BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回で 本章は完結となります。


第150話 焦らず慌てず

「それじゃ、曲のほうはこういう形でいいかな」

 

あの冒険から数日ほど経ったこの日、ついに依頼された作品を渡部さんに渡す日を迎えた。

僕たちは、ミーティングルームでコラボ楽曲として”三曲を何とか”完成させることができ、その最終確認を行っていた。

 

「イベントのボスの案も完成したはずだよな?」

「ああ。こういうのってカッコよくね?」

 

リーダーの指揮で、次々に作品を確認していく。

いずれもクライアントに満足してもらえる出来になったと自負している。

 

「よし。それじゃ最終チェックも済んだことだし」

「ええ。私たちの作品、向こうに渡しましょうか」

 

田中君の言葉を引き継ぐように

森本さんが言った瞬間、ドアをノックされる。

そして、姿を現したのは、相原さんと渡部さんそして、カメラを構えたスタッフの人だった。

 

「皆さん、おはようございます」

『おはようございます』

「早速ですが、お願いしていたものは出来上がりましたでしょうか?」

「ええ。一樹」

 

田中君に促され、僕は楽曲のデータが入っているCDが入っている封筒を、渡部さんに手渡した。

 

「こちらが、イベントのボスの原案になります」

「確かに受け取りました。皆さん、今回は本当にありがとうございます。それでは、さっそく取材と収録のほうを行わせていただきます」

 

こうして、また一日仕事で過ぎ去っていく。

この日、帰れたのは日が沈む時間帯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(久しぶりの練習だな)

 

NFOの一件でしばらくRoseliaの練習に行くことができなかったため、なんだか懐かしさを感じてしまう。

 

(しかも、少し早く来ちゃったし)

 

練習まで後数十分ほどはあるので、時間をつぶすにしてもちょっと長すぎる。

かといって、いったん自宅に戻るには短すぎるという中途半端な状態だ。

 

(仕方ない。スタジオも開いているようだし、湊さんたちが来るまで勝手に使わしてもらうか)

 

一人寂しくギターを弾くのもたまにはいいだろうと思い、ライブハウスに来たのだが

 

「「………」」

 

スタジオ内に気まずい雰囲気に包まれる。

スタジオに入ったら、そこにはなぜか先に来ていたと思われる白金さんの姿があったのだ。

挨拶はしたものの、それ以上会話が続かない。

白金さんのほうは落ち着きなく、先ほどから同じ場所に何度も視線を向けていた。

 

(そうだった。これを何とかしようと思ってたんだった)

 

ここ最近の色々な出来事で、つい忘れかけていた(というか忘れようとしていたのだが)問題を、僕は再び思い出すことができた。

 

(今日こそ、会話ができるようにするぞ)

 

そう意気込んでも、僕にはリサさんのようなコミュニケーション能力などあるはずもなく、結局はいつも通りの展開だ。

このまま、誰かが来るまで続くのかと思った時、リサさんの言葉が頭をよぎる。

 

『どっちかというと、共通の趣味とかがあれば話のきっかけになれるかもしれないよ』

 

”共通の趣味”

確か、彼女の趣味はオンラインゲームだと聞いた気がする。

オンラインゲームといえば、NFOで知り合ったプレイヤー『RinRin』が、白金さんだとするならばもしここでその話題を振れば話が弾むのではないか?

そんな風に思って、話題を振ろうとする自分と、それはやめたほうがいいと言っている自分がいる。

 

「あ、あのっ」

「え?!」

 

どうしたものかと悩んでいた僕に、声をかけたのは白金さんだった。

まさか彼女のほうから話しかけてくるとは予想もしていなかっただけに、僕の驚きも大きい。

 

「す、すみま……せん。私、人と話すのが……その、苦手で」

「いや。こっちこそ、なんか気を遣わせちゃってごめん」

「い、いえ。こちらこそ」

「いやいや、こちらこそ」

 

白金さんが謝れば僕も謝り返し、それに白金さんも謝り返すという、謝罪ラリーが繰り広げられることになった。

 

「っぷ」

「……ふふふ」

 

そんな自分たちが滑稽すぎて思わず吹き出すと、白金さんもそれにつられるように小さくではあるが笑い声をあげる。

それだけで、僕たちの間にあった気まずい雰囲気は薄らいでいったようにも思えた僕は、さらにあることを提案してみることにした。

 

「ところで白金さん」

「は、はい。何です……か?」

「皆が来るまで軽くセッションでもしない? ちょうどギターも持ってきているし、適当に何か弾くのも気分転換にはいいと思うよ」

 

どうしてそんな提案をしたのかはわからない。

でも、無性にそれをしたくなったのだ。

 

「え……いいん、ですか?」

「もちろん」

 

不安そうではあったが、僕の答えに白金さんも提案を受け入れたので、僕は手早くセッティングを済ませる。

 

「それじゃ、始めようか。白金さんの好きなフレーズで初めてくれる? 後はこっちで返すから」

「は、はい。それじゃ……っ」

 

白金さんが息をのんだ瞬間、キーボードの音が鳴り始める。

僕は、それに合わせるようにギターを弾く。

 

(やっぱり、白金さんのポテンシャル高いな)

 

セッションをしただけでも嫌というほどに、彼女のポテンシャルの高さが伝わってくる。

その高さは、啓介以上かもしれない。

 

(なんだか、楽しいな)

 

啓介たち以外の人とセッションして、ここまで楽しく感じたことはない。

白金さんは、僕の求める音をその通りに返してくれるからかもしれない。

ふと見ると、白金さんの表情も笑顔だった。

 

「あ、一樹さんとりんりんだっ! 二人でセッションしてるの?」

「あ、あこちゃん!?」

 

そんなセッションを負わせたのはこれまた早くやってきたあこさんだった。

 

「いいなー、あこも一緒にやりたいっ」

「そうだな。それじゃあこさんも入れて、セッションをやるか。白金さんはどう?」

「私も、あこちゃんと……一緒に」

 

白金さんのOKも出たことで、僕たちはあこさんを入れて再びセッションを始める。

もうその時には、少しではあるが白金さんと会話ができるようになっていた気がした。

 

(焦らなくてもいいんだ)

 

打ち解けるようになるまで、あこさんのように早い人もいれば、白金さんのように遅い人だっている。

大事なのは、慌てずにいる忍耐力だったのかもしれない。

結局、このセッションは湊さんたちがスタジオに来るまで続いた。

ちなみに、セッションをしているのを見た湊さんたちが、僕にセッションをするように要求してくることになる。

それで、編成とかをどうしようと真面目に悩んだりすることになるのだが、それはまた別の機会に話そうと思う。

 

 

第5章、完




大変遅れてしまいましたが、次章予告を。

――

夏も本番になりつつあるとある日、一樹の計画がついに動き出す。
その計画は、彼女たちを新たなるステージに導くものとなるのか?


次回、第6章『New STAGE』

読みたい話はどれ?

  • 1:『昼と夜のChange記録』
  • 2:『6人目の天文部員』
  • 3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
  • 4:『追想、幻の初ライブ』
  • 5:一つと言わず全部

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