「ここが、しばらくの間君が過ごすことになる教室よ。場所は覚えた?」
「はい。おかげさまで」
朝礼が終わり、再び本条先生に案内される形でたどり着いたのは、プレートに『2-B』と記された教室だった。
「それじゃ、合図を出したら入ってきてね」
そう言って、本条先生は教室内に入って行った。
『それじゃ、朝のHRを始める前に、今日このクラスに加わることになった方を紹介します。美竹君、入ってきて』
(よしっ)
色々とやらなければいけないこともあるが、まずはこのクラスの一員となれるように馴染んでいこう。
あまり知らない人と話をするのは苦手だが、手始めに隣の席の人に挨拶をしておこう。
そんなことが頭の中にぐるぐると渦巻いていた。
(なんだかんだ言って、緊張するよね)
先ほどのあいさつの時に普通にできたのは、ある意味奇跡的だったのかもしれない。
正直に言って今度ばかりは普通にするのは無理そうだ。
(まあ、いっか)
もうどうにでもなれと思いながら、僕は教室のドアを開けて中にはいった。
そして教卓の前まで移動した僕は
「本日より、このクラスで留学することになりました、美竹一樹です。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
と、一礼をした。
我ながら堅苦しいとは思うが、これ以上はさすがに難しい。
「はい。留学生でもこのクラスの一員です。皆さん、仲良くしてくださいね」
本条先生の言葉に、クラスの生徒たちから一斉に返事が返ってきた。
地味にすごいなと思ってしまった僕は悪くない。
何せ、僕の隣の席が日菜さんだという時点で察してもらいたい。
「それじゃ、美竹君。空いている席があなたの席よ」
本条先生に指し示された場所に向かって、僕は歩いていく。
そこは教室の中央部分の中間というど真ん中付近の席の位置だった。
別に目が悪いというわけではないので、一番後ろでも問題はないが、やや中央というのは微妙に気が引けた。
それはともかくとして、緊張しながらも自分の席に腰かけて息をついたところで、僕はまだ隣の人に挨拶をしていないことに気づいた。
(僕としたことが、抜けてるな)
「あ、はじめまして――げっ」
早速、緊張でとちっている自分に呆れつつ、隣の席の人に挨拶をしようと隣のほうに顔を向けた僕は、思わず顔を引きつらせて口からそんな声を上げてしまった。
「ちょっと、私の顔を見てその反応はひどいよっ」
そのような反応をすれば、そのように言われるのは当然だ。
失敗しないようにと緊張感を持っていた僕が、なぜ大失態にも近い行動をしたのか。
「いや、悪い。まさか、丸山さんがここにいるとは思ってもいなかったから」
それは、隣の席が丸山さんだったからだ。
彼女はあくまでも『Pastel*Palettesのボーカル』としてでしか関わりがない人物なので、このような形で会うことになるとは思ってもいなかった。
「それは私もだよ」
「美竹君、今はHR中なので、私語は後にしてもらえるかしら?」
「す、すみません」
そして早々に先生に怒られてしまった。
(やはり、彼女は僕にとって疫病神だ)
丸山さんの隣になった瞬間に失態の数々をさらしているのだ、これは間違いない。
(いや……どう考えても自分が悪いよな)
人のせいにしかけたことに罪悪感を抱きながら僕は静かにHRを聞くのであった。
その後、滞りなく授業を受けて言った僕は、昼休みの時間を迎えた。
幸いなことに花女の授業内容は、羽丘とほぼ同じだったので、これならついていけないと悩む心配はあまりない。
「……参った」
「どうしたの? 美竹君」
僕の一言に、隣にいた丸山さんが反応する。
「いい加減、あれを何とかしてほしい」
「あれ? ……あー」
僕が一瞬視線を動かした方向を見た丸山さんも、察したように声を上げる。
そこにいたのは……
「見て見て、あれが留学生よ!」
「うわー、めっちゃカッコいいじゃん!」
「しかも、テレビにも出てるんだってさ」
「へぇー。あたし、ちょっと声をかけてみようかな」
とまあ、こちらを見ながら色々と言い合っている花女の生徒たちだった。
「あはは、美竹くんもすっかり有名人だね」
「……勘弁して」
話しかけられる分にはまだいい。
だが、話しかけもせずに遠くのほうでごちゃごちゃこちらを見ながら言われるのはさすがに精神的につらい。
例え内容がこちらに好意的なものであってもだ。
そして、一番の問題はこの時間であったりもする。
「一樹さん、どうしたんですか?」
「体調は……大丈夫、ですか?」
どうしたものかと頭を悩ませているところにやってきたのは、紗夜さんとその後ろで居心地が悪そうにしている白金さんの二人だ。
「いや、昼食でもと思ったんだけど……ねぇ」
「……なるほど、そういうことですか」
僕の含みのある言い方に、紗夜さんはこちらと女子たちの群れを見て、納得がいったようだった。
僕が一番困っているのは、この昼休みに声をかけられる可能性があるということだ。
声をかけられるのは構わないが、昼休みという意味合いの通り、こちらはできれば静かに昼食をとりたいのが本音だ。
それに、時は有限だ。
あれにつかまっていれば一瞬で昼休みは終わってしまうのは簡単に想像がつく。
「……では、私と一緒にお昼を食べませんか?」
「え?」
紗夜さんからの思いもよらぬ提案に、僕は彼女の顔を見て固まってしまった。
見れば、紗夜さんの顔が心なしか少し赤いようにも見える。
(これって、もしかして)
「そうだね、それじゃお言葉に甘えて」
僕の返答に、遠巻きに見ていた女子たちは残念そうな声を上げながら散り散りに離れていく。
どうやら、僕の思った通りだった。
「では、場所を移しましょう」
僕は紗夜さんを先頭に教室を後にするのであった。
「ふぅ……ここまでくれば大丈夫でしょう」
「ごめん。助かったよ紗夜さん」
少し歩いて階段付近まで移動した紗夜さんは足を止めると、一息ついた。
彼女がお昼に誘ったのは、遠巻きにいる女子たちを追い払うためのお芝居だったのだ。
紗夜さんの誘いに教室内に緊張が走ったのを感じた僕も、とっさにそれに乗ってみたところ、結果は大成功だった。
「いえ。風紀をただすのが風紀委員の務めですから。それに、白金さんも少し気にしてましたし」
「なるほど」
それでようやく、白金さんが紗夜さんと一緒に行動をしていた理由が分かった。
そういえば、彼女も人込みなどは苦手だと言っていたような気がする。
そんな白金さんにとっては、あの状況は地獄そのものだっただろう。
「……白金さんに謝ったほうがいいかな」
「いえ、その必要はないかと。ただ、今日のような状態が続くのであれば、こちらもいろいろと考えていく必要があるでしょうけど」
なんだかんだ言って前途多難なような気がした。
「ところで、紗夜さんも一緒にお昼でもどうです?」
「すみません。私はこの後本条先生に呼ばれているので」
噓から出た実ではないが、紗夜さんをお昼に誘ってみたが、先約があったようで申し訳なさそうに断られてしまった
「わかった。それじゃ、こっちで何とかしてみるよ」
「誰か当てでもあるんですか?」
「まあ……数名ほど、知り合いがいるんで」
僕は紗夜さんに答えると、携帯である人物に電話をかけるのであった。
前にした、短編の物語についての説明が少しわかりづらいような気がしたので、軽く補足を。
簡単に言いますと、『短編集』という形で新作として書いていくという意味になります。
なので、本作では投稿しません。
次回もお楽しみに。