BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第172話 怪文章

「それで、いったいこれはどういうことなのか説明してください」

 

教室で、日誌に活動内容を書いている中、紗夜さんが有無も言わさぬ剣幕で聞いてくる。

あの後、駆け付けた本条先生と数人の先生たちによって、女性清掃員は連れていかれた。

本条先生が”ここだけの話”という体で教えてくれた話によれば、この女性は前からずっと忘れられていた財布などの貴金属類を盗んでいたらしい。

ここ最近はいつも3階西の女子トイレを担当しており、そこで財布の中身をくすねていたそうだ。

しかも悪知恵が働くようで、財布自体は盗まずに中のお金だけを少しだけ抜き取ることで、発覚しないようにしていたとのこと。

今回のは、たまたま魔がさして全部をくすねてしまったことで、捕まることになったわけだが。

 

「紗夜さんは、1番の怪文章の内容を覚えてる?」

「ええ。確か、『夜、屋上にたたずむ人影が現れる』でしたね」

「多分、その人影って弦巻さんだと思ったんだよ。弦巻さんも言ってたでしょ? 天文部の活動は屋上で行ってるって」

「……なるほど、夜に天文部の活動を行っている弦巻さんを誰かが目撃していたんですね」

 

紗夜さんの言葉に、僕は大きく頷くことで答える。

実は、これにはあるヒントが存在する。

それは、羽丘で一時期流れた”学園七不思議”だ。

その中の一つが、今の怪文章と同じ内容だったのだ。

だが、この噂の内容についてよく話を聞いてみると、どうもそれは屋上で同じく空を見ていた日菜さんを、幽霊と勘違いしたものだということが判明したのだ。

 

「つまり、あの怪文章はこの学校で起こっていることを書いている物だと予想したんだ」

「ということは、『3階西の女子トイレに行くと金運が下がる』というのは」

「あそこに行くとお金とかの貴金属を盗られるという意味だったみたいだね」

 

我ながら、そんなドラマのようなことがあるのかと思っていたが、本当にあったので驚いていたりもする。

 

「紗夜さん、明日からこの怪文章の内容を検証していきたいんだけどどう? もしかしたら、これを貼った張本人が現れるかもしれないし」

「私も賛成です。やってみましょう」

 

紗夜さんの快諾もあり、僕たちはその日から怪文章の検証を始めることにするのであった。

 

 

 

 

 

翌日、僕たちがやってきたのは3階の非常口付近だ。

 

「確か、ここでは子供の霊が出る、でしたね」

「だね。なんだかオカルト―――」

『アハハハハ……アッハハハハ』

 

”っぽいな”と言おうとしたところで、突然不気味な子供の笑い声が響き渡った。

 

「きゃあ!」

「うわ!? って……どうやらあれのようだね」

 

子供の笑い声に、驚いた紗夜さんが腕にしがみついてきたのに驚いた僕は、あるものを視界にとらえる。

 

「……え?」

 

僕の言葉に、紗夜さんもつられて僕が見ている方に目をやる。

そこには床に置かれた犬のぬいぐるみがあった。

 

「おそらく、このぬいぐるみに何らかのセンサーでもついてるんだろうね。それに反応すると……」

 

試しに少しだけ動いてみると案の定、ぬいぐるみから不気味な子供の笑い声を出しながら手足をばたつかせて動き出した。

 

「な、なんて人騒がせな」

「ところで紗夜さん」

「はい?」

 

話が一段落着いたところで、僕は紗夜さんにあることをお願いする。

 

「腕が痛いから、少し力を弱めてくれると助かる」

「腕? ………っ!!!?」

 

最初は何のことかわからなかったようで、僕の腕を見た紗夜さんは、その時初めて僕の腕をつかんでいることに気づいたようで声にならない悲鳴を上げながら、僕から思いっきり距離をとった。

 

「あはは、紗夜さんって、こういうの苦手だったっけ?」

「し、知りませんっ!」

 

その様子に思わず苦笑しながら聞くと、紗夜さんは、頬を赤らめながらこちらを恨めしそうに見てくる。

 

(これ以上はやめたほうがいいかな)

 

『アハハハハ……アッハハハハ』

 

犬のぬいぐるみの笑い声が、妙に悪意があるように思えるのは、きっと僕の心がすさんでいるからだ。

 

「し、しかしいったい誰がこのようなものを」

「あー、犯人……ていうか仕掛けた人ってこの人たちかも」

 

先ほどのことをごまかすようにつぶやいた疑問に、僕は壁に貼ってある紙を指示した。

 

「えっと……『驚かせてごめんなさい。よろしければどのように感じられたかのアンケートにご協力をお願いします。心理学研究部』……」

 

どうやら、これは部活動の実験のようなものだったらしい。

とはいえ、人が来なさそうな場所に仕掛けて、一体効果があるのかについてはいささか疑問ではあるが。

こうして、この日の怪文章の検証は幕を閉じた。

ちなみにこの心理学研究部だが、実はこの実験を行う旨の報告を事前にしていなかったことが判明し、先生たちから厳重注意となったらしい。

人の来なさそうな場所に仕掛けたのも、もしかしたら無許可であったがためだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

その翌日の放課後。

 

「それで、今日はどれを調べるんですか?」

「これ」

 

この日も、怪文章の検証を行っていた。

 

「『2階更衣室には神がいる』……ますます意味が分からないですね」

 

それは『2』と書かれていた内容の怪文章だ。

 

「とりあえず、そこに行ってみましょう」

「そうだね」

 

ということで、僕は紗夜さんと共に問題の場所まで向かうのであった。

 

「そういえば、最近は怪文章は貼られていませんね」

「そう言われれば」

 

道中、紗夜さんの指摘通り、僕たちが調査に本腰を入れた頃から、怪文章が貼られることがなくなった。

 

(ということは、やっぱり犯人の目的って……)

 

なんとなくではあるが、この事件の真相に近づいてきたような気がした。

 

「こちらが、更衣室です」

「確か、今日はここを使用している人っていなかったよね」

 

ドアガラスから明かりが消えてはいるものの、誰かが使用していたりする場合もあるので確認したのだ。

僕は紗夜さんが頷くのを見た僕は、これまたカバンの中から一台のカメラを取り出す。

 

「紗夜さん、ドアを開けたら明かりをつけないで、中に着替えとかの荷物とかおかれていないか調べてくれる?」

「……? わかりました」

 

首をかしげながらも、紗夜さんは先生から預かったカギでドアを開けると、僕の頼みごとの通りに、中に入って確認していく。

 

「誰もここを使ってはいないようですね」

「ありがとう。それじゃ、これの出番ですね」

 

最後の確認を済ませた僕は、先ほどのカメラの電源を入れる。

 

「あの、それは一体なんですか?」

「これは、サーモグラフィーカメラ」

「サーモグラフィーというと、あの色で熱の高さを示すやつですよね? それとあの怪文章と何の関係が?」

「文章に『神』なんてものを使っていることから、何もかもお見通しであるという意味で解釈したんだ。更衣室で何もかもお見通しといえば……」

「ッ!」

 

僕の説明に、紗夜さんも僕の言わんとすることが分かったのか目を見開かせた。

 

「つまり、そういうことになるかな」

 

そう言って、僕はレンズを好意室内に向ける。

更衣室内を映し出すカメラの映像はすべて同じ色だった。

 

「っと、熱源発見」

 

だが、一か所だけ熱があることを示す赤色の場所があった。

 

「紗夜さん、正面の棚の最上段の左側にある紙袋を取ってきてもらってもいい?」

「あれですね」

 

いくら調査とはいえ、男である僕が更衣室に入るのはちょっと抵抗があったので、僕は紗夜さんにお願いして熱源である紙袋を持ってきてもらう。

そして、紗夜さんから紙袋を受け取ると、この日のために持ってきていた軍手をして、中を確認する。

 

「……あった。カメラだ」

「えっ!?」

 

紗夜さんも半信半疑だったのか、僕が袋の中を見えるようにしながら言うと、紗夜さんは驚きの声を上げる。

 

「この紙袋に開いた小さな穴から撮ってるみたい」

 

手口はある意味単純なものだったが、やっていることは盗撮に変わりはない。

 

「卑劣すぎますっ」

 

紗夜さんの憤りも、ある意味至極当然のものだった。

 

「とりあえず、レンズは潰しておきます」

 

僕はそう言うと、レンズ部分にティッシュを取り付けることで、ちゃんとした映像が取れないように処置を施す。

 

「氷川、美竹。二人とも、このような場所で何をしている?」

 

それを手に先生のところに持っていこうとしたとき、僕の後ろ側から宮田先生が声をかけてきた。

 

「宮田先生。実は―――」

 

先生の問いかけに、紗夜さんは更衣室が盗撮されていたことを説明する。

 

「盗撮か……二人とも、よく見つけられたな。今学期の内申点かなり期待できるぞ」

 

先生には悪気がないかもしれないが、さわやかな笑みを浮かべながら言われた先生の言葉に、僕は少しだけ怒りを感じた。

 

「別に、私はそのようなもののために活動しているわけではありません」

 

それは紗夜さんも同じだったようで、僕が何かを言うよりも早く紗夜さんが先生の言葉に反論してくれた。

 

「……それは失礼した。これは私が責任を持って対応しよう。二人とも本来の活動に戻りなさい」

 

先生は僕の手から紙袋を半ば奪うように手にすると、そのまま去って行く。

 

(あの先生……やばいかも)

 

そんな中、僕は見落とさなかった。

紗夜さんの反論に、一瞬さわやかそうな笑みが消え鋭い眼光で彼女を睨みつけたのを。

もし僕の勘が正しいのだとすると、注意したほうがいいのかもしれない。

 

「一樹さん?」

「あ、ごめん。何でもない」

 

考え事をしていたのを紗夜さんに見られたんか、心配そうな顔で名前を呼ぶ紗夜さんに、僕は余計な心配はさせまいとそう言うと、僕たちもまた更衣室前を後にするのであった。




一応おかしなところがないように調べて書いていますが、もし矛盾点などがありましたら、お知らせいただけると幸いです。

ちなみに作中に出てくる『犬のぬいぐるみ』は、某動画サイトに投稿されている犬の動画に登場しているものがネタだったりします。(汗)

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