それでは、本篇をどうぞ
翌日の放課後、僕は校門のところで、ある人物を待っていた。
「美竹くん」
予想よりも早く、待ち合わせていた人物がやって来た。
「これがあなたに頼まれていたやつよ」
「ありがとう、助かったよ」
僕は、お礼を言いながら待ち合わせていた人物……白鷺さんからやや大きめなかばんを受け取る。
「貴方がそれを何に使うかは聞かないで置くけど、くれぐれも壊さないでね。後、返却期限は守るように」
「わかってるよ。白鷺さんの顔に泥を塗るようなことはしないから」
「……そうしてもらえると助かるわ」
そういって白鷺さんはそのまま仕事のほうに出掛けて行ってしまった。
(本当にありがとう、白鷺さん)
僕は彼女を見送りながら心の中で、もう一度お礼の言葉を口にするのであった。
そして、僕はそれを手にしたまま校内で待っている紗夜さんのもとに向かうのであった。
「それで、どうしてここに?」
「ここがあの怪文章に書かれていた女子トイレだからだよ」
紗夜さんと合流した僕達が訪れていたのは、怪文章に記されていた3階西の女子トイレ前だった。
ちなみに怪文章の内容は『3階西の女子トイレに行くと金運が下がる』だ。
「それは分かるんですが、一体一樹さんは何をしようと?」
紗夜さんが困惑するのも無理はない。
今僕が行っているのは、女子トイレ前でせかせかとお札をピンク色の明らかに女性向けのお財布に入れてる最中なのだ。
「このお財布を女子トイレの洗面台とか目立つ場所において来てもらいたいんだけど」
「……? 置いてくればいいんですね」
よくわからない様子で僕から財布を受け取った紗夜さんは、そのまま女子トイレのほうに財布を沖に向かうと、数十秒後には外に出てきた。
「置いてきましたけど」
「それじゃ、ちょっと物陰に隠れて待ってみよう」
財布を置いてきた紗夜さんにそう言うと、僕たちは女子トイレの出入り口から死角になる場所に隠れる。
「一樹さん、そろそろ説明してもらえませんか?」
「うーん。もう少し待てば分かると思う」
僕はあえて説明せずに、焦らすように答えると女子トイレの出入り口のほうに意識を向ける。
放課後ということもあり、女子トイレに出入りする者はおらず、何とも言えない空気に包まれていた。
その時、女子トイレに入っていく人物がいた。
「あの人って、清掃をする人?」
「ええ。定期的にあのように掃除をしているそうです」
中に入って行ったのは、水色の作業服を着こんだ40代とみられる女性の清掃員の姿だった。
どうやらトイレ掃除をしに来たようで数分ほど経過すると、女性はトイレから出てきた。
その行動に不審な点などなく、ごくごく普通の仕事をしている様子だった。
「行くよ」
「え? 一樹さん!?」
僕は、驚く紗夜さんをしり目に、そのままためらうことなく女性のもとに近づくと
「すみません」
女性に声をかけた。
「はい。どうされました?」
「私の知り合いが、こちらのトイレのほうで落とし物をしたらしいのですが、見てませんか?」
「落とし物?」
僕のその問いかけに、女性は軽く首をかしげる。
「ええ、ピンク色の四角い奴なんですけど」
「ごめんなさいね。私が見た限りだとそんなお財布はなかったわよ」
「そうですか」
残念そうなそぶりで答える僕だが、内心はものすごくほくそ笑んでいた。
「ですけど、おかしいですね。どうして、私が探しているのが”お財布”だなんてわかるんですか?」
「え? それはさっき君が」
「私が言ったのは『ピンク色の四角い奴』ですよ? 普通、想像ができたとしてもハンカチだと思うはずなんですけど?」
「っ!?」
女性が驚きに満ちた表情を浮かべる。
「紗夜さん、ちょっとお財布見てきてもらえる?」
「わかりました」
僕のお願いに、紗夜さんは素早く女子トイレ内に入ると、すぐに出てきた。
「一樹さん、財布がありませんっ」
「財布、持ってますね?」
僕は右手を女性のほうに差し出して確認する。
「……」
女性は、ふてぶてしい態度で僕の手に財布を置く。
それは、僕が先日ショッピングモールで購入した女性物の財布だ。
「中身は、ないですね。大方、自分の財布か何かにでも紛れ込ませたんでしょうけど」
中を見ると、僕の予想通りお金は抜き取られていた。
「知らないわよ。最初から中にお札なんてなかったわ」
「そんなはずありません。私はこの目で彼がお金を入れているのを見てました」
女性の言葉に、真っ先に紗夜さんが反論する。
「だったら、その証拠でも出しなさいよ。私がお金をくすねた証拠をねっ」
そう言って女性は自分の財布からお札を大量にこちらに投げつけてきた。
この人は、僕が証拠を持っていないと思っているのか、強気だった。
だが、それもすべて計算済みだ。
「では、証明しましょう」
僕はそう言うと、今まで持っていた鞄を開けてペンライトのようなものを取り出す。
「一樹さん、それは?」
「これはALSという装置でして、簡単に言ってしまえば、このライトを特定の塗料が塗られている物に当てると、それに反応して光を発するものです」
白鷺さんがちょうど科学を利用して、犯人を追い詰めるという内容の刑事ドラマの被害者の娘役として出演することを思い出した僕は、ダメもとで白鷺さんを通じてこの装置を借りれないかを聞いてもらうようにお願いしていたのだ。
結果は、白鷺さんのこれまでの活動の賜物か、OKが出て貸してもらえることになった。
……お願いする時に『これは借りね』と言われたのが、少しだけ気がかりだが。
「この財布内のお金にはすべてその塗料を塗っています。これを使って、疑いを晴らしますか?」
「っ………降参よ」
僕の問いかけに、女性は観念したのか両手を上げた。
「紗夜さん、本条先生を呼んできてもらえる?」
「はい、少しだけ待っててください」
そう言って紗夜さんが職員室に向かっていく中、僕は女性が逃げ出さないように見張っているのであった。