でも、私には休みがないolz
それでは、本篇をどうぞ
「ごめんなさい。仕事の関係で遅くなってしまったわ」
「いや、こっちこそ。色々と迷惑をかけちゃってごめん」
会って最初が謝り合うというのも変な感じだなと思いつつ、お互いで謝り合う。
白鷺さんには、僕が倒れた時にものすごく迷惑をかけているのだ。
謝らないのは、人として最低な行為だろう。
「いいえ、私のまいた種よ。私、知らないうちに美竹君を追い詰めてしまってたのよ。美竹君の病気は――「違うっ」―――え?」
僕は、自責の念に駆られる白鷺さんの言葉を遮って否定する。
「あれは、僕の健康管理を怠ったから……自業自得のようなもの。だから、白鷺さんのせいじゃない」
「美竹君……」
僕の言葉に、白鷺さんの表情は複雑なものだった。
「あなたって、見かけによらずに頑固なのね」
「……かも」
ぎこちなくではあるものの、柔らかい笑みを浮かべる白鷺さんの言葉に、病室の空気は軽くなる。
僕が倒れた原因は、医者から説明を受けている。
生活習慣もあるが、大きなウエイトを占めているのは”ストレス”らしい。
言われてみれば、心当たりはある。
パスパレの一件だ。
あの時は自分の計画通りに行くのかが不安で仕方がなかったことを覚えている。
それがストレスになっていたのであれば、それは僕が招いた自業自得のようなものだ。
白鷺さんとの一件は単なるきっかけにしか過ぎないと、僕は思っているのだ。
「蒸し返すようで悪いけど、あの時の答えを聞かせてくれるかしら?」
白鷺さんの言葉に対する答えは、すでに決まっている。
「わかった。長い話になるけど?」
「構わないわ」
白鷺さんが腰かけたのを見て、僕は上半身を起き上がらせた状態で話を始める。
「つまり、今までの話をまとめると、美竹君はこうなるのを予期していたということね」
「まあ、大まかではあるけど、成功する可能性は少ないというのは認識していた」
話を聞き終えた白鷺さんの確認するような口調での問いかけに、僕は頷いて答える。
「いくつかきいてもいいかしら?」
「……」
僕が頷いたことで、白鷺さんによる質問が始まる。
「止めようとは思わなかったのかしら?」
「それは考えたけど、下手に止めればどっか違う場所に入りする可能性だって考えられた。そうなればこっちのコントロールが効かなくなる。それを防ぎたかった」
違うバンドがやればダメージを被ることはなかったのかもしれないが、自分と同じ土俵に近い場所にいる彼女たちに下手なことをされるのは、僕としては嫌だったというのもある。
「何より、友人をどんな形でも応援したいって思ってもいいはずだと思うけど」
「そうね」
白鷺さんは柔らかい笑みを浮かべながら、僕の考えに賛同してくれた。
自分のバンド云々は確かに理由だが、どちらかというと日菜さんを応援したいという気持ちも僕としてはしっかりとした理由の一つなのだ。
「僕が一番恐ろしいと思っていたのは、どちらかというと日菜さんだと思う」
「日菜ちゃんが?」
意外といわんばかりの驚きようだった。
「日菜さんの性格、なんとなくわかってるはずだとは思うけど、それが理由」
「……なるほどね」
白鷺さんも日菜さんの性格というのが分かり始めているようで、頷かれてしまった。
日菜さんの性格は、どっちかと言えば興味があることに対してはものすごくやる気になるけど、興味を失くすと熱が冷めたようにやらなくなるタイプだ。
熱が冷めると何をしても無意味になるということを考えれば、彼女がある意味恐ろしい存在だと言っても過言ではない。
(白鷺さんや丸山さんのほうがまだわかりやすいからやりやすいんだけど)
こんなこと本人に言おうものなら怒られるのは明らかなので言わないが。
「それで、私の脱退を止めようとしたのね」
「メンバーの一人が抜けたことで、日菜さんがどういう風な反応をするのかがわからない以上、そうするしかなかっただけ」
どのようなアクションが、彼女の熱を覚めることにつながるのかがわからない以上、下手にちょっかいを出すのだけは避けたかったのだ。
「それにしても、あなたも人が悪いわね。私にゴールテープを張らせるんだもの」
「それって、あのイベントのことを言ってる?」
僕の問いかけに、白鷺さんは大きく頷く。
おそらく、この一連の計画がばれたのは、中井さんに『Fresh♪ IDOL Festival Vol.8』のチラシを白鷺さんのバックの中に入れておくようにお願いしたことだ。
「彼女、ものすごく慌てていて見ててかわいそうだったわよ」
「……それに関しては僕も反省している」
最後に『まあ、それで分かったんだけどね』と苦笑交じりつぶやく彼女に、僕はやっぱりなと心の中で思った。
中井さんにお願いするには、かなりハードルが高いものだという自覚はある。
(後でこのことを中井さんには黙っておくように頼んでおこう)
下手に彼女に責任を感じさせるのも良くない。
白鷺さんもきっと、この提案を受け入れてくれるはずだ。
そんな中、白鷺さんは『一ついいかしら』とこちらに聞いてくるので、僕は無言で頷く。
「美竹君が直接スタッフに掛け合おうとは思わなかったの? そうすればバレるリスクを背負うことなく出演が決まってたはずよ」
「僕はただのミュージシャン。言ったところで『検討する』の言葉で終わるのは目に見えていたからね。でも、白鷺さんならばそれを『前向きに検討』にさせることができるだけの力がある。そう判断して、掛け合う役目を白鷺さんに担ってもらうことにしたんだ」
最後に”ちょうど、白鷺さんも僕と同じことをしていたみたいだしね”と付け加えた。
伊達に芸歴が長いだけではない。
白鷺さんには、意見を通せるだけの力がある。
ならば、それを有効に活用しないほかはない。
「そこまで淡々と実行できるところはすごいわ」
「まあ、代償はかなり支払ってるけどね」
呆れたような口調の白鷺さんに、僕は苦笑しながら自分の来ている上着を軽くつまみながら相槌を打つ。
「一応、知りたいことは知ることができたわ」
どうやら白鷺さんなりに満足のいく内容の回答だったようだ。
「それで、私は何をすればいいのかしら?」
「え? 協力、してくれるの?」
僕はてっきり協力してくれないものだと思っていた。
ここまで外道とまで言われるレベルの策を巡らしているのだから、怒って当然のはずだ。
「話してくれたら、力を貸す約束だったはずよ。それに、行動の内容はともあれ、パスパレのために動いてくれていたのは間違いないはずよ。それなら、恩返し……というほどのことでもないけど、私にできる範囲であれば協力させてもらうのが当然のはずよ」
「白鷺さん……ありがとう。そしてごめん」
当然と言わんばかりに答える彼女の言葉に、僕はお礼の言葉と謝罪の言葉を彼女に言う。
自分のこれまでの行動の罪悪感が、僕の胸にのしかかってくる。
(でも、それを受け入れるのも償い、だよね)
だから僕はそれを受け入れる。
「それで、何をすればいいのかしら?」
「それは――――」
僕が白鷺さんに協力してもらう内容を言おうとした時だった。
まるでドアが爆発で吹き飛んだかのような勢いで開け放たれたのだ。
「うわ!?」
「きゃ!?」
その爆発音にも近い音に驚きの声を上げる僕たちを気にすることなく、この現象を引き起こした張本人は慌てた口調でこう言うのであった。
「美竹君っ! 脅迫電話がかかってきたよ!!」
メインヒロインは誰?
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紗夜
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日菜