BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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気づけばお気に入りが450を突破していました。
これからも、皆さんに楽しんでいただけるような作品を目指して奮闘していく所存です。


それでは、本篇をどうぞ。


第131話 無限地獄

「期間は、60分。そのあとに休憩をとる。これでどう?」

「……私はいいわよ。紗夜は?」

「私も異論はありません」

 

湊さんをはじめ、紗夜さんやリサさんたちも同意する。

 

「それじゃ、アラームが鳴ったら休憩ということで。一応加減したほうがいい?」

「いらないわ。全力でやって」

 

最後の確認のつもりで聞いたそれに、湊さんは即答で返す。

 

「……それじゃ、始めて」

「ええ、行くわよ」

 

僕は軽く深呼吸をして気持ちを切り替える。

そして、彼女たちの演奏が始まった。

そして、それが彼女たちにとっての地獄の始まりとなったのだ。

 

「ストップ」

 

少し進んだところで、僕は演奏を止める。

全員が演奏を止めて、どうしたのかと言わんばかりに見てくる中、僕は

 

「あこさん、今リズムがずれた」

「ご、ごめんなさいっ」

 

あこちゃんに指摘する。

あこちゃんは少しだけ慌てて謝ってくる。

 

「かすかなテンポのズレを聞き逃してないのはさすがですが、普通ですね」

「ええ。これがどうして地獄と言われてるのか理解に苦しむわ」

 

そんな中、湊さんと紗夜さんの話声が聞こえてきた。

まだ始まって間もないので、わからなくて当然だけど。

 

「そこの二名。今は練習中だけど、その会話はこの練習にどのような関係があるの?」

「それは……」

 

僕の責めるような問いかけに、二人は声を詰まらせる。

 

「関係がないのであれば慎んで。それじゃ、一番最初から」

「え? 間違えたところからじゃないの?」

「当然。途中からなんて中途半端なことをしても身につかないから、一番最初からやり直してもらう。無論、ちょっとでもミスしたら最初からだから」

 

その瞬間、スタジオ内の空気が凍り付く。

もしかしたらみんなは理解できたのかもしれない。

この練習の地獄の意味を。

 

「それじゃ、初めて」

 

そして演奏が一番最初から始まる。

だが、その後も

 

「あこさん、またリズムがずれた」

「今井さん、今のところはもう少し伸ばして」

「湊さん、今のところ、音程が少し低い」

 

何度も何度も指摘をしては最初からを繰り返していく。

 

(まだ、Bメロにも入ってないんだけど)

 

一応、少しずつ進んではいるが、ほんの少ししか進めていないのが現状だ。

だが、この練習の本当の恐ろしさは別にある。

 

「紗夜さん。今コード進行が遅れた」

「今井さん、リズムがどんどん遅くなっていってるよ」

「あこさん、音が弱い」

「白金さん、今の箇所、音が小さい」

 

時間が進むにつれて、みんなの表情に疲れの色が見え始めた。

それに比例して、ミスも多くなる。

だが、それでも僕はお構いなしとばかりに指摘して最初からを繰り返していく。

この練習方法は、練習の経過時間による疲労を一切考慮していない。

つまり、時間が経てば経つほど、地獄を見ていくことになる。

現に、湊さんたちの表情が死にかけている。

 

(そろそろのはずなんだけど)

 

僕の時間間隔が間違っていなければ、そろそろ休憩の時間のはずだ。

その僕の予想を肯定するように、スタジオ内にアラームの音が鳴り響く。

それは、60分も続いた地獄から解き放たれた証であった。

 

(って、まだ演奏してるっ!?)

 

割と大きめの音量でアラームが鳴るようにしていたが、鳴っていることに気づかずに演奏し続ける彼女たちの姿はとても恐ろしく思えてきた。

よく見ると、全員の目が死にかけており、お世辞にもいい状態とは言えなかった。

何とかして止めさせなければと思った僕がとった行動は

 

「はい、ストップ!」

 

練習の時と同じ感じで強制的に演奏を止めさせることだった。

 

「今度は何?」

「いや、約束の時間だから休憩を、と思って」

 

もう勘弁してという雰囲気を隠すこともなく聞いてくる湊さんに、僕は終わりの時間であることを告げる。

 

「はぁぁ~、疲れたぁ」

 

休憩という単語に、あこさんが体中の力を抜いてドラムにもたれがかる。

他のメンバーも全員疲れた様子だった。

 

「休憩がてら、外の喫茶スペースで何か食べない? もちろん、僕のおごりで」

 

そんなみんなの様子を見ていた僕は、そう提案したのだ。

 

「本当!?」

「一樹君、太っ腹~」

 

僕の提案に返ってきたのは喜ぶあこちゃんと驚いた様子で声を上げるリサさんに

 

「おごりなんて、とんでもないわ」

「ええ。別にそういうのは不要よ」

「み、美竹さんに悪い……です」

 

あまりいい反応を示さない湊さんに、申し訳なさそうな反応をする白金さんと紗夜さんといったものだった。

 

「まあまあ、初めてのコーチ記念ということで……というよりも、ここは僕の顔を立てるということで、どうか」

「……はぁ、わかったわ」

 

暫くの沈黙ののちに、深く息を吐きだした湊さんは折れてくれた。

こうして、僕のおごりで彼女たちにカフェテリアで休憩をとることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り注文を済ませ、頼んだ品を受け取った僕たちは話をしていた。

 

「それにしても、さっきの練習はつらかったよ」

「それに関しては申し訳ないとしか言えない」

 

あこちゃんは先ほどに比べれば、大分疲労の色は薄らいでいるとはやはり疲れている様子に、少し罪悪感に駆られる。

 

「あ、ううん。謝ってほしいんじゃなくてね、えっと……こう、闇の力が高まって……こう、バーンとする感じだったんだよ!」

「なるほど」

「一樹君、今の宇田川さんの言葉が分かるんですか!?」

「全然っ」

 

理解したように頷いてはいるが、全く理解できていない。

 

(うん、彼女のこれはあれだな。厨二病? だね)

 

昔、啓介が同じ病気を患っていたのを思い出す。

尤も、あの時は一週間で完治したけど。

 

「……」

 

そんな僕に注がれる紗夜さんからの呆れたような視線は、少しだけ痛かった。

 

「それにしても、あのレベルの演奏をしているだけあるわね」

「ええ。先ほどの練習を通して、Moonlight Gloryの完成された音楽の理由を狭間見ました」

 

そんな中、湊さんが先ほどの練習から僕たちの話へと話題を変える。

 

「はい……あのくらい、できなければ、私たちはいけないんです……ね」

「そんなわけないでしょ」

 

白金さんの相槌を僕は即座に否定する。

 

「練習をする前にも言ったけど、あれは様々な状況を考慮することなく、ただの理想論だけで組まれた独りよがりなものだよ。あんなのをやっていたら最悪死人すら出かねない」

「死人って、そんな大げさな」

 

笑い飛ばすように軽い口調だが、リサさんの表情は引きつっていた。

こういうのはやった本人が一番よくわかっているはずだ。

 

「ミスをした瞬間、否が応でも最初からやり直し。曲の終わりまでそれを続ける。練習方法を、僕たちは『無限地獄』と呼んでいる」

「か、かっこいいっ」

 

なんだか一部人物が予想外の反応を示したが、それは今は置いておこう。

時間経過の疲労も考慮せずに行うことからこの名前になっているが、啓介たちですら、あの時一週間で死にかけていたほどだ。

 

(そういえば、あの時はギスギスしてたっけ)

 

僕の無限地獄によって、啓介たちとの仲がギスギスしていたのも、今となってはある意味思い出話にもなるかもしれない。

とはいえ、やるつもりはないけど。

 

「予め言っておくけど、あの練習方法は僕がコーチをしている間はやらせないしさせないからね」

 

だからこそ、僕はここでも全員にそう宣言したのだ。

その後、休憩を終えて彼女たちのやっているいつも通りの形式で練習を再開させた。

この日は、彼女たちの現状を把握するためだったので、指摘などは差し控えさせてもらった。

こうして、僕のRoseliaに対するコーチ初日が、幕を閉じるのであった。

 

(紗夜さん、もしかしたらいけるかも)

 

大きな収穫を得て。




新しく始まるアンケートの説明るだけでしかしておりませんでしたが、前回のアンケートへのご協力ありがとうございました。

皆様の貴重な一票で出た結果に基づいて、今後のストーリー攻勢を進めていきたいと思います。

そして、引き続き今回実施中のアンケートへもご協力していただけると幸いです。

読みたい話はどれ?

  • 1:『昼と夜のChange記録』
  • 2:『6人目の天文部員』
  • 3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
  • 4:『追想、幻の初ライブ』
  • 5:一つと言わず全部

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