どちらも意味は同じですが、わかりやすそうな前者のほうを使うようにしました。
「今日はありがとうございました」
「ううん、こちらこそ。いい経験させてもらえて嬉しいよ」
ライブが終わり、観客たちが帰ってから少ししてSPACEから出たゆり先輩たちに、改めてこのライブ開催のお礼を言う。
「マイダーリン! ひなちゃんもほめ――「ハウス!」――はーい」
こちらに飛び掛かってこようとするひなこ先輩を、りぃ先輩は一言で止めて見せた。
(僕も日菜さんにやってみようか)
たぶん無駄だろうけど。
それから少しの間話をしたところで、彼女たちもSPACEを後にした。
僕が外で待っているのは、湊さんたちだ。
「待たせたわね」
「いや。そんなに待ってないよ」
少しして出てきた湊さんに答えつつ、僕は寄りかかっていた壁から離れる。
「みんなお疲れ様」
『お疲れ様です』
労いの言葉に返ってくる反応は楽しんだという表情を浮かべる者、演奏中のことを悔いている者と、それぞれだ。
それでも、やり切ったというのは全員に共通している反応なのかもしれない。
「反省会は後日やるとして、今日は帰ろうか」
「そうね。もう夜も遅いし」
僕の言葉に湊さんが頷く形で、僕たちもその場を後にして帰路につく。
「一樹さん、あこのかっこいい姿見えてましたか?」
「もちろん。ちゃんと見てたよ」
「やったー!」
嬉しそうに喜ぶあこさんを見ていると一体どこにそんな体力があるのだろうかと思うが、思い返すと田中君もつかれたといいながら、啓介を相手にプロレスごっこをしていた記憶があるので、きっとそういった独特の力が養われているんだろうと納得する。
(とはいえ、さすがに腕を持たれるのは予想外だけど)
喜びのあまりか、さっきから僕の腕をとってぶんぶんと振り回すあこさんを止めようとするが、笑みを浮かべている彼女にそのようなことを言えるほどの度胸もなく、僕はなすがままにされるしかなかった。
「宇田川さんっ、さっきからはしゃぎすぎですよ!」
「あ、ご、ごめんなさい」
そんなあこさんに紗夜さんからの喝が飛び、あこさんは表情を曇らせて謝りながら離れたことで僕は解放された。
「おやおや、紗夜ってばやきもちかな~?」
「今井さんっ!!」
紗夜さんをからかうリサさんに、紗夜さんは顔を赤くして声を上げた。
「ふふ」
そんな様子を静かに笑っている白金さんに、興味がない様子の湊さんといった何ともバラバラな空気のまま、僕たちは帰路につくのであった。
それから数日後の夕方。
「反省会って……ここでやるの?」
「そうだよ。時々練習終わりに寄ったりしてるんだよね~」
「別に、何時も来るわけじゃありません」
紗夜さんは否定するが、彼女の反応から嘘だなと判断するのには十分だった。
そんなわけで、ファミレス内に入りボックス席を案内してもらい、通路側から僕と紗夜さんに湊さんで、その向かい側は白金さんとあこさんとリサさんという席順で僕たちは席についた。
「それじゃ、いつもの奴頼みますね」
席に着くなりそう口にしたあこさんに反応するように、今井さんが呼び出しボタンを押すと、ほどなくしてウエイトレスが僕たちのところに注文を聞きにやってくる。
(あれ、僕まだ何も決めてない……というよりメニューすら見てないんだけど)
そんな僕の心の中のツッコミなど聞えるはずもなく、あこさんはすらすらと注文をする。
「――を6つ!」
(何だ? ものすごく凄まじい量を頼んだような気がするんだけど)
この時ほど、僕はちゃんとみんなの言っていることを聞いておくべきだったと後悔したことはない。
そうすれば、あのような光景を真辺りにすることはなかったのかもしれない。
「お待たせしました。Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテープレートとごはん大盛デザートセットになります」
注文をしてから少しして、僕たちのもとに運ばれてきた料理の数々は、これでもかというほどに主張していた。
「それじゃ、反省会を始めようか」
「はい! スーパーやけ食いセットの準備もできてますよ!」
ちなみに、『スーパーやけ食いセット』というのは、当然ではあるが正式なメニューではない。
正しくは『Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテープレートとごはん大盛デザートセット』である。
(スーパーやけ食いセットって……)
一言だけ言いたい。
(これ、絶対に”軽く”食べる量じゃない!!)
僕としては、話ながら軽くつまむ感じのポテトとかのサイドメニュー的なものを想像していただけに、がっつり夕食ともいえる量のそれに、僕は心の中でツッコミを入れる。
しかも気を利かせてくれたのか、僕の分まで頼んでくれたのだから、もう嬉しくて泣けてくる。
(世の中には悔しさとかを食べることで和らげようとする人がいるって聞いたことがあるけど、本当にいたんだ)
少し前に見たテレビの内容を思い出しながら心の中でつぶやく。
(しかもお値段もすごいことに)
一緒に持ってきた伝票をチラ見すると、日菜さんが起こした、いつぞやの”大人買い事件”を思い出させるような単品価格になっていた。
「どうしたの? 一樹君」
「一樹さんも一緒に食べましょうよ」
そんな僕の心境などどこ吹く風。
目の前のボリュームのあるそれを自然に受け入れている様子のリサさんたちに、声をかけられた僕は思わず
「いつも食べてるの? これ」
と聞いてしまった。
「い、いつもではないですよ。英気を養うのも反省会には大事なことなんです」
紗夜さんの言葉は説得力があるが、目が完全に泳ぎまくっており、取って付けたような理屈であることは明白だった。
「それにおいしいですしっ」
「明日に向けて、頑張って行こ―! みたいな感じになれるんだよね~☆」
「ふふ」
それをフォローするように、あこさんたちも口を開く。
それを聞いた僕は、もう一度目の前に置かれた『スーパーやけ食いセット』を見る。
(うん、見るからに)
「太るだろうな」
思わず口から出たその言葉に、一瞬で回りの空気が凍り付いた。
(な、何だ? なんか一気に寒いところに来たようなこの寒気は)
「一樹さん」
「は、はい!」
いつもの声色とは違い、ややどすの聞いた紗夜さんの声に、僕は思わず姿勢を正した。
「今、何か」
「言ったかなー?」
紗夜さんの言葉を引き継ぐように効いてくるリサさんの目を見た僕は、背筋が凍り付いたような気がした。
リサさんだけでなく、全員の目に光がなく、それが恐怖を増させていた。
「い、いや。何も言ってないよ。うん」
そんなみんなの様子に、僕は壊れた人形のようにカクカクと頷いて答えることしかできなかった。
情けない?
ならば一度この光景を体験してみてほしい。
間違いなく視線だけで人を殺めることができるのではと思わせるような状況を。
……僕はごめんだ。
「そうだよね。良かったよ。もう少しで一樹君と”お話”をしちゃうところだったから」
「そうですね。私の聞き間違いでよかったです」
「そうね」
リサさんの言葉をきっかけに、一気に雰囲気が先ほどまでの和やかなものに戻っていくのを感じて、僕はほっと胸をなでおろす。
(これからは太るとかは言わないようにしよう)
さすがに命がけで言うほど、僕は勇敢ではない。
「それじゃ――――」
『いただきますっ』
僕は、忘れることがないように強く誓いながら、スーパーやけ食いセットを食べ始めるのであった。
反省会の話はまだまだ続きます。
感想など、お待ちしております。
読みたい話はどれ?
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1:『昼と夜のChange記録』
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2:『6人目の天文部員』
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3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
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4:『追想、幻の初ライブ』
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5:一つと言わず全部