BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第156話 反省会

「それじゃ、食べながら……あむ……反省会を始めようか」

 

それはともかくとして、僕はこれまでのことから現実逃避をするかのように、スーパーやけ食いセットを食べながら、反省会を始めることにした。

もちろん、マナーを守りながらだ。

議題はもちろん、『Glitter*greenとのジョイントライブについて』だ。

 

「前回のライブで、自分が感じたいいところ、改善すべきところを上げていってくれる?」

 

僕がそう言うと、全員がムムムと考え込む。

……料理を食べながら。

 

「それじゃ、まずは私からいいかしら?」

 

最初に声を上げたのは、湊さんだった。

 

「全力で歌えたと思うわね。ただ、所々で音程が不安定になっていた箇所があったわ」

 

僕が無言で促すと、湊さんは当時のことを思い出しながら良い点と改善するべき点を口にする。

 

「私は、最後の曲ですね。ブレイクからの復帰で少し遅れてしまいました」

「私……は、緊張していたので、もしかしたら、音にもそれが出てしまったかも……しれない、です」

「あこも、リズムキープができてなかったです」

「あたしは、最後の曲でテンポがずれちゃって……」

 

各々がつらい表情を浮かべながら反省点などを口にしていく。

それを一通り聞いた僕は、この間のライブの感想を言う。

 

「僕から見て、あのライブは『流石はRoselia』という感想かな。世界観は相変わらずいいし技術も高い。最後の曲のベースのリズムの乱れがなければ、大成功だったよ」

「……っ」

 

僕の言葉に、リサさんが息をのんで俯いた。

彼女にしてみれば、傷口を抉るような行為をしているのだ。

そうなって当然だ。

 

「どうして、テンポが遅れたか、リサさんわかってますか?」

「え? それは、あたしの実力が……」

「確かに、このメンバーの中で一番実力が不足しているのは、リサさんだね」

「美竹君っ!!!」

 

リサさんの言葉を肯定するように言いきった僕に、湊さんの言葉が投げかけられる。

その声色と表情から、怒っているのは間違いない。

 

「だ、大丈夫だよ。あたしもちゃんとわかってるからさ――「だが」――え?」

 

リサさんの言葉を遮るように、僕は話を始める。

 

「それはバンドの中ではという話であって、一般的には、十分に演奏技術は高い状態だと思う。現に他の楽曲では十二分に発揮されていたし」

「そうだよ、リサ姉! リサ姉のベースはいつもカッコいいんだよ!」

「そうよ。実力がないならこれからもっと練習していけばいいだけよ、リサ」

「一樹君、あこ、友希那……」

 

僕たちの励ましの言葉に、リサさんは嬉しそうに目を潤ませてる。

決して僕は、リサさんが悲しい表情を浮かべたから、ごまかすために言っているわけではない。

バンド内でのレベルが一番下でも、実力は十分についている。

それは事実だ。

 

「僕が思う、リサさんがミスをした原因だけど、僕が聴いていて導き出した一つの”可能性”であるという

ことを予め言わせてほしい。決してこれが絶対正しいわけではない」

 

僕はそう前置きを置いたうえで、僕が思うリサさんのミスの原因を話し始めた。

 

「まず、確認したいんだけど、同じリズム隊であるあこさんにはある癖があるんだけど、皆は気づいてる?」

「くせ?」

「えっと……わからない、です」

「あこも」

 

確認のために聞いた問いかけの答えを聞いて、僕は少しだけ納得してしまった。

 

「あこさんはAメロからBメロといった、曲の進行につれてリズムが速くなっている……要するにドラムが走っている傾向があるんだ」

『え!?』

 

僕の指摘に、全員が目を見開かせる。

それは僕が練習を見ていて感じたことで、これには絶対の自信がある。

 

「あこ、全然気づきませんでした」

「私もよ。まさかそんなことになっていたなんて」

「走るとはいっても、それはごく僅かで、普通では気づきにくい感覚だから、気づかなくて当然だよ」

 

僕ですら、練習中にテンポがずれている個所に法則性を見つけてからようやく気付いて確信したくらいだ。

それを完璧に把握しろと言うのは、酷というものだ。

 

「これって、あこさんの姉である巴さんにも共通して言えることなんだよね」

 

巴さんも、僕の記憶が間違えていなければ、あこさんと同じようにドラムが走りがちになっていたはずだ。

 

「そして、この走りが一番激しくなるのがサビになる。現に、湊さんがドラムが走っているっていう指摘も、サビに入った直後が多いでしょ」

 

「確かに、言われてみるとそうね」

「気にしていませんでしたが、まさかそんな法則があったなんて」

 

湊さんと紗夜さんは驚き半分、納得半分といった表情で頷く。

 

「そして、リサさんのリズムが遅れたのもサビに入った直後。これらのことから推測されることは、サビに入ってドラムの走りの幅がピークを迎えたことで、リサさんは気づかないうちに動揺してしまったことで、リズムが遅れたという結論が導き出せる」

「それって、あこのせいってことですか?」

「いや、それは違う」

 

申し訳なさそうなあこさんに、僕はそう断言する。

 

「悪いのは全員だ」

 

それが僕の出した答えだ。

その言葉に全員が息をのむ。

 

「理由を聞かせて頂戴」

「今回のようなドラムが走ることは、ライブ中では起こりやすくなる。理由は様々。緊張からだったり、テンションが上がった拍子ということからだったり。それでもこういったアクシデントはいくらでもリカバリーできるものだよ。例えば、リズム隊のテンポが乱れたことに気づいたギターが、アドリブで軽く音を足してみたり。ボーカルが歌で伸ばさないといけないところを楽譜よりも長くさせたり、ドラム自身で穏やかにテンポを戻したり、もしくはベースのほうでテンポの修正をしたりなどなど色々ある。もちろん、観客に気づかれないようにさりげなくね」

 

ちなみに、Afterglowの場合は、巴さん自身で絶妙なコントロールによってリズムを元に戻していたようなきがする。

 

「今のは一例だけど、こういったリカバリー手段を用意して起き、それを瞬時にチョイスしてメンバーと意思疎通を図れるようにすることも、今後重要なカギになっていく」

「つまり、練習で問題点をつぶすのではなく、ライブ中に瞬時にリカバリーすることができるようにしていくべきだと、一樹さんは言いたいんですね」

 

僕の言いたいことを簡単にまとめてくれた紗夜さんに、僕は頷いて返す。

 

「そして、これを実現するのに必要なのが、”経験値”なんだ」

 

僕はそこでいったん言葉を切って、再び続ける。

 

「どんな場面でも、経験値というものは必要。それはゲームだって同じこと。レベル1の初期装備の勇者がラスボスである魔王を倒すなんてことは、まず不可能だからね」

「確かに、そうですね」

 

わかりやすいだろうと思ってゲームで例えたところ、思惑通りあこさんたちはすんなりと理解できたようだ。

 

「それじゃ、ここで問題。ゲームでの経験値を得るには敵を倒したりしなければいけない。では、バンドはどう?」

「「ライブっ!」」

 

ひらめいた様子の、あこさんと白金さんの答えに、僕は親指を突き立てて正解であることを伝える。

 

「つまり、ライブにたくさん出ろということですね」

「美竹君、前にも言ったけど、私たちは自分のレベルに会わないステージには出ないわ。これだけは譲れない」

 

僕の出した結論に、異を唱えたのはやはり紗夜さんと湊さんの二人だった。

彼女たちの言いたいことは理解できなくもない。

 

「『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』的なやり方は、僕だって好ましくないと思っている。だからとはいえ、出るステージを選んでいたら、いつまで経っても経験値は稼げずに今回のライブのようなことになる。ある程度の妥協というのも、するべきだと僕は言いたい」

「「………」」

 

僕の意見に、二人は無言で渋い顔をしたままだった。

 

「……わかったわ」

 

やがて、根負けしたかのように、口を開いたのは湊さんだった。

「湊さん!?」

 

受け入れるはずもない意見を受け入れたことに驚きをあらわにする紗夜さんをしり目に、湊さんは口を開く。

 

「貴方の提案したライブに、出るかどうかを検討はさせてもらうわ。ただし条件があるの」

 

そう切り出した湊さんが、少し間をおいて出した条件は

 

「その代わり、今回のようにだまし討ちのような手段はとらないこと。それが条件よ」

 

というものだった。

いや、ちょっと待て……

 

(リサさん、話したみたいだな)

 

リサさんのほうに視線を向けると、あからさまに視線をそらされたので、間違いないだろう。

 

「あ、やっぱり、あれって……ワザとだったんですね」

「なるほど~、納得です」

 

そして、どうやら彼女たち全員気づいていたらしい。

まあ、あそこまであからさまにやっているので、当然と言えば当然だが。

 

「わかった。約束しよう」

 

ともあれ、今回のライブは結果で言えば失敗だが、それを補うのに十分なほどの非常に大きな成果があったと言える。

そもそも、今回のライブは僕の経験値の理論を証明するための材料にする目的もあった。

前回の僕たちのライブで彼女たちのことを紹介したことで、観客たちのRoseliaに対する期待は過剰状態になっていた。

その状況でライブを行えば、彼女たちにプレッシャーという形でのしかかっていくことは十分に想像ができる。

それがたとえ表面に出ていなくても、深層心理において現れていれば、ちょっとしたことでも動揺させることだってできるのだ。

なので、こういう結果になることは十分に想像できていたし、もしそうならなかった場合は、それはそれで良しとしようという打算もあったりする。

 

(というのは、口には出せないけどね)

 

多分、口にした瞬間に僕への信頼は損なわれるだろう。

それはそれでかなり痛手なので、このことは僕の心の中に留めておくことにするのであった。




地味に反省会はまだ続きます。

読みたい話はどれ?

  • 1:『昼と夜のChange記録』
  • 2:『6人目の天文部員』
  • 3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
  • 4:『追想、幻の初ライブ』
  • 5:一つと言わず全部

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