BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第145話 蘇る言葉

「そう、だったんだ。ごめん」

 

すべての話を聞き終えた山吹さんが、今にも土下座するのではないかと言わんばかりの様子で謝ってきた。

やはり、あの時に彼女に内緒にするようにお願いした僕の読みは正しかったようだ。

 

「いや、別に謝ってほしいわけでもない。それに倒れたのは中井さんの自業自得だし」

 

それは決して、山吹さんを慰めるために口から出まかせを言っているわけではない。

 

「ドラムは他の楽器に比べて体力を非常に消耗する。中井さんは周囲が知らない人だらけという状況にテンパっ

て、全力でドラムを叩いたから演奏しきったらスタミナが切れてそのまま眠るように倒れたんだから」

 

本人の口から聞いたので、それは間違いない。

要するに、マラソンなのにスタートから全力疾走したのと同じことをしたのだ。

 

「一つだけ聞いてもいいかな?」

「いいよ。何でも聞いて」

 

僕は山吹さんの答えを聞いて、ある問いかけをする。

 

「ズバリ、山吹さんはバンド……ドラムは好き?」

「そりゃ、好きだよ。そうでなければドラムもバンドもやらないよ」

 

てっきり昨日のように声を荒げるかとも思ったが、どうやらその心配はないようだ。

まあ、ただ琴線に触れていないだけだけど。

 

「昔、亘史さんとかいろいろな人から『お前と山吹さんはよく似ている』ってからかわれてたの覚えてる?」

「覚えてるよ。幼馴染とかじゃないのにね」

 

山吹さんは苦笑交じりに答えているが、本当に謎だった。

ただの先輩後輩程度で、時々お店のパンを買いに行くだけのはずなのに、どういうわけか亘史さんや父さん達にはからかわれ、純たちには懐かれて。

それも父さんからすれば”手が早い”というからかい言葉になっていたわけだが。

今ならよくわかる。

 

「僕と山吹さんは確かに似てるんだ。責任感が強いところ。誰かのために手を貸そうとする優しくて面倒見のいいところとか」

 

だから純たちも懐いたのだろう。

僕が、”姉と同じ雰囲気”だから。

 

「僕としては似ているといわれて光栄だとも思っているけどね。まあ、ちょっとだけ申し訳ないとも思うけど」

 

何せ、自分でも”優しいのか?”と問いかけたくなることがよくあるくらいだし。

 

「僕も同じだから。前、バンドを組んでそして解散させた。しかも自分勝手でしょうもない理由で、ね」

 

僕はそこでいったん言葉を区切る。

正直、あの時期の話はあまりしたくない。

いまだに罪悪感に駆られてしまいそうになるのと、両親を亡くした時のことを思い出してしまうからだ。

だが、これも彼女のためなので我慢してその話を続ける。

 

「あの時、本当は音楽をやりたくて、でも自分で辞めたから中々始めることができなくて。うじうじと山吹さんの

ように悩んでいた時にある人物から言われた言葉がある。それをそのまま、山吹さんに送るよ」

僕はそこでいったん深呼吸すると

 

「『だったらやればいいじゃん。もう細かいことなんて後回しにして、自分の気持ちに正直になればいいんだよ。

 

やりたければやればいいし、やりたくなければやらないってね☆』」

それは、去年の文化祭の時にリサさんから言われた言葉だ。

ものすごく無責任にも思えたが、あの時の僕には最適な言葉だったんだと今なら思える。

 

(それにしても、リサさんの口調をまねた自分を殴りたい)

 

思いっきり似ていないし、状況が状況なら間違いなく弾かれてる。

いい男が”ね☆”なんて言った時には、間違いなく卒倒もんだろう。

 

「勝手なこと言わないでよ。私は、練習できる時間が――」

「練習なんて、やろうと思えば、スタジオじゃなくたってできる」

「でも、母さんが倒れたら」

「それなら、早めに帰って家事を手伝えばいい。そのくらいは彼女たちだって受け入れてくれるはずだ」

 

山吹さんが口にする言い訳を、次々に僕は切り捨てる。

 

「山吹さんは人に”頼らなさすぎる”もう少し、誰かを頼ってもいいんじゃない? 頼りすぎなのは問題だけど、山吹さんの頼みだったら大体の人は聞いてくれるはずだよ?」

 

「そんなこと……」

 

多分、簡単なことではないはずだ。

少なくとも、山吹さんにとっては。

 

(僕にできるのはここまで)

 

そして、僕にできることもなくなった。

情けないことだが、もうこれ以上彼女の背中を押せるだけの力は僕にはない。

 

(でも)

 

僕以上にうってつけの人物はいるはずだ。

 

「それなら、僕の後ろにいる人に聞いてみればいいよ。そうすれば山吹さんにとって一つのけじめがつけられるはずだから」

「え? それって、どういう―――」

 

僕の言った意味が分からないのか、困惑している山吹さんをしり目に、彼女の横をすり抜けるように立ち去る。

 

「沙綾」

「え? 母さん?」

 

後ろから二人の声が聞こえてくる。

最終的には人任せだが、きっとこれでいいのだ。

 

(それじゃ、フィナーレとさせてもらいましょうか)

 

僕はこの後の展開を予測して、病院の出入り口に移動するのであった。

それから少しして、予想通り、こちらに向かって走ってくる山吹さんの姿があった。

 

「はい、止まって」

「ごめん、今急いでるからっ」

 

先ほどとは打って変わって、その目には力強い意志のようなものを感じられたことから、彼女なりに答えは出せたようだ。

 

「自転車、貸してあげるから乗って」

「え!?」

「ドラムは体力がカギ。できる限り温存しないと」

 

驚く彼女に、僕はそう言うと鍵を半ば無理やり手渡す。

 

「この先、花女に行くルートで道路工事をやっていて、通行止めになって左右の道に迂回させられるようになっている」

 

それは、少し前に入手した情報なので間違いない。

 

「迂回路は右のほうがいい。左の道は距離は短いが緩やかな下りとタイトな上り坂でハードだ。でも右の道なら距離は長いが、緩やかな上り坂の後は合流地点まで緩やかな下り坂。ぎりぎりではあるけどライブには間に合う。自転車は2年の中井裕美に渡してもらえば大丈夫」

 

これが僕が考えた理想論ではあるが、策だった。

うまくいけば、最後の曲の演奏に間に合うはずだ。

 

「ありがとう……でも、どうしてここまで? 私、美竹君とは知り合いなだけだけど」

 

嬉しそうにお礼を言った山吹さんは、ふっと表情を真剣なものに変えて聞いてくる。

 

「理由なんて、自分勝手でくだらないものだよ。何せ、昔の自分を見ているようで嫌だからだし。さあ、早く行ったほうがいい。間に合わなくなるよ」

「……っ! うん!」

 

嬉しそうに頷いた山吹さんは、少し前に僕が買った自転車に乗って走りだしていった。

 

(そういえば、山吹さんって去年からドラムを一切やってなかったっけ)

 

それは、一年ほどのブランクがあるということでもある。

 

(りみさんから送ってもらった音源を聞く限り、レベル的には高くはないようだけど。はたして、どうなることやら)

 

とはいえ、それもあとは彼女次第だ。

もうこれで僕にできることはない。

僕は達成感のようなものを感じながら、病院のほうに戻る。

 

(あれ? 僕、何か忘れてないかな?)

 

ふと、脳裏にそんな疑問がよぎるが、すぐに思い浮かばなかったので、どうでもいいことだと思いそれ以上考えることはなかった。

 

 

 

ちなみにその後、看護師の人に思いっきり怒られてしまったことをここに付け加えておきたいと思う。

僕、美竹一樹は、診察待ちをしていることを忘れて後輩の背中を押していたのであった。




次回から新しい話になります。

ながら運転は大変危険ですので、絶対にやらないようにしましょう。

読みたい話はどれ?

  • 1:『昼と夜のChange記録』
  • 2:『6人目の天文部員』
  • 3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
  • 4:『追想、幻の初ライブ』
  • 5:一つと言わず全部
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