内容のほうが、あまり納得のいく話でなかったため、書き直すのに時間がかかり、そこにとどめをさすように、一週間休んだ同僚の仕事を請け負ったために時間がさらに取れなくなっておりました。
今回、あとがきのほうで重要なお知らせがございますので、ご一読していただけると幸いです。
退院まであと6日を迎えたこの日、ようやく面会謝絶ではなくなった。
「それじゃ、ちゃんとおとなしくしているんだぞ」
「わかってるよ」
(やっと、窮屈な状態から抜け出せる)
それはつまり、この病室から出歩けるということでもある。
もちろん、あまり遠い場所には行けないが、病院内ではある程度自由に動けるようになった。
(そうなれば、行動あるのみ)
面会も、今義父さん達が帰ったので、ここから夕方までの数時間、来るような人もいないはずだ。
病室内にこもっていても、気が滅入るので散歩がてら病院内をふらついてみよう。
(それじゃ、まずは……)
そんな時、ベッド脇のスペースに積まれた雑誌が目に留まる。
「そういえば、雑誌を読みまくっていたっけ」
昨日まで絶対安静を言い渡されていた時に暇つぶしにと呼んでいた雑誌の数々がそこにはあった。
(まさか、一日でこんなに読み切るなんて、思いもしないよな)
持ってきてもらう雑誌を口にした時の看護師の驚きに満ちた表情は記憶に新しい。
とはいえ、これ以上抱え込んでいると、確実に怒られるので、読み終えた雑誌を戻すために、ロビーに向かうのであった。
(何だ? 何か騒がしいけど)
この先にあるのは目的地でもあるロビーだ。
入院している人いない人にかかわらず、いるので騒々しいのは当然だ。
いや、むしろロビーに近づくにつれて騒々しさが増してくるのは、致し方がないのかもしれない。
声はおそらく子供の物だろう。
備え付けのテレビか何かを見て楽しんでいるのかもしれない。
「っと」
尤も、今すれ違った車いすの女の子のように例外もいるけど。
「…………」
そんなことを考えながら、僕は目的地であるロビーにたどり着いた。
そこで、僕が見た光景は、謎のお面を被っている五人組の不審者の姿だった。
その光景に、僕は動くこともできずにその場に固まる。
(あれは戦隊ヒーローか何かの物か? いったいどうしてあんなのを?)
頭の中にいくつもの疑問がぐるぐると渦巻いていく。
どうしてなのかを考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがる。
(この感覚、日菜さんの時と同じだ……それも凄まじいくらいに)
日菜さんの時はまだ多少は理解ができるが、これに関しては全く理解できなかった。
(っていうか、あれって花音さんじゃ……)
お面をつけた五人組の人物の一人……ピンク色のお面を被った少女の髪型が、どうも友人である花音さんに似ているのだ。
(いやいやいや。いくら何でもそれは)
ないだろうと心の中で結論付けようとした時だった。
やがて、緑色のお面を被っていた少女が、仮面を外し、それから次々に仮面を外していく。
(……あー、あったかな)
認めたくはないが、今目の前の光景はそれを許してはくれない。
やはりというべきか、花音さんだったのだ。
しかも、お面を被っていた人物の正体は、『ハロー、ハッピーワールド!』というバンドだった。
そしてそれは、前に感じた僕の予感が正しいことが証明された瞬間でもあった。
(こんな形で証明されても嬉しくない)
なんとなく、この一連の行動が誰の提案なのかが分かってしまうのもだ。
「………戻ろう」
彼女たちに関われば、間違いなく疲れることになる。
そのうえ、彼女たちの間に漂う雰囲気が少しだけ重たいのもあり、僕は病室に戻ることにした。
(だから僕はヘタレって言われるんだろうな)
前に啓介に言われた強烈な一言の理由を、僕はこれでもかというほど思い知ることになるのであった。
というより、自分の友人のあの姿を見て、普通に声をかけられるほど、僕はタフではない。
結局、僕は近くにいた看護師の人に、雑誌を返すことで当初の目的を成し遂げることができた。
あとは静かにのんびりしようかなと思っていた矢先の出来事だった。
「こーんにーちはーっ!」
「うわ!?」
大きな声と共に、病室に入ってくる金髪の少女の襲来があったのは。
「ちょ、こころ! ここ病室だからっ」
「ふふ、今日はここが私のステージのようだね」
襲来してきたのは、先ほどロビーにいた仮面五人組……ではなく、『ハロー、ハッピーワールド!』のメンバーたちだった。
(個室でよかった)
一気に病室がにぎやかになる中、僕は他人事のように思っていた。
もし共同だったら、同室している人からかなり顰蹙を買うこと間違いない。
混沌とかし始める病室で、僕はぽつりとつぶやく。
「……誰でもいいから、この状況の説明をしてくれ」
「あー、もう! 一回落ち着くっ」
僕の一言が届いたのかは知らないが、黒髪の少女の一喝で、ようやく病室内が静かになった。
「まずは自己紹介とか、したほうがいいんじゃないの?」
黒髪の少女の言う通り、初対面のメンバーが多い。
数人ほど知り合いだけど。
「それもそうね。はじめまして! あたしは、弦巻こころよ。ハロー、――「ハッピーワールドのリーダーでしょ?」――あら、私たちのこと知ってたのね」
腰元まで伸びた金髪の少女……弦巻さんの自己紹介を遮る形で口にしたバンド名に、嬉しそうな反応を示す。
「はぐみたち、ものすごく有名人だね!」
「あぁー、なんて罪深いんだ。こうしてまた子猫ちゃんたちを卒倒させてしまうだなんてっ」
「……どうしてここに?」
薫さんの演技かかった話し方はもう慣れたので、とりあえず友人である花音さんに聞いてみることにした。
「う、うん。一樹君が入院したって聞いて、今日から面会ができるようになるからお見舞いに行きたいなって思って、皆に相談したら……」
「こころ達が『私たちも行くわよ!』となって、こうなりました。あ、私は奥沢 美咲っていいます」
とりあえず、この状況を把握することはできた。
「あたしは、北沢つぐみって言うんだ。よろしくねっ」
「北沢……ああ、北沢精肉店の。コロッケおいしかったよ」
あのお店は彼女の親が経営しているお店のようだ。
とりあえず、あの時食べたコロッケの感想を言うと、北沢さんはパット表情を輝かせる。
「本当! ありがとねっ」
「いやいや、こちらこそ」
なんだかものすごくテンションが高い子だなと思いつつ、僕はその横に立っている薫さんに声をかける。
「どうして薫さんはバンドを?」
「ふっ、それは舞台がこの私を求めているから……つまり、そういうことさ」
なんだか、何気ない薫さんの一つ一つのしぐさが輝いて見える。
これもある種の才能なのかもしれない。
「なるほどね、そういうことね」
「そうさ。そういうこと、さ」
「花音さん、あの人すごくないですか。薫さんの言ってることを理解してますよ」
花音さんに耳打ちをするが、一つだけ言いたい。
彼女の言いたいことの意味を全く理解していない、ということを。
とりあえず、一通り自己紹介を終えた結果、知り合いの人とそうでない人とで、持つ印象は変わってくるが、まともそう(すごく失礼だけど)なのは花音さんと奥沢さんの二人のようだ。
後の三人は……非常に個性的な人物たちだと言っておこう。
「僕は、美竹一樹。花音さんの友人で、しがないミュージシャンだ」
とりあえず全部を言う必要もない。
ある程度の内容の自己紹介でいいだろう。
「一樹君、体の具合はどう?」
「心配かけてごめんね。この通り、どうってことはないよ。あと少しで退院できるし」
「良かったぁ」
自己紹介を済ませたところで、花音さんが心配そうに容態を聞いてくるので、僕は力こぶを作りながら、大丈夫であることを強調した。。
本当は、医者から危険な爆弾を抱えてると言われているけど、そのようなことを言う必要はないだろう。
「良かったね、かのちゃん先輩!」
「病室にたたずむ一人の青年……あぁ、なんて儚いんだっ」
ほっとしている花音さんに笑みを浮かべながら声をかける北沢さんに、今の僕の光景が何かの劇のワンシーンにでもなっているのか、感嘆の声を上げる薫さん。
北沢さんは知らないが、薫さんはなんとなくではあるが、僕のことを心配していたのかもしれない。
芝居がかった所作で分かりづらくなってるが。
「ねえ、一つ聞いていいかしら?」
「いいけど」
そんな中、弦巻さんの口から放たれる問いかけは、
「どうしてあなたの笑顔は、ぎゅーってしてるのかしら?」
「……え?」
僕の言葉を奪うのには十分なものだった。
突然ですが、今回よりアンケート機能のテストを兼ねたアンケートを実施いたします。
お題は、『メインヒロインは誰か』です。
票数が多い人物がメインヒロインとなります。
メインヒロインになった場合、その人物の個別ルートの話が先になり、今後予定している原作2期の物語では”その人物と恋人関係になった状態”で始まります。
票数が少ない人物の話を書かないわけではありません。
期限に関しては、本章が終了するまでを予定しております。
皆様の貴重な一票をお待ちしております。
メインヒロインは誰?
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紗夜
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日菜