BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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この章も残すところあとわずかです。
そして、今回はすごく短めです。


第15話 崩壊

(変だ)

 

肌寒い12月に入った頃、俺は心の中で考える。

一樹の様子が最近おかしいのだ。

例えば、朝の通学路で、くだらない話をしていた時のこと。

 

「それで、一樹はどう思う?」

「………」

 

森本さんに意見を聞かれた一樹は、何も答えずに、前を見て歩いていた。

 

「一樹?」

「え? 何?」

「いや、だからさ――」

 

森本さんがもう一度名前を呼んで、ようやく気が付いて、同じ話を一樹にする。

それがこの日だけではなく、毎日のようにあるのだ。

何か考え事でもしているのかと思い、俺が聞いても”何でもない”と答えるだけだった。

学園でも同じ感じのようで、俺は嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

「ストップだ!」

 

この日、バンドの練習をしていたが、途中で聡志がストップをかけた。

その理由はもう明白だった。

 

「一樹、またギターが遅れてる」

「ごめん」

「最近どうしたの? なんだか、おかしいよ」

 

一樹の異変に、中井さんたちが心配そうな表情を浮かべていた。

そんな俺たちと、一樹は後ろめたいことがあるのか、視線を合わせようとはしなかった。

 

「ごめん。今日の練習はこれで終わりにさせてくれないかな。ちょっと一人で考えたいことがあるから」

「何があったのか話し――「明美、帰るぞ」――……わかったよ」

 

なおも食い下がる森本さんに、聡志はそう告げて帰り支度を促す。

そして、それは俺にも同じだった。

何も言わないが、無言で支度をしろと言っていた。

俺たちは、なんとも言えない不安を覚えながら、一樹の家を後にする。

 

 

 

 

 

「一体どうしたんだい? 一樹は」

「わかんねえ。こんな感覚初めてだ」

「今まで、何となくわかってたもんね。お互いの考えていること」

 

俺が前に感じた不思議な感覚を、中井さんたちも感じ始めていた。

 

「あ、雲が……」

 

空を見ると、先ほどまでオレンジ色の光に包まれていた空に、うっすらと雲がかかり始めていた。

 

「これは雨でも降りそうだね」

「雨か……嫌な予感がすんな」

 

空を見ていた聡志の言葉は、俺の中にある不安を一気に増させるのに十分なものだった。

 

 

 

 

 

(本格的に降り出したな)

 

家に帰るのと同時に降り出した雨に、俺は窓から外を見ながらつぶやく。

 

「……」

 

練習が思った以上に早く終わったため、まだ夕飯には時間がある。

 

(考えてても仕方がない。一回一樹に話を聞きに行こう)

 

俺はこの不安を解消するべく、傘を手に家を出た。

俺の家は一樹の家から歩いて10分ほどの場所にある。

少し速足で雨の中を歩いていると、途中の小さなころによくみんなで遊んだ公園に、傘もささずに立つ人影があった。

 

(もしかして……)

 

「一……樹?」

 

まさかと思い近寄りながらかけた俺の声に、その人影はゆっくりと反応して、こちらに振り返った。

 

「一樹……おまえ」

 

一樹の表情を見た時、俺は何も言えなくなった。

一樹の表情は、怒りでも悲しみにでも、楽しさでもない表情を浮かべていたのだ。

雨で髪が皮膚に張り付いているその姿が、さらに不気味さを増させる。

 

「この間……」

「え?」

 

突然話し始める一樹に、俺はうまく言葉が出ない。

 

「この間さ、電話があったんだ。僕の叔父にあたる人から」

 

(それって、美竹さんのこと?)

 

電話口で美竹さんが”連絡を取ってみます”と言っていたが、本当に取っていたのかと、俺は思っていた。

 

「会って話がしたいって言うから行ったら、養子になれって言われて」

 

(なるほど、そのほうが家族のような感じでいいもんな)

 

「でも、僕はそんなのは嫌だ」

「え? ど、どうして?」

 

一樹の口から出た衝撃的な言葉に、俺は慌ててその理由を聞く。

 

「だって……だって、何もかもがなかったことになるんだよっ? 父さんたちのことも、みんなとの今までのことも全部、全部っ」

 

雨の音でかき消されているにもかかわらず、俺の耳に聞えたその声は、心からの悲鳴だった。

 

「断ったよ。でも、『現実を見ろ、このままでやっていけるのか?』って言われて。何も言い返せなくて……それでこう言われたんだ」

 

一樹はそこで空を仰いで言葉を区切り、顔を俺のほうに戻すと

 

「『友達が君を心配している。安心させてやったらどうだ』って」

「っ!?」

 

まるで、頭をハンマーでたたかれたような衝撃だった。

 

「だから、受け入れたんだ。中学を卒業してからっていう条件をのんでもらってね」

「か、一樹。俺はそんなつもりで」

 

俺は、こんな形で助けることを望んではいなかった。

一樹が幸せになる、その一心で。

 

「それでね。僕いっぱい考えたんだ。皆に心配かけちゃったけど。いっぱいいっぱい」

「やめ……ろ」

 

俺には、一樹が何を言おうとしているのか、なんとなくではあるが察してしまった。

でも、それを受け入れたくはなかった。

嘘であってほしかった。

 

「それで、決めたんだ」

 

その時の一樹の表情は、何かが吹っ切れたような表情で、

 

「バンド、やめよう」

 

そして、

 

「『HYPER-PROMINENCE』は、次のライブで解散するって」

 

悲しげだった。

 

 

 

 

 

『”孤独とは森の中ではなく、人の中にある”。この言葉をよく頭に刻むんだ』

 

一樹が事故にあった時の父さんの言葉。

俺は、何も理解していなかった。

その結果がこれだ。

自己満足で動いた挙句に、俺は一樹の人生すべてを破壊してしまった。

もうどうしようもない。

俺が何かをしようとしたところで、手の施しようはない。

もはや、俺たちの運命は決まってしまったのだ。

それから先のことは何も覚えていない。

だが、このことだけははっきり言える。

 

 

俺は、大きな償え切れない罪を犯したんだ、と。




次回から視点が一樹になります。
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