BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回から視点は一樹のものになります。
この章も残りわずかです。

それでは。第16話をどうぞ


第16話 インターミッション

「『HYPER-PROMINENCE』は、次のライブで解散するって」

 

僕は、そのことを告げて、呆然としている啓介の横をすり抜けて、その場から逃げ出した。

 

(ごめん。本当にごめん)

 

僕は、心の中で啓介に謝り続けた。

なんで、こんなことになったんだろう?

僕は、わけがわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべての発端は、夏休み恒例の家族旅行での事故だった。

事故を引き起こしたのは”役者”の人間。

そして、その事故のことを他人事のように言う”役者”の人間。

それから僕は、役者が嫌いになった。

 

(役者なんて、犯罪者の塊だ!!)

 

その時は、心の中にうごめく怒りの感情をどこかにぶつけなければ、平静を保てなかったから、役者という存在はちょうどいいはけ口になった。

でも、それを大っぴらに言うつもりはない。

言ったところで理解されないに決まってるんだ。

それに、慰謝料と示談金でかなりの額を得ることができたのだから、言えるはずがなかった。

僕はそのお金で税金関係や家のローンの支払いにすべてあてた。

おかげで家のローンなどは完済できたが、残っているお金は微々たるもので、少し節約さえすれば高校になるまでは持つ状態だった。

 

(高校になったらバイトを掛け持ちで入れよう)

 

今後のバンド活動なども考えると、音楽関係のバイト……ライブハウスなどのスタッフで働くのもいい案だ。

その時は、まだやっていけると信じていた。

最初の異変は、退院後にみんなでやった最初の練習。

僕の音色だけが聞くに堪えない歪みを発していたのだ。

それも何度やり直しても結果は同じ。

結局、みんなに大迷惑をかけてしまった。

だから僕は、みんなが帰った後も徹夜で(軽く1時間程度寝たので徹夜ではないけど)ギターを弾き続けた。

弾いて弾いて弾いて、そしてようやく元通りの音色に戻ったのだ。

コツが必要で、そのコツが”自分がしたいスタイルの演奏を想像すること”だった。

要するにこのギターが弾ける自分を演じているに過ぎない。

まったくもって自分が滑稽に思えた。

それでも弾けるようになったのだから、良しとしようと僕は何も考えることはしなかった。

 

(そう。わかっていたはずなんだ。”音の歪む原因”を)

 

『心の乱れは音に出る』

 

心配事や不安なことがあったりすると、音は自然とおかしくなっていく。

それは十分わかっていたはず。

でも、それを認めたくはなかった。

自分の心が乱れていることに。

それが、さらなる悲劇を呼び寄せるとも知らずに、僕は隠し続けた。

 

「よう、ガキ」

 

それからしばらくたった時、学園に向かおうとしていた僕の前に現れたのは、少し前に松原さんに絡んでいた花咲ヤンキースの団長だった。

団長は、僕に莫大なお金か毎日タコ殴りにされるかの二択を迫ってきたのだ。

当然僕は断った。

だが……

 

「ほう? ならば他の奴をやるだけだ。『HYPER-PROMINENCE』のメンバーである全員のうちの一人になぁ」

 

彼らは、僕のすべてを調べあげていた。

だから僕は、皆に危害が加われないように、後者を選択したのだ。

それでも、結局は啓介に見つかり、そして田中君たちまでも巻き込んでしまった。

建物が崩れるときは、僕も楽になれるかと思って飛び込んだが、やはり僕は生き残ってしまった。

その時から、僕はもう壊れかけていたのかもしれない。

そして、その時が来た。

それは、退院した日の夕方のこと。

 

「知らない番号だ……」

 

最初は全く心当たりのない番号だと思っていたが、ふと思いだした。

それは、父さんから『もし父さんたちに万が一のことがあったら開けなさい』と言われて渡された、小さなアルミ缶の中に入っていたメモ用紙ほどの大きさの紙に書かれていた電話番号だった。

父さんたちが死んで、念のためにと開けたので覚えているのだ。

もう一つのカードのようなものは見ていない。

いや、見る勇気がなかったのだ。

見てしまったら、すべてが終わってしまうような気がしたから。

でも、

 

「もしもし」

『私は美竹(みたけ) 緋宏(あかひろ)と言います。奥寺一樹さんの携帯でしょうか?』

 

電話の相手は、とても物腰の柔らかく、それでいてしっかりとした心が通った感じの声色の男性だった。

 

「はい、そうですが」

『あなたに折り入って話したいことがあります。突然で申し訳ありませんが、この後お時間は作れますか?』

 

今日は何も予定がないので、大丈夫だと告げると、ある喫茶店と時間を指定され、電話は切られてしまった。

もうすでに嫌な予感はしていた。

でも、行くしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

「こちらへ」

 

指定された場所に向かうと、着物を着こむ眼鏡をかけた男性がこちらに手招きをしてきた。

僕は、その人物のもとに警戒しながら近寄る。

 

「どうぞ。ああ、私と同じものでもかまわないかね?」

 

僕の注文を聞こうとした店員に、男性はこちらに聞いてきたので、頷くと注文をしてくれた。

その人の飲み物はコーヒーだったので、別に問題はない。

 

「さて、改めて自己紹介をさせてほしい。私は美竹 緋宏。美竹流の華道の家元だ」

「華道って、生け花とかですか?」

 

よくサスペンスドラマで家元争い系列の内容をやっていたりするので、偏ってはいるが覚えていた。

美竹さんは僕の言葉に頷くことで答える。

 

「私は、奥寺 一樹と申します。それで、ご用件というのは?」

 

僕は早々に本題を切り出す。

 

「君は最近ご両親を亡くされたそうだね」

「っ……ええ。事故にあいまして」

 

美竹さんからの直球での問いかけに、僕は一瞬息が止まりそうになるが、何とか自分を落ち着かせて答えた。

 

(なんで、父さんたちが死んだことを知ってるんだろう)

 

そんな疑問が脳裏をよぎるが、美竹さんは話をつづけた。

 

「そんな時にあれだが、私のもとに養子としてこないかね」

「………え」

 

どうしていきなりそんなことを言われるんだろうと、まるで他人事のように思っていた。

それほど、突拍子もないことだった。

 

「実は君の父親は私の弟にあたってね……昔色々あって勘当になったんだが、この状況だ。それを解いて君を美竹家に受け入れたいと思っている」

「………ちょっちょっと、まってください。私は華道の家にはふさわしくないです。全然やったこともないですし!」

 

とんとん拍子に話が進みそうになるのを何とか止めて、僕は必死に断る。

養子になることだけは絶対に避けたかったのだ。

 

(養子になったら、家も今までの関係もすべてなくなっちゃう)

 

そんなのは嫌だった。

だけど

 

「現実を見なさい。君はこれからもずっと一人で生きていくことができるのかね?」

「それ……は」

 

美竹さんの正論に、何も言えなかった。

僕はどう言葉を取り繕っても、所詮は子供なのだ。

できるはずがなかった。

でも、それでもその事実を僕は受け入れることができなかった。

 

「では、こういうことを言うのは気が引けるが」

 

そんな僕の考えなど、美竹さんには筒抜けだったようで、厳しい表情をしたまま、こう告げたのだ。

 

「君の友達が、非常に君のことを心配している。私が君のことを知るきっかけになったのも、彼のおかげだ。君は友達に心配をかけ続けて生きるつもりか?」

「…………」

 

もう、何も言葉が出ない。

美竹さんの正論もそうだが、僕のことを話した友人がわかったから。

彼は、確かにずっと僕の身を案じていた。

 

(僕は、知ってたはずなのに)

 

それなのに、気づかないふりをしていた。

自分のことだけしか考えていなかったのだ。

 

「わかりました」

 

僕の答えは、もう決まっていた。

 

「その代わり二つだけお願いしたいことがあるんです。いいですか?」

「言ってみなさい」

 

そして、僕は告げたのだ。

養子になるのは中学を卒業したタイミングにしてほしいということを。

僕の申し出に、美竹さんはしばらく厳しい表情で考えていたが、やがて

 

「わかった。約束しよう」

 

条件をのんでくれた。

 

「ありがとう、ございます」

 

僕は静かに頭を下げると、いつの間にか置かれていたコーヒーを飲み干して、コーヒー代を置くと足早にその場を離れた。

それから、僕は考え続けた。

色々な人に心配をかけながらいっぱい考えた。

それは、自分のやりたいこと。

 

(僕はこのバンドで何をやりたいんだ?)

 

目的は決まっている。

”伝説のバンド『PROMINENCE』を目指すこと”

でも、自分が作曲した曲なのに、自分の曲ではないという違和感を感じていたのもまた事実。

その理由は、当初は分からなかったが、今ならわかる。

 

(何もかも、父さんの物なんだ)

 

バンドを始めるきっかけを作ったことも、そして曲風も何もかもの根底に必ず父さんの姿があった。

それが違和感の正体だったんだ。

 

(だとしたら、このバンドは……)

 

そこから先のことを思うことはできなかった。

それを考える勇気がなかったから。

でも、ある日のこと。

練習に身が入らずに、全員に帰ってもらってから、僕は外に飛び出した。

特に理由もない。

ただ、走りたかっただけだ。

そして、気が付けば僕は、昔よくみんなと遊んでいた公園に来ていた。

 

「う……うああああっ」

 

いつの間にか降り出した雨の中、僕は思いっきり泣いた。

傘もささずに自分がびしょぬれになるのも構わずに泣いた。

雨の音が僕の声をすべてかき消してくれる。

やがて、

 

「一……樹?」

 

僕の親友である啓介が、声をかけてくるのであった。

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