BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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大変お待たせしてしまい申し訳ありません。
まさかの体調不良に加え、仕事のほうが立て込んだりといった理由で遅れておりました。

それでは、どうぞ!


第127話 ライブと襲撃と

「そういうことね」

「え、どうしたの? 友希那」

 

拍手の音に包まれる中、友希那がつぶやいた言葉をリサは聞き漏らさなかった。

 

「まず最初に謝罪をしたうえで、このライブに対する期待感を一気に上げさせたのよ」

「なるほど……ここにきている観客たちに興味を持たせることで、ちゃんと演奏を見てもらうということですね」

 

友希那の言葉に相槌を打つ紗夜だが、この二人の推測は正しかった。

一樹は、このライブに来る者の中には野次馬的な動機で来ることも予想していた。

なので、それを利用してあえてこのライブの演奏のほうにさらに興味を持ってもらうように煽ったのだ。

そして、その目論見は見事うまくいった。

 

「ですが」

「ええ。ここからははったりは通用しない。彼らの演奏がすべてを決めるわ」

 

そう言ってステージを見る友希那の目は、いつになく真剣なものとなっていた。

 

「れでぃーす、えんど、じぇんとるめん!」

「………は?」

 

そんな彼女の耳に聞こえてきたのは、非常に気の抜けた英語だった。

 

(うわー……ものすごく片言)

(それに、発音も間違えてますね)

 

そのツッコミどころ満載の言葉を発した啓介は、会場を盛り上げようと手を振り回していた。

 

「本日のライブの構成をせつめいしまーす! まずは第1幕『ファーストコネクト』!」

 

どうやらこのライブについての説明をするようだ。

 

(そういえば、パンフレット貰ってたっけ)

 

ここでリサは、会場に入った際にもらったパンフレットの存在を思い出して、カバンからそれを取り出す。

そこにはセットリストが記されたページがあり、そこに啓介の口にした幕名が記されていた。

 

「ここでは、私たちのバンドの新曲をお届けします。その後30分の休憩を頂きまして、続いてが『カオスティック』!」

 

そこからしばらくライブについての説明と、注意事項が話された。

このライブは全部で3幕構成となっており、第1幕の『ファーストコネクト』で6割、続いて第2幕の『カオスティック』で3割、最後の第3幕『ファイナリー』で1割の時間が割かれている。

 

「ではお聞きください。『Colors』!」

 

啓介のMCが終わったのと同時に、会場の照明が薄紫色に変化する。

そして、キーボードの音がなり始め、そこにギターの音が加わる。

やがて、ベースとドラムの音も加わり、照明は明るめの紫色のとなった。

 

「………」

 

(すごい……ベースってこういう音も出せるんだ)

 

開始数秒で、リサは彼らの演奏に言葉を失う。

それは彼女だけではなかった。

演奏を聞いたことがない日菜をはじめ、一度聞いているはずの紗夜たちですら、目を瞬かせることしかできなかった。

それほどまで、彼らの演奏は彼女たちを引き付けるのに十分だったのだ。

 

「ありがとうございましたっ」

 

そうこうしている内に、最初の楽曲の演奏を終えて一礼する一樹たちに拍手が送られる。

 

「ここでメンバー紹介をします。まずはボーカル兼ギター、明美っ」

 

明美が軽くギターを弾きながら”どうもー”と明るく言い、それを確認した一樹が順々にメンバー紹介をしていく。

 

「それじゃ、このまま新曲を2曲、行ってみよー!」

 

(なんか、雰囲気が違う)

 

一樹が曲紹介をしているころ、リサは会場内の雰囲気が変わっているのに気が付く。

それまでの会場の雰囲気は、どちらかというとお手並み拝見という感じが強かった。

これは、パスパレの一件に伴って、興味本位で来ている観客がいるからなのだが、今は会場内にいる全員が次の演奏を心待ちにしているような雰囲気になっているのだ。

 

(アタシ達も、こんな演奏できるのかな)

 

幼馴染のバンドに入る時のオーディションの時に感じた感覚と同じ物を感じたリサは、このような演奏ができないかと考えていた。

 

(……今は、ちゃんと聞いておこう)

 

だが、リサはそれを考えることよりも、演奏に耳を傾けることを優先し、再び始まった一樹たちの演奏に耳を傾けるのであった。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

『これより30分間休憩となります。席を離れられる際には、貴重品等は身に着けられるよう、御願い申し上げます。再開時刻は―――』

 

会場に流れるアナウンスを聞きながら、僕たちはステージ袖から通路のほうに移動していた。

通路を進むと十字路に差し掛かる。

 

「二人とも、30分の間だけど楽屋でしっかり休んで。後、例の件よろしく」

「わかった。任せて」

「三人とも気を付けてね」

 

森本さんと中井さんは神妙な面持ちで頷き、十字路を左に折れていく。

 

「さて、俺たちも行くとするか」

「ああ」

 

二人の背中を見送っていた啓介の言葉に相槌を打ち、僕たちはまっすぐ進んでいく。

 

「それじゃ、手筈通りに」

「わかった。それじゃ最初は俺だな」

「聡志、一樹。あまり無茶はすんなよ」

 

楽屋前で僕の言葉を聞いた田中君と啓介は頷き、くぎを刺すように言ってから啓介は楽屋に入っていった。

 

「で、奴は本当に来るのか?」

「間違いなく来る」

 

信じられないと言わんばかりの田中君に、僕はきっぱりと断言した。

音響などに細工をいた形跡が見当たらなかった以上、残す可能性は襲撃だろう。

 

「長時間の休憩はここでしかないし、人の流れも激しくなるからどさくさに紛れてここに入り込むことだって可能だ」

「裕美たちには楽屋では鍵をかけて決して休憩時間が終わるまで外に出ないようにと伝えてあるからいいとして……俺も一樹のあの計画はあまり乗り気にはなれねえぞ」

 

田中君が苦言を呈するのも無理はない。

僕の計画は、それだけ危険なものなのだ。

長時間の休憩で、席を離れる観客などが激しくなるこの時間で倉田がこちらに報復を仕掛けてくるという僕の予想に基づいて、僕自身が囮となり、もう1人が捕まえるというものだ。

僕自身で捕まえやすくできるサポートができればするというのも盛り込んでいたりする。

森本さんたちには外に出ないように、指示を出しているので危害が加えられる可能性は低い。

問題は、不確定要素だ。

 

「あいつらが来たらどうするんだ?」

「……なんとしてでも守るよ」

 

氷川日菜という人物の存在が、不確定要素を生んでいる原因だ。

主に、ここにやってくるという内容のだ。

一応紗夜さんがいるので、もしかしたら止めてくれるとは思うが、もし止めきれずに話をしにここまでやってきたら、その時は何としてでも守る必要がある。

 

(そうならないことを祈りたいけど)

「あっ!」

 

そんな僕の気持ちをあざ笑うように、この場にはいないはずの知り合いの声が聞こえた。

方向は僕たちが歩いてきた方角だ。

おそらく観客用の通路から入ってきたのだろう。

 

「本当に来たぞ……しかも二人で」

「……みたいだね」

 

こちらに向かって駆けてくる氷川姉妹の姿に、軽くため息を漏らしてしまった。

 

「かっずくーん!」

「うわっ!?」

 

そんな僕の気持ちとは裏肌に、いつも以上に高いテンションで僕の前まで走ってきた日菜さんは、いきなり僕の手をとるとぶんぶんと振ってきた。

 

「すごいっ、すごいよっ! もうるるんっ♪ってきたよ!」

「……お願いだから落ち着いて」

 

日菜さんのいつになく高いテンションに、圧されながらお願いするが、まったく聞いている様子はない。

 

「日菜、少し落ち着きなさい。一樹さんが困っているでしょ」

「あ……ごめんね、一君」

 

どうしたものかと考えている僕に救いの手を差し伸べてくれた紗夜さんのおかげで、何とか日菜さんを落ち着かせることができた。

 

「私からもすみません。日菜が一樹さんと話したいと言って」

「止められなかったと」

 

申し訳なさそうに経緯を話す紗夜さんの言葉に、田中君も悟ったようで、そう返すと紗夜さんも頷いて答えた。

 

「それで、話したいことって?」

 

とりあえず、日菜さんがここまでやってきた理由である”用件”を聞いてみると日菜さんは目を輝かせる。

 

「あのね、一君の演奏がしゅわっとしてギュイィィーンってなってね、とてもるんっ♪てしたんだっ」

「そうなんだ。ありがとう」

 

日菜さんの擬音交じりの感想は、何を言いたいのかが全く分からないが、それでも楽しんでいることだけはものすごく伝わってきた。

それだけでも、僕にとっては十分だ。

 

「私も、一樹さんやほかの皆さんの演奏に圧倒されました。”すごい”なんて感想では言い表せないくらい、皆さんの演奏は素晴らしかったです」

「ど、どうも」

 

紗夜さんからの直球な間奏に、田中君は照れながら相槌を打つ。

それを啓介が見ていればさぞかし驚いたことだろう。

……もっとも、その数秒後に照れ隠しのツッコミが待ってるだろうけど

 

「話したいことは終わったよね。それじゃ、そろそろ席のほうにでも戻ったらどう?」

「む……さっきから何で一君はあたしを追い返そうとしてるの?」

 

観客席に戻すように露骨に急かしたからか、日菜さんは頬を膨らませて不満げに僕に聞いてくる。

 

「日菜、今は休憩中よ。一樹さんたちだって体を休めたり打ち合わせだってするはずよ」

 

紗夜さんのフォローも当たってはいるが間違いだ。

確かに、打ち合わせなどをする時間なのだが、既にそういうのは済ませている。

本当の理由は、彼女たちを危険なことに巻き込まないためだ。

もしこの状況で倉田の襲撃があれば、この二人がけがをしない保証はない。

彼女たちのためにも、早急にこの場を立ち去ってもらう必要があったのだ。

 

「うーん。でも、一君たちはそんなんじゃないもん。何かを待ってるんだよ」

 

それなのに、どうして日菜さんはこうもピンポイントに確信を突くようなことを言ってしまうのか。

直観だとは思うが、それにしても恐ろしすぎる。

 

「日菜、いい加減に――――」

 

僕たちに迷惑をかけまいと、紗夜さんが日菜さんを窘めようとした時だった。

 

「美竹ぇっ!!」

「きゃ!?」

「うわ!?」

 

凄まじいくらいに力強い怒号が響き渡った。

 

(クソっ。予想的中かよっ)

 

声のほう……二人が来た方角に倉田の姿があった。

その表情は鬼のような形相で、目が血走っていた。

どう見てもやばい状態なのはわかった。

彼の手にあるのは包丁が握りしめてあり、彼が何をしようとしているのかなど、予想するまでもない。

 

「一樹っ!」

「死ねぇぇっ!」

 

そこから先は時間がゆっくり流れるようになったのではと思うほど、目の前の光景の動きがゆっくりになった。

もしかしたらこれが、火事場の馬鹿力というものだろうか?

僕は二人に危害が加えられないように、離れた場所に立つ。

 

「一樹さんっ!!!」

「一君、危ないっ」

 

二人の声がはっきりと聞こえる中、彼の手にする包丁の刃先が僕のすぐそこまで迫ったところで、僕は二人とは反対のほうに移動し、同時に彼の足に自分の足を引っかける。

それは、この前市ヶ谷さんにまとわりついていたナンパ野郎にしたのと同じことだった。

 

「ぁ……」

 

僕の足に躓く形でバランスを崩した倉田は前のめりに倒れていく。

本能的に受け身をとろうとしたからか、包丁を握りしめた手を前につきだした態勢で。

その先には田中君が待ち構えており。

 

「おりゃ!」

「がっ!!」

 

田中君は前に突き出された腕をとって背負い投げの要領で投げると地面にたたきつけたのだ。

痛みによって、うまく動けない隙を逃すことなく凶器でもある包丁を倉田から奪い取り無力化する。

 

「二人とも、怪我はっ!?」

 

それを確認するよりも早く、僕は日菜さんたちの安否を確認する。

二人にけがを負わせてしまったら、僕はどのようにお詫びをすればよいのかがわからない。

 

「いいえ。私は大丈夫です」

「あたしも……って、一君のほうは!?」

 

二人の無事を確認してほっと胸をなでおろしながらも、僕は自分の体を確認する。

倉田に足を引っかけた際にちょっと足を痛めたが、今後に支障が出るほどではない。

少しばかり安静にしていればすぐに痛みはひくだろう。

 

「こっちも大丈夫」

 

これで、一応全員の無事は確認できた。

 

「どうされましたかっ」

「この男が、これを持って襲い掛かってきました」

「一君」

 

そんな時、騒ぎを聞きつけて駆けよってくるた警備員の二人に田中君が簡潔に伝える中、かけられた日菜さんの言葉に視線を日菜さんのほうに向けて

 

「え、何?」

 

と尋ねると

 

「ありがとね、一君」

 

笑みを浮かべてそう言うのであった。




本章も残すところあと1,2話です。

メインヒロインは誰?

  • 紗夜
  • 日菜

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