その日の夕方、練習も終わり帰路についているとき、俺は放課後にあったことの一部始終をみんなに話していた。
一樹が叫んだことに関しては言ってない。
言えるはずがない。
そんなことを言ってしまえば、俺たちの心がバラバラになるような気がしたからだ。
「そうか。そんなことが」
「あの時のことが、こんなことになるなんて」
「運が悪いっつったらそれまでだが……ひどすぎる」
全員、一樹の身に起きていることに憤りを隠せない様子だった。
「啓介、一つ聞きたい。お前は警察になぜ連絡しなかった?」
「そ、それは」
聡志からの当然の問いかけに、俺は口ごもる。
それを離そうとすると、一樹の言葉まで言う羽目になる。
それだけは避けたい。
「てめぇ、まさかビビッて――「違う! 一樹への報復を心配したんだ」――ふむ……」
鋭い視線にさらされた俺にできたのは、ぎりぎり本当のことを混ぜたうそをつくことだけだった。
それでも、聡志はなんとか納得してくれたようだった。
「それで、どうするんだい?」
「え?」
森本さんの口から出た予想外の言葉に、俺はうまく言葉を返せない。
「一樹を助けるんでしょ。私にできることだったら協力するよ」
「わ、私も」
「無論、俺もな」
「皆……」
森本さんに続いてみんなが協力をすると名乗りを上げてくれた。
それでこその俺たちだ。
俺たちの心は一つだ。
”一樹を助けたい”
その思いでまとまっている。
「警察もだめだとすると、あとは」
俺はそこでいったん言葉を区切ると、こう告げた。
「殴り込みだ」
と。
翌日、一樹救出作戦(俺命名)を決行する時が来た。
あの後、全員と作戦を詰めた結果、こうなった。
まず、俺と聡志とで一樹が向かっている『花咲ヤンキース』の拠点に向かう。
そこで、一樹が殴られる前に乗り込み、一樹を守りつつ時間を稼ぐ。
その間に、安全のために学園で待機する二人が警察に通報して拠点に駆けつけてもらう。
俺たちの目の前で不良グループが捕まれば、一樹も安心できるはず。
それが狙いだ。
今日は一樹を尾行する必要はない。
すでに連中の拠点に行っていることは分かっている。
ようするに、直接向かえばいいのだ。
「ここか?」
「ああ」
やがて、不良グループの拠点の入り口前にたどり着き、確認してくる聡志に頷きながら、俺は物陰から中を見る。
そこには、すでに一樹の姿があった。
「行くぞ」
「わかった」
こういう時に頼りになるのは柔道を習う聡志だ。
先陣を切るようにして物陰から一気に不良グループのもとに走り出した。
「おい、おめえら待ちやがれ!!」
「あん?」
「んだ、てめえら!!」
突然声を荒げる聡志をも上回る声量と威圧で、俺たちを睨みつけてきた。
「二人とも、どうして?!」
俺たちを見てえ、驚きに目を見開かせる一樹の手を引いて、連中から引きはがすと俺たちの後ろにかくまう。
「そいつは――「坊主のお友達だろ? 田中 聡志君?」――んなっ!?」
俺と聡志は、驚きを隠せない。
(少なくとも、俺と聡志はこいつらと面識がないはずだ)
それなのに、どうして名前を知っているんだ?
「そこの小僧は……佐久間 啓介と言ったか。お前さんたちのことはすべてお見通しだ」
「……これが、あいつらのやり口だ。逃げ道なんてない」
悔し気に声を漏らす一樹の言葉に、俺はこの時初めて、あの時の一樹の言葉の意味を知った。
あれは、俺たちを巻き込まないようにするがためのものだったのだ。
「あと、二人いないなぁ。『HYPER-PROMINENCE』のメンバーの森本明美に中井裕美がなぁ」
「っ!?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべる男の言葉で、この時、俺たちは知った。
こいつらは俺たちで叶うような奴らじゃない。
それは俺たちが『HYPER-PROMINENCE』のメンバーであることを突き止めている時点で明白だ。
俺たちの正体は徹底して隠してきたつもりだ。
それなのに、こうして特定しているということはそれなりの情報収集能力があるということだ。
もはや、俺たちには敗北の運命しかなかったのだ。
「せっかく、そこのガキがタコ殴りを1年続ければチャラにしてやることをのんだというのに。残念だなぁ?」
口ではそういうが、金髪のリーゼントの男は全く残念そうに入っていない。
いや、むしろ楽しんでいる感じだ。
「何が残念だ。警察にはとっくに通報している。じきにここに―――がっ!?」
「聡志!!」
「田中君っ」
聡志が言いきるよりも先に、聡志は殴り飛ばされていた。
たった一発のパンチで、聡志の体は人形のように大きく吹き飛んでいた。
「ちょっと! 約束が違うじゃないか!!」
「あん?」
抗議の声を上げる一樹に、男はじろっと睨みつける。
「こいつらには危害は加えない。それが条件のはずだ。それを―――っぐ!?」
「一樹!!」
今度は一樹の声を遮るように、男が殴り飛ばす。
「人聞きの悪いことを言うな。サツにタレこんだ時点で、約束など無効に決まってんだろうが」
冷たく、鋭利な言葉が一樹に浴びせられる。
「おめえら、ちょうどいい。こいつらを血祭りにあげるとしようか」
その言葉に、その場にいた不良グループのメンバー全員が歓声を上げる。
「そんでもって、女どもには俺たちの遊び相手にでもなってもらおうか」
「―――けんな」
男のそのの言葉で、俺の中で何かが切れた。
「あんだ、小僧。はっきり言え」
「ふざけんなって言ったんだ! 仲間には誰一人、渡さねえ!」
思いっきり啖呵切ったが、ものすごく怖かった。
それが見破られているのか
「アハハっ。おいおい背伸びはよくねえぜ? 足が震えてるぞ」
男たちの笑いの種にされていた。
いつもの俺はそうやって笑いをと嫌な気分になったことはなかったが、今回のはものすごく嫌な気分だ。
そんな時、俺の横から飛び出していく人がいた。
「がっ」
「団長!」
「舐めんじゃねぞ!」
それは聡志だった。
「聡志!」
「おう。時間稼ぎサンキュ。おかげで紀州でも一発くらえさせることができた」
痛むのか、殴られた場所をさすりながら答える聡志は、俺の横に立つ。
「一樹は?」
「あいつには少しの間眠ってもらった」
ふと後ろのほうを見ると、地面に突っ伏している一樹の姿があった。
(時間稼ぎってそういうことか。というより)
「鬼だな」
「うるさい。意識があったら心配かけちまうだろ」
意識を取り戻したときには、無事解決という展開にしようとしたのだろう。
「まあ、ここから無事に帰れればだけど」
「……だな」
気が付くと俺たちは男たちに周囲を囲まれていた。
それぞれが指を鳴らし、臨戦態勢を整えていた。
「ガキども、よくも殴ったな。いいだろう……地獄を見せてやろうじゃねえか」
団長と呼ばれた男が、そう告げて仲間たちに合図のようなものを送った瞬間、一気に男たちは襲い掛かってきた。
それからのことはよく覚えていない。
殴り殴られる状況が永遠に続いたような気がした。
気が付けば、俺たちはビルのような建物の中に入っていた。
「ふんっ!」
「かはっ」
これで何度目かはわからない、強烈な一撃が腹部に入った俺は、その場に倒れこむが
「おらっ」
「がっ」
容赦なく別の男が蹴り飛ばす。
(俺、ここで死ぬのか)
白みがかる意識の中、俺は死をも覚悟した。
「ッらぁ!!」
そんな俺の目に入ったのは、渾身の力を振り絞って団長と呼ばれた男にタックルをする聡志の姿だった。
「っち」
「ぐはっ」
聡志の奮闘もうなしく、聡志は蹴り飛ばされ遠くのほうに飛ばされた。
その時だった。
パキンという金属の音がした。
しかも、それは何かが外れたような音に思えた。
それは周りにいた男たちも同じだったようで、動きを止めてあたりを見回す。
再び、パキンという音がする。
(そういえば、ここって)
俺はその時、この場所の特徴を思い出した。
ここは、鉄筋がむき出しでいつ崩れてもおかしくない状態の建物だ。
そして、今聡志が押し付けたのは柱と思われる太い鉄筋だった。
(だったら、この音って)
白みがかった意識はいきなりクリアになり、俺は猛スピードで外に駆けていく。
その意味が分からなかった様子の男たちだが、その後聞えた軋むような音に、慌て始めた。
「おいにげろっ。崩れるぞ!」
団長と呼ばれた男が、そう叫ぶのと同時に男たちは慌てて外に出てくるが、団長と呼ばれた男が逃げようとした瞬間、建物の崩壊が始まった。
「団長!!」
団長と呼ばれた男は、もう逃げられない。
悪い言い方になるが、まさしく自業自得だった。
俺と聡志は、地面に座り込んで(というより、もう立てそうにない)崩れ行く建物を見ていた。
「え?」
そんな時だった。
ものすごい勢いで、建物の中に入り込む人の姿があった。
おそらく、仲間だろう。
仲間に違いない。
「っく!?」
「団長!」
「大丈夫でやんすか!!」
そのあとすぐに投げ飛ばされるようにして外に出てきた団長に、仲間たちが集まっていく。
「ああ。俺は大丈夫だが……あのガキ、なぜ……」
その言葉と同時に、建物は完全に崩壊した。
仲間と思われる男を生き埋めにして。
(いや、違う!)
先ほど飛び込んでいった人物……あれは間違いなく
「一樹!!」
一樹だった。
俺が慌ててがれきの山に向かい、呼びかけるtが応答がない。
「一樹、しっかりしろ! 一樹!!」
「おい、サツだぞ!」
呼びかけるだけで何もできない俺の耳に聞こえてきたのは、パトカーのサイレンだった。
おそらく中井さんたちが呼んだ警察が今来たのだろう。
「警察だっ! 暴行の現行犯で逮捕する!」
花咲ヤンキースのメンバーは全員、警察に捕まえられた。
「君たち、大丈夫か!」
連れていかれる男たちをしり目に、一人の警官が俺たちのほうに駆け寄ってくる。
「俺たちよりも、この下に俺の友人が生き埋めになってるんです!」
「なんだって!? ちょっと待ってなさい」
俺の言葉に、警官の目が驚きに見開かれ、無線で何かを言っていた。
おそらく、救急車などを呼んだのだろう。
「とりあえず、君たちはこの後来る救急車で治療を受けなさい」
「わかりました」
警官の指示に頷くことしかできなかった。
その後、やってきた救急車に、俺たちはのせられて治療を受けることになり、瓦礫の下敷きになっていた一樹は無事助け出されると病院のほうに搬送されるのであった。
今まで未定状態だったヒロインですが、何とか決まりそうです。
もう少し調整をしたいので、今しばらくタグのほうが現状のままということでご了承のほうをお願いします。