BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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紗夜ルート 『隣の秀才』 1章『留学の始まり』
第163話 雨降る日に


聞こえてくるのは、あらゆる場所に打ち付ける雨の音。

今日の天気は、雨だった。

それでも、私は傘を差さずにバスの停留所でバスを待つ、

周囲に人はいない、

もしいれば、私の姿は異様に見えたかもしれない。

別に雨に濡れ合いというわけではなく、ただ外を歩いていたら雨が降り出したというだけのこと。

 

(いえ……もしかしたら)

 

雨が降っていたとしても、私はたぶん傘を差さずに来ていたかもしれない。

それからどれくらいの時間が過ぎただろうか?

目の前に留まったバスに、私は乗り込む。

もともと私しかいない停留所なので、私が乗り込むとすぐにドアが閉まり、バスは動き始める。

バス内も、どういうわけか私以外の乗客は見当たらない。

 

『次は――――』

 

バスのアナウンスが聞こえる。

でも、私にとってそれは、まったくどうでもいいことだ。

さっきまで雨に降られていた私の髪の毛から水滴となって足元を濡らしていくのも、私にはどうでもいいことだ。

 

『本日は、○○バスをご利用いただきありがとうございます。次は終点、○○霊園です。どなた様もお忘れ物をなさらないようご注意ください』

 

どれだけバスに揺られただろうか?

バスは終点に近づいていた、

決して、私がぼーっとして乗り過ごしたというわけではなく、そここそが私の目的地なのだ。

私はバスの運賃を支払ってバスを降りる。

そのころには、すでにあれだけ降り続いていたはずの雨は上がっていた。

 

「ずっと降っていてもよかったのに」

 

どうしてこういうときだけやんでしまうのだろうか?

そうでなければ、頬を伝う物が雨であると言えるのに。

そんなことを思いながら、私は先ほどからずっと握りしめていた花を手に霊園内に足を踏み入れる。

霊園なのだから、あたりには様々な家のお墓がある。

そんな中、私はあるお墓の前でその足を止める。

 

「また、来たわよ」

 

私はそのお墓の前で静かに声をかける。

私以外の人から見て、私はお墓に向かって話しているだけなのかもしれない。

それは私も同じことで、私に見えるのもお墓だ。

もし、”なにか”が見えていたのだとしたら、この時ほどうれしいと思うことはないかもしれない。

 

「おかしいわよね。あれからもうあんなに時間が経つなんて」

 

それでも、私にはそれが見えることはなく、私の声が届けばいいなという思いで話しかけていた。

私の前にあるお墓の墓石には誰のお墓なのかを表すように家の名前が彫られている。

そこに掘られているのは『奥寺』という文字。

そう、ここで眠っているのは少し前まで私の隣の家に住んでいたおじさんたちと、私が心の底から愛していた”彼”だ。

 

「……っ!」

 

私は気が付くと、彼のお墓の前で力なく地面に座り込んだ。

 

「どうじて……どうじで……」

 

今日は絶対泣かないと決めていたのに、やっぱり無理だった。

 

「約束、したじゃないですかっ!!」

 

この声が本当に彼に届いているのかなんてわからないけど、それでも私は声を上げる。

 

「一緒に……っ……遊園地に行こうって」

 

それは、今から数か月ほど前のこと。

私が愛した『美竹一樹』という男性は、私たちをかばって死んでしまった。

いや……正確には”殺された”といったほうが正しいのかもしれない。

何か月……いや、何年という月日が経ったとしても、一樹君と過ごした数週間のことは、まるで昨日のように思い出すことができる自信がある。

一緒の部屋で作業をしたことも、あなたに告白されて恋人になれた時のことも。

恋人になる前とその後の大変で、それでも楽しかった毎日を私は鮮明に思い出せる。

今でも、毎晩彼と楽しくて充実した日常を過ごしている夢を見ている。

それはとても幸せな夢で、この夢が現実だったらいいのにと、目が覚めてからいつも絶望感を感じているというサイクルが出来上がってしまった。

 

(それでも、私はいつものように生活できるのね)

 

どんなに絶望しても、悲しんでも。

朝起きて、学校に行って授業を受けて、そしてバンドの練習に行ってというのを、私は繰り返し続けていた。

自分でも、薄情なのではと思ったことがあったが、今はそれも天国で見ているかもしれない彼に心配をかけないためだと、私は言い聞かせている。

 

「っ!!」

 

それでも、私はふとあの事を思い出してしまう。

 

(嫌だっ! あのことだけは、絶対にッ!!)

 

心では否定しても、あの時のことを思い出してしまう。

楽しく幸せな出来事から始まった、あの事件のことを。

 

 

 

これは、私が愛していた一樹さんが、殺される事件までの出来事である。




突然の急展開、大変失礼しました。

今回より、いよいよ個人回に突入いたします。
今回はそれのプロローグ的な意味合いを込めて、少しだけ頑張ってみました。
ちなみに、次回からは予告通りの話が始まります。
一体、彼女たちの身に何が起こったのかも含めて楽しんでいただけたらなと思います。

そして、現時点を持ちまして、アンケートは終了となりました。
ご協力を頂き、本当にありがとうございます。
今回のアンケートの結果、ありがたいことに『すべての物語』を執筆させていただくことになりました。

そして、大変申し訳ありませんが、今回あげた4つの話は短編集という形で 書いていこうと思います。
本作の執筆を優先させたいため、投稿できる日などは未定ですが、投稿いたしましたらお知らせいたしますので、今しばらくお待ちください。

それでは、次回もお楽しみに。

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