つぐに相談に乗って貰ていた僕は、つぐから『もしかしたらデートをしていないからじゃないですか?』という答えを出されてしまった。
「デートか……それって、大事なんだよね?」
「もちろんですよ! 私だったら、やっぱりそういうこともしてみたいですから」
同じ女性としてのつぐの意見は、僕にとってはこれ以上ないほどの強力な根拠になった。
「でも、いったいどこにすれば……」
デートをするのはいいとして、果たしてどこに行けばいいのだろうか?
ショッピングモールをぶらりというのはさすがに避けたほうがいいだろう。
どうせ行くなら、楽しくて思い出になるような場所が一番だ。
「そうですね……あ、そうだ!」
しばらく考え込んでいたつぐは、何かを思い出したのかバタバタとカウンターのほうにかけていくとすぐにこちらに戻ってきた。
その手に持っているのは一枚のチラシだった。
「これ見てください!」
「えっと……『商店街福引抽選会』なにこれ?」
それは、この商店街で行われているであろうイベントのチラシだった。
「この商店街の対象のお店で買い物をすると、抽選券がもらえるんです。それを持ってこの抽選会場に行けばその枚数分挑戦ができるんですよ。多分、一樹さん4枚ほど持ってますよね?」
「だから最近レシートと一緒に渡されたのか……たしかもう家に15枚くらいあるけど」
「じ、じゅう!? どうしてそんなに持ってるんですか!? まだ、抽選券が配布され始めて2週間のはずなのにっ」
「いや、よく山吹ベーカリーで買い物してるから」
驚いた様子で聞かれても、ちょくちょくと練習帰りにパンを買っていたらそうなっていたのだ。
「……そういえば、モカちゃんもこの間『30突破ふっふっふ』って言ってたような……ご、ごめんなさいっ」
「確かに、モカさんはたくさん買うからね」
袋いっぱいに詰められたパンを一人で食べるというのだから驚きだ。
「それで、これがどうかした?」
「あ、はい。実はこれの特賞が『トコナッツパーク』のペア招待券なんです」
「トコナッツ……何それ?」
「『トコナッツパーク』です。ウォーターアトラクションとかがいっぱいあったり、ステージショーがあったりと、楽しい場所なんですよ。この間巴ちゃんが楽しかったって言ってたので」
あまり聞きなれないその名前に、思わず聞き返すとつぐは攻めるでもなく普通に説明してくれた。
(プールのような場所か……ま、行く場所も決まってないんだし、そこにしてみるか)
「ありがと、それじゃちょっとだけ運試ししてみるよ」
「はいっ。がんばってください!」
つぐからのエールを受け取った僕は、会計を済ませて抽選券をもらうと、家に眠っている抽選券を取るべく一度自宅に戻るのであった。
「あれ、一樹じゃん」
「啓介? 何してるんだ?」
自宅に戻った僕は、置きっぱなしになっている抽選券(25枚だった)を手に抽選会場を訪れると、そこで啓介と鉢合わせになった。
抽選会場のため、長蛇の列ができていたので、その最後尾に二人で並ぶ。
「俺は、こいつを使って挑戦しに来たのさ」
「なるほど、僕と同じというわけね」
まあ、ここにきている時点でそれしかないのは明らかなのだが。
「俺が狙っているのは、やっぱり特賞だな! あそこって、この時期になるとチケット取りづらいわ、価格も高いわで大変だからな~」
「家族で行くんだ」
ここに来るまでに調べたのだが、このトコナッツパークは、デートスポットとして有名な場所であるのと同時に家族連れに人気のあるところらしい。
僕は啓介の親孝行ぶりに、感心していると
「いや、違うけど」
素で否定されてしまった。
「彼女を連れて遊びに行くためさ☆」
「いや、当然だろうみたいな感じで言われても……そもそも、啓介に彼女なんていたっけ?」
自信満々に胸を張っている啓介に、根本的な質問をしてみると
「こ、これからできるかもしれないだろっ。っくそ、これが持っている奴の余裕というやつか」
「そ、そう……」
ものすごく動揺しながら最後の方でぶつぶつと何かを言っている啓介に、僕はそれ以上深く聞くのをやめる。
これ以上聞いてもろくなことにならないのは分かりきっているからだ。
啓介とそんなやり取りをしている最中も一人、また一人と、僕たちの番が近づいてきている。
(特賞以外にもいろいろと豪華賞品があるみたい)
『高級肉4名様分』だったり、『米俵1俵』だったり。
はずれに当たる参加賞がポケットティッシュなのも、こういった抽選のあるあるなのかもしれない。
(まあ、特賞が当たらなくても、米俵とかいいかな。持ち運びは別として)
確か1俵60キロぐらいの重量があるというのを聞いたような気がしたが、まあ当たりっこないのでどうやって持ち運ぶかを考えるのは虚しくなるのでやめておくことにしよう。
「次の方、どうぞ~」
「ぃよっし、一樹見てろよ。これが俺の底力だっ!」
ついに回ってきた啓介の順番に、凄まじい気合を入れつつ抽選器の前に向かう。
「5回分どうぞ」
抽選方法はいわゆるガラポン抽選器を使うらしい。
壁のほうにかけられている一覧表によれば、特賞は”金”、高級肉が”銀”、米俵が”赤”、商品券が”青”それ以外が白の球のようだ。
取っ手に手をかけた啓介が抽選器を回す。
そして出てきたのは、白色の球だった。
「残念、ポケットティッシュです」
「っく、まだだ」
啓介は自分に言い聞かせるように、言いながら回していくも出てくる色はすべて白。
そしてとうとう最後の一球になってしまった。
「この一球にすべてを賭けるっ」
これまで以上に入れた気合を込めてガラガラを回していく。
そして、出てきた色は……
「残念っ、ポケットティッシュ5個になります」
「――――」
参加賞を手に燃え尽きている啓介をしり目に、僕の番を迎えた。
「それでは、25回分どうぞ」
抽選券を渡して、僕はガラガラを回し始める。
だが、出てくるのはどれも白だ。
(やっぱりこういうもんか)
そう思っていた時だった。
「あ……」
これまで出てきた色とは違う色の球が出てきたのだ。
その色は”赤”だ。
「おめでとうございますっ。米俵1俵あたりですっ」
大きなベルの音と共に聞えてくる、スタッフの人の声が、それの意味することを物語っていた。
(あはは、狙っていないのが当たっちゃったよ)
とりあえず、義父さんに渡しておこうかなと思いながら、僕は場に出ている球数を数える。
(残りあと3回。さすがに出ないかな)
これで特賞まで当てたらさすがに強運過ぎる。
デートに関しては誰かに相談しつついい場所を決めていけばいい。
そう思いながら僕は残りの回数分回す。
そして、場に出てきた最後の球で抽選は終了となった。
「ぢぐじょう! どうして一樹ばっかりぃっ!!」
啓介の悲鳴にも近い絶叫と共に。