BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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お待たせしました、第192話です。
今回、やばい奴が登場します。


第192話 気持ち

「う……」

 

目が覚めると、聞えてきたのは規則的に鳴る電子音だった。

次に視界に入ったのは、見知らぬ場所の天井と

 

「一樹さんっ。目が覚めたんですね」

 

安心した様子でこちらを見ていた紗夜さんの姿だった。

 

「……やっちまったか」

 

それだけですべてを悟った。

 

「どうして言ってくれなかったんですかっ。病気のことを」

「言う必要がないと思っただけだよ」

 

口調こそ強いが、紗夜さんは本気で僕のことを心配してくれているのは言葉から十分に伝わる。

とはいえ、知り合いにそう言ったことを言って回るのは僕的にどうなのかという気持ちもあったので、特に誰かに言うことはなかった。

実際に、それでもこれまで普通に過ごせていたのだ。

 

「そんなに私が信用できないんですか? 日菜のことはあれだけ信頼してるのに」

「いや、そういうわけじゃ……というより、紗夜さん」

「な、なんですか?」

「もしかして、やきもちやいてたり――「っ! 知りませんっ」――った!」

 

言い切るよりも前に、顔を赤くさせた紗夜さんに、頬を叩かれてしまった。

……しかも本気で。

その後、僕は病室にやってきた医者から、一通りの説明を受けた。

あの時、僕は一時意識不明の重体にまでなっていたらしい。

これまた白鷺さんが機転を聞かせて早めに救急車を呼び、前に僕が入院した病院を指名したことで、受け入れ態勢が整った状態で病院にたどり着けたらしい。

そこで迅速に手術がされたこともまた幸いして、一命を取り留めることができたらしい。

 

『もし、どこかで遅れが出ていれば、良くて後遺症、最悪の場合はそのまま目覚めることはなかっただろう』

 

それが、医者が口にした最後の言葉だった。

その言葉に、背筋に寒気が走ったのは言うまでもない。

 

「それにしても、ここにきて入院とは……大幅なロスだな、これ」

「今はライブのことは考えなくていいですから、早く元気になることだけ考えてください」

 

やっちまったなとぼやく僕に、紗夜さんは険しい表情で言ってきた。

 

「……そうだな」

 

合同ライブ開催まで残すところ6日。

地味に一日意識を失っていたのはかなり痛いが、なんとしてでも取り戻さなければ。

 

「すみません。一樹さんが倒れたのは、やっぱり……」

「それ以上言わなくていい」

 

僕は、悲しげな表情で謝る紗夜さんの言葉を遮る。

自分だってわかっているのだ。

発作が起こった原因が、彼女がらみの出来事のストレスによるものだというのが。

それでも、これを言うつもりはない。

いったところで何の解決にもならないし、これ以上彼女を刺激させるようなことはしたくなかったからだ。

 

「とりあえず、早く退院ができるように体を休めてください」

「紗夜さん」

 

時刻は夕方。

帰ろうと病室を後にしようとする紗夜さんを、僕は気づくと引き留めていた。

 

「何ですか?」

「えっと……気を付けて、ね」

「え、ええ。ありがとうございます」

 

僕の言葉に困惑しながらも、紗夜さんはそのまま病室を後にしていった。

 

(今の気持ち、なんだろう)

 

対する自分は、少しだけ自分の気持ちに戸惑っていた。

紗夜さんが立ち去る時、僕はもっと彼女と一緒にいたいと思ったのだ。

 

(うーん、鼓動が激しいな)

 

先ほどからなっている電子音の間隔も、心なしか速まっているようにも思える。

 

(これって、もしかして……)

 

未だに何一つ解決の兆しを見せない問題だが。

そのうちの一つは、少しだけ進展した。

そう思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

あれから2日経った。

ライブの開催まで残すところ4日にまで迫っていたが、何とか明後日には退院ができそうだ。

この2日間、お見舞いにはいろいろな人が来てくれた。

Roseliaのメンバーを始め、義父さんや義母さんに蘭。

そして、ひまりさんたちも来てくれたのが申し訳ないやら、ありがたいやら複雑な気持ちだった。

 

(うぅ、早くギターを弾きたいな)

 

ここに搬送された際に、前回断っていたペースメーカーのようなものを埋め込む手術を行ったらしいので、このようなことが起こることは限りなくゼロに近いらしい。

これもまた前回入院した病院だったのが、幸いした要因の一つでもあったりする。

よくわからないが、”何とか同意書”的なものを義父さんが書いていたらしく、ペースメーカーの埋め込む手術が迅速に行えたのだとか。

なので、もう既に頭の中はライブのことでいっぱいだった。

湊さんたちもお見舞いに来てくれて、色々なお見舞い品をもらっている。

一番ありがたかったのはリサさんのクッキーだったりする。

食事制限もとくにされていないので、みんなで食べたがいつもよりとてもおいしく感じられた。

練習時の様子も音源と共に聞かされ、大体は順調であるらしい。

後は僕が退院して一度音合わせを行ってから完璧に仕上げていくというのが湊さんから伝えられたプランだった。

そんなこんなで、静養に努めていたのだが

 

「あれ、電話だ」

 

それを打ち破るかのように鳴り響く誰かからの着信を告げる携帯の音に、僕は携帯を手にすると相手を確かめる。

 

(森本さん?)

 

電話の相手は、森本さんだった。

そのことに、若干嫌な予感を感じた僕ははやる気持ちを抑えて電話に出る。

 

「もしもし」

「一樹っ? 日菜が男子に交際を迫られてるわ。一樹がそっちに行ってから何度も交際を迫ってるんだけど、今日は少しいつもとは様子が違うみたいよっ」

 

どれだけ切羽詰まっているのかは、森本さんの追い詰められたような口調ですぐに把握できた。

 

「場所は?」

「昔、私たちが遊んでた公園。急いで、男子のほうちょっと雰囲気がやばいから」

「すぐ行く。森本さん、あまり無茶なことはしないで」

 

僕は森本さんから彼女の場所を聞き出し、森本さんに危険な行動を控えるように言いながら、僕は手早く着替えると病室を飛び出して、病院を抜け出すのであった。

 

 

★ ★ ★ ★

 

 

「はぁ……」

 

明美から電話が来る数十分ほど前のこと。

日菜は、一人ため息をついて俯きながら、とぼとぼと道を歩いていた。

その服装は、夏休みにもかかわらず制服ということから、彼女が学校に行っていたのは一目瞭然だった。

その理由は、部活の顧問に呼び出されたためだ。

その内容は『提出して活動報告書に、名前が書かれていないから、書くように』というものだった。

当の本人はそのようなものを提出した記憶がないため、首を傾げていたが、教師の『男子生徒が君の代わりに提出したはずだけど、何も聞いていないのか?』という言葉ですぐに納得がいった。

 

(そういえばそんなこと言ってたっけ)

 

思い返すと、一樹が風紀委員交流会で花女に行く少し前に、部室に来た時に

 

『これ、この部活の活動報告書。日菜のことだから、どうせ何も作ってないだろうから、こっちで適当にやっておいたから、一番最後のところに名前を書いて置いといて。向こうに行く前日に提出するから』

 

と言ってやけに分厚い紙の束を置いていた。

名前を書くのを忘れていた結果、宣言通り一樹は名前の書かれていない報告書を顧問に提出したのだ。

一樹との色々なトラブルでその存在はすっかり忘れ去られていたそれに、日菜は名前を書くとすぐに解散となった。

 

(何でこんなことになったんだろう)

 

その帰り道、日菜は一人悩んでいた。

一樹が、彼女にとって恨む対象である”奥寺一樹”だと知り、日菜は紗夜を守ろうと奮闘していた。

その結果が、一樹の挑発に乗せられての暴力沙汰による自宅謹慎だ。

それからずっと日菜は考え続けていたのだ。

一樹が、彼女の思うような極悪非道な人だったのかを。

だが、その答えは出るわけもなく、モヤモヤが解消することはなかった。

そんな時だった。

 

「……」

 

一人の男が彼女の前に立ちはだかる。

 

「よう日菜」

 

その男は、ベリーショートの髪型のどこにでも良そうな感じの人物だった。

名前を阿久津(あくつ) (ただし)

彼女や一樹たちと同じ羽丘学園に通う生徒なのだが、評判はあまりよくない。

 

「……」

「おいおい、この俺様を無視するなって」

 

彼を無視して、歩き出す日菜を追いかけるように、阿久津も付きまとい始める。

 

(またこいつなの。全然るんってしない)

 

この男のことを全く知らない日菜でさえも、阿久津に対して不快感を覚えていた。

一樹が花女に行ってからというもの、隙あらば付きまとってくるため、彼女にとっては鬱陶しいことこの上なかった。

それでも無視すればしばらくして舌打ちと共にどこかにいなくなるので、対して気にもしていなかったのだが、この日はいつもと違った。

 

「おい待てよ! そろそろ返事をしろよっ」

 

公園まで来たところで、阿久津は彼女の腕をつかむと強引に動きを止めさせたのだ。

 

「この俺様がしてやった告白だ。そろそろ答えろよ」

 

実は、日菜は一樹が花女に行った日に彼に告白されていたのだ。

尤もそれも、『お前を俺様の側室にさせてやる。ありがたく拝命しろ』という超上から目線であったが。

そう、この男の評判が悪い原因は、常に他人を見下した言動と、女癖の悪さからだった。

しかもその悪評も当の本人は『ゴミどもの嫉妬』と解釈していたりする。

 

「放してっ」

 

当然日菜は、その手を力いっぱい振り払う。

 

「何だよこの俺様に向かってその態度。一度躾けないとだめか。女が男に逆らうなってな」

 

日菜の反抗的な態度に、阿久津は拳を振り上げて、彼女に向かって振り落とす。

 

「ッ!」

 

その光景に、日菜は次に来るであろう痛みに備えるかのように目を閉じて体をこわばらせると

 

(助けて、一君!!)

 

無意識のうちに、対立している相手に助けを求めた。

そして、彼の拳は―――日菜に振り下ろされることはなかった。

 

「ったく、真昼間から何をしてるんだ?」

「え……?」

 

いつまでたってもやってこない痛みに、どうなったのかと思っていた矢先に聞こえてきた嫌味に、日菜は思わず困惑の声を上げる。

彼女が目を開けると、そこには

 

「ドロドロ展開は昼ドラの中で十分だ」

 

阿久津の拳を片手で受け止めている一樹の姿があった。




彼みたいな人がいたら、私はぜにょく全力で逃げます(汗)
気になる続きは明日までのお楽しみということで。

感想・アドバイスなどお待ちしております。


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