この間、何とかGlitter*greenのメンバーであるゆり先輩と七菜先輩たちからRoseliaとのジョイントライブ開催のOKを得ることができた。
「とは言ったものの……難儀だな」
幸先いい滑り出しではあるのだが、少しだけ僕には憂鬱でもあった。
(絶対に、OK出さないだろうな。あの二人は)
僕が彼女たちへの説明を後回しにしていたのは、それが原因だった。
彼女たち(というより二名だけど)には自分の音楽へのこだわり……誇りがある。
そんな彼女たちが、他のバンドの参加するライブに素直に参加するとは思えないのだ。
(絶対に、”レベルに見合わないステージには立たない”って言いそうだな)
というか、確実に言う。
ちなみに残りの三人はそこまで問題ではない。
話した結果、前向きに検討してくれるのは間違いないと確信しているからだ。
(だとすると、ここは……あの手で行くか)
こうして僕が対策を決めたのは、彼女たちが集まっているスタジオのドアの前だった。
「お疲れ様でーす」
「あ! 一樹さん!」
「おー、来た来た☆ 今日も一番最後だね」
中に入った僕を快く迎え入れてくれるRoseliaのメンバーたち。
「一樹さん。あなたはコーチでありますが、Roseliaのメンバーなんですから、ちゃんと時間に間に合うよう
に来てください」
「そうね。もう少し自覚を持つべきだわ」
……快く迎えてくれてるんだ。
「ごめんごめん。ちょっとしたビッグニュースが舞い込んできたんでね」
「ビッグニュース? 何々、ついに一樹君に恋人でもできたのかな~☆」
「……っ」
「違うっ! というより、何でも恋愛に直結しないでっ」
リサさんのからかいにも慣れたものだ。
それよりも、紗夜さんがぼそぼそと何かを呟いているのだが、これは気にしないほうがいいのかもしれない。
「ライブについての話だよ!」
「ライブ? 詳しく聞かせて頂戴」
話の流れを変えようと、結論を口にすると、狙い通りにその場の雰囲気が変わり真剣な感じになってくれた。
「実は、とあるバンドのメンバーと知り合いで、そのメンバーの人がライブを開催したいんだけど、相手が見つからないって相談があったんだ」
湊さんに促されるように、僕は話を始める。
ちなみに、これはすべて僕の作り話だ。
僕のある狙いをごまかすために、このような形にしたのだ。
「そこで、僕はRoseliaを推薦したんだけど。そしたらぜひ一緒にやりたいって言ってくれたんだけど、どう? 相手のバンドはGlitter*green。今人気のあるバンドなんだけど」
「すごいっ! あこ、そのライブやりたいです!」
「うん。あたしもやりたいかな。せっかく相手もそう言ってくれてるんだし」
「私……も出たい、です」
僕の予想通り、あこさんやリサさんたちはライブに乗り気だ。
あとは問題の二人だ。
「一樹さん。あなたの私たちに対する熱意は伝わったわ。でも、私たちは自分のレベルに見合わない人のステージには出ない」
「そうね。貴方に期待しているのは、ライブへの参加の話を付けてもらうことじゃない。私たちが高みに行ける手助けをしてくれることだけよ。今回のライブは興味深いけど、私たちの求めているレベルではないわ」
(うわ……ここまで予想通りの内容を言われると、逆に引くな)
彼女たちの言うことを予想できる自分に引くべきなのか、同じことを口にした彼女たちに引くべきなのかは置いとくとして、ここまでは僕の予想した通りの展開だ。
そして、それに対する対策も十分に用意している。
「そうか……先走っちゃったみたいだね。ごめん」
「そ、そんな! 一樹さんが謝ることないですよ!」
「そうだよ。一樹君は私たちのためと思ってやってくれたんだから」
「その通りですよ、一樹さん。あまり自分を追い詰めないでください」
「そうね。リサと紗夜の言うとおりだわ」
素直に引き下がる僕を慰めようとするみんなのおかげで、空気が少し悲しいものになってしまうが、それはこの先の伏線だ。
「いや。ここは謝らせてほしい。Glitter*greenとのジョイントライブから逃げたいという気持ちに気づかな
かったんだから」
「「逃げる?」」
(よしっ。喰いついた)
僕の言葉に一気に空気が凍り付く中、僕は心の中でほくそ笑む。
「いやー。僕としたことがこんなことにも気づかないとは。本当に恥ずかしいよ」
「ちょっと待ちなさい。私はレベルに見合わないとと言っただけで、逃げるとは――――」
反論の声を上げる湊さんの言葉を僕は片手を突き出して遮る。
「皆まで言うな。そりゃ、皆がGlitter*greenよりもレベルが下だなんて、そんなことが露見した日にゃ目も当てられない。それに、皆は僕たちがライブで注目のバンドとして紹介しちゃったから、ものすごく期待の目を向けられてる。そんな状況で、ビビって逃げたところで、誰も責めはしないさ。ここは練習して演奏がうまくなるまで隠れているのも最善の手だよ」
僕の言い回しに、湊さんと紗夜さんの表情は見る見るうちに変わっていく。
それを見た僕は、さらに言葉を続けた。
「わかった。それじゃ、先方には僕から断りを入れておくよ。いや、心配しなくてもいい。逃げたとは思われないようにうまい言い訳をしておくから。それじゃ――「待ちなさい」――ん?」
電話を手にして外に出ようとする僕を呼び止めるように湊さんが声を上げた。
「出るわ、そのライブ。私は別に逃げているつもりがないもの」
「ええ、湊さんと同じ意見です」
二人の表情はどっちかというと若干ムキになっているようにも思えたが、出る気になったのであればこちらのもんだ。
「そう? それじゃ、先方にはそう伝えておくよ。それとリサさん、あとで番号を教えるから相手のバンドの人と日程とかの打ち合わせをしてもらってもいい?」
「わかったけど、あたしでいいの?」
「こういうのはたぶんリサさんが向いてると思うから」
リサさんの性格からして、こういった窓口には彼女が一番最適だ。
決して面倒だからという理由ではない。
そんなわけで、正式にRoseliaとGlitter*greenとのジョイントライブ開催が決まるのであった。
子供のころ、いじわるで何も言おうとしない人を煽って言わせるという場面を見ることが、よくあったような気がするなと思いながら書いていました。
今では古典的な手過ぎて通用しないと思いますが(苦笑)
そして、アンケートの期限ですが本章の完結までとなりました。
回答がまだで回答をされたい方はお早めにどうぞ。
とはいっても、この章は少し続きますけど(汗)
読みたい話はどれ?
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1:『昼と夜のChange記録』
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2:『6人目の天文部員』
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3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
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4:『追想、幻の初ライブ』
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5:一つと言わず全部