それでは、本篇をどうぞ
そして今、僕は留学先である『花咲川女子学園』前に来ていた。
(それにしても、周りの反応が僕にはあれなんだよな)
あの後、啓介たちに僕が花女に交換留学に行くと話したのだが、反応は様々だった。
「そうか」
と、淡々と相槌を打つ田中君。
「それは急だね」
と、これまたどこか他人事のような感じの森本さん。
「ぢぐじょうっ。どうしてお前ばかりっ!!」
と、意味の分からない悔しがり方をしている啓介。
「いーな、いーなー! おねーちゃんといっしょだね!」
と、頓珍漢なうらやまし方をする日菜さんなどまちまちだった。
(そういえば、この後の流れでも確認しておくか)
僕は何度見たかわからない、風紀委員交流会の説明が書かれたプリントを、カバンから取り出して読むことにした。
最初の方には、この交流会の目的などが書かれており、その次のほうから流れの説明に入っていた。
それによると、まずは校門前でその学園の風紀委員の代表者となる人物と合流するらしい。
制服も羽丘の物でもいいようなので、これも問題はない。
(後は着替える場所とかの問題か)
しばらくの間花女に通うのであれば、体育などで制服から着替えないといけないのは当然のこと。
そして僕にとって一番の不安が体育だったりもする。
正直、周りが女子しかいない中での体育の授業ほど、つらい物はないと思っているほどだ。
どういう意味かは……お察しというものだろう。
「一樹さん?」
そんな時、僕に声をかけてきたのは花女の制服に身を包んだ紗夜さんだった。
「紗夜さん。おはよう」
「はい、おはようございます……ではなく! どうしてあなたがここにいるんですか?」
「そういう紗夜さんもどうしてここに? 見た感じ今登校したとは思えないけど」
鞄を手にしていないことから、今花女に登校してきたというわけではないのは明白だ。
「私は、羽丘学園から来られる風紀委員の方を待つためです」
「え? それじゃ、紗夜さんがここの代表者?!」
紗夜さんが風紀委員のメンバーだったことはおろか、まさか代表になっていることも知らなかった僕は、驚きを隠せずに聞き返した。
「ということは、一樹さんが今回の風紀委員の代表の方ですか?」
対する紗夜さんも、口調こそ落ち着いているが表情で驚いていることがわかった。
「貴方は確か、風紀委員ではなかったはずでは?」
「本来のメンバーに、代わってほしいって頼まれたんだ」
驚きの次は疑惑のまなざしでこちらを見てきたので、僕はすぐさま本当のことを話した。
紗夜さんは、一応納得したようで、僕についてくるように言うと校舎に向かって歩き出し始めた。
僕はそれに遅れないように慌てて後をついていくのであった。
「失礼します。本条先生、代表の方が来られました」
「あら。予定時間より早いわね。関心関心」
案内された先である職員室に入った紗夜さんは、席について作業をしていた女性教師に声をかけると、女性教師……本条先生は嬉しそうに頷きながら立ち上がるとこちらに視線を向ける。
「私がしばらくの間、君が過ごすことになるクラスの担任を務める、本条よ。よろしくね」
「美竹です。大変お世話になります」
とりあえず、お互いに自己紹介はできた。
「それでは、私はこれで」
「ええ。ありがとね」
紗夜さんは一礼して職員室を後にする。
「さて、今回は代理ということで少々イレギュラーではあるが、この交流会についての説明は?」
「大体は伺っています」
この交流会の趣旨が、お互いがそれぞれ別の環境での風紀活動から学び、より良い風紀活動を行えるようにするものであることは、手渡されていたプリントで把握済みだ。
「それなら問題はないわね。それじゃ、まずは移動しましょうか。今日の朝礼で、君のことを全校生徒に紹介するから」
「……わかりました」
これが、あの男子学生が言っていた全校生徒の前でのあいさつなのだろう。
こうして僕は、本条先生に導かれるまま朝礼を行う体育館に移動するのであった。
「本日、羽丘学園より本校に留学生が来られました」
生活指導の先生の言葉に、体育館内が少しだけざわつくが、それもすぐに収まる。
「本校生徒諸君には、本校の名に恥じることのない行動を求めます。では、どうぞ」
(すぅ……はぁ。大丈夫)
その言葉が合図だったようで、僕は心の中で軽く深呼吸をして自分を落ち着かせる。
僕はいつも何千もの観客の前に立って演奏をしているんだ。それに比べれば、全校生徒の前でのあいさつなど、朝飯前というものだ。
必死にそう言い聞かせながら、マイクが立っている教卓の前まで歩いていく。
僕が袖から現れた瞬間、ざわめきが強くなったような気がする。
「ただいま、ご紹介にあずかりました、羽丘学園風紀委員代表の、美竹一樹と申します。今回の留学でいろいろなことを学んでいきたいと思います。短い間ではありますが、よろしくお願いいたします。」
我ながら悪くない挨拶だ。
静かに一礼すると、拍手の音が鳴り響く。
「あれって、美竹先輩だよ!」
「え、うそ!?」
「美竹君!?」
その拍手の音の中で、よく知っている声が聞こえてきたような気がしたが、それを考えるのは後にしておこう。
僕は生活指導の先生に促されるように、ステージ袖のほうに戻るのであった。
こうして僕は、何とか全校生徒の前でのあいさつという最初の関門を突破することができたのであった。
だが、それはこれから始まる波乱に満ちた学園生活の始まりにしか過ぎなかったことを、僕はだ知らなかった。