あの合同ライブ『Rush!』から数日が経過した。
結論から言ってしまうと、ライブは見事大大大成功だった。
観客の評判も良く、満足度も非常に高かったらしい。
それは、Roseliaにも言え、今回のライブで彼女たちはより一層注目されることとなり、彼女たちの高い技術が認められたのは言うまでもない。
相原さんいわく、『第2弾の実施も計画中です』とのことだった。
今度は順当にいけばPastel*Palettesかなと思いつつ、今回のライブは幕を閉じた。
そうなれば、僕たちにはいつもの日常が戻ってくるわけで、これまで残しておいた問題にけりをつける時間が近づいているということでもあった。
「あれ、電話だ……氷川さんからだ」
そして、それは意外にも早く訪れた。
夏休み最初の登校日の前日の夕方にかかってきた、氷川さんからの電話によって。
「もしもし」
『話したいことがあるの。今すぐ羽丘の屋上に来て』
用件だけ言うと、電話は切られてしまった。
(相変わらず、人の話を聞かないな)
対立しているからというわけではなく、単純に彼女の性格によるものなので、僕は苦笑するしかなかった。
とりあえず、呼び出されたからには行くしかない。
時間を見ると、夕飯までまだ少し時間がある。
長時間話すことはできないが、それなりの時間くらいなら話すことはできる。
そして、今の僕にはそのくらいの時間で十分だった。
僕は学校に提出するレポートの最終確認を中断させると、とりあえず財布などの貴重品を持って自室を後にするのであった。
指定された場所……羽丘学園の屋上に行くと、そこにはすでに先客がいた。
「ごめんね、いきなり呼び出して」
「いきなり呼び出すのは、いつものことだから構わないよ」
夕陽の光を背に、話しかけてくる彼女に、僕はそう答える。
「それで、用件は?」
「……いい加減これまでのことの決着を付けようと思うの」
やはり、用件は今回対立する原因となっている、僕が紗夜さんをいじめたという内容に関する”答え”だったようだ。
「あたしは、おねーちゃんをいじめたことを許すつもりはない」
「だから、僕にはその心当たりが全くないんだけど……それで?」
彼女の念を押すように告げられた言葉に反論するが、言ったところで意味がないので、僕は彼女に続きを促す。
「でもね、あたしは今の一君を信じたい。だから、一回だけチャンスを上げる」
「チャンス?」
「これからずっと、おねーちゃんを悲しませないこと。それと、おねーちゃんを幸せにすること」
彼女から告げられたその条件に、僕は驚きで言葉を失う。
「お前、もしかして……」
「流石のアタシでも、気づいちゃったよ。おねーちゃん分かりやすいんだもん」
そう言って笑みを浮かべる彼女の表情には、どこか無理をしているような感じがした。
どうやら、彼女は……日菜さんは気づいていたようだ。
紗夜さんの気持ちの変化に。
「今のを死ぬまで守ってくれたら、一君のことを許してあげる」
「……」
彼女から告げられた条件に対する僕の答えなど、決まっていた。
「そんなの言われるまでもない。好きな人を悲しませるつもりも、不幸にするほど、僕は根性が曲がってない」
「……その言葉。忘れないからね」
その言葉を最後に、彼女……日菜さんは僕の横をすり抜けて屋上を立ち去って行ってしまった。
そして、取り残された僕は
(そういえば、本人よりも先に、自分の気持ち言っちゃったな)
と心の中でつぶやくのであった。
翌日、夏休み最初の登校日を迎えた。
それは僕の交流会が終わる日でもあった。
「よしっ」
僕は自室で、気合を入れる。
(今日、彼女に返事を言おう)
今日を逃せばちゃんと話ができる機会がなくなる。
少なくとも、自分の気持ちを言うことが難しくなるような気がするのだ。
だからこそ、今日にしたのだ。
そして、僕は学校に向かうのであった。
「数週間、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。大変いい経験ができました」
HRが終わり、解散となり放課後を迎えた僕は、本条先生にこの交流会で学んだことなどを書いたレポートを手渡した。
これで、事実上僕の交流会は終了となった。
後はここの校門を出た瞬間、僕はこの学校の生徒ではなくなりまた元の羽丘の生徒に戻る。
(なんだか、あっという間だったな)
色々と事件があったはずなのに、思い返すとあっという間に感じてしまうから不思議だ。
(さてと、そろそろ戻るか。彼女のいる教室に)
朝、教室で放課後に話があるからここで待っているようにお願いしていたのだ。
僕ははやる気持ちを抑えながら、紗夜さんが待つ教室に向かう。
「ごめん、待たせたね」
「いいえ。気にしないでください」
教室に入った僕を出迎えた紗夜さんの表情は、どこか緊張しているような気がした。
「それで、あの……話というのは」
「う、うん。それはね……こ、この間の返事を……したいんだ」
何度もシミュレーションしたはずのその言葉を口にするだけで、心臓が口から出そうなほど心臓がバクバクいっている。
「紗夜さんの気持ち、知った時はとても嬉しかった……」
僕はそこで自分を落ち着かせるべく、一度深呼吸をする。
「僕も、紗夜さんのことが一人の女性として好きです」
(い、言った……ついに言ってしまったっ)
勢いで言い切ったが、顔から火が出るほどに恥ずかしい。
紗夜さんもきっとこんな思いをしていたのかもしれない。
そう思うと、返事を引き延ばしていた自分のクズさに怒りと後悔がこみ上げる。
そんな僕の気持ちとは裏肌に、紗夜さんは驚いたような表情を浮かべたまま固まっていた。
どれほどの時間が経過したのかわからない中、紗夜さんから返ってきた反応は
「っ……っ」
「え!?」
嗚咽だった。
「あ、あの、何か僕しちゃった?!」
「い、いえ……すみません。一樹さんの返事が、その……嬉しくて」
その予想外の反応に慌てふためいていると、紗夜さんから嗚咽交じりに返ってきたのはその言葉だった。
「本当に、私で良いんですか? 不器用で、融通の利かない私で」
「そういうところを含めて、僕は紗夜さんのことが好きなんだ」
紗夜さんは、どこか不安げな様子で僕に何度も何度も聞いてきた。
僕はそれを一つずつ和らいでいくべく応えていく。
やがて、
「これからも……よろしくお願いしますね。一樹さん」
満面の笑みを浮かべて言われたその言葉は、僕と紗夜さんの幼馴染という関係が終わったことを突き付け、恋人という関係が始まったことを告げるものとなるのであった。
第5章、完
今回で、本章は完結です。
今回の話は、人によってはいろいろと思うところがあったと思います。
補足としまして、日菜は姉である紗夜のことが大好きです。
そんな姉に対していじめをしていた(これは彼女の誤解ですが)人物がいたのであればひなは許すことはないと、私は考えています。
つまり、今回の話で悪い人物は誰もいなく、誤解の積み重ねがこのようなことに発展してしまったということにもなります。
日菜が出した決断”許すのではなく、もう一度チャンスを与える”というのも、色々なご意見があると思いますが、これもこれで一つの着地点であると思います。
日菜に対してのヘイトを集めてしまったような気がするので、長々と語らせていただきました。
それでは、次章予告をば。
―――
ついに結ばれることとなった一樹と紗夜。
二人は恋人として新たな日常を迎えるのだが……
次回、第6章『Happy Day、New Day』