 

だが、僕の答えはノーだった。

 

「美竹君は私に協力をしてほしいのよね? それなら何をするのかを話しておく必要があるはずよ」

 

白鷺さんの言い分も尤もだ。

 

「申し訳ないけど、僕はまだ白鷺さんを信用していない。白鷺さんが奴と通じ、裏切っている可能性だって考えられる以上、僕は内容を話すことができない」

「教えなければ協力の話はなしにすると言っても、変わらない?」

「……もちろん」

 

僕の答えに、白鷺さんは何も答えず、僕は彼女の次のアクションを固唾をのんで待った。

何とも言えない緊張感が漂う中、白鷺さんはふっと口元に笑みを浮かべる。

 

「……なるほど。さすが、作戦参謀と名乗っているだけはあるわね。私の予想以上の警戒ぶりよ」

「……まあ、やるからには全力でやらないとね」

 

白鷺さんの言葉で、緊張に包まれていた僕たちは、いつもの和やかな雰囲気に戻る。

これは、ある意味僕たちの無言の攻防でもあった。

深く探りを入れようとする白鷺さんと、それから守る僕という構図のだ。

 

「安心して。私はその人物とは通じてないわ」

「そんなこと初めからわかってるよ」

 

白鷺さんに言われるまでもなく、僕は最初から白鷺さんは裏切っていないことを見抜いていた。

つまりは、白鷺さんの僕に対するある種のテストのようなものだったのかもしれない。

 

「理由を聞かせてもらってもいいかしら?」

「………それに関してはノーコメントで勘弁してもらいたい」

 

理由を言ってもいいのだが、これを言えば色々な意味でまずくなりそうなので、黙秘することにした。

白鷺さんもそんなに聞きたいわけではなかったようで、あっさりと退いてくれたので助かった。

 

「協力の件だけど、もちろんOKよ。彩ちゃんを助けるためならば、私もできる限り協力させてもらうわ」

「……っ。ありが――「ただし」――え?」

 

まさかの快諾に、僕は喜びを隠せずにお礼を言おうとしたところで、白鷺さんが言葉を遮ってくる。

 

「協力するには一つ、条件があるわ」

「条件?」

 

予想だにしない返答に、僕は緊張を強める。

 

「今から言う条件さえ呑んでくれるのであれば、私にできる範囲という条件はつくけど、できる限りの協力はさせてもらうわ」

「……その条件は?」

 

白鷺さんはいつの間に来ていたのか、頼んでいたであろう紅茶の入ったティーカップを手に持ち、それに口をつけると静かに口を開く。

 

「……Pastel*Palettesのお披露目ライブの裏話をすること、よ」

「……ッ!」

 

白鷺さんから出されたのは、僕の予想以上に最悪なものだった。

お披露目ライブのことを話すというのは、僕の計画していたことを話すのと同義だ。

自分でも、あの計画はかなり外道だと思うくらいだ。

Pastel*Palettesのメンバーに知られれもしたら、もれなく軽蔑の集中砲火を浴びることになるのは必至だ。

そんなことになれば、僕の胃に穴でも開きかねない。

 

「別に言いふらしたりはしないわ。ただ、私の疑問を解消させてほしいだけよ。どうかしら? 話してくれないかしら?」

「それ……は」

 

白鷺さんは信用できる。

それは分かっている。

でも、僕は話すことができない。

 

「……ごめんなさい、ちょっと席を外すわね」

 

どれだけの時間が経過したのか、白鷺さんは一言断りを入れると、席を立ってどこかに行く。

それはもしかしたら、僕に対する”戻ってくるまでに考えをまとめろ”という最終通告なのかもしれない。

 

(どうする? 計画のことを話すのか? それとも、彼女の力を借りるのをあきらめるか)

 

まさに究極の選択になってしまった。

前者をとれば、僕の狙い道理に彼女の力を借りることができ、丸山さんを助けることができる。

だが、同時に僕は彼女たちから軽蔑されることになるだろう。

覚悟はしている。

しているが、いざそうなると思うとどうしても恐ろしく感じてしまう。

逆に後者をとれば、彼女の力を借りれなくなり、丸山さんを助けることが難しくなる。

できないわけではないが、かなりハードルは高くなることが予想される。

それでも、軽蔑される心配はなくなる。

これを究極の選択と言わずしてなんというのだろうか?

 

(どうする? どうすればいいんだっ)

 

僕は頭を抱えて必死に考える。

緊張からか心臓の鼓動が速くなっていくのが分かる。

それと同時に嫌な汗をかいていることも。

 

 

……そして、そのまま僕は意識を手放すのであった。




……この章、まだまだ続きます。

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