BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第一部のあらすじ

伝説のバンド『PROMINENCE』に追いつくことを目的に結成した『HYPER-PROMINENCE』のメンバーである一樹たちは初めてのコンテストで優勝という結果を得て、『FUTURE WORLD FES.』のステージに立った。

このまま続くと思われたときは、雨の降る夜に起きた一樹たち一家が巻き込まれた交通事故によって破壊される。
ギリギリの状態で存在していたバンドだったが、リーダーである一樹が養子になることを受けて次のライブでの解散という結論となった。
最後のライブの舞台『SWEET MUSIC SHOWER』での演奏を終え、彼らのバンドは解散となる。

高校へと進学した彼らは『一般の高校生』として、新たな季節を迎えるのであった。


第二部 1章『我が家』
第19話 新学期


「んぅ……」

 

目覚ましが鳴るよりも先に、僕はゆっくりと起き上がる。

遮光カーテンの隙間から差し込む日の光が、僕の起きる時間であることをこれでもかというほどに告げていた。

 

「……慣れないな」

 

自分の部屋なのに、自分の部屋で部屋ではない。

そういう感覚がいまだにするのだ。

 

(行こうか)

 

この前なら、まだ寝ていた時間。

そんな時間に、僕は自室を後にする。

 

 

 

BanG Dream!~隣の天才~   第二部 1章『我が家』

 

 

 

「おはようございます 義父さん、義母さん」

「あら、今日も早起きなのね」

「ああ、おはよう。早起きで感心だな」

 

リビングに行くと、そこには料理をテーブルに置いている女性――美竹(みたけ) 椿(つばき)―――と、椅子に座って新聞を読んでいる男性――美竹 緋宏(あかひろ)が、出迎える。

僕は、義父さんの前に座る。

 

「いただきます」

 

そして手早く朝食を摂っていく。

朝食は和食だった。

 

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様です」

 

早々に食べ終えた僕は、手を合わせてそう口にした。

 

「今日もとてもおいしかったです」

「ふふ。そういってもらえると嬉しいわ」

 

僕の感想に、義母さんは嬉しそうな表情を浮かべる。

それをしり目に、僕は食器を流し台に持っていく。

 

「あら、もう学校に行くの?」

「ええ。入学式ですから」

 

本当はもう数十分ほど余裕はある。

それでも、早く行きたかった。

 

「ところで、約束通り今日から始めるので、寄り道はせずに帰ってくること。いいな?」

「はい。わかってます。それじゃ、行ってきます」

 

厳しい表情の義父さんに、僕はそう答えると、リビングを後にする。

 

「あ……」

「……」

 

玄関に向かう道中、一人の少女と鉢合わせになった。

僕とは違い、部屋着の黒髪に右側には赤のメッシュが入っている少女の名は美竹 (らん)

僕の義妹にあたるらしい。

 

「おはよう」

「………おはよ」

 

僕のあいさつに数秒ほどの沈黙ののちに、答えると、司馬屋に僕の横をすり抜けて行ってしまった。

 

「本当に、慣れないな」

 

ため息交じりの僕の言葉は、むなしく響くのであった。

 

 

 

 

 

「やっぱり誰も来てないか」

 

いつもの待ち合わせ場所についた僕は、自分が一番乗りであることを知った。

これまでは、常に誰かしらかが待っていたから斬新な気分だ。

 

(はぁ……)

 

僕は憂鬱な気持ちを払おうと空を見る。

雲一つない青空の清々しさに比べると、僕の心は曇天のようであった。

その理由になるのは、間違いなく一つだけだった。

 

「本当に、慣れない」

 

もはや口癖になりかかったその言葉を呟きながら取り出したのは、僕が通うことになった学校……『羽丘学園』からこの間届いた学生証だ。

それの身分を証明する項目に記されている名前は『美竹(・・) 一樹』だった。

中学3年の夏の事故で両親を亡くし、一人になっていた僕を養子に迎え入れられて、中学の卒業とともに家も引っ越し美竹家で暮らすことになって早一週間。

新しくなった環境に慣れられずにいた。

 

「はぁ……」

「新学期からため息を吐くと、彼女が逃げるぞー」

 

思わずついたため息に、なんだかよくわからないことを口にする啓介が現れた。

 

「それを言うなら、”幸せ”だ。まあ、お前にしてみればぴったりな言葉かもしれないが」

 

そしてその後ろからツッコミを入れるようにして現れたのは、田中君だった。

 

「おはよう、一樹」

「おはよう、一樹君」

 

そこに続くように森本さんと、中井さんが姿を現す。

 

「よく似合ってんじゃん、羽丘の制服」

「どうも」

 

進学した僕たちは、中井さんを除いて全員が『羽丘学園』に通う。

中井さんは一人だけ『花咲川女学園』(通称花女)似通う。

一人だけというのは少し心配だが、知り合いも二人いるとのことだし、そろそろ人見知りも直すべきだと思うので放っておくことにした。

 

「それにしても、一樹の眼鏡姿はまだ慣れないな」

「慣れて」

 

啓介のしみじみとした言葉に、僕はそれだけを答える。

今僕は黒縁の眼鏡をかけている。

別に目が悪くなったとかそういう話ではない。

このメガネは伊達だ。

 

「これなら、昔の知り合いに会ってもそうそう気づかないでしょ」

「まあな、印象がすごく地味になってるからな」

 

僕は、美竹に姓を変えた時、奥寺である痕跡は消すと決めていた。

そうすれば、昔のことを考えずにいられるし言う必要もなくなる。

眼鏡をして啓介たちに一度会ったときは、とても驚かれたのも記憶に新しい。

 

「もし俺がこのバカと一緒のクラスになれず、お前と同じクラスになったら、こいつの手綱はお前に任せる。かなり面倒だから殴るなり蹴るなりして黙らせろ」

「わかった」

 

啓介へのツッコミの大変さも考えれば、いろいろと考えておいたほうがよさそうだ。

 

「あのー、本人を前にしてそういうことを言うのはやめてもらえませんかね?」

「ところで、家のほうはどう?」

 

啓介の”スルー!?”のツッコミを無視して、僕はありのまま話した。

 

「あんまりかな……なんだか歓迎されていないような感じがして。特に義妹のほうが」

 

僕は彼女が苦手だ。

鋭い目つきで、何を考えているのさっぱりわからない。

話しかけても返ってくるのは一言だけ。

 

「もしかしたら、早く出て行けなんて思ってるのかもね」

「そんな事……」

 

啓介が咄嗟に否定しようとするが、すぐに言葉を止める。

当然だ。

啓介は彼女のことを知らないんだから。

本当に、慣れないな。

その後、いつもの分かれ道で中井さんと分けれて、新しく通うことになる羽丘学園に向かうのであった。

 

 

 

 

 

「クラスのほうはどう?」

「ちょっと、待ってて」

 

羽丘学園内の掲示板にて、僕たちはクラス分けの記された一覧を確認していた。

いつも通りに出たため、掲示板前には人だかりができ、確認が容易ではなかった。

 

(えっと……あった)

 

ようやく自分の名前を見つけた僕は、人ごみの中から出た。

それからしばらくして、続々とみんなが出てくる。

 

「俺は、Bだな」

「私もBだね」

「俺はAだ」

「僕もA」

 

まとめると、田中君と森本さんがB組。

僕と啓介がA組ということになる。

 

「おー、一樹と同じクラスか。よろしくなっ」

「これって、試練?」

 

田中君の忠告と、啓介のこの溝を見てるとそうとしか思えない。

 

「かもな。ま、退屈はしねえから安心しな」

 

全然安心できない。

 

「だから、本人の目の前でそういうことを言うのはやめてくれませんか? ものすごく傷つくからっ」

 

不安しかなかった。

 

 

 

 

 

僕と啓介は、一年A組の教室に足を踏み入れる。

 

(男子は……大体2割程度か)

 

状況は中学の時とほとんど同じようだ。

 

「なんか、もう親しくなっている人がいるな」

「そりゃ、一貫校だからな。そのままここに来た奴が多いし」

 

となると、よそから来た僕はそういう意味では不利だろう。

 

(まあ、どうでもいいけど)

 

「席順は、名前順のようだな……結局席は離れるか」

「別にこっちは大丈夫」

 

心配そうな表情でこちらに視線を向ける啓介に、僕は安心させるように言うと黒板に貼りだされた座席表を確認して、指定された席に着く。

 

(隣は女子か……ま、いっか)

 

他人になんて興味もない。

変にかかわらないほうがいい。

それが、自分のためでもあるのだから。

隣の女子もまた、こちらを見たものの、興味がないのかすぐに別のほうに顔を向ける。

 

(でも、なんだろう……)

 

一瞬見た時に感じたこの既視感が不思議だった。

まるで、どこかで会ったことがあるような、そんな既視感が。

 

「はい、皆さん席についてください。SHRを始めますよ」

 

そんな時、教室に担任と思われる女性教師が入ってきた。

そして軽く今日の流れを説明される。

それによると、この後講堂のほうで全校集会があるらしい。

そのあとは、連絡事項などを行って解散とのこと。

 

「それでは、講堂に移動しましょう」

 

先生のその言葉で、みんなが動き始める。

僕もその流れに乗るように、講堂と思われる場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「校長の話長すぎだろ」

「どこも似たようなもんだな、これ」

 

全校集会も終わり、自分たちの教室に戻りながら、僕は啓介と田中君と森本さんと合流していた。

クラスはバラバラでもこういった移動の際はそうでもなくなる。

 

「中学の時もすごかったけどね」

 

森本さんですら苦笑するほどの長さだった。

学校の校長は話が長いというのが、ある種の常識にもなっているがここもそうだった。

 

「30分くらいはオンステージだったな」

 

しかもそれ以外が10分で終わるという手のつけようのなさだ。

 

「これから全校集会のたびに、同じぐらいの時間がかかるんだと思うと憂鬱なんだけど」

「大丈夫だって、いつもはあれの半分程度だから」

 

それは全然大丈夫じゃないような気もするが。

とりあえず、その話題はやめておくことにした。

 

「っと、それじゃ俺たちはここで」

「またあとでね」

 

どうやら自分たちの教室についたようで、森本さんたちは教室内に入っていく。

 

「俺たちも戻るか」

「だね」

 

そして残された僕たちは自分たちのクラスの教室に入るのであった。

 

 

 

 

 

「このHRでは自己紹介をしましょう。それでは最初は―――」

 

(あー。これも定番と言えば定番か)

 

学年が上がるたびに行われる自己紹介の時間もまた、憂鬱なものだ。

 

(とりあえず趣味は読書にでもしとくか)

 

変に関心を持たれても面倒なので、無難で目立たないものにした。

この学園では、特に目立たないように過ごすというのが僕の方針だ。

そのためならば、自分を背景にだってして見せる。

 

「俺は佐久間 啓介! 年齢イコール彼女いない歴だ! 誰かこの俺とハッピーライフをトゥギャザーしようじゃないか!!」

『………』

 

やたらにハイテンションな啓介のそれに帰ってくるのは、この教室が冷凍庫内にあるのではないかと思うほどの冷たい物だった。

……主に女子の。

 

『もし俺がこのバカと一緒のクラスになれず、お前と同じクラスになったら、こいつの手綱はお前に任せる』

 

田中君の言葉が脳裏をよぎる。

 

(任せるといわれても、これはかなり骨が折れる)

 

絶対に制御できない自信しかない。

 

「では、次」

「あ、はいっ」

 

どうしたものかと考えていたら、僕の番になっていたらしく、僕は慌てて席を立つ。

 

「美竹 一樹です。趣味は読書です。よろしくお願いします」

 

一礼してそのまま腰掛ける。

これほど見事な平凡で地味な自己紹介はないだろう。

とりあえず、これで僕の目的達成は確実だ。

これが、羽丘学園の最初の日だった。




ということで、第二部が始まりました。

さて、ここでは言い訳という名のご説明を。
変更前の章の表記ですが、感想などで疑問の声が出ておりました。
最初は仕様だと主張しましたが、冷静に考えて”マイナス”が本当にふさわしいのかどうかに疑問を持つようになり、最終的には章の表記の意味が分からないという厳しいご指摘をいただくことになりました。

これらのことを受けて、最初のころに考えていたもう一つの案である”第○部”の第〇章という形式への変更に踏み切った次第です。
また同時にタグのほうにも修正を行いました。

読者の皆様には混乱を招いてしまったことを、深くお詫びいたします。
これからもより良い作品にするべく頑張っていく所存ですので、何卒よろしくお願いします。

ちなみに、プロフィールの表記も変更を行い『第〇部ー〇章』という形になります。

それでは、次回をお楽しみに

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