あれから数日が経過し、最終オーディションまであと数日となっていた。
この日もまた曇りというあまりぱっとしない天気だった。
そんな日の夕方、僕はある場所に向かっていた。
(えっと、確か星を辿って行ったんだっけ)
少し前に戸山さんに教えてもらった”市谷家への行き方”をもとに、僕は市ケ谷さんの家に向かっていたのだ。
目的は僕が兼ねてより計画していた実験を開始するためだ。
この日、戸山さんの声が出るようになったというのは、中井さんから報告済み。
なので、彼女にあるアドバイスを伝えることで実験を行うことにしたのだ。
空中分解の危機からうまく立て直しているのであれば、これ以上にないほどに最適なバンドといっても過言はない。
(とはいえ、まだ予断を許さない状況には変わりない、か)
それもすべて彼女たちに会い、演奏を聞けばわかる。
というわけで、市ケ谷家に向かっていたのだが、どうせならばと外山さんに前に聞いた方法を用いることにしたのだ。
確かにいたるところに星形のシールが貼られていた。
(このシールって、小さいころに啓介が通っていた場所で配られていたやつじゃなかったっけ?)
ほんの少しの間ではある者の啓介が通っていた音楽スクール?のような場所で、演奏がうまくできた人に配られていたシールと似ていた。
(ま、いっか)
啓介にはあそこは合わなかったみたいで半年も経たずに辞めた場所なので、それ以上考えるのをやめた。
「流星堂……ということはこの裏か」
星のシールを辿って僕は市ケ谷さんの自宅にたどり着くことができた。
流石に庭に通じているであろうわき道を通るのはまずいと思い、僕は周り道をして彼女の自宅に向かう。
(ん?)
市ヶ谷さんの家に近づいたところで、彼女の家の門から飛び出してくる人影があった。
(今飛び出したのって……って、今度は市ケ谷さんたちか)
最初に出てきた人を追いかけるように今度は市ケ谷さんたちも飛び出してくる。
そのことから、最初に出てきたのは戸山さんであることは予想できた。
(ここが、踏ん張りどころか)
今の彼女たちは言うなればスランプ状態なのだ。
どうすればいいのかがわからずに、同じところをぐるぐると回り続けている。
そして、それはやがて暴走状態となり、その影響は体に出る。
現に、戸山さんは声が出なくなってしまった。
おそらくだが、1人でプレッシャーのようなものを抱えてしまっていたのだろう。
それが、このような形で現れたのだと推測できる。
だからこその”バンド内で解決”なのだ。
彼女のそれを治すことができるのは、同じバンドメンバーである彼女たちだけしかいないのだ。
(だから、僕は僕にできることをする)
僕はそう思いたつと、メモ用紙と書くものを取り出して、文章を認める。
内容は、演奏のレベルを上げる方法を教える旨の内容だ。
最初のほうで、この方法が絶対に正しいという保証はないという内容も書き添える。
そしてすべての内容を書き終えたところで、僕は門をくぐって玄関横のチャイムを鳴らす。
「はーい……おや、君は」
出てきたのは、市ヶ谷さんの祖母だった。
「お忙しいところ、申し訳ありません。こちらをお孫さんにお渡ししていただけないでしょうか?」
彼女の両親はどうしたのだろうという疑問は頭の片隅に追いやり、僕は前置きなく用件を告げて二つに折ったメモ用紙を差し出す。
「……良いですよ。有咲にはちゃんと渡しますね」
お婆さんは深く聞くこともせずに、柔らかい笑みを浮かべてそれを受け取ってくれた。
「それでは、これで失礼します」
僕はお婆さんに一礼をして、そのまま門に向けて歩き出す。
僕にとって、市ヶ谷さんはただの知り合いの後輩でしかない。
ゆえにあまり長居をするのも相手に迷惑に違いない。
(後は、オーディションの日を待つだけ、か)
僕は、オーディションの日付を確認しながら帰路につくのであった。
そして迎えた最後のオーディション当日。
僕は、Poppin'Partyのオークションを見るために、SPACEを訪れていた。
僕の出したヒントが、どのように彼女たちに作用するのかは僕にも予想できない。
僕にできることは、彼女たちのオーディションの結果を見届けることくらいだ。
「ダーリン、ダーリン」
中にはいると、待合スペースのほうから控えめに呼ぶ声が聞こえる。
そこにはひなこ先輩をはじめとする、Glitter*greenのメンバーの姿があった。
「美竹先輩?」
「明日香さんもオーディションを見に?」
僕の問いかけに、同じく待合スペースの椅子に座っている明日香さんが頷いた。
その表情は、どこか不安そうだった。
「オーディションは?」
「これからよ」
とりあえず僕も椅子に座り、七菜先輩に倣ってモニターのほうに視線を向ける。
モニターには演奏の準備を進める戸山さんたちの姿があった。
やがて、準備を終えたのか戸山さんたちは演奏を始めた。
その曲は、前回聴いたのと同じ楽曲だ。
だが、演奏技術は前回とは比べ物にならないほどに上達しているのを感じられた。
違いといえば、戸山さんのみが歌うのではなく、全員でそれぞれパートを分けて歌うようにしていることだろう。
(でも、そういった小細工だけじゃ、足りないな)
いくらみんなで歌うようにしたところで、それは付け焼刃のようなものだ。
根本的な施術を高めない限り、あまり意味をなさない。
ところが彼女たちはどうだろうか?
所々ミスがあるが、それでも彼女たちの歌声と曲は、僕の心に響いた。
(すごい)
ここまで心に響く演奏を聞いたのはいつ以来だろうか?
僕は彼女たちにさらなる可能性を狭間見たような気がした。
そして、彼女たちの演奏は終わり、沈黙に包まれる。
『有咲ッ』
その沈黙を破ったのは、突然しゃがみこんだ市ヶ谷さんに声をかける戸山さんの声だった。
(全く聞こえない)
何を言ってるのかが全く聞こえないため、何が起こってるのかがわからない。
合格したのか、それとも駄目だったのか。
『……合格』
そんな中聞えてきたオーナーのその言葉に、僕は頭の中が一瞬に真っ白になる。
だが、その意味を徐々に理解して、僕は彼女たちがオーディションに受かったのだと理解することができた。
「ふぉー! ドンペリ追加だ~!」
僕は立ち上がって喜びをあらわにしようとしたところでそれと同時に、喜びのあまりに立ち上がってぬいぐるみを振り回しながら何かを叫ぶひなこ先輩に、僕はふと冷静になった。
「明日香さん」
「え……あ、はい。何ですか?」
僕はうれしそうな表情でモニターを見ている明日香さんに申し訳ないと思いつつ声をかけた。
「彼女たちに、”合格おめでとう”って伝えてもらってもいいかな?」
「えっと……先輩が伝えたらいいと思いますよ?」
僕の頼み事に、明日香さんに正論が返ってくる。
「そうなんだけどね、僕としてはそういうキャラじゃないんだよね」
「はぁ……わかりました。お姉ちゃんたちに伝えておきますね」
一つため息をついてから、苦笑交じりではあるものの、引き受けてくれた明日香さんに、改めてお礼を言うと、僕は逃げるようにSPACEを後にするのであった。
後輩の女の子にジト目で見られたいと思う今日この頃。
でも、そんな風になりたくないなと思っていたりもします(苦笑)
次回で、本章は完結します。
そして同時にアンケートのほうも終了となります。
それでは、これにて失礼します。
読みたい話はどれ?
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1:『昼と夜のChange記録』
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2:『6人目の天文部員』
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3:『イヴの”ブシドー”な仲良し大作戦』
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4:『追想、幻の初ライブ』
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5:一つと言わず全部