これからも頑張って書いていきたいと思います。
千聖が一樹のもとに面会に行って二日後。
一樹たちの所属事務所の廊下で、倉田たちが歩いていた。
「倉田さん、Pastel*Palettesでしたっけ、評判うなぎのぼりっすよ」
「何々。この私にかかれば当然の結果だ」
「いやー、流石倉田さんです。尊敬しますよ」
倉田の横で媚びを売る部下に、気をよくしながら、倉田は自分が正しいことをしているんだと思い込んでいく。
「あのあほども、この俺に偉そうに意見を言いやがったから、軽くひねりつぶしてやったまでだ。これは遊びではなくビジネスなんだ。子供の意見など、必要ではないわ」
鼻で笑いながら言い放つ倉田の言葉に、誰も疑問を呈さない。
それは、彼を恐れているからではなく、同類であるからだ。
「倉田さんっ! 大変です!!」
「なんだなんだ。どうしたんだ?」
そんな中、1人の事務所スタッフが大慌てで倉田のもとに駆け寄る。
「先ほど、監査部からこのようなものが」
(なんだ、この前と同じ展開だな……いや、違うな。ありえねえな)
一通の封筒を手渡されるた倉田は、Pastel*Palettesのライブで口パクアテフリがばれた時のことを思い出すが、すぐにそれを否定する。
彼の中では、自分が処分される理由など何もないと思っているからだ。
「おぉ、やっとあの女の処分が決まったか」
倉田は、意気揚々と封を開けて中の書類を取り出す。
「……は?」
『辞令』と記されたタイトルを読み進めた倉田は、その内容に顔が青ざめる。
「どうしたんすか、倉田さん? ………っ!?」
書類を持ったまま固まる倉田の様子に、タダならぬものを感じた男が、書類を盗み見た瞬間、声にならない衝撃を受ける。
(なぜ……なぜ、俺が処分を受けるんだっ!!)
その書類に書かれていたのは『下記人物を懲戒解雇とし、および損害賠償を請求する』というものだった。
無論、対象は倉田だ。
「クソっ!」
倉田は怒りにあかせてその書類を破り捨てると、足早に歩きだす。
「ど、どこに行くんですか!?」
「社長のところだっ! 不正解雇だって抗議してやる」
倉田はそう言い放って社長のもとへと向かっていくのであった。
「失礼しますっ」
「来たようだね。一応用件を聞かせてもらおうか」
やや乱暴にノックしてから勢いよくドアを開けて社長室に乗り込む倉田に、椅子に腰かけているスーツを着込んだ中年男性の社長が動じることもなく用件を尋ねる。
「これは一体どういうことですかっ」
「それは、書いている通りのことだよ。倉田君」
勢いよくデスクの上にたたきつけた辞令の書類にも目もくれず、社長は淡々と答える。
「どうして私がクビになるんですかっ!」
「それは君自身が一番理解していることではないかね?」
社長は一つため息をこぼして諭すように告げるが、倉田には通じなかった。
「私はこの事務所のためにと様々な功績をあげました! それを彼女が台無しに――「洒落事は聞き飽きた。そろそろその醜い口を閉じな!」――なっ……お、お前は」
倉田の言葉を遮るように言い放つ人物を見た瞬間、倉田の顔は驚きに満ちたものとなる。
「納得されてないようですね」
「ああ、君の言うとおりだ。美竹君」
ドア付近の壁に立っていた、一樹の姿を見て。
★ ★ ★ ★ ★ ★
今日の夕方17時までに病院に戻ることを条件に、一時退院が許された。
当日の朝、迎えに来てくれた義父さん達と必要最低限の物を持って、病院を出た僕はいったん自宅に戻って楽器を手にそのまま事務所に向かった。
本当であれば学校に行くのが好ましいのだが、今日一時退院をした理由はPastel*Palettesに巣食う諸悪の根源を駆除するためなので、この日だけさぼらせてもらうことにした。
義父さんは、僕のやろうとしていることを察しているのかどうかは分からないが特に何も言わなかった。
そのことに申し訳なさを感じつつも事務所に到着した僕は、監査部に嘆願書を提出したのだ。
それからはかなりとんとん拍子に話は進んでいった。
元々僕が彼に対しての訴えを求める嘆願書を提出していたこと、何より嘆願書に添付した倉田の過去の所業、丸山さんに対する電話の音声記録といった”様々な証拠”がそれを可能としていた。
おかげでお昼になるまでには彼の処分は確定することになった。
その後、社長室を訪れ確実に倉田が異議を唱えに来ることを伝えたうえで、それまで自分をここに待機させてほしい旨を頼んだ。
最初は半信半疑の様子だったが、御願いをしている最中に倉田が社長室に来た時には、驚いた様子で僕を見ていたのは記憶に新しい。
僕は足早に部屋の隅に移動し、倉田と社長のやり取りを聞いていたが、聞くに堪えずに口をはさんでしまった。
「倉田さん、あんたがやったのはこの事務所のためでも何でもない。自分のためだ。しかも、すべては失敗している」
「それは、丸山彩が無能だからだ!」
「確かに彼女はポンコツでしょう。でも、無能中の無能のあんたと比べれば彼女のそれはかわいいものだ」
自分でも驚くほどに口調は淡々としているが、本当は怒り狂っていた。
自らの無能さを考えもせずに人を無能扱いにする彼のその言動に。
「それに、あんた同じように人気バンドをつぶしたみたいですね」
「ど、どうしてそれをっ」
僕の言葉に、倉田は驚きに目を見開かせ、青ざめさせる。
ボーカル『TAKERU』を筆頭に結成されたそのバンドは、インディーズ時代では大人気のバンドで、メジャーデビューしてからもそれは変わらなかった。
だが、FUTURE WORLD FES.に出場して少ししての解散という最悪の結末を招いた。
「原因は曲自体。編曲を誤ったがために曲が持つ価値を大幅に下げた。その結果、人気バンドは解散しメンバーに対して深い傷を負わせた。そして、あんたは前の事務所をクビにされてここに来た。でも、あんたはここに入るとき、そのことを隠していた。違うか?」
その時のプロデューサーが倉田であることを知った時には、僕は怒りを抑えられなかった。
バンドをつぶしたということもそうだが、同じミスを繰り返していることが。
「あんたはもはやこの事務所にとって、がん細胞だ。だから早々に取り除かなければ私たちがつぶれかねない。よって、駆除させてもらうことにした」
「ふ、ふざけるなっ」
僕の言葉に倉田は顔を真っ赤にして怒鳴るが、不思議と怖いという感じはしなかった。
「ふざけるな? ふざけてんのはお前だろうがっ!」
逆にこっちの怒りが高まっているくらいだ。
「馬鹿げた方針で大勢の人に迷惑をかけた挙句に、いくつものバンドグループをぶっ潰しておいて何がふざけるなだ? 何より許せないのは、自分の言うことを聞かない人物をクビにしようとした挙句に、それを取りやめる代わりに言うことを聞くように脅したことだ」
「そ、そんな証拠はどこにも――「証拠はこれだっ」――なっ!?」
ここにきてまだすっとぼけようとする倉田にとどめを刺すべく、僕のスマホに保存しておいた証拠である丸山さんにした際の電話の音声を再生する。
これらの証拠もすべて監査部に出しているので、社長の耳にも入るだろうが、そんなことを考えることもなく流していた。
倉田の反応は真っ赤なものから一気に真っ青なものに変わる。
その変りように、先ほどまでの怒りも忘れて、思わず笑いそうになってしまった。
「―――――」
そして音声を聞き終えた倉田は、石のように固まっていた。
「というわけで、君。クビね。自分の荷物を持ってここを出ていきなさい」
結局トドメになったのは、社長のその一言だった。
「声を荒げてしまってすみません」
「いや、構わないよ。私が言いたかったぐらいだ」
まるで幽霊のようにふらつきながら去っていく倉田をしり目に謝る僕に、社長は柔らかい笑みを浮かべて答える。
「君のおかげでわがプロダクションの貴重な人材を失わずに済んだ。美竹君、君こそまさにわがプロダクションの救世主だ」
「そんな……私はしがないミュージシャンですよ」
社長の賞賛の言葉に、僕は顔が熱くなるのを感じながら否定した。
この一連のそれは僕一人の力ではない。
マツさんや白鷺さんたちの協力がなえればできなかったことだ。
「最近の若者は、どうも謙虚すぎるが……まあいい。もし何か困ったことがあったりしたら何でも言いなさい。この私が力になろう」
「ありがとうございます」
当初の目的である、”倉田を追放する”という目標も達成でき、社長という強力な切り札まで手に入った。
白鷺さんにパスパレの一件の裏側の話をしたというマイナス点もかすむには十分すぎるほど、今回得たものは大きい。
(とはいえ、そう簡単には使わないけどね)
せっかくの切り札だ。
”ここぞ”というときに使ってこそ価値があるだろう。
(さてと、ちょっと早いけどあそこに行きますか)
僕は時計を確認しつつ、ギターケースを取りにミーティングルームへと向かうのであった。
友希那の父親のバンドの名称とメンバーの名前はすべて独自設定です。
もし原作で名称が明らかになっている場合はお知らせいただけると幸いです。
メインヒロインは誰?
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紗夜
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日菜