市ヶ谷さんに案内されるように階段を降りると、そこは先ほどまでいた場所とは打って変わったような雰囲気の空間だった。
「あれ、一樹先輩」
「あ、一樹君。お久しぶりだね」
ソファーのほうにいたりみさんと、ゆり先輩がこちらに反応して声をかけてくる。
「え?! りみ、知ってんの?」
「うん。お姉ちゃんの知り合いだよ」
りみさんが僕のことを知っていることに驚きを隠せない市ヶ谷さんに、りみさんは簡単にそう説明してくれた。
「……って、一樹先輩が来たのって、もしかしてっ」
「あー、そういう意味じゃないから。今日はただの幼馴染の誘いで来ただけだから、リラックスして」
りみさんとゆり先輩は、僕たちがMoonlight Gloryとして活動していることを知っている。
自分的にはまだまだだとは思っているが、プロのアーティストの前で演奏するというのは半端ではないプレッシャーだ。
なので、先手を打つ形で否定はしたが、当の本人は緊張の色を隠せない様子で、あたふたとしていた。
「牛込さん、大丈夫?」
そんな彼女に、同じくここに来ていた山吹さんが声をかける。
「山吹さんもりみさんに誘われて?」
「あー、どっちかというと、戸山さんに……」
山吹さんが一瞬苦笑したのを、僕は見逃さなかった。
「その戸山さんはどこに?」
あたりを見回して彼女の姿がないことに気づいた僕の問いかけに、山吹さんは”まだ来ていない”と答えたのであった。
結局、これから来るであろう戸山さんを外で待つ山吹さんたちについていく形で、僕は中井さんとゆり先輩を置いて外で待つことにした。
「えっと、りみさんがベースで市ヶ谷さんがキーボード、それでこれから来る戸山さんがギターっていう構成なんだね」
「うん、そうだよ」
待っている間に、バンドについてりみさんたちに話を聞くことにした僕は、りみさんから大方の情報は聞きだすことができた。
バンドの編成はギターが1人、ベースが1人、キーボードが1人の3人編成だ。
ボーカルはギターの戸山さんが兼任するらしい。
そんな彼女たちの問題があった。
「まずは、ドラムを見つけないとね」
そう、彼女たちのバンドにはある意味一番重要なパートともいえるドラムが存在しないのだ。
「うーん。でも私たちの周りに、ドラムができてバンドに入っていない人の心当たりがなくて……」
「……私のことを見てるけど、どうしたの? 美竹君」
どうしようと悩むりみさんの言葉に、僕はつい山吹さんのほうに視線を送ってしまっていたようだ。
「あ、いや。何でもない」
慌てて取り繕うが、山吹さんは納得した様子ではあったが、首をかしげていた。
(今言うのは得策ではない、か)
僕は彼女のある事実を知っている。
一度話をしないといけないと思いつつも、なんだかんだで先延ばしにしてきたのだが、あまり先延ばしにするのも気が引けるので、そろそろ言おうとはしているのだがタイミングがつかめずにいた。
「あ、さーや!」
そんな時、山吹さんの名前を呼ぶ明るい元気な声が聞こえてきた。
猫耳を彷彿とさせる髪型の少女、戸山さんだった。
「っと、わかったから、落ち着こう」
その戸山さんは勢いよく山吹さんに抱き着き、それを落ち着かせようとする山吹さんの姿に、二人が友人であるというのはすぐにわかった。
(あー、なんかものすごくデジャブを感じる)
それと同時に、どっかで見たような光景だなと思っていたり。
主に、日菜さんとか日菜さんとか。
そんな時、ふと僕と目があった。
「あれ、君は誰? はっ」
僕のことなど知らないはずなので、当然出てくる疑問だ。
自己紹介をしようと口を開きかけた時、戸山さんは何かが分かったのか目を見開かせる。
「もしかしてさーやの彼氏!?」
『ええええ!?』
この日この時この瞬間の、驚きの声はある意味ご近所中に響き渡ったのではないかと思えるほどに、大きく聞こえた。
「そ、そうなの、沙綾ちゃん!?」
「衝撃的な事実」
「ち、違うからっ! 美竹君とはそういうのじゃっ」
驚きを隠せない様子で詰め寄るりみさんにこれまた目を見開かせて固まる市ヶ谷さんの二人に、山吹さんは顔を赤くしながら必死になって否定する。
「残念ながら、彼氏ではないから。ただ、昔からの知り合い」
そこで、僕も助け舟を出すように僕と山吹さんの関係を説明する。
「何だ、びっくりしたぁ」
「ほっ」
戸山さんがすんなりと納得してくれたので、何とか落ち着かせることができた。
なんだか、胸をなでおろすような声が聞こえたような気がするのだが、これはきっと僕の勘違いだろう。
「改めて、僕は美竹 一樹。どうぞよろしく」
「私の名前は、戸山香澄ですっ。よろしくお願いします!」
とりあえず、彼女とも自己紹介をすることができた。
「あっ! 紹介するね、私の妹のあっ―――」
戸山さんが後ろにいた少女のことを紹介しようとした瞬間、布の破れるような音が聞こえた。
「危ないっ!!」
それと同時にすさまじい速さで落下したギターケースを受けとめた。
「えっと、戸山 明日香です。いつも姉がお世話に―――」
「ありがとう! あっちゃん~!」
抱きつくのは彼女の癖なのかと思うほど、戸山さんは彼女の妹にお礼を言いながら抱きついていた。
(姉とは違って、礼儀正しいな)
なんだか氷川姉妹の反対版だなと思ってしまったのは秘密だ。
「どうかしたの?」
そんな時、門のほうから顔を出してきたのは、蔵にいたはずのゆり先輩だった。
「牛込先輩に、中井先輩!?」
後ろには中井さんもいるので、どうやら僕たちの様子を見に来たようだ。
そんな彼女たちを見た戸山さんの妹は、慌てて姿勢をただした。
普通の先輩で、ここまで姿勢を正すのは、彼女の性格なのか、それともゆり先輩達が怖い人みたいなイメージでも持たれているのかと、疑問を抱いてしまった。
後にゆり先輩から部活の後輩であると説明されたので、その疑問はすぐに解決することになった。
尤も、中井さんに対しても同じ反応をしていたりするので、なんとなく答えが分かっていたりするけど。
それはともかくとして、僕たちは一度即席のライブ会場に戻るのであった。
一応元はアニメ版ですが、色々とオリジナル要素を入れて変更をしていたりします。
次回で、クライブの話は終わり、この章の本題に入ります。
読みたい話はどれ?
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1:『昼と夜のChange記録』
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2:『6人目の天文部員』
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3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
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4:『追想、幻の初ライブ』
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5:一つと言わず全部