突然だが、僕は幼馴染である啓介たちと一緒に組んでいるバンド『Moonlight Glory』のギターリストとは別に、もう一つの顔がある。
それがサポートギターとしての顔だ。
普通に名前を名乗っているのだが、どういうわけか『カメレオン』という呼び方をされる。
そのバンドの『音』に適応して音を奏でる様が、カメレオンが体の色を周囲と同じ色にするのと同じということから言われるようになったらしいが、僕的にはあまり好ましくは思っていなかったりする。
世間一般的にはおかしいのかもしれないが、僕はカメレオンという動物があまり好きではないのが一番の理由だ。
とはいえ、修正するのも面倒なので、最近では自らカメレオンと名乗っているという矛盾な状態だったりするのだが。
それはともかくとして、サポートギターをしていると、様々なバンドの人と出会う。
これについては単純にいい経験だと思うし、自分にとってはいい練習材料や発見につながったりするので、皆にも勧めてみるつもりだ。
そんなバンドを組んでいるミュージシャンだが、大まかに分けると次の3タイプに分けられる。
やる気に満ち溢れ、その才を伸ばせる見込みのあるタイプ。
やる気はあるが、実力がまだ乏しいタイプ。
そして、実力もなくやる気もないタイプだ。
基本的にどのタイプでも、僕がやることは変わらない。
そのバンドの”音”に近づけていく、ただそれだけだ。
それがサポートミュージシャンとしてのやるべきことだと思っている。
やる気があるバンドに対しては、ほんの少しだけそのバンドのメンバーよりもうまい演奏をして、ある種の目標点のようなものをそのバンドの人たちに示すことができればいいなと思ってやっていたりする。
とはいえ、一番の問題はやる気も実力もないタイプのバンドだ。
彼らには、上昇志向も何もなく、ひどいところではタダの遊びに行く友人のようなバンドもいる。
サポートギターをやっていると、”こいつなら楽にライブに出て有名になれる”といった考えの人が指名してきたりするのもしばしば。
基本的に拒否はしないが、ものすごく不愉快だ。
尤も、そういうバンドのたどり着く末路は決まって地獄行きだったりするわけだが。
そんなわけで、一日前にサポートギターとして指名を受けた僕は、指名したバンドの人がいるスタジオ前にいた。
ノックをしてドアを開けて中にはいる。
中にいたのは練習中だったのだろうか、各々の楽器を手にしている栗色のショートカットの髪型の少女に、黒髪のツインテールの少女、そしてボーイッシュな感じの少女の三名だった。
「初めまして、私はカメレオンと申します。私をサポートとして指名された方でお間違えないでしょうか?」
「はいっ」
「よろしくお願いしますね」
「よろしくー」
とりあえず彼女たちで間違いはなさそうだ。
今回は、このバンドが出場するライブハウスで実施中のライブでのサポートギターをするために指名されたのだ。
第一印象は中々にフレンドリーな感じだった。
(Poppin’Partyのような感じかな)
最初のころはそんな風に思っており、好印象だった。
だが、それも一瞬で変わることになる。
「それでは、出番もすぐのようですので、リハのほうをやりましょう」
「そうだね」
彼女たちの出番まであまり余裕がないので、僕たちはさっそくリハを行いつつ彼女たちの音に合わせようとしたのだが
(なんだこりゃ)
演奏してすぐに判明した彼女たちのレベルの低さに、僕は愕然となった。
(ボーカルは音程という概念すら捨ててるし、ドラムは勢いだけでリズムキープを放棄してるし、キーボードは世界観を生み出すというより、不協和音を生み出しているに等しいし)
これまで実力のないバンドのサポートに入ったことはあるが、彼女たちは群を抜いている。
(いやむしろ、こんなのがステージに立つなんて、他のバンド……観客に対する冒涜だ)
僕の評価が、ステージに立つ資格のないバンドになった瞬間でもあった。
とはいえ、これでも仕事だ。
このレベルでもうまく合わせることはできなくもないし、僕のやることも変わらない。
僕はそのリハで彼女たちの音に合わせることに成功し、そのままステージに立った。
本番ではパフォーマンスだけはよかったが、それ以外は壊滅的だった。
リズムという概念が消滅した中で、僕は何とか演奏を終えることに成功した。
(よし、まだ時間はあるしスタジオで少し弾いて鬱憤を晴らすか)
思いっきり弾きたいのにそれができないというのは、ある意味ストレスになる物で、あまりにもひどいバンドのサポートを終えた時にはスタジオで思いっきり全開で弾いて鬱憤を晴らしていたりする。
今回はおそらくダントツで一番ストレスが溜まっているかもしれない。
「あ、いたいた!」
「お疲れ様です。大変いいライブになりましたね」
そんな時、僕を見つけた先ほどのバンドメンバーの声に、僕は社交辞令を口にする。
「いやいや、カメレオンのおかげだよ。そこで一つ、相談があるんだけど、もう一回サポートをしてくれない?」
「えっと……どういうことです?」
ドラムをやっていた少女の提案に、僕は詳しく事情を聴く。
「実は、カメレオンのおかげで、明後日のライブへのオファーが来ちゃったから、それのサポートをして欲しいんだ」
要するに、さっきのあのライブが良かったからなのか、次のライブにも出場してほしいというオファーが来たらしい。
虎の威を借る狐は意味が違うような気がするが、そんな風な感想を抱いた。
「カメレオンが来てくれてよかったよ」
「そうそう! 前いたギターはチョー最悪だったし」
そして、ボーカルとキーボードの少女たちも楽し気に会話をし始める。
主に、誰かに対する悪口だが。
「何が『バンド全体の意識を変えないと』よ、まずは自分の団体行動ができないところを変えろっていうのよ」
「そうだね。『バンドに馴れ合いなんていらない。したいのならカラオケにでも集まって騒いでいれば十分』っていうのはひどいと思う」
(ん?)
二人の話を聞いて、僕はふとある人物の姿を思い浮かべた。
彼女たちが言っている内容と同じ意味合いの言葉を、口にしていた人が身近にいたような気がしたのだ。
「すみません、そのギターの方、お名前は何と?」
「忘れもしないよっ。『紗夜』っていうやつ」
(あー、やっぱりか)
前にちらっと、色々なバンドに入っていたという話を聞いていたので、まさかとは思ったが、本当に彼女だった。
「知り合い? あまりいい人じゃないな。孤高というより、性格がきついだけだし」
「あれは絶対に友達なんていないね」
「一生、一人ぼっちのタイプだよね」
そして始まる紗夜さんに対する陰口は続いていく。
そのたびに僕の心の中には、怒りが増幅していく。
「なんだか、バンドを組んだらしいけど、どうせすぐに辞めるよ」
「話の腰を折って悪いんですけど、サポートの件、了解しました。それでは、明後日にまた」
そこで僕の怒りはすでに限界を超えていた。
僕は次のライブのサポートを承諾すると、早々にその場を後にするのであった。