BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第177話 最凶のバンド

「それでは、代表の方はこちらの書類をご一読の上、サインをお願いします」

 

彼女が出場を受け入れたのを見届けた相原さんは、彼女達の前に一枚の紙とペンを置いた。

 

「こちらは出演依頼とそれに伴う契約書となっております。今回の出演に関しての遵守事項などが書かれておりますので、同意される場合は最下部の署名欄にお名前のご記入をお願いします」

 

それは、出演契約書であり、これ以降やむを得ない事情を除いて、出演契約を打ち切ったり変更することを禁ずるといった類のものとなる。

それ以外にも、色々な制約事項がある。

例えば、告知期間外にライブを開催することを、第三者に口外することなども禁じられている。

とはいえ、元々開催することを知っている人についてはこの限りではないらしい。

湊さんは、しっかりと読んだうえでそれに署名をすると相原さんに手渡す。

 

「では、私はこのライブの開催の件を報告してまいりますので、あとは皆様で」

 

相原さんが必要になるのは、ここまでの話のみで、ここから先は僕たちメンバー同士で十分な内容なので、相原さんは一礼するとミーティングルームを後にした。

 

「それじゃこの資料に目を通しながら聞いてくれる?」

 

僕は彼女たちに相原さんが置いていった資料を配っていく。

 

「今回のライブは、約5時間の長丁場を予定している。流れとしては、それぞれのバンドの演奏を前半後半に分けて行う形式にしてる」

「あの、この前半と後半の間にある『SPL1』とはいったい何でしょう?」

 

流石紗夜さんといったところだろうか。

 

「それは、正式には『スペシャルライブ』と言って、今回の合同ライブの目玉の一つになるやつだよ。それについては資料の9ページを見てもらえるかな」

「えっと……『二つのバンドメンバーをシャッフルして行う特別ステージ』……って、まさかとは思うけど」

「そのまさか。僕たちMoonlight Gloryと、Roseliaのバンドメンバーをランダムに入れ替え、二つのシャッフルした状態のバンド2グループで演奏をするんだ」

 

さすがにリサさんも何をしようとしているのかが分かったのか、僕に確認してきたので、僕はそれに頷いて答える。

この形式は、この前CiRCLEで開催された『ガールズバンドパーティ』を参考にしている。

あの時のライブの形式をそのまま僕たちに当てはめれば、さらにオーディエンスを楽しませるステージになること間違いなしだと思ったのだ。

 

「ちょっと、無謀すぎないかしら?」

「わ、私……知らない人、とは」

 

だが、彼女たちの反応はあまりよろしくない状態だった。

まあ、白金さんに関してはある意味予想はしていたし、それに対しての対策も考えている。

 

「メンバーを入れ替えるとは言っても、演奏するパートは変えないから、ギターはギターのままだよ。どのようにメンバーを入れ替えるかはみんなで話し合って決めて。ただし、白金さんはあこさんとセットということで固定させてもらうけどね」

 

とりあえず白金さんは、仲の良いあこさんか面倒見のいいリサさんのどちらかと一緒に組ませておけば、ある程度のことがあっても大丈夫だろうと思ってのことだった。

 

「演奏する楽曲については、僕とRoseliaの作曲担当の人と一緒に作っていく予定だから、その時はよろしくね」

 

そう言って、僕はひとまずこの話をいったん区切る。

 

「一樹さん。ライブで演奏する曲目に制限はありますか?」

「特に制限は設けてないよ。何を演奏しても自由だし、僕たちがやっているみたいに区分けしてもいい。ただ、せっかくの合同ライブなのだから、お互いの曲をカバーという形で演奏したいなと思っているんだけど、これについてはどう?」

 

これも実は大きな目玉の一つだったりする。

Roseliaの楽曲は彼女たちが演奏してこそ、その真価を発揮するのだが、それを僕たちが全力で演奏するとどうなるのか……ある意味チャレンジにも近い取り組みだった。

とはいえ、彼女達がすんなりとこれを受け入れてくれるとは思わない。

それならそれでしょうがないということで諦めるつもりだ。

湊さんたちはお互い顔を見合わせた結果、

 

「私たちは賛成よ」

 

非常にありがたい答えが返ってくる。

 

「ありがとう。それじゃ、お互いに演奏したい楽曲を2,3曲ほど見繕っておくということで。後、これが僕たちの楽曲リスト。とりあえず500程度の楽曲でみんなが演奏できそうなものをチョイスしてみたから、この中から好きなだけ選んで。後でその楽曲のポイントの解説入りの楽譜を渡すから」

「……今、色々と言わなければいけない内容の話が出てきたような気がするのですが……」

「なんだか、かっこいい感じのがありますねっ」

 

僕の渡した500にも及ぶ楽曲名が記されたリストとショートバージョンの音源が入ったCDを彼女たちに手渡すと、湊さんたちは顔を引きつらせながらそれに目を通していた。

その後、練習のプランなど、今後のスケジュールを軽く伝えたところで、本日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後のこと。

 

「……」

 

この日の僕は、すこぶる機嫌が悪かった。

心の中でぐつぐつと煮えたぎるマグマのようなものが、うごめいているような感じの状態で、いつそれが大爆発を起こすかという状態だった。

 

「一樹っ!!」

「うわ?! な、何!?」

 

そんな中、突然大きな声で名前を呼ばれた僕は、慌てて立ち上がると周囲を見渡す。

 

「ぁ……」

 

そして気づいた。

今、自分の置かれている状況を。

 

「さっきから妙に集中できていないみたいだけど? やる気がないならいくらあなたでも帰ってもらうわよ」

「ご、ごめん。ちょっと考え事してて」

 

湊さんの鋭い視線でこちらを見ながらのきつい一言に、僕は慌てて謝る。

彼女たちの練習中に集中力を乱すのは、コーチとしてあってはならない失態だ。

 

「まあまあ、そんなに言わなくても、一樹君はちゃんと反省してるみたいだし、ね?」

「はぁ……わかったわ。それじゃ、今から休憩にするからそれが終わるまでにきもいを入れ替えて」

「わかった」

 

リサさんに宥められた湊さんは深いため息をついてそう告げると、休憩時間となった。

 

「で、いったいどうしたの? いつもの一樹君らしくないけど。ここはお姉ちゃんに相談してみなさい☆」

「お姉ちゃんって……まあいいけど」

 

ウインク交じりに話を聞いてくるリサさんにツッコミを入れる気力もなく、僕は彼女たちに話すことにした。

先日に僕が出会った、”最凶のバンド”についての話を。




ものすごく今更ですが、時間経過のほうがめちゃくちゃになっています。

どう考えても普通であればとっくに8月に突入していますが、本作ではまだ7月です。
超時空間、もしくは超ご都合主義ということで、ご理解いただけると幸いです。

それでは、また次回でお会いしましょう

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