ある日の夜。
僕は自室でノートパソコンを使いあることをしていた。
「えっと、攻撃は……っと、できたっ!」
『すごいですね(*^-^*) あとは状況に合わせて魔法攻撃をすればばっちりです。一緒に頑張りましょう(p>_<q)』
それは、所謂ネットゲームだ。
別に遊んでいるわけではない。
これもれっきとした仕事なのだ。
それは、今日から数日ほど前のこと。
「それで、相談って何かな~? お姉さんに行ってみなさいな☆」
この日は、Roseliaのバンド練習を見るべく、スタジオを訪れていた。
その練習の休憩中に、僕は思い切ってリサさんに悩み相談をすることにしたのだ。
「Roseliaのみんなともう少し仲良くなりたいんだ」
テンパった挙句に、僕はものすごく端折って言ってしまった。
「おー、一樹君も隅に置けないね~」
「一樹さん、不純ですっ!」
それを聞いたリサさんはからかうような目で感心したようにつぶやき、なぜかリサさんと一緒に聞いていた紗夜さんからは怒られてしまった。
「ごめん、ちょっと端折りすぎた。順を追って説明するから」
僕はいったんそういって仕切り直すと、今度は丁寧に説明を始める。
「僕はバンドメンバー同士、仲がいい状態のほうがバンドにとってプラスになると考えている。で、僕も一応練習
を見ているわけだから、大まかにはRoseliaの一員という見方もあると思う」
「一樹君は十分Roseliaの一員だよ」
リサさんのフォローにお礼を言いつつ、僕は話を進める。
「湊さんは、ジャンルが偏るけど、普通に会話をすることができるし、リサさんと紗夜さんは言うまでもなく、
あこさんは時折言ってることが分からなくなることがあるけど、会話はできる」
「あはは、あこは独特な表現をするからね」
リサさんは軽く笑いながら言うが、実はあこさんの中二病的な言葉の意味を理解するのが難しかったりするのだ。
そのレベルは日菜さんの擬音交じりの言葉に負けずとも劣らないほどだ。
それをわかりやすく僕に伝えてくれているのが白金さんだったりする。
「ただ……若干一名、それが儘ならないのが」
「あー、なるほど」
「……そういうことだったのですね」
ここまでもったいぶれば、誰のことを指しているのかは一目瞭然だ。
現にリサさんと紗夜さんは納得した様子だし。
「確かに、一樹君と一対一で話をしているところは見てないね」
「ですが、白金さんの性格上、仕方がないのでは?」
そう、僕の今の悩みは白金さんなのだ。
元々、人見知りが激しそうだなというのは、最初に会った時に把握済み。
人見知りが激しい人には独特な雰囲気があるので、把握するのは容易い。
なにせ、身近にそういう人物がいるのだから。
なので、慣れるまではある程度の距離感をとれば大丈夫だと判断したのだが、白金さんの人見知りの激しさは僕の予想以上にひどかった。
傍にあこさんがいて、距離感さえつかんでおけば、会話をすることができるのだ。
それでも、少したどたどしかったりもするが。
だが、あこさんたちがいない場合は、どんなに距離をとっても話しかけただけでオロオロしだしてしまい、話そうにもテンパった様子で同じフレーズをリピートしたりなどで、うまくいっていない。
挙句の果てには顔を青ざめられてしまう始末だ。
流石に最後のはとても傷ついた。
「少々荒療治にはなりますが、慣れるように積極的に話してみるのはどうですか?」
「うーん。燐子の場合、あまりやりすぎると逆効果になりそうだと思うな。最悪の場合、今よりも悪化したりなんて」
実は相談する前に、紗夜さんの案を試してみようと思っていただけに、僕は行動に移さなくてよかったと胸をなでおろした。
「どっちかというと、共通の趣味とかがあれば話のきっかけになれるかもしれないよ」
「共通の、趣味?」
リサさんの提案は、ある意味的を得ているものであった。
確かに、それなら話のきっかけにもなるし、さすがに共通の趣味の話でもテンパられたりすることはないだろう。
(ん? 待てよ)
そこで僕は、ある根本的な問題に気付いた。
「ねえ、二人とも」
「「何(ですか)?」」
「白金さんの趣味って何?」
僕は彼女の趣味を何も知らない。
「「………」」
僕たちの周りが、何とも気まずい雰囲気に包まれる中、口を開いたのはリサさんだった。
「確か、オンラインゲームをよくやってるって言ってたような……タイトルは何だったっけ」
リサさんのおかげで、白金さんの趣味を知ることができた。
(いや、出来ただけじゃどうにもならないし)
「本人に直接聞いていようか?」
「いや、いいよ。僕ゲームとかには疎いから」
そもそもオンラインゲームのやり方なんて知らない。
やるとしても携帯用ゲームや据え置き型のゲームだけだ。
しかも、遊ぶ余裕がないので、携帯ゲームに関しては完全に埃をかぶってしまっているほどだ。
「それじゃ……」
「今井さん、とりあえずこの話はいったん終わらせましょう」
紗夜さんが話を切り上げるように言ってきた。
どうやら休憩時間が終わったようだ。
「ごめんね、力になれなくて」
「いや、こっちこそ相談に乗ってもらってありがとう。おかげで少し気が楽になったよ」
まだ問題は解決はおろか、その糸口すらつかめていないが、それでも申し訳なさそうなリサさんを前にそのようなことを言えるはずもなく、僕はできるだけ明るい表情でお礼を言うのであった。
(しかし、本当にどうにかしないと)
まさかこのような課題を抱えることになるとは、僕は思ってもいなかったうえに、解決の糸口も見えてない状態なので、あまりよろしくない状況に頭を抱えたくなった時だった。
(あれ、誰だろう?)
ポケットに入れていた携帯が、マナーモードにしていたので大きな音は鳴らずにバイブレーションで震えているのを感じながら、相手が誰なのだろうかと考えを巡らせる。
「それじゃ、行くわよ」
だが、ちょうど演奏が始まったので、いったんそのことは頭の片隅に追いやることにして、演奏のほうに意識を集中させるのであった。
顔文字を使うのが、これほど大変だったとは、思ってもいませんでした。
顔文字なしで押し通そうと思ったりしたほどに、種類が多かったです(苦笑)
読みたい話はどれ?
-
1:『昼と夜のChange記録』
-
2:『6人目の天文部員』
-
3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
-
4:『追想、幻の初ライブ』
-
5:一つと言わず全部