BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第173話 特別な怪文章

その翌日の昼休み。

僕は一人で、プリントの束を手に廊下を歩いていた。

 

(まさか僕がプリントを運ぶのを手伝わされるなんて)

 

たまたま次の授業の先生と鉢合わせになってしまったが運の尽き。

僕は先生にありがたくも、次の授業に使うプリントを、教室にまで運ぶ大役を与えられることとなった。

 

(男だからっていう理由は、あまり嬉しくないんだけどね)

 

先生に悪気があるわけではないので、それ以上口を心の中で言うのはやめることにした。

 

「きゃっ」

「うわ!?」

 

注意していなかったせいで、曲がり角から飛び出してきた青髪の女子生徒とぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい」

「いえ、こちらこそ注意してないですみません。怪我は?」

 

こちらが悪いにもかかわらずに謝ってくる女子生徒に、僕は慌てて謝りながら怪我の有無を聞く。

 

「怪我はないです。でも、プリントが……」

 

女子生徒に言われた通り、僕が持っていたプリントは見事に床一面に散らばっていた。

それは、ある意味惨状だった。

 

「あの、私も拾うの手伝います」

「すみません。お願いします」

 

クラスの人数分のプリントを一人で拾うのはさすがに骨が折れるので、僕は謝りながらも女子生徒の厚意に甘えさせてもらうことにした。

 

「すみません、助かりました」

「いえ。本当にすみませんでした。では」

 

最後まで謝りながら、女子生徒はすたすたと去って行ってしまった。

 

「さて、僕も行くか……ん?」

 

もう一度歩き出そうとした瞬間、ラベンダーのような香りがしたような気がしたが、周囲にはその香りの発生源となるものは存在していなかった。

 

(気のせいか)

 

僕はそう結論付けると、そのまま教室に向かって歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

「うわっ、すごい量のプリント……」

「いきなりだね、丸山さん」

 

教室に入るや否や、近くにいた丸山さんが引きつった声を上げる。

確かに、あげたくなるのもわかるほどすごい量だ。

枚数を数えたわけではないが、確実に百は超えているのは明らかだ。

 

「次の授業の先生って、プリントをたくさん作るのが好きなんだよねー」

「まあ、そういうタイプの先生もいるんじゃないのっと」

 

丸山さんの愚痴に相槌を打ちつつも、教卓の上にプリントの束をのせる。

これにて、プリント運びは完了だ。

後は、あと少しある昼休みをのんびり過ごすだけだ。

 

「ん?」

 

そんな時、教卓のそばの床に、名刺サイズの紙が落ちていたのを僕は見つけた。

 

(なんだか、嫌な予感が)

 

ここ最近目にはしてないが、まさかとは思いながらも僕は紙を拾うと、裏返してみる。

 

「………」

 

それを見た僕は、慌てて教室内を確認する。

 

「どうしたの? 美竹君」

 

そんな僕の様子の異変に気付いた丸山さんが、驚きながら聞いてきた。

 

「丸山さん、紗夜さんがどこにいるか知らない?」

「紗夜ちゃん? うーん、さっき生活指導の先生に呼び出されてたけど……って、美竹君?!」

 

僕は、丸山さんの言葉を聞くや否や、急いで教室を飛び出す。

 

(確か、生徒指導室は……)

 

僕が向かっていたのは、生徒指導室だ。

生活指導の先生なら、生徒指導室で話をするだろうとふんだのだ。

 

「ッ!」

 

そしてそれは見事的中した。

生徒指導室内に明かりがついているのを見た僕は、ドアにそっと耳を当てて中の様子を探る。

 

『―――だ?』

『ですから、辞めるつもりはありません』

 

中から聞こえてきたのは、きっぱりと断りの言葉を口にする紗夜さんの声だった。

 

『頑固だな。君みたいな学生が、バンドなんてして、我が校の名に傷がついたらどうするんだ?』

 

どうやら、宮田先生が紗夜さんにバンド活動を止めるように指導しているようだ。

 

『お言葉ですが、私はこれまで一度もそのようなことをしたことはありません』

『減らず口を言うなッ! お前たちのごっこ遊びで、どれだけの被害を被ることになるのかわかってるんのか?』

 

(ごっこ遊び、だと?)

 

中から聞こえる宮田先生の罵倒に、僕は怒りを感じずにはいられなかった。

それは同じミュージシャンとして、許せる言葉ではない。

きっと、義父さんに言われたときの蘭もこんな気持ちだったのかなと、今更ながらに実感した。

 

『いいか? 俺がその気になれば…………………だぞ?』

 

声のトーンを落とすと、宮田先生は何やら脅迫めいた言葉を口にする。

肝心の内容は、声が小さすぎてよく聞き取ることができなかった。

 

『来週の金曜の放課後まで待ってやる。また呼ぶからそれまでに答えを決めておくんだな』

 

宮田先生がそう言い切るのと同時に、外に出ようとこちらに近づいてくる足音が聞こえたため、僕はその場を離れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ。初めて嘘をついてサボってしまった」

 

放課後、僕は一人罪悪感を感じながら帰路についていた。

というのも、この日の風紀委員の活動を僕は用事があると嘘をついて休んだからだ。

紗夜さんのことだから、もしかしたら見破いているかもしれない。

それでも何も言わなかったのは、彼女の優しさか、それとも……

 

(さてと。これからどうするか、だな)

 

それは、先ほどの生徒指導室での宮田先生と紗夜さんのやり取りのことだ。

あの先生は、期限を来週の金曜日と指定してきた。

それまでに何とかしなければ、何らかの行動を起こすのは誰にだってわかることだ。

 

(あの先生は、虎の尾を踏んだ)

 

宮田先生の口から出た暴言は、僕の怒りを頂点にまで高めるのに十分だった。

現に、あの後丸山さんから”何か怒ってる?”などと聞かれてしまうほどに怒りを抑えることができなかったのだ。

 

(後で丸山さんに謝っておかないと)

 

おそらくだが、彼女のことを少し怖がらせてしまったような気がするので、僕はこの一見が終わったら彼女に謝っておくことにした。

そこまで考えて、ようやく僕は冷静になることができた。

 

(頼んでみるか)

 

僕は、そう決心すると早々にある人物に電話をかけるのであった。

それは、怪文章事件に加えて、もう一つの事件が僕の身に降りかかった瞬間でもあった。




やたらとプリントを大量に配りまくる先生が一人はいたはずだと思う今日この頃です。
プリントというのは意外とがさばって大変なんです(汗)

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