今回はかなり長くなりそうな予感がします(汗)
第139話 招待状
梅雨も明け、いよいよ夏に差し掛かろうとするこの季節。
「えっと……あ、ここだ」
僕と中井さんは、とある一軒の家を訪れていた。
そこは和風の屋敷のような古風な感じの門を構えた家だった。
そこの家主を示すプレートには『市ヶ谷』と記されている。
どうして、僕たちがここにいるのか。
それは二日ほど前の夜にさかのぼる。
BanG Dream!~隣の天才~ 第5章『星の鼓動』
二日前の夜、自室のほうで勉強をしていた時のことだった。
「こんなものかな」
ちょうどいい感じに勉強を終わらせた僕は、軽く伸びをして体をほぐしつつ机の上に広げていた教材を本棚などにしまっていく。
「ん? 電話だ」
しまい終えたところでベッドの上に置いていた携帯から着信音が鳴り始め、僕は携帯を手に取ると発信者名を確認する。
「中井さん? なんだろ」
いつもかけてこない相手からの電話に、僕は首を傾げつつも電話に出る。
「もしもし」
『あ、夜遅くごめんね。今大丈夫』
「大丈夫だけど、何かあった?」
この後はもう寝るくらいしかないので、時間的な余裕はあるのだが僕は用件を尋ねる。
『今日ね、ゆり先輩から今週末にりみちゃんとその友人の三人でライブをやるから一緒に見に行かないって誘われたんだ』
「それはよかったじゃない」
中井さん経由で知り合ったゆり先輩の妹、りみさんが友人とバンドを組んだらしく、その初お披露目という名のライブを行うらしい。
『それでね、一樹君も一緒にどうかなって思って』
「ふむ……」
今週の日曜日は特に予定はない。
あるとすれば、日課くらいだ。
(りみさんの友人となれば、市ヶ谷さんたちの可能性が高い)
市ヶ谷さんたちと言えば、この間のSPACEでのライブでGlitter*Greenが到着するまで必死に時間を稼いだという実績がある。
(彼女たちが音を奏でるとどうなるのか、少し興味はあるな)
あの時に感じた、僕の直感が正しいかどうかを確かめるチャンスでもある。
「向こうがいいのであれば、僕も行くつもりだけど」
『本当!? それじゃ、ゆり先輩に連絡しておくねっ。それと当日はいつもの場所で待ち合わせってことで。それじゃ!』
よっぽど嬉しかったのか、興奮した口調でまくしたてた中井さんは、こちらの返事を聞くこともなく電話を切ったようだ。
「……もう切れてるし」
一体どれだけ楽しみにしてるんだろうと、ツーツーとなり続ける電話の音を聞きながら心の中でツッコむのであった。
そして、この日に至る。
「ぽちっと」
中井さんは躊躇することなく呼び鈴を押す。
『はい?』
「すみません、今日演奏を聞きに来た中井です」
インターホンから聞こえた高齢の女性の声に、中井さんが用件を告げる。
『あー、はいはい。ちょっと待っててね』
そういって通話が切られ、待つこと数十秒。
「よく来てくれたわね。さあさあ、入りなさい。場所はあっちのくらの方ね」
「「失礼します」」
姿を現した物腰の柔らかそうなおばあさんに一礼しつつ、おばあさんの示した方角のほうに向かうと、そこにはこれまた立派な蔵があった。
近づくと、扉は開かれており、入り口の横には『クライブ』という文字が書かれた紙が貼られていた。
「蔵でやるライブだからかな?」
「じゃない?」
ある意味説得力のあるライブの名前をしり目に、僕たちは蔵の中にはいる。
中はやや広めで、色々なものが置かれていた。
「「………」」
靴が何足かあるので、中に誰かいるのは間違いない。
そして、その場所が蔵の隅のほうの床板がぽっかりと開いており、その先に見える下へと続く階段の先であることも。
だが、古風な感じの家から、何らかのからくり仕掛け(罠だけど)とかでもあるのではないかと思い、なかなか足を踏み出せない。
僕と中井さんは、無言で先に行けと牽制しあうことになってしまった。
(というか、別に先に行かなくても向こうからきてもらえばいいんじゃ)
「すみませーん! 誰かいますかー?」
そんな簡単な答えを導き出すのに時間がかかってしまったのは、誰にも言わないと心に誓いながら、僕は中にいるであろう人物に声をかける。
すると、蔵の奥の下側……地価のほうから階段を上る音が聞こえてきた。
「はいはい、いますよ……って、貴方あの時の!」
階段から姿を現したのは、この間僕がハンカチを渡した少女、市ヶ谷さんだった。
「……今度は何をしたのかなぁ?」
「してないから、そのにやにやした顔でこっちを見るのをやめて」
からかいの視線で僕を見てくる中井さんに文句を言いつつ、彼女のほうに向き直る。
「この間は名乗らずにごめん。改めて、美竹一樹です。どうぞよろしく」
「い、市ヶ谷 有咲です……その、よろしくお願いします」
とりあえず、これでお互いの自己紹介は終えられた。
「ところで市ヶ谷さん。一つだけ聞いてもいいですか?」
でも、僕には一つだけ、聞いておかなければいけないことがあった。
「え、ええ。もちろんですよ」
「市ヶ谷さんって、普段”貴方は”とか、そういう喋り方しないですよね?」
僕のその言葉に、市ヶ谷さんの表情が固まる。
「どっちかって言うと、”お前”とかじゃないですか?」
「じ、冗談はやめてくださいよ。何を言ってるのか、さっぱりわかりませんわ」
完全に顔が引きつっていたので、おそらく図星だろう。
「冗談で言っているつもりはないですよ。なにせ僕の知り合いに、市ヶ谷さんみたいな感じで猫を被っているのがいるので」
「あ、あははは……」
僕が誰のことを言っているのかが分かる中井さんは、苦笑していた。
「まあ、こうして知り合えたのも何かの縁。猫被って話すんじゃなくて素で話していこうと思ってお聞きしただけなので、今のは忘れていただいて結構です」
「………」
(市ヶ谷さんと啓介って、意外と気が合いそうだし、今度会話でもさせてみるか)
何となくそうすれば彼女の素の話し方を見れそうな気がした。
「あの……演奏はどこで?」
「あ、こっちです」
気まずい空気に包まれる中、話題を変えるように中井さんが口を開く。
僕は市ヶ谷さんに案内される形で、ライブ会場に向かうのであった。
(というより、最初にこれを聞くべきだった)
そんな間違いに気づきながら。
若干時系列がおかしかったり、無理があったりしますが、独自設定ということでご容赦を。
読みたい話はどれ?
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1:『昼と夜のChange記録』
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2:『6人目の天文部員』
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3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
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4:『追想、幻の初ライブ』
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5:一つと言わず全部